大河の村
ローゲインという名の竜人に連れられて一行が向かった村は、発展しているようにも見えた。
村の真ん中は大きめの川に貫かれ、東西は橋によってのみ繋げられている。外は柵ばかりで、明確な魔物との境界線を築いていた。
「あまりおらんじゃろうけど、ここにいる間はのんびりして行ってくれて構わんから。儂は森で木を刈ってくる」
少しフラグに聞こえる気もしないでもないが、気のせいだろう。
「はぁー...。ねむ」
「うにゅうぁー」と言う擬音を出しながら欠伸するのは、先ほど空を飛んでいた永久ゼロだ。元々が眠らずに蒼月家に来ていたところを異世界に飛ばされ、しかもそこで走り回ったのだから眠くなることもあるのだろう。それに加えて、ゼロ自身深夜配信を前日に行なっていたのでそう言う経緯があるのかもしれない。
「そうだね。寝たいならゆっくり寝なよ」
そんなゼロをなでながら優しい声をかけたのは常夜ユキ。ゼロと同じく昔はJizzというV配信事務所に所属していたのだが、自らがイラストを手がけた『娘』であるゼロを追って幻想議会に来た経緯を持つ。Jizzでは冷たく相対していたが、対外的なツンデレ営業なのだろうと思える程度にはゼロに甘い。そしてゼロもユキにデレデレ。所謂親娘てぇてぇというやつである。しかも同一事務所。
「ぁ、余さんありがと余ー。くふふ、余さんとありがと『余』をかけたボクの高等テクニック」
「ワースゴイネー、まあ最後ネタバラシしたから3点だけど」
「低っ!?」
「あ、安心して。一万点中だから」
「うぇーん、余さんがいじめるぅー!」
まあゼロがシャレを言って滑る漫才が一連のオチなのだが。ちなみに余さんと言うのはJizz事務所の時にユキのチャンネルの名が〈余〉となっていたこと、自らがその長い本名(ドラゲリオン・エミリア・キュルヴィース・クエリアエンデ・エヴォレディアス・ジ・アトミカルレイジ・ファントムペイン・スピアヘッド)を名乗ることなく一人称も余だった事から事務所公式にもそう略されている。
そんな二人を眺めて「あ^ ー、親娘てぇてぇの音ー ^」とどこかのコマーシャルで聞いたことのあるような台詞を吐いているのは、推しているルカ本人ですらも(え...っと、これはフブキ様...?)と疑念を抱かれるほど配信と違う一面を見せている銀嶺フブキ。姉であるらしいルアですら「...フブキ...?」と心配するような声をあげているあたり、ルアと分離したと思われる2年前ほどから急激にカップリングに沈んだのだろう。
そして、そんな一行を(ルカ含め)呆れているように眺めているのは、議長こと大恋マキ。フブキと共に議会立ち上げメンバーで、やはり最初の配信のPONで爆発した配信者である。
おそらくこの中で何もVに関することはなく、強いて言えば自らの恩人である蒼月澪への上限スパチャ数十投を複数所持するスマホ垢&キャッシングカードを駆使して配信のたびに送りつける強火オタクだと言うことが狂っているところだろうか。...こう並べると、一番まともなのが娘へラブ全開のユキなのが作者として悲しいところである。
一行が家の探索や雑談、そしてやり方次第では配信が行えそうだと気づいた頃、すっかり村が闇に覆われた頃。
「まだ起きてるかのー?」と、一言言ってローゲインが帰ってきた。その手には所謂魔獣の肉があり...すっかり腹ペコだった一行は、その肉に齧り付いた。
「ング...ぐぶっ。これ、豚っぽいから猪の肉かな?ちょっと硬いけど、引きちぎってそれに火通して食べたらもっとおいしそう」
「...ほぅ、すぐに見抜くか。豚?と言うのは、確か隣国だかの猪を家畜へと変えた肉だったかの?それと、引きちぎるのは大の大男でも苦労する。おそらくは難しいぞい?まあ、ここにあるがの」
「...ゼロ?わかってると思うけど穏便に...「オラァっ!っしゃあ、千切ったったぜぇ!」...もはや何も言うまい。それがゼロクオリティ」
ルカは、「大男でもちぎるのが苦労する」肉を「いかにもか弱い少女」が引きちぎったのをみて、ぽかんとしているローゲインにこっそり、「...ゼロさん、実は両方とも握力80オーバーなんですよ」と耳打ちした。
結果的に、ゼロが千切った肉はローゲインが半分はサイコロステーキ風に焼き、残り半分はナタのようなもので潰して捏ねてつくねふうな何かにして汁に入れていた。
「あー、冷蔵庫欲しい。魔石とかねえかなー」
「魔石なら、そこらへんのゴミ魔物を狩れば手に入るぞい?」
すっかり現代かぶれしたルアにローゲインが一言。そのせいで、一行はこれから冷蔵庫と魔石回収に追われる羽目になるが...それは、次回投稿がいつになるのかわからない次回で語るとしよう。
言い訳。
小説読み漁るのって楽しいですよね(焦




