ヲタッキーズ138 量子ゆらぎの彼方
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第138話「量子ゆらぎの彼方」。さて、今回は秋葉原のダウンタウン東秋葉原で銀行強盗が頻発します。
ミリタリーな反抗手口から姉妹による連続犯行と見抜いたヲタッキーズは、退職してなお姉妹を追う偏屈な女刑事と罠を張りますが…
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 伝説の強盗
無数のノーベル賞を生んだアキバ工科大学の"名誉教授室"だが、今や膨大な段ボール箱の波に飲まれようとしているw
「あ。ソレは警察無線機。改良したからあらゆる周波数を拾えるのょ」
「ルイナ。24時間、警察無線を聞いていたいのか?」
「モチロンょ。もう何も逃したくナイ」
超天才ルイナは車椅子でうつむく。彼女は、自分の誤解析がラギィ警部を負傷させた、と自責の念にかられているのだ。
「もう何週間もこんな感じだな」
「大変ょルイナ!…あら?テリィたんもいるの?」
「スピア!貴女、ラジオ会館に行ったンじゃナイの?」
段ボールの山の中からピョコンと顔を出したのはスピアだ。
彼女はルイナの相棒でカリスマハッカー。ジャージの下は…
トレードマークのスク水(想像w)←
「ルイナを驚かせるためのウソょ。一緒に荷解きしようと思って秘書のシャロにも頼んでおいたの」
続いて別の段ボールの山からシャロがピョコンと頭を出す。
「シャロ、どうもありがとう」
「あらあら。他には誰が隠れてるのかしら」
「私達だけょ。でも、デスクにお手紙が入ってた。マルチバースにさんざめく超天才達からのお手紙の数々ょ。ノクスやニューベリィから。コレは"バース101542"でハイタワーが描いたモノ」
色めき立つルイナ。車椅子から立ち上がりそうw
「見せて!この部屋は"リアルの裂け目"に繋がり、マルチバースへのアクセスポイントになっている。つまり、アキバ工科大学の"名誉教授室"は、マルチバースに散在スル叡智の交差点なワケ。異次元の巨匠、超天才達が私に手紙を残したと言うのね?」
「でも、コレらの手紙がマルチバースの何処かで描かれた時には、巨匠も未だ駆け出しだった。手紙には、彼等の青い目標や淡い期待が綴られているわ」
「マルチバースの何処かでハイタワーが最初に手紙を残し、ロックスやニューベリィ、ビーダーマンが続いた…あぁ何て素晴らしい伝統なの!」
ウットリ頬を赤らめるルイナ。珍しいなw
「そして、ルイナ。ビーダーマンは貴女に手紙を託した。貴女は今、伝統を継ぐ者に選ばれたの」
ヨイショ!…その時、警察無線がw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
銀行強盗が発生←
「犯人は3億円以上を強奪、マンマと逃走した模様!」
「警部、コチラは支店長のハンセ・ミタン氏です」
「保安係の格好した男が入って来て、警報や監視カメラをすべて解除したンだ!」
刺された脇腹の辺りを無意識に撫でるラギィ警部。
「犯人は1人でしたか?」
「覆面女子の3人組」
「覆面?3人はどんな覆面を?」
ココでヲタッキーズのエアリとマリレが"舞い降りる"。
エアリは妖精で、マリレはロケットガール。共に飛ぶ系←
あ。ヲタッキーズは、僕の推しミユリさんが変身したムーンライトセレナーダーが率いるスーパーヒロイン集団だ。
「2人はスキーマスク。リーダー格はプーチンの仮装マスクだった」
「…そして、奥に連れ込まれたのね。ソコで従業員と客に分けられた?」
「詳しいなw一緒にいたっけ?」
舌を巻くハンセ支店長。
「私、デジャヴが起きてる…2人が窓口に残って、1人が金庫を狙ったのょね?」
「マリレ、少し気味が悪いンだけど」
「ごめんね、ラギィ…そして、銃声を聞いた?」
首を振る支店長。全員が少しホッとスルw
「いいや。10分後に出てきたら、もう姿がなかった」
「でも、全員が逃げてない。逃げたのは2人だけ」
「え?じゃ残りの1人は何処へ?」
マリレが脇のスチールを開けると…覆面メイドの死体w
「ナゼわかったの?」
完全にドン引きのラギィ警部←
第2章 秋葉原を出るな
「銀行の死体はバリン・バリス。不法侵入の常習犯で防犯システムに詳しい。まぁいわゆる"サイバー屋"ね」
「奴を調べる?」
「どーせ何も出ないわ…でも、超能力者のマリレなら」
ラギィ警部、相棒のエアリ、警官、鑑識、野次馬の好奇の視線を一身に集める"時間ナヂス"のロケットガール。
「実は…1945年のベルリンからタイムマシンで脱出スル時に、ソックリ同じ強盗を見たの」
「ソックリって?」
「あの時も、地下にある総統官邸のスチールから死体が出た。恐らく、彼女は強盗の直前に雇われ、警報システムを解除スルだけが仕事の消耗品」
ラギィ警部は腕組み。
「そして、仕事が済んで口封じに殺された。どちらにせょ
強盗集団には結びつかナイわ。例によって、誰もカメラに映ってナイ。見事ょ。最初の事件は?」
「2020年です。未解決だし容疑者スラいない。でも、当時の捜査主任なら心当たりがあるカモ」
「捜査主任?誰?」
若い刑事はタブレットを操る。
「ジャロ・ブリムですね」
「あら?8ヶ月前に組んだのに…退職してるの?」
「横領着服がバレてクビになってます」←
ラギィは溜め息をつく。
「マリレ。一緒に行ってくれる?」
「え。私も?」
「ホラ、貴女は超能力者でしょ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ヲタッキーズは、僕の推しミユリさんが率いるスーパーヒロイン集団で、SATO傘下の民間軍事会社だ。僕がCEO←
