12.王の苦悩
王城・執務室――早朝
「……亡くなった、か。」
王は机に肘をつき、静かに報告書を見つめていた。
“第一王子、病により崩御”――
それが、今朝方、牢の中で確認された。
「……最後まで、何も言わなかったそうです。」
ナナ姉の報告に、王は小さく頷いた。
「ありがとう。
これで、ようやく幕が下りたな。」
「ええ。けれど、まだ国の中には、彼を慕う者も残っています。
油断は禁物です。」
「わかっている。だが……」
王はふと、窓の外を見やった。
「……兄上が、あんなふうに笑ったのは、
本当に久しぶりだった。」
その隣で、セリナ王女は黙って立っていた。
彼女の表情は、どこか遠くを見つめているようだった。
そのとき――
「おーい、セリナ! 迎えに来たぞー!」
廊下から、陽気な声が響いた。
「はーい、今行くわ〜!」
セリナがぱたぱたと立ち上がり、護衛が扉を開けると、
そこには、ややくたびれた旅装の男が立っていた。
セリナの夫――元騎士で、今は公爵家を継いだ婿殿だ。
「お疲れさま、あなた♡」
「いやいや、そっちこそ。
今日も王家の修羅場、乗り越えたって聞いたぞ?」
「ふふ、まあね。
でも、みんなが頑張ってくれたから。」
王は机の上の書類を見つめたまま、ため息をついた。
「……姉上、ここは執務室だぞ。
いちゃつくな。」
「じゃあ、あなたも王妃様といちゃつけばいいでしょ?」
「王妃様って、いうがな、そんな暇ないんだよ? それより、娘をどうにかしろ!
また文官室の書類が真っ白になってたんだぞ!?」
「それなら、婿殿に言ってちょうだい。
メイはあの人の娘なんだから。」
「えっ、俺!?」
婿殿が目を丸くする。
「いやいや、あの子は君にそっくりだろ!?」
「ふふ、でも“漂白魔法”はあなたの家系の魔力資質よ?」
「えっ、マジで!?」
王が頭を抱えながら怒鳴ると、婿殿がぽかんとした顔で言った。
「……なんでそんなに怒っているの?」
「……は?」
王は話の通じなさに、殺意が沸いた。
「だって、あの子の魔法、ちゃんと“感情”と“安定した魔力供給”があれば制御できるんだよ?」
気づかずに説明続ける婿殿。
「……はあ!?」
「うん。だから、ジークと結婚すれば解決するよ?」
「……」
王は言葉を失った。
「ほら、あの子、ジークのこと好きだし。
愛する者と結ばれれば、魔力の流れも安定するって、みんな知ってるだろ。」
「……お前ら、全員グルか……?」
セリナは紅茶を飲みながら、にっこりと笑った。
「ふふ、陛下。
“愛”は、漂白すら超えるのよ。」
王は机に突っ伏した。
「……誰か、いますぐ、この家族をどうにかしてくれ……。」




