04.文官の敵、それは漂白魔法
僕はつい最近、難関といわれる試験に合格し、王城の第二文官室に配属されたモブ・イチである。
この国では名字が先に来て、その後が名前なので、「イチ」というのが僕の名前だ。
ちなみに「モブ」という苗字は、この国で一番多い姓で、僕の隣の席にいる同僚も同じ苗字で、名前は「ニー」という。
彼も僕と同じ年に、超難関の試験に合格した、いわゆる“勝ち組”だ。
この国では、ごく一部の特別な血筋を除けば、ほとんどの人がさまざまな試験を突破して、国の中枢に集まり、国を運営している。
僕たちの周囲にある他国は、生まれによって地位が決まり、代々貴族が国を治めている。
そのせいか、あまり発展していない。
一方、この国では、専門分野ごとに試験があり、実力さえあれば誰でも成り上がれる。
知識と力を持つ者が国を動かす――それがこの国の強さだ。
たとえば、全国どこに行ってもトイレは異臭ひとつせず、田舎でも驚くほど清潔。
料理人も試験を通ったプロばかりだから、食事はどれも絶品。
軍事力もすごい。武器の製造には専門の試験を通った職人が関わり、その武器を扱う騎士たちもまた、厳しい試験を突破した精鋭揃い。
だからこそ、周囲の国々とは一線を画す軍事力を誇っている。
そんな国の中心――王城に勤める僕たちは、まさに高級取り。
市井ではモテモテ、ウハウハの人生が待っているはずだった。
……はずだったのだ。
「はあぁー……」
「どうした、イチ。手が止まってるぞ。」
ニーは、最近開発された“塩素に強い”と評判のインクを手に、ひたすら文字を書き続けていた。
「なあ、ニー。お前、もう何日部屋に戻ってない?」
「考えるな、イチ。何も考えずに手を動かせ。もうすぐ終わる……終わるはずなんだ……。」
僕たちは小声で励まし合いながら、黙々と文字を書き続けていた。
そのとき――
空いていた窓から、ほのかに塩素の香りが漂ってきた。
……塩素の香り?
いや、気のせいだ。きっと気のせいだ。
全員がその匂いを無視しようとした。
だが、無視しようとしたその瞬間――
バンッ!
扉が開き、あの将軍が飛び込んできた。
……嘘だろ。
塩素に強いインクのはずだ。
つい最近、錬金術師のプロ集団が頑張って開発した、渾身のインクなんだ。
まさか、消えるなんて言わないよな……?
「すまないが……」
王城の第二文官室の全員が、真っ青な顔で扉の前に立つ将軍を凝視した。
**漂白魔法。**
それは、王城のすべての文官を真っ白にし、
阿鼻叫喚の地獄に突き落とす――最強の魔法である。