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"からの脅威に敢然と対抗する首相官邸直属の防衛組織w
で、ジャロ・ブリムは"穴"を掘っているw
「手を貸しますょ先輩」
「お断りょ」
「親切心からなのに」
優しく声をかけるラギィに塩対応のブリム。
ソレを見たマリレが横で口をとんがらせる。
「アンタ達。下水管を掘るアタシを見るために、わざわざ来たのかい?」
「実は、先輩の助けを借りたいのです」
「銀行強盗なのょ!」
手っ取り早く結論を逝うマリレ。
ソレを聞き穴の中で笑うブリム。
「何か面白い?」
「面白いドコロか大笑いさ。悪党スーパーヒロインを狩って32年も働いたのに、最後は退職を迫られ、年金も出ない。水道業者も雇えズ、漏れた下水の配管でクソまみれになってる。全部、万世橋のせいさ。アタシの人生を台無しにした。アンタらタタミの上じゃ死ねないょ」
「先輩が担当された2020年の強盗ですけど…秋葉原に舞い戻って来ました」
あくまで丁寧なラギィ。フト顔を上げるブリム。
「3人組の犯行で1人が殺されました。例の姉妹が同じ手口で今朝、強盗に入ったのです。資料には描かれてナイですが、先輩は犯人の目星がついてたハズ」
「ブレナ姉妹か」
「姉妹を疑う理由は?」
ブリムは、穴の中で腕組みして唸る。
「利口な女で前科がアリ、大量の現金を使ってたが運がなかった」
「先輩の時もブレナ姉妹が犯行を?」
「しかし、証拠がなかった。その後のカジノ強盗で姉妹は死んだ。つまり、今回の強盗とは無関係だ」
穴の底でポンポンと埃を払うブリム。
「と言うワケで話は終わりだ」
再び、下水管を掘り続ける。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
アキバ工科大学"名誉教授室"。
「やっぱりノックスの手紙が1番ね。彼は、若干27歳で自分の道筋を決めていた」
「ふーん」
「あら?ルイナもノックスを尊敬してたでしょ?講義で彼に2週間も割いたじゃナイ」
スピアの指摘に渋々うなずく車椅子のルイナ。
「それじゃなぜ手紙に反応しないの?私なら舞い上がって返事を描くわ」
「じゃあ私の分まで描いてょ」
「え。」
思わぬ塩反応に目を剥くスピア。
「ノックスも共同作業を支持してた。貴女が草稿を描いても文句は言わないわ」
「ねぇどぉしちゃったの?便秘?」
「ワカラナイわ」
ヲタッキーズのエアリが入って来る。
段ボール箱の山々を見て苦笑いスル。
「素敵なインテリアね」
「忙しかったの。お片付けが間に合ってナイわ」
「今、銀行強盗の捜査中。マリレは現場」
車椅子ごとエアリの方を向くルイナ。
「2020年の強盗の再犯みたいね。犯人は、かなり手馴れているわ」
「いつかのスニーカーの事件の時に使った"検索アルゴリズム"が使えルンじゃナイ?」
「似た手口の容疑者の中から犯人を探すアルゴリズム?」
うなずくエアリ。
「YES。今回も過去の事件と結びつけたいの」
「ソレなら昔の資料をデータ化して変数に加えないと」
「資料を転送して。ソレまでに片付けておく」
猛スピードで段ボール箱を片付けだすルイナ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋へ戻る車内は気まずい。ラギィとマリレ。
「何よ?」
「何が?」
「ブリムの家を出てからラギィは怒ってる。ようやく、彼女が歌い出したのに私が邪魔をしたから?」
珍しくツッケンドンなラギィw
「大当たり!やっぱり、マリレは超能力者だわ」
「彼女は…"ハンター"なのょ?」
「だから、何?」
俗に"パワー"が絡む犯罪において、ダークサイドに落ちたスーパーヒロインを狩る警官を、人は"ハンター"と呼ぶ。
「ハンターは悪徳警官だとでも?」
「だって、横領してたンでしょ?」
「理由がアルの。何度も横領を繰り返して悪徳スーパーヒロインの関心を引いたのょ」
初めて聞く話だ。戸惑うマリレ。
「だから横領を?」
「お金は返す予定だったと聞いてるわ」
「ねぇホンキで言ってるの?」
ラギィはムキになって力説スル。
「彼女は30年も働いて誘拐や銀行強盗を解決し、あらゆる賞を取った。多くの功績の中にミスが1つあっただけ!」
しかし、マリレは首を振る。
「悪いけど…呆れてモノも言えないわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。
「ビデオ流しても?」
「大丈夫。ルイナはラボで没頭してるから」
「1週間分の映像を確認しなきゃ。犯人が下見に来てたカモしれない」
ヲタッキーズのエアリが大量のデータを持ち込む。
「うわぁ!こんなにアルの?大勢が写ってそう」
「先ず、銀行に出入りする人間をチェックして、その後で照合して行くの」
「ねぇ!"検索アルゴリズム"で意外な結果が出たわ!」
突然、本部の全モニターにルイナの顔が写る。
「何?どーしたの?」
「2ヶ月前、1994年の強盗にソックリの事件が発生してるわ!神田山本町の5ヶ月前の事件は、1989年の強盗と特徴がピタリと一致スル」
「昔の事件が繰り返されてるの?」
モニターに向かって問うラギィ警部。
「YES。日付や家の違いを見る限り、もともとの3件は犯人はバラバラだと思う」
「つまり?」
「犯人は模倣犯ね。犯人に真似されてるのは、全て未解決の強盗事件ばかりょ。今回の犯人は"伝説の強盗"を再現するコトで完全犯罪を狙ってる」
ルイナは"伝説の…"のトコロで派手なボディアクションw
「もっと当時の資料を読み込んでデータが増えたら、更に類似点を探せルンじゃないの?」
