狩猟部隊(ルカ視点)
「ルアー、魔猪の狩り残し処理お願い」
「了解です!えと、光刃!」
ユキさんが狩り損ねた猪の魔獣であるボアを光刃...と言う名前とは裏腹に赤黒い光の刃を生み出して、ルアさんがボアの首を落としていく。二人が仕留めたボアを解体しながら、僕はそんな二人に魅入っていた。
こうやって森に入って魔獣とか魔物を解体しているのは、僕たち(僕、ルアさん、ユキさん)三人だ。他の皆さんは、たぶん魔石を弄ったりして冷蔵庫の試作をしていると思う。ヴァーチャル配信は難しいかもしれないけど、フブキ様が漏らした情報によればマキさんとフブキ様が使用しているpcはあろうことかあの澪母さんが使っている配信機材と同じ物らしい。すっかり配信者も増えて、自分の配信以外ではこたつに潜っては「あはー」などと抜かしているアレが、元なのだ。そう言えばゼロさんも今の姿になったのは澪母さんのせいだとか言っていたような...?流石に気のせいかな。
「さて、ボアの解体も終わったし今日は帰ろっか!」
「そうですね。これで魔石が足りないようでしたら、魔物どもから剥ぎ取って来りゃ良いだけだし」
ユキさんの言葉に、ルアさんが返す。...戦闘時のルアさん、フブキ様みたいで結構推せるのに...。
「ルカ、なんか失礼なこと考えてねえか?」
「イエシツレイナコトナンテナニモカンガエテマセンヨアハハハハ」
ルアさん怖い。
家に戻ると、フブキ様が出迎えてくれた。
「ルカ君もはぎ取り上手になってきたね!よしよし、愛い子だ!愛でてやろう!ほれほれー!」
フブキ様にされるがまま髪をくちゃくちゃにされる。時折フブキ様の髪が顔に当たってくすぐったい。
「フブキ!?それって余のネタじゃ...」
「ワタシハナニヲイッテイルノカワカラナイナーアハハハハ」
推しとリスナーってよく似るんだなって痛感した。
「ああ、帰ってきたか。この世界の食物の保存を調べたので、冷蔵庫に必要なものはわかった。とにかく腰掛けてくれ」
マキさん...議長に勧められるまま、僕たちは席につく。一名空に浮いている天使みたいな人もいるけど、その人に関してはオール無視の方向で行くらしい。議会をまとめるのも大変なんだろうなあ。
「...フブキに時空加速を用いてもらってわかったが、この世界には微生物はいない。と言うより、腐敗を起こさまいと言う感じか。だから冷蔵庫はいらないと言う結論に陥りそうだが...」
そこで区切った議長は、目を瞑って苦しげに一言こぼした。
「...この世界、全てに魔力が宿っている。魔力は、所有物が死ぬと大気に還ろうとする。つまり、物理的に長期保存はできないと言う結論に至った」
『!?』
うっそー...。僕はどちらかと言うと結論づけたはずのゼロさんが驚いているのに驚いたけど、みんな大小問わず驚いていた。
「...あのなあ、バカじゃねえのか?」
と、そんな凍りついた空気に投石を一つ。口調でわかってたけどルアさんだ。
「一応聞いておこう」
「...じゃあ話すけどよ、まずこれは前提として『魔力が大気に還ろうとする』性質があるから保存できないんだよな?」
「ああ、そう言うことになる。魔力の大気での保存量が一定にあり続けるためのものなのだろうとは思うが...。」
「なら簡単じゃねえかよ」
そこで深呼吸したルアさんは言った。
「単純に、魔力濃度を上げて還元できなくすれば良い」
即座に議長も返す。
「やってみたが、保存などできなくて...「魔石で冷却系の魔術を使ってさらに魔術行使で発生する魔力を封じ込めれば、保存なんて簡単だろ?」...その手があったか」
議長、驚いている。ま、まあ、僕は澪母さんにやり方教わってたしね!べ、別に焦っているとかそういうんじゃ無いから!
そこからは地獄が始まった。魔石を弄っては冷却系の魔術を組み込もうとするものの、毎回凍りつく。かと思いきや魔力が切れて野菜が無くなったり。
そして3ヶ月の苦労を経て、ついに冷蔵庫は完成した。
「いやあ、盲点だった。人造貯蓄魔石なんて複雑な物を作らなければ作れないとは」
「でも、それで永久的に使えるなら良いじゃんか。ボクだって頑張ってるんだよ?」
...でも、内職がさらに増えた。人造魔石を作る必要が出たからだ。
人造魔石は一定以上の魔力保持者じゃ無いと作れない。しかも今回のは、魔力の使い方を知らなければ尚のこと。
結果、議長とフブキ様、僕とルアさん、そしてゼロさんの五人しか作れないという事態に。...なんでゼロさんが魔法を知ってるのかは聞かないでおく。
「...ではの。魔物を倒せば金が入る冒険者になるのが良いぞい。目指すは北西、ファーランド男爵領じゃ。...さらば」
ローゲインじいちゃんに見送られて、僕たちは一路北西へと歩き始めた。
とりあえず、これで一章目は終了。早めに終わらせたいものです。




