16.番外編_日常
王城・執務室――ある日の午後
「陛下、こちらが正式な申請書です♡」
ナナ姉が、金の縁取りがされた分厚い封筒を机に置いた。
王は眉をひそめながら、それを手に取る。
「……“婚姻許可申請書”……? 相手は……イチとニー?」
「そう! 二人とも選べないから、両方♡」
「……却下だ。」
「早っ!」
ナナ姉が机に身を乗り出す。
「ちょっと待ってよ! 理由は!?」
「王国法第十二条。
“同一人物との複数婚姻は認められない”。」
「でも! 私は“同一人物”じゃなくて“同一感情”で愛してるの!」
「……詩的に言ってもダメだ。」
「じゃあ、法改正しようよ!」
「却下だ。」
「じゃあじゃあ、せめて“仮婚約”を二重に――」
「ナナ。」
王妃が静かに口を挟んだ。
「はいっ!」
「あなたの情熱は素晴らしいけれど、
王城で“重婚の前例”を作るのは、さすがにまずいわ。」
「……ですよねぇ……」
ナナ姉がしょんぼりと肩を落とす。
アインがそっと近づいてきて、
「……よかった……」と心底安堵した顔を見せた。
「でもさ、どっちか選べないんだもん……」
ナナ姉がぽつりとつぶやくと、王がため息をついた。
「……なら、どちらかに決めてから、改めて申請しろ。」
「えー……選べないよぉ……」
「選べ。」
「えー……」
ナナ姉は机に突っ伏した。
王妃はくすっと笑いながら、王にささやいた。
「……でも、あの子が本気で悩んでるの、珍しいわね。」
「……あれで悩んでるのか?」
「ええ。“どっちも好き”って、ある意味いちばん厄介よ。」
「……まったくだ。」
アインはそっとナナ姉の背中をぽんぽんと叩いた。
「……まずは、どちらかに告白してからにしましょうね。」
「うぅ……イチもニーも、どっちもかわいいんだもん……」
「(……弟たち、逃げて……)」
アインは心の中でそっと祈った。