「うーん今、重要なのは類似点よりも相違点なのょ。異常の検出が鍵。即ち"発見的異常検出"ね。例えば、コピー機を使うとスルわね。大量の写真をそれぞれコピーして、現場の写真と比較スル。コピーなら類似点があって当然ょ。でも、原盤にない汚れとかの"相違点"があれば、そのコピー機の特徴をつかんだコトになる。十分な相違点が見つかれば…」
「コピー機を特定出来る?」
つまり、ソレは犯人を特定出来ると逝うコトだ。
「資料を集めて。もっとたくさん」
「ソレが、どれも最近貸し出されてるのょ」
「誰に?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
組織に不適合な偏屈者の係。ソレが"資料係"だw
「特捜のラギィょ。この3つの資料の閲覧者を教えて」
「え?裏に書いてアルけど?」
「サインが読めないの。ねぇ閲覧にはIDが必要ょね?」
ウルトラ地味子だがプライドだけは(がw)高そうな眼鏡女w
「資料番号」
「21245と13545それに41808」
「全部アンタが借りてるわ」
当たり前だw
「だ・か・ら!私以外にょ。私の前に借りたのは?」
「ブリム捜査官」
「ジャロ・ブリム?」
色めき立つラギィ。
「YES。未解決強盗の資料を借りてるわ」
「あのね。彼女は11月で辞めたの。何故貸したの?!」
「あのね!アタシは彼が辞めたのは知らないし、知らされてもイナイ。ソレに彼は捜査主任ょ?コレは組織の問題ょ。権限が適切に配分されていない!ソレが問題の本質だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
総出で画像確認中の捜査本部にブリムが連れて来られる。
「コレ、アンタのサイン?」
「ホントにヘタな字ね…でも、隠してもバレるから認めるわ。私のサインょ」
「なぜ昔の資料を20以上も借りたの?」
ジャロ・ブリムは、涼しい顔だw
「ちょっと昔が懐かしくて」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室…をマジックミラー越しに見る隣室。
「ブリムも予想外だったハズょね」
「同情してるの?」
「だって…古巣にこんな形で戻るなんて屈辱でしょ?」
OGを相手に遠慮のナイ刑事達。
「しかし、捜査官になりすますのは犯罪だ」
「現役だとは言ってないぞ」
「だが、否定もしなかった。立派な詐称だ」
ラギィ警部自らの取調べだ。
「何のマネょ?まだ私を苦しめたいの?借りた資料について追求スル気?」
「今朝、この資料の手口が再現されたので。3週間前、資料を借りましたね?」
「で、その資料を読みながら私が強盗に入ったとでも?」
溜め息をつくラギィ。
「違いますか?」
「何も言いたくないわ」
「どうぞ黙秘を」
とか逝いながら"お手上げだわ"と溜め息をつくラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻。捜査本部では発見がアル。
「マリレ、見て。2日前の映像よ。銀行の窓口」
「映ってるのは、今、取調べ中のジャロ・ブリム?」
「YES。2日前の画像ょ。恐らく下見に来てる」
モニター画像を静止して指差すエアリ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「隔離する必要がありますか?まるで重罪犯だ」
「当然の処置ね。残念だけど」
「でも…彼女はOGですょ?」
刑事達に詰め寄られるラギィ。
「でも、OGなら私達に協力するべきょね」
「いつまで取り調べを続けるつもりですか?」
「…実は今、ヲタッキーズが家をガサ入れしてる」
ポカンと口を開ける刑事達。
「そ、その手があったか」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ラボ。
「"発見的異常検出"は進んでる?」
「あ、ミユリ姉様。今、アルゴリズムを組んでるトコロょ」
「やっぱりジャロ・ブリムが容疑者なの?」
ルイナにリモートで話しかけるミユリさん。
「うーんソレは不要な偏見になるだけ。公正な解析をスルためにもジャロ・ブリムの仕業と仮定すべきではナイと思うの」
「で。いつ結果が出るの?」
「今宵か…明日になるわ」
ミユリさんは考え込む。
「今のトコロ、犯行の共通点はブリムだけね」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
再度、取調室へと入るラギィ。
水のペットボトルを差し出す。
「"取調べマニュアル"の3ページ目ね」
「はい?」
「容疑者を隔離して信頼関係を築く。チョコバーやコーヒーまたは水を提供すると良い…だっけ?」
ペットボトルを押し返すジャロ・ブリム。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そのブリムの"留守宅"に入るエアリ&マリレ。
「1部屋ずつ調べる?ソレとも手分けスル?」
「マリレ1人にしてもバカなコトはしないと誓う?」
「エアリ!マジでソレ言ってる?」
憤慨スル"時間ナヂス"のロケットガール。
「証拠を隠すか、私達が捜索した痕跡をワザと残すとか」
「わ、私がソンなマネすると思うの?」
「普段は思わないけど…今回は微妙だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻、取調室。
「またケビンの事件を蒸し返すのね?」
「貴女が1000万円を盗んだのは確かですから」
「そして、1円残らず返済したわ」
溜め息をつくラギィ。
