第26話: 成績の低迷
「ささやま君に聞いてみようよ。」
「この問題のこの部分って、どうしてこうなんだと思う?」
クラスメイトの群れから一時離脱して、岡田君は無邪気に尋ねてきた。
入学する前は、私立大学の医学部って、どんな人たちがいるのかなって思っていた。
入ってみるとなんでもない、意外と普通な人たちだ。
確かに学費が法外な値段であるだけあって、実家はお金持ちであることが多い。
親は基本的に開業医だ。
そして医者の中でも、より裕福な人たちが多い。
経済的に利益を上げやすい診療科であったり、両親ともに医者として稼いでいる家庭であったりする。
僕の両親は医者でもないし、特別お金持ちというわけでもない。
僕の両親は親戚の力も借りて、学力の低さゆえ国立の医学部に入れない僕をなんとか医学部に進学させるために、多大な苦労を買ってくれた。
彼らは僕のような一般家庭のことを蔑んだりすることも、自身の生まれの盤石さを自慢することもなかった。
ただ単純に、乗っている車がポルシェであったり、友達と旅行する先が海外旅行であったりするだけだ。
それが当たり前で、普通だったから。ただそれだけだ。
語弊を恐れずに表現すると、「関心がなかった」のかもしれない。
あまり、世間の人々に「関心のない」人が多かったように思う。
自分の将来は約束されているし、後ろに華麗なる親族たちが控えていることもその理由の一つかもしれない。
僕は彼らの華やかな生活とは縁遠い生活をしていた。
もちろんそれだけが理由ではないと思うが、僕はクラスメイトと上手く会話をすることができなかった。
岡田君はそのようなクラスの中で浮いている僕にも、時折話しかけてくれた優しいやつだ。
彼にとってなんの利益がなくても僕に対して愛想良く言葉を交わしてくれた。
「ごめん、実はあまり勉強できてなくて、分からないんだ。」
岡田君は少しの間、僕の言葉の意味を測りかねているようだった。
そして、彼の中である程度解釈を済ませた後、そっかそっかごめんねと言って、クラスメイトの仲良しグループの輪へと帰っていった。
大学生の初期の頃、僕の成績はなかなか良かったんだ。
上から数えてもそこそこな順位だった。
進級につまづけば、高額の学費を突き付けられる。
その恐怖から、僕は必死に勉強していたんだ。
好成績の理由はそこに尽きる。
彼にはまだその時の記憶があるのだろう。
僕に尋ねれば、試験問題の疑問点が解消するかもしれない。
そう思って僕に話しかけてくれたのだ。
僕はとても惨めな気持ちだった。
ただでさえ、大学内では「どの部活にも入ってない一般家庭の地味な奴」である。
その上、「勉強もできない」のであれば、取り得なんて何一つないのだ。
かつて、成績の良さだけで自尊心を保ってきた僕にとって、成績が低迷することはとても屈辱だった。
(つづく)