李さんの電話
昔、「木人」を持っていたことがあった。木人とは中国拳法などで使う、木の柱から棒が何本か突き出ているような形の器具で、これを戦う相手に見立ててサンドバッグのように使うものである。
しかし、後に元の住居から引っ越すことになって、木人はかさばるので捨てることにした。
引っ越してからしばらく経って、休日に筋トレをしていると、突然電話がかかってきた。
「もしもし?」
通話先からは、若い男の声が聞こえた。
「……私、李さん、今、駅前にいるの……」
「え?」
そこで電話が切れた。
「なんだ、イタズラか?」
そこで筋トレを再開したが、またしばらくして電話がかかってきた。
「もしもし」
「……私、李さん、今、家の前にいるの……」
「は?」
また電話が切れた。
「なんなんだ一体……まるでメリーさんの電話だな」
しかしそうだとすると……これは危ないかも知れない。俺は壁を背にして身構えた。そこへまた電話がかかってきた。
「もしもし」
今は壁を背にしているから背後から奇襲はできまい。
「……私、李さん、今……」
「今、なんだ?」
「あなたの前にいる」
そこで部屋の前の扉がバンと開けられると、旗袍を着た男がこちらに駆け寄ってきた。そして俺に殴りかかる!
「うおっ!」
俺はこれを避ける。さらに相手は殴りかかる。俺はこれをガードした。さらに殴りかかる!だが俺はこれをもガード!
「う……うおおぉ!!」
相手は連続攻撃をしてきたが、意外なことに俺はその猛攻をさばくことができていた。木人でトレーニングしてきたおかげだろうか。さらに俺は攻撃の合間を縫って肘打ち!
「ぐっ!」
さらに掌底!そして膝蹴り!
「かはっ!」
相手はよろめいた。俺は言った。
「どうした、そんなものか?」
「なめるな!」
相手はそこで飛び蹴り、だが俺はそれをかわすとカウンターのハイキック、だが相手もそれをかわすと水面蹴り!俺がよろめいたところで相手はミドルキックからのハイキック!
「ぐあっ!」
俺はきりもみ回転して倒れた。奴は言った。
「どうした、そんなものか?」
「この……」
俺は起き上がって慎重に距離を詰める。
相手もじりじりと近づいて、そしてハイキック!俺はそれをぎりぎりでかわすと、距離を詰めるそぶりを見せ、続けた相手のミドルキックをかわして距離を詰めて、打ち終わりに合わせたカウンターパンチ!
しかし相手もそれをガードすると肘打ち!俺はそれをさばいてボディーブロー!よろめいたところをアッパー!さらに鉄山靠!
「ぐあっ!」
相手は吹っ飛んで倒れた。俺は構えて言った。
「まだやるか?」
相手は膝をついて起き上がると言った。
「くっ……強くなったな……」
「ああ、木人でトレーニングしてたおかげかもな」
「そうか……なら、その木人を忘れないで欲しいものだな」
「え?」
そう言うと、その男の姿は消え去り、その後には、引っ越した時に捨てた木人が転がっていた。
「そうか……やっぱりあの時の……」
そんなわけで、俺はそれからまた木人を使ってトレーニングするようになったのだった。