11.二人の日常と三人の王族
王城・文官室――午後のひととき
「……なあ、ニー。」
「ん?」
「兄さんからの手紙、また来てたんだけどさ。」
イチが封筒を手に、眉をひそめる。
「“ナナ姉さんのこと、どう思ってる?”って。
“困ってるなら、兄としてできる限りの助言をする”って。」
「うちにも来た。“最近、ナナ姉さんと話す機会はあるか?”って。」
「……なんで兄さん、そんなにナナ姉さんのこと気にしてんの?」
「さあ……まさか、ナナ姉さんが兄さんに何か言ったとか?」
「うーん……。」
二人は顔を見合わせ、同時にため息をついた。
「……とりあえず、返事は“普通です”でいいよな?」
「うん。“特に問題ありません”って書いとこう。」
実兄の心配をまったく理解できない二人がここにいた。
* * *
王城・地下牢――夕刻
冷たい石の壁に囲まれた牢の中。
王の異母兄は、鎖につながれたまま、静かに座っていた。
その前に立つのは、王とセリナ王女。
「……なぜ、そこまでして王になろうとした?」
王の問いに、異母兄はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。
「……母のためだ。」
「……」
「私の母は、側妃だった。
正妃の子であるお前が生まれた時、
父の目は完全にお前に向いた。」
「……」
「母は、それが許せなかった。
“あの女の子が王妃になったから、私たちは捨てられた”と、
毎晩のように私に言い聞かせた。」
セリナが目を伏せる。
「……あの人、そんなに……」
「優しさなんてなかった。
愛されなかったことを、私にぶつけていた。
“お前が王になれば、すべてが報われる”と、
私に言い続けた。」
王は静かに目を閉じた。
「……それでも、兄上は母上を愛していたのですね。」
「……ああ。
だから、私は王にならなければならなかった。
それが、私の“存在理由”だった。」
しばし沈黙が流れた。
やがて、セリナが懐から小さな銀の瓶を取り出した。
「……これは?」
「毒入りのワインよ。」
異母兄が目を見開く。
「……私に、これを?」
「ええ。あなたの処刑は、まだ発表されていない。
もし、これを飲めば――“病死”として処理される。」
「……」
「王家の血を引く者として、
民の前で晒されるより、
静かに幕を引く方が、あなたにとっても名誉でしょう?」
異母兄はしばらく黙っていたが、やがてふっと笑った。
「……哀れみか?」
「ええ。哀れみよ。
でもそれは、あなたが“兄”だから。」
「……やはり、王はお前がなるべきだったのではないか?」
「それは、私が一番思ってるわ。」
「なら、なぜ――」
「だって、王になったら、好きな男を伴侶にできなかったもの。」
「……自己中だな。」
「自覚はあるわ。」
セリナはさらりと微笑んだ。
王は思わず吹き出しそうになり、咳払いでごまかした。
「……姉上、もう少し言い方を……」
「事実でしょ?」
異母兄は、そんな二人のやりとりを見ながら、
かすかに目を細めた。
「……あの頃の私たちに、
こんな未来があるなんて、思いもしなかったな。」
「私たちは、変わったのよ。」
王はそのまま何も言わずに姉を連れて、出ていった
異母兄は、銀の瓶を見つめたまま、しばらく身動きしなかった。




