議員になるには
「じゃあルカ。鴉晴ルカでお願いします」
議長に聞かれて即答した瑠依少年...この際ルカと呼ぶが、ルカは言葉にしてから首をひねった。「そもそも、此処から帰れるんですかね?大体、こういう類って魔王を倒すか現実世界に戻れるような特別な魔術を使って戻るイメージなんですけど」その言葉には、議長は答えなかった。
「...ルカ。君は、議員入りしたいんだな?」
「え?ああ、はい。議員入りして公式にフブキ様を推させてほしいです。自分のチャンネルの視聴者にフブキ様を布教してフブキ様の推しをさらに増やしたいです」
圧をかけたにも関わらずあっけらかんとして言ったルカのあまりにもすがすがしいその言葉に、昔の自分が行なっていた『本人にやめてほしいと言われているにもかかわらず蒼月澪を視聴者に推させること』を思い出したのか少しだけ眩しそうな顔をした議長は、笑顔を見せた。そして、大きく手を広げる様にして「ようこそ、幻想議会へ。私たちは、君を歓迎する」とルカを迎え入れた。まあ、やっていることの基準は違う気がするのだが。
「...で、どうやってこの森から出たものか。とりあえずフブキ、魔力剣出してくれ。魔物なんかが出た時にまともに戦えそうなのは私とフブキと...あと、ルアぐらいだから。ああ、剣は短いのと長いので頼む。長い方は左手用で、短いのは右手用で」
少し悩んだそぶりを見せたフブキは、「大丈夫だ、そもそも議員としての姿を晒しているような世界だから。それに、ルカの親の片方はアレだぞ?フブキはよく知っているだろう」と議長に言われると「あー...確かにね」と呆れ果てた顔をし、手から黒い光を出しては「クリエイト!」と言い、次の瞬間彼女の手に刃渡り80cm程度の普通の見た目をした両刃直剣が生成された。そして更に「シース・ジェネレート!」と剣に触れながら叫ぶと、禍々しい装飾が施された鞘が生まれた。その鞘には明らかに何かを溜める物があり、全部溜まり切ると妖刀になるのではないかという疑念を浮かばせる剣になった。今更だが剣なのに妖刀とは...?
もう片方の短い剣はいわゆる短剣と呼ばれるもので、一般的に想起されるものとは違い刃渡り40cm程の長さを持っていた。こちらは剣身の方に荊のように装飾が施されており、短剣自体がほのかに赤く発光している。少なくとも、双方まともではないのは確かだ。
しかしそんな武器でも議長は慣れたものなのか、フブキから長短剣を受け取ると柄を握る場所を変えたり剣をいろんな角度から見たりすると、少し笑みをこぼして「うむ、懐かしい感触だ。...とはいっても、ブランクが大きいからなー...」などと最後は不安げに顔を昏くしていたがそもそも感触を知っていることに皆は驚いていた。流石にフブキは驚いてはいなかったが、少し呆れていたようにも見える。
ダンジョンが消えてから11年、恐らく今でも当時のダンジョン系配信者と同レベルの行動を配信して動けるのは澪と明、フブキ(とルア)ぐらいだろう。しかし。
「あはははは!久しぶりの感覚だ、当時のランクにすればCランク探索者と言ったところか!?時間の流れは恐ろしい、SSSランク4体に囲まれて悲鳴を上げていたAランクのころの私が懐かしい!ほらほら、さっさと来い!」
そう言って、近くにいる明らかにゴブリンの上位種と思われる存在に陶酔したような目を向ける議長は、彼女が言う様に当時の中でもそこそこの上位であるCランクの探索者相当には動けていた。いや、本人が認めていないだけで彼女が言う様にAランク相当の動きはしているのだが、恐らく澪を見たせいで感覚が異常になったのだろう。途中少しだけ分身していたのはご愛嬌だ。が、まあフブキとルアは勿論もっとすごい。
「オラオラ、テメェらはそんなんしか動けねぇのか!?貧弱なんだよ、私の眼鏡にかなわなかったのがあたりめぇだろ!」
いつもの清楚なイメージとは大幅に異なり、明らかにレディースヤンキーと言った口調のフブキが、魔力で操っているのかファ○ネル化したナイフでゴブリンの上位種の長であろうゴブリンキングたちを一方的に虐殺し。
「同じ体だった妹があんなんですいません。ちょっとサクッとオーガジェネラル殺るんで、私の分身に隠れててくださいね?―――じゃ、<碧空鏖殺光線>!」
いつもの配信の様子と姿を真逆にすればベストマッチな感じである、フブキの姉らしいルアが口調とは裏腹に禍々しい色で構成されたトリコロールの光線を、ゴブリンたちを追いかけていったと思われる奥の方にいたオーガジェネラルに直撃させて...それでは止まらず、奥に広がっていた森の一角を消し飛ばし。
『グギャァァアッァァァー!』
...恐らくは相当森の奥にいたと思われる、ドラゴンらしきなにかへと当たったのかすさまじい悲鳴が聞こえ。
ゴブリンたちも一行も、一斉に逃げ出した。




