09.王の苦手なもの
「……なんで怒られたんだろう、俺……」
王は廊下の壁にもたれかかり、しょんぼりと肩を落としていた。
その隣では、セリナ王女が腕を組み、じっと弟を睨んでいる。
「はぁ……あなたね、あの空気で“なんでメイがここに?”はないでしょ。
あの子、泣きそうになりながらジークを助けたのよ?」
「だって、メイがまさかジークに……
まさか、そんな……」
「だから鈍いって言ってるのよ!」
「うぅ……」
そのとき――
「おや、ちょうどいいところに。」
廊下の奥から、ナナ姉が軽やかな足取りで現れた。
その表情はいつもの柔らかな笑みではなく、どこか鋭さを帯びている。
「ナナ?」
「王、セリナ様。刺客の件、進展があったわ。」
王の顔が一気に引き締まる。
「……話せ。」
ナナ姉は手にした封筒を差し出しながら、静かに告げた。
「例の刺客、かつて王の異母兄――元・第一王子に仕えていた近衛の一人だった。
そして今朝、国外の港町で“彼の名を騙る者”が目撃されたという報告が入ったわ。」
「……ついに動いたか。」
王の声が低くなる。
「ええ。ただの亡命者じゃない。
彼は、王位を奪うつもりで動いてる。
今回の刺客は、その“試し”だった可能性が高いわ。」
セリナが眉をひそめる。
「つまり、次はもっと本格的に仕掛けてくると……?」
「その可能性が高いわ。
でも、こちらも手をこまねいているわけにはいかない。」
ナナ姉は王の目をまっすぐに見つめた。
「王。許可を。私に、先手を打たせてください。」
王はしばらく黙っていたが、やがて静かに頷いた。
「……まかせよう。」
「了解。」
ナナ姉はくるりと踵を返し、再び闇の中へと消えていった。
その背中には、かつて“黒鴉”と呼ばれた者の気配が、確かに宿っていた。
王はその姿を見送りながら、ふとつぶやいた。
「……俺も、変わらなきゃあな。」
「まずは空気を読むところからね。」
セリナ王女がため息まじりに言うと、王は苦笑した。
「……それが一番難しいかもしれない。」