「つまり、今は金欠ってコトですね?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
リビングにSelmer製のサックスが置いてあるw
「マリレ。貴女は何も話してくれない。なぜブリムを責めるの?理解出来ないわ」
「私の父の話をしたっけ?」
「え?確か亡くなった…」
(ガサ入れしながらw)ポツリポツリ話し出すマリレ。
「父は、車を走らせるのが好きだった。その日、約30kmのアウトバーンにガードレールが張り巡らされてた。140mを除いてね。ソコから車が崖に落ちた」
Crampon製のクラリネットもアル。リード楽器が好物?
「お気の毒に。運が悪かったのね」
「もしくは…自分で突っ込んだのカモ」
「自殺を疑ってるの?」
首を振るマリレ。
「ワカラナイわ。ただ、あらゆる先入観は、真実を歪んで見せるってコトょ」
「そーなの?」
「ウチは3代続く軍人の家系。誇り高いプロイセン軍人だった父は、ミス1つで退役させられた。たった1つのミスで父の軍人としての人生はナチスに全否定されたの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
同時刻、取調室。
「会社をクビになって考えましたか?そして、考える内に自分を正当化し始める。実は、被害者は自分なのだと…」
「マニュアルの19ページだわ。容疑者を怒らせ、反応を引き出す。やめて。私は30年間、ソッチ側の人間だった。私から自白は引き出せナイ。ねぇ何か証拠がアルの?」
「貴女は、強盗の2日前に銀行へ下見に行き、3週間前は資料を閲覧してる」
余裕でペットボトルの水を1口飲むブリム。
「ソレを状況証拠と言うのょ。何か別の理由でした行為カモしれないわ」
「その"別の理由"を教えてください。力になりますょ」
「フン。私をムリヤリ警察から卒業させたくせに」
さすがにムキになるラギィ。
「ソレを望んでやったと思いますか?尊敬スル先輩を追い出したかったワケじゃナイ」
「私の母は貯金を全て奪われたの。貴女も自分の親が被害に遭えばワカルわょ!」
「ソンなコトがw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
さらに同時刻。ブリム宅。
「ビンゴ!マリレ、見て!銀行の見取り図や写真、道路情報があったわ!」
「げ。銀行の内部まで描いてアル」
「2015年の資料だわ。この銀行でも強盗が起きてる」
エアリは腕組みw
「全部、未解決事件だわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室を出て、ブリムに私物を返すラギィ。
「貴女達は、捜査官の鏡ね」
「あの。お話しスルまでもありませんが…」
「秋葉原を出るな?」
エレベーターのドアの向こうに消えるブリム。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
捜査本部。
「痕跡は残してナイ?」
「ラギィ。十分に気をつけたつもりょ」
「お疲れ様」
第3章 天才という宿命
その夜の"潜り酒場"。
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したらヤタラ居心地良くて回転率は急降下。メイド長はオカンムリだ。
「姉様、コレは何?」
「常連さんへのプレゼント。未だ喜ぶの早いわ」
「わかった。ペンね?未だ見ぬ若き超天才に手紙を描くためでしょ」
車椅子のルイナは滅多に外出をしない。今宵もリモートで"オンライン飲み"中だがミユリさんからプレゼントが届く。
「お手紙は大事なお仕事でしょ?抵抗しても無駄。スピアの逝うコトが正しい」
「確かに手紙は描くべきだと思う。でも、将来どうなるカモわからないのに」
「ソレなら、どうなりたいかを描けば?」
そっと唇を噛むルイナ。
「手紙を描こうとした矢先にラギィが量子テレポーターに刺され、連続殺人犯も現れた。そうしたら、何だか混乱してしまって…でも、プレゼントありがとう」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
色褪せた夕陽が中央通りのタワービルの谷間に沈む。
「花籠町32からパレス」
「こちらパレス。現場直近で待機せょ」
「了解」
「コチラ同朋町22…」
張り込み中の警官隊の間で無線が飛び交う。
「奴の姿は?」
「ありません。ホントにココなんでしょうか、ラギィ警部。取り調べの直後だし…普通なら手を引くトコロですが」
「ルイナのデータ解析の結果ょ。信じましょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「2019年に起きた銀行強盗の模倣なら、ソロソロですが…」
「練塀町07からパレス。来ました!緑のキューベルワーゲンが蔵前橋通りを左折。来る…ブリムだ。ブリムが乗ってる!奴は1人です」
「パレスから全町!キルゾーンに誘い込んで」
現場からは、戸惑いの声が上がる。
「しかし。警部、奴は明らかに何かを待ってる。あの車だ!ツートンカラーの小型半装軌車接近!」
「250?A型?B型?とにかく、SWATは待機。命令あるまで発砲するな」
「警部、犯人が先に動いた!」
中央通りを北上して来たアルテは量販店"ノンキ・ホーテ"前で急停車。黒覆面の装甲擲弾兵が2人飛び出す!ソコヘ…
「動くな!」
銃口がラッパ型に開いた音波銃を構えて飛び出すブリム。
「1人で武装強盗を止める気?SWAT、出て!」
「万世橋警察署!万世橋警察署!」
「何?待ち伏せ?!」
木製柄付きのM-24手榴弾が投げられ、現場をサイキック抑制蒸気が包む。続いて拳銃、音波銃、短機関銃の十字砲火!
