第2話:進級
僕はとにかく進級に追われていた。
大学の試験期間は2週間だ。
試験期間中には、1日につき1-2科目程度の試験が行われる。
僕たちはその間、絶えずその試験の恐怖に怯え、震えて泣きながら過ごすことになる。
医学部進学を果たした喜びは、いつの間にかどこかへ流れ去り、入学以来、僕は試験の重圧にずっと晒されていた。
そして、今、3年生までなんとか進級を果たした僕は、6年間のうち最も難関であると噂される3年前期試験の準備に追われていた。
1年生から2年生までは、基本的な生物学、化学、物理学、人体正常構造について学ぶ。
3年生からは本格的に病気のメカニズムや検査法、そして治療法などについて学んでゆく。
3年生の試験は難しく、しばしば留年を重ねてしまう原因となるらしい。
この試験はまさに「鬼門」なのだ。
留年は許されない。
僕の家庭は私大の医学部の学費を余計に払えるほどの大金を持ち合わせていない。
既に大学に入学するために、実に4年に渡る浪人生活を要した。
これ以上余計に出費を重ねれば、僕の家族はみな干からびてしまうだろう。
僕にとって、留年は退学を意味する。
子供のころから、ずっと医師になることを夢見てきた。
それが、この試験の結果によって、絶たれてしまうかもしれない。
寝れない。
留年できない=勉強し続けるしかない=寝れない。
僕は試験期間よりずっと前から臨戦態勢を取り、試験期間中は寝食を削りながら勉強した。
僕が自分の身体の異変に気付いたのは、そんな鬼の形相で試験問題集を睨み続けている最中だった。
(つづく)