第30話:サバの塩焼き定食
「なんか怪しいんだよなぁ。」
エビフライをタルタルソースに擦りつけながら、加藤はつぶやいた。
「だって、常在菌でしょ?カンジダ菌。
そんな大きな問題起こすなら、そんなのとっくに解明されてそうなもんだけど。」
「それに大体、カンジダ菌が異常に増える病態は普通にあるじゃん。
食道カンジダ症とか、カンジダ膣炎とかさ。
そんなの全然特別じゃないし、ありふれてる。」
「あいつらだって、抗真菌薬使って治療するんじゃなかった?それで、なんだっけ、ダイオフ?
そんなのが起こるんだったらとっくに発見されてると思わない?
でも抗真菌薬使ったら鬱っぽくなるなんて、聞いたことなくない?」
僕は黙って、サバの小骨と格闘していた。
この日の昼食のメニューは、大学の食堂の「サバの塩焼き定食」。
サバの塩焼き、卵焼き、梅干しに、ご飯とお味噌汁まで付いて、税込み398円だ。
お安いだろう。
「てことで、結論。笹山騙されてるよ。おかしいもん。
つじつま合わない点が多すぎるでしょ。笑」
僕が長い間頭を悩ませてきたテーマに対して、加藤はエビフライ定食も食べ終わらないうちに結論を導き出した。
加藤はプライドが高い。クラスの中では一生懸命勉強している側の人間だ。成績ももちろん上位だ。
確かに加藤の言うことは間違ってない。
カンジダ菌が異常に繁殖して生じる疾患は、既にいくつも確認されている。
食道カンジダ症(食道)、カンジダ膣炎(膣)、カンジダ皮膚炎(皮膚)などだ。
いずれも抗真菌薬を用いて、カンジダ菌を死滅させる治療を行うが、それでダイオフ症状のようなものが確認されたという話はない。
僕のうつ病の原因がカンジダ菌であるという仮説に対して、それは大きく矛盾する事実だ。
この矛盾は、僕の頭の中を絶えずぐるぐると回り続けていた。
そして次の日、僕は強いダイオフ症状を認めた。
原因はなんだ。味噌汁だろうか、梅干しだろうか?
迂闊に食堂で食事することもできないな。
僕は食生活の不自由さにストレスを溜めていた。
(つづく)
【追記】
人物の名前とかは今後変更する可能性高いから、(仮)だと思っててね。
いつも読んでくれてありがとね。