「撤収!早く乗れ!」
「逃すな!"音波バズーカ"、前へ!」
「ブリム、音波銃を捨てろ!」
装甲擲弾兵はアルテに飛び乗り、ハデに突撃銃を撃ちまくりつつ逃走、SWATの放つ"音波バズーカ"は僅かに外れるw
「ブリム、対ヒロイン兵器の不法所持および使用で現行犯逮捕スル。貴方には弁護士を呼ぶ権利が…」
「待て!彼女はシロょ!犯行を止めようとした… ジャロ・ブリム、なぜココに?」
「14年間、銀行強盗を追い続けて、やっと突き止めた…だのに、ソレをアンタ達は!」
驚くラギィ。
「退職してなお自前で捜査を?」
「本腰入れたのは5ヶ月前からだ。ソレでも万世橋の遥か先を行ってた」
「だから、捜査資料を閲覧してたのですか?」
鼻で笑うブリム。
「別の理由があるとでも思った?」
「犯行を知りながら通報しなければ共犯ナンですょ」
「バカを言わないで」
ラギィは怒り出す。
「貴女は、私の部下を危険に晒した」
「怪我したのは、犯人の1人だけじゃナイの」
「…ハッキリと申し上げます。今の貴女は捜査官でもなければ、尊敬に値スル先輩でもない」
ラギィはサングラスをハズす。悲しそうな目。
「もう充分です…手錠を」
その時、ラギィのスマホが鳴動。ルイナだ。
「ラギィ、犯人を捕まえた?」
「ソレが…他にも犯人を追ってる"市民"がいて現場が混乱…」
「私、情報フローを見落としてたわ。犯人は、どこかで今回模倣した強盗を徹底的に調査してる」
あっさり解析上の手落ちを認めるルイナ。
「資料は十分に読み込んだンじゃナイの?」
「そうじゃないみたい」←
「じゃあ何処かで誰かと情報交換をしたワケね?ソレって恐らく刑務所だわ。今回の犯人は、過去に強盗犯として服役してルンだけど、強盗犯って、ヤタラと自分の手柄を自慢したがるのょね」
スマホの小さな画面の中でうなずくルイナ。
「ソレを新入りが神妙に聞くって構図なのね」
「ルイナ。いつかの"社会ネットワーク分析"とかで犯人の足取りを追えないかしら」
「この変数じゃ無理ポ。犯人一味は、昔の強盗犯から話を聞いている。でも、いずれも情報量が足りない。例えば"藻屑背負い"と言う蟹がいる。"藻屑背負い"は、周りのモノをカラダに貼り付けて自分の身を隠す。だから"藻屑背負い"を見るだけで、その生息スル環境がワカルの。反対に、生息環境を見れば"藻屑背負い"の姿が想像出来る。今は、生息環境も"藻屑背負い"も見えてナイ。つまり、どちらも予測出来ナイ状況なのょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋警察署を出た通称"ふれあい通り"。
(行政がそう呼ぶだけで誰も使わない名w)
「ジャロ・ブリム…さん!」
紆余曲折の末、何故か釈放されたブリムを呼ぶ声。
「メイドさん?ヲタッキーズね。未だ言い足りないの?」
「ソコまで送ります。かつての部下に取り調べられたりしてヤケになる気持ちはわかります」
「メイドさん。アンタはナチスの汚名を注ぎ、全てを水に流してもらって秋葉原にいる。でも、ウチの業界の連中は、みんな記憶力が悪いのょ。最後の出来事だけが頭に残る。新聞を見て、強盗を知り最後のチャンスだと思ったけど」
マリレはうなずく。
「強盗を捕まえれば汚名を返上出来ると?」
「ねぇ私にも捜査情報を流してくれないかな?」
「諦めてください。貴女は警察の体面から拘束を免れただけょ。元捜査官が市街戦を引き起こした。今度、失敗すれば捕まりますょ」
人生の先輩に説教を垂れるメイド。
「ケビンの件では、私は間違った判断をしたと認めるわ。でも、アレを最後に警察人生を終わりたくナイの」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜の"潜り酒場"。
「で、ルイナ。お手紙は描いてるの?」
「…姉様、1つだけ質問させて。手紙と私達に関するコトょ」
「OK」
モニターに映るルイナに微笑むミユリさん。
ルイナは、例によって、オンライン吞みだ。
