第11話:混沌とした世界
『カンジダ菌が原因でうつ病になることがある』
そのような記述がインターネット上に散見された。
日本語で書かれた文章よりも、英語で書かれた文章の方が量も質も上だったように思う。
海外を中心として発信されている内容なのだと感じた。
カンジダ菌については後で詳しく説明しようと思う。
だから、今は、「ふーん、そんな菌がいるんだね」くらいの理解で構わない。
ここで伝えたいことただひとつ。
『そんな話は馬鹿げている』ということだ。
まず、医学部3年生である僕がそんな話を耳にしたことは一度もない。
そして、手元にある教科書をめくり、カンジダ菌の記載がある箇所を全て読んだが、そのような記載は一切ない。
さらに、周囲の人々に尋ねても、そんな話は聞いたことがないとみな一様に口を揃える。
時系列が前後してしまうが、後に僕は先輩医師や、各大学の様々な診療科の教授の方々にこの件について尋ねてゆく機会がある。
クラスメイトの医学生、先輩医師達の反応は、およそ以下のような内容に要約される。
「なにそれ、そんなの全然聞いたことない。」
「カンジダ菌って常在菌じゃない?そんな問題起こしたりするかな。」
「ネットには怪しい情報がたくさんあるから、鵜呑みにしない方がいいよ。(心配の眼差し)」
医学生や先輩医師たちの反応が一様に否定的であったのに対し、教授の方々の反応には幅があった。
多忙な自分をつまらないことで捕まえないで欲しいといった印象の方。
「カンジダ菌は常在菌だから、そんな話は馬鹿げている。」
そのような内容については知らないが、それ以上興味を示すことはない方。
「勉強不足で申し訳ない。その話については知らなかった。」
未知なる事象に対して奥行きのある態度で相対される方。
「面白いね。僕は常々、みんなに話してるんだ。教科書を疑えってね。
この世界で人間が理解できている領域なんて本当にわずかなものだ。だから君の話すその話だって、真偽はまだ分からないよ。」
【*この小説はフィクションです。(切腹)】
話が右往左往してしまったね、ごめん。
とにかく僕がここで言いたいことは、カンジダ菌がうつ病を引き起こすという内容は、【現代の医学では非常識な見解】であるということだ。
「馬鹿げている」と思われているどころか、一般的な医師達の間では、その存在すら認知されていない。
これを読んでくれている人の中に医師の方がいれば、分かってくれるはずだ。
カンジダ菌がうつ病の原因になるなんて、国家試験に出てこなかっただろ?
でもね、ネット上にはあるんだ、その手の記述が。
しかもひとつやふたつじゃない、そのような記述で溢れているんだ。
このギャップ(隔たり)は一体なんなんだ?
僕はこのカオスな状況に困惑した。
(つづく)