08.病室でいい雰囲気に?
ジークが目を覚ましたのは、まだ夜が明けきらぬ頃だった。
薄暗い医務室の片隅、静かな空気の中で、彼はゆっくりとまぶたを開けた。
「……ん、ここは……」
「やっと起きた。」
聞き慣れた声。
視線を向けると、椅子に座ったままうたた寝していたメイが、目を覚ましてこちらを見ていた。
「お前……」
「毒は抜けたわ。ジーク、ほんとに無茶するんだから。」
「……助けてくれたのか?」
「別に。たまたま通りかかっただけよ。」
「……偶然にしては、やけに手際が良かったな。」
「うるさい。文句言うなら、もう一回毒られてみる?」
「いや、それは勘弁……」
ジークが苦笑すると、メイはふいっと視線をそらした。
その頬が、ほんのり赤く染まっているのを、ジークは見逃さなかった。
「……ありがとな。」
「べ、別に……ジークが倒れたら、王が困るし、
それに、ジークがいないと、訓練場が静かすぎて落ち着かないし……」
「……それって、俺がいないと寂しいってことか?」
「ち、違うっ!」
メイが慌てて立ち上がったそのとき――
バァンッ!
勢いよく扉が開いた。
「ジーク! 無事か!?」
現れたのは王だった。
顔色は青ざめ、息を切らし、目には本気の焦りがにじんでいる。
「陛下……?」
「毒と聞いて、まさかと思った……! お前が……!」
王はジークの枕元に駆け寄り、真剣な眼差しで彼の顔を覗き込む。
「……本当に、無事でよかった。」
「……陛下、俺は大丈夫です。ご心配をおかけして――」
「いや、心配するに決まってるだろう! お前がいなかったら、私は……」
王は言葉を詰まらせ、ふと横に立つメイに気づいた。
「……ん? メイ? なんでお前がここに?」
「……は?」
メイの眉がぴくりと動く。
「いや、だってお前、ジークのことは嫌ってだろ……
あ、もしかして掃除? 毒の処理とか?」
「……」
「それとも、ジークの失態を笑いにきたとかか!」
「……」
「ん? なんで黙って――」
「陛下。」
ジークが低く、しかしはっきりとした声で遮った。
「メイは、俺を助けてくれたんです。
毒を抜いて、手当てもしてくれました。」
「えっ、そうなのか!? なんでまた、そんな話になっているんだ?」
「……」
メイは無言のまま、王をじっと見つめていた。
その目は、言葉にできない何かを訴えていたが――王には、まったく伝わっていなかった。
そのとき――
「陛下!?」
廊下の奥から、ヒールの音とともに声が響いた。
「陛下が毒で倒れたって聞いて!?」
現れたのはセリナ王女。
顔色を変え、剣を片手に駆け込んでくる。
「姉上!? いや、それは誤報でして……」
「誤報!? 心臓止まるかと思ったわ! 誰よそんな紛らわしいことを!」
「いや、たぶんナナが“王の命が危なかった”って言ったのを誰かが……」
王の弁解にセリナ王女が病室の雰囲気に気が付いた。
「……で、なんでけがをしたわけでもない王がここにいるの?」
「え? ジークが心配で……」
セリナは王の背後から病室を見渡し、
ベッドに横たわるジークと、そのすぐそばに立つメイの姿を見て――
「……ああ、なるほど。」
「え?」
「なるほど、なるほどねぇ……」
「な、なにが?」
「昔からあなたは空気が読めなかったわね!」
「えっ!?」
セリナは王の腕をぐいっとつかむと、そのまま病室の外へ引っ張り出した。
「ちょ、ちょっと姉上!? 腕が! 腕が取れる!」
「取れたら黙るでしょ!」
バタン!
扉が閉まると、病室には再び静寂が戻った。
「……叔父さまって、ほんとに王様なのかしら。」
「……俺も時々疑う。」
二人は顔を見合わせ、思わず笑った。