「私の人生って、常に疑問の余地がなかった。8才の頃から宿命だけがあった。ソレは、学術的な偉業を達成し、人類の歴史に名を残すコトょ」
「ソレょ。ソレを手紙に描けば?」
「待って。みんなと出会った頃、私は未来ある天才だった。付き合い始めてから、みんなも私の将来はわかってたハズ。想像はつくでしょ?つまり、姉様に聞きたかったのは、ソレでも私を受け入れてくれるかってコト。もし、将来が違うモノになり、私が宿命を全う出来なくなっても」
ミユリさんは、モニターに向かって溜め息をつく。
「ルイナ。だから、荷解きしないの?あの手紙を描く資格が無いと不安になってるのね?聞いて。私達が貴女とつきあうのは、貴女が超天才だからじゃナイ。同じように、この街が貴女を受け入れるのは、貴女が官邸アドバイザーだからじゃナイ。全て貴女がヲタクだからなの。だって、ココは秋葉原だから」
このタイミングで脳天気な御帰宅をスル僕達←
「ミユリさん、ただいまー…あれ?何だか空気の色が…」
「おかえりなさいませ、テリィ様。あら、マリレも一緒?ソチラの方は?」
「あ、うん(何なんだヤタラ空気が重いw)。インバウンドの御新規さんを連れて来たょ。ジャロ・ブリムを覚えてる?」
百戦錬磨のミユリさんは、営業用の笑顔だ。
モニターの中はポカンと口を開けるルイナ。
「あ、ルイナ。オンラインか、ちょうど良かった。捜査に協力してくれるってさ」
「え、ええ。でも、もう資料ならもらったけど」
「警察の資料には載せなかった情報がアル。私は、元捜査主任だから」
大きく出るジャロ・ブリムw
「ふーん容疑者の目処とか?」
「バリバリの容疑者じゃナイけど、心当たりがアル」
「彼女は万世橋より先を行ってる」
太鼓判を推すマリレ。しかし、最大の難関は…
「でも…こんなコト、ラギィが許すかしら?」
僕の出番だw
「ソッチはなんとかスルょ」
ラギィには色々と貸しがアルw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
殺人現場。ゴミステーションに死体。パトカーが2台。
「警部、ラナウ・エイン。プロの逃し屋です。恐らく先日のハーフトラックのドライバーです。しかし、こんなに早く殺されるとは」
「所詮は消耗品ょ。でも、何で通報が昼過ぎなの?ゴミ収集業界も人手不足なのね」
「偶然に通りかかったUper Eatsからの通報でした」
警官は、肩をスボめる。
「萌えるゴミは明日ですょ警部」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ルイナのラボ。
「次の強盗のターゲットは、人の出入りが多い銀行とかが狙われると思う」
「科学的な妥当性が全くない御意見ね。確かに、追われる身になれば行動パターンは変わる。例えば、ヤギが隣の山に行こうとした時、谷に狼がいたら?」
「あのね。貴女は、ヤギより強盗犯のことを考えるベキょ」
こりゃレフリーが必要だ。買って出る僕w
「2人の出発点はカナーリ違うようだけど、焦点は1つだ。現時点で模倣されてナイ完全犯罪が未だ9件あったょね?」
「そっか。奴等は最後に大物を狙いに来るわ」
「確かに儲けが大きいトコロを標的に選ぶハズだモノ」
ホッと胸を撫で下ろす僕w
「ほーら意見が一致したね?僕達は前進してる」
「テリィたん。データを解析してたら1つ"共通項"を発見した。強盗の容疑者達だけど、恐らく蔵前橋(の重刑務所)で服役してる。今回の犯人も、ソコに収容されてたハズょ」
「ソコで情報を得たってコト?」
"情報プラットフォーム"として刑務所が浮上w
「問題は次のターゲットだ。さっき、犯人達が雇った逃し屋が死体で見つかってる」
「その逃し屋、蔵前橋に収監されてた?」
「兄貴分がいるらしい。神田山本町に在住」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「アンタ、逃げて!」
ネグリジェ姿で出て来たメイドを突き飛ばし、同じくメイド服のエアリ&マリレ、さらに万世橋SWAT1コ小隊が突入!
「ヲタッキーズ!動くな!
「万世橋警察署!令状がある!」
「ナ、ナ、ナ、ナントの勅令…じゃなかった、女子は全員メイド服かょサスガは秋葉原だな」
パンツ1丁でペーパーを読んでたブ男が顔を上げる。
「まぁチャンとお勉強してたの?感心だわ。で、何のお勉強かしら…あら、2023年の日銀襲撃の資料?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
引き続きルイナのラボ。
「全てがつながった」
透明ボードに描き殴った数式を見ながらルイナがつぶやく。
「次は2023年の日銀襲撃をマネた犯行が予想される。日銀襲撃を契機として、この国では、長年迷走していた金融緩和に終止符が打たれた。恐らく犯人は、目下、マルチバース中の中央銀行が一致して推し進めている金融緩和策に終止符を打つべく、神田花房町にある"アキバ準備銀行"を襲うつもりょ」
「ブリム。何か反論でも?」
「い、いいえ。全く同感ょテリィたん」
いいや。何か隠してる。
「話せょ。アキバでヲレに隠しゴトをするな」
「実は、ブレナ姉妹の姉、アイネ・ブレナは"9化防"にいた。対NBC戦の精鋭部隊で中央即応集団の1員として3.11直後の福島を経験してるエキスパート。NBC戦を知り尽くしてる女。2023年の事件では、確かガスで11人が殺されてなかった?」
「おいおい。確かブレナ姉妹は死んだって逝ったょな?」
僕は呆れる。
「実は生きてる…だって、私が捕まえたかったんだモン」←
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。ラギィが檄を飛ばす。
「2023年、"アキバ準備銀行"の開店前に4人が侵入。中には警備員2人従業員8人にその妻1人がいた。犯人はベトナム時代の神経ガス"345T"を使った。恐らくガスだとわかる前に全員が死亡。全ての目撃者を始末した後、犯人は2億円弱を強奪し逃走したわ」
「でも、警部。ベトナム時代の毒ガスなんて賞味期限切れだし、金庫も強化されてる。今さら2023年の模倣は無理では?」
「流行りのツールで現代化してみて。"発見的異常検出"ょ。コピーと原盤の違いに着目すべき」
ルイナがラボからリモートで割り込むが…何を逝っているのかワカラナイ。せっかくなので僕が"通訳"を買って出るw
「えっと、今どき金庫をこじ開けるのは、バールじゃなく、最新式のレーザーカッターだろ?毒ガスだけど、今さらベトナムで米軍が使った枯葉剤じゃなくて…流行りのガスって何だろう?」
「神経ガスだな。国連が"マルチバース化学兵器禁止条約"に署名したから、マルチバース中で神経ガスの廃棄・処理が始まった。確か、神田リバー沿いに化学兵器を処理するスタートアップがあったょな?」
「警部、6週間前に神経ガスの紛失事件が発生してます。関与が疑われる警備員を拘束中」
ラギィ警部の号令がかかる。
「その警備員を連れて来て」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「あーら収監されて6週間なのに、面会者も電話もナシ?寂しいのね?ヲタ友はいないの?」
「警察に話すコトは何もナイ」
「黙秘してるそうね。でも、6週間が6ヶ月に、6年が60年になったらどーかしら。デカい儲けのために必死に耐えてるのね?神経ガスの持ち主を隠し通せば、最後には大金が舞い込む仕掛けでしょ?」
微かに動揺スル警備員w
「あのね。残念ながら神経ガスの持ち主や使い道はわかってる。ウチには、貴方のボスより頭の良い人がいるのょ」
「ウソをつくな!」
「つかないわょ…ねぇ昭和な"連想ゲーム"しない?」
身を乗り出すラギィ。
「OK?"ブレナ""アキバ準備銀行""神経ガス"といえば?いくらもらうのか知らないけど諦めて。横流したガスで人が死ねば貴方はお終いょ」
「…な、何が聞きたい?」
「ブレナ姉妹と神経ガスは何処?」
警備員は天井を仰ぐw
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
中央通りの"アキバ準備銀行"。
「花籠町58からパレス。銀行の中には未だ客がいます」
「警部、客を避難させればブレナ姉妹に気づかれる恐れが…」
「SWATや爆発物処理班は下がって。両側の店も閉めさせて。ヲタッキーズ、突入して」
メイド3名が銀行へ。誰も怪しまないw
何と逝っても、ココはアキバだからね。
「準備銀行の東側は避難が遅延。目下、継続中」
「マズいわ。妹のクラネ・ブレナが正面から出て来る」
「警察?お姉ちゃん、包囲されてる!」
妹のクラネが叫びながら突撃銃型の音波銃をぶっ放す!
包囲している警官隊が一斉に応射、立てこもるクラネw
「ヲタッキーズ!動くな!」
「くたばりやがれ!メイド野郎!」
「野郎じゃナイわ。姉様、裏口から1人逃げる!」
銀行のカウンターを挟み、音波銃の激しい撃ち合いw
「ギブアップ!今から出て行くわ!」
「音波銃を捨てて!」
「両手を頭の後ろで組んで跪け!」
妹のクラネ・ブレナが両手を挙げて跪く。
「手を後ろに!あら?ガスを持ってナイ?」
「姉様、アレを見て!」
「逃げて、お姉ちゃん!」
天井板が外れ、ぶら下がっているw
「姉のアイネ・ブレナが天井から逃げた!ラギィ、正面を固めて!」
「パレスから全町!重要容疑者アイネ・ブレナが…出て来たわ!人質を取ってる!撃つな!」
「ヤメて!私の赤ちゃんが…」
乳児を抱いたママンを片手で羽交い締め、もう片手には…
「来るな。下がれ!警察も、メイドも!」
「逃げられないぞ!手にしたガスのスプレー缶を捨てろ!」
「近づくな!コレは殺人ガスの噴霧器!ガスを撒き散らすわょ!」
傍らでは泣き叫ぶ人質母子w
「スプレー缶を下せ!」
「近づくな!武器を捨てろ!」
「お前こそ!」
泣き叫ぶ人質母子を羽交い締めにしたママ、中央通りの真ん中まで出て来るアイネ・ブレナ。ジリジリ後退スル警官隊…
「あ、危ない!」
突然、花房稲荷の路地から真っ赤なケッテンクラートが飛び出しアイネをはねるw
神業だ!アイネだけを狙ってはね転がし、羽交い締めにしてた母子は全くの無事←
「動くな!」
中央通りに叩きつけられたアイネにマウントするブリム。
「あーら銀行強盗を轢いちゃったわ。どーしましょー」
「犯人確保!ガス噴霧器も確保!」
「OK、ブリム。後は任せて。貴女は交通事故の現行犯ょ!」
叫ぶラギィにブリムが僕にボヤく。
「あれしか言えないの?ヲタクとして躾がなってナイと思わない?」
「そりゃTOの責任だな」
「私は、警察に人生を捧げ、結婚もしなかった。でも、もしテリィたんが私のTOだったら…」
ヤメてくれ。DDは性に合わない。流し目を受け流しトボける僕。"推し"が僕を救ってくれる。
「ねぇブリム。美味しいホットドッグのお店がアルのだけれど"出所"したら御一緒にどう?」
「え。"マチガイダ"のチリドッグだね?腹ペコだょ!」
「テリィ様には聞いてません。でも、ブリムがOKなら…」
僕は、祈るような気持ちでブリムを振り向く。
「ええ。ぜひ御一緒したいわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その夜のラボ。警察無線機の横で手紙を描くルイナ。
「段ボールが減ったな!さっきまで、僕の渋谷時代の部屋みたいだったのに」
「確かにたくさんあったけど、スピアが片付けてくれて…」
「ココまで片付いたのか」
車椅子から僕を見上げるルイナ。
「片付けてはみたけれど、いつまた引っ越すやら」
「ココで部屋の主になるのが昔からの夢だったんだろ?」
「夢と言うか…宿命だったの。でも、私の将来がココにナイとしたら?」
おや?超天才は悩んでいるようだ。
「万世橋への捜査協力とは両立してるょ?」
「でも、ぬるま湯には浸かっていられない。私が"次元波動帯垂直跳躍理論"を構想している間にも、ヲタクの命が危険にさらされ、どこかで失われているとしたら…」
「そうやって萌え尽きるスーパーヒロインは多い。気をつけてくれ」
「でも、何か見逃すのが怖くてラボから出られナイの」
僕は、黙って警察無線の電源コードを抜くw
「ルイナは、子供の頃から超天才としての宿命を叩き込まれて来た。でも、アキバでは全て忘れ、好きなコトだけを廃人になるまでやれば良いンだょ。ヲタクの人生を生きてみろ。超天才の人生じゃなくて」
「テリィたん…」
「僕にはアキバのルイナが見える」
ソコへムーンライトセレナーダーがラボに入って来て…変身を解く。僕の推しミユリさんがメイド姿で立っている。
「あら。テリィ様、お邪魔でしたか?」
「いいえ!姉様、テリィたんは今、帰るトコロょ」
「そうなの?実は今宵は、私がテリィ様に"マチガイダ"でお夕飯を奢る約束なの」
ニッコリ微笑むミユリさん、萌え。でも、何の話かな?
「ミユリさん、チリドッグなら僕が…」
「ダメです、テリィ様。だって、私は大失敗したのです」
「ミユリさんが大失敗?」
ミユリさんのテヘペロ?イメージ出来ないなw
「ミユリさん、ソレは…さぞかし大失敗なんだろうね?」
「昼間、ブリムが"現行犯逮捕"された時、テリィ様達は"推し"と"TO"の話をされてましたが、アレは私への質問でもありました」
「別に僕は…」
ミユリさんは、喋りかけた僕の口に人差し指を当てる。
「テリィ様は、私がテリィ様の"推し"に相応しいとおっしゃったわ。ソレはウレしかったけど、私はテリィ様の質問に答えなかった。だから今、お答えします。私は、どんなコトがあってもテリィ様を…」
その時、次元が歪む!
量子テレポーテーション?同時にラボに広がる白い雲…サイキック抑制蒸気だw
甲高い女の笑い声。意識が消えて逝く僕の視野の片隅でミユリさんが泣き叫ぶ←
「嫌ょ!テリィ様、助けて!離して!」
量子テレポーターが…ミユリさんを誘拐w
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"退職刑事"をテーマに、退職してなお犯人を追う偏屈な女刑事、彼女に追われる姉妹の銀行強盗、姉妹に襲われた銀行支店長、姉妹に雇われたサイバー屋と逃し屋、姉妹強盗を追う超天才と相棒のカリスマハッカーと秘書、ヲタッキーズに所轄の敏腕警部などが登場しました。
さらに、天才ゆえの宿命に悩む超天才の苦悩などもサイドストーリー的に描いた他、シリーズ最終話となる予定の次作への伏線も張ってみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、コロナ第9波が囁かれる中、国際観光都市としての賑わいを完全に取り戻した秋葉原に当てはめて、展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。