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03 それはまるで御伽噺のような

 街灯が夜を照らす、華やかな庭先。

 玄関へと続く道を、たくさんの着飾った紳士淑女が眩い笑顔で歩き出す。

 

 舞踏会は、主催する家の格により様々な決め事がある。

 入場の順番だとか、踊る順番だとか、様々だ。

 今日行われるのは、我がアルフ侯爵家が主催となる舞踏会。

 

 舞踏会というのは、その家の豊かさや品格を周りの貴族に示す指標でもある。

 そのため、今日の舞踏会もとても豪華に開かれた。

 調度品も磨き上げ、一流の絵画や花瓶、艶やかな花などで廊下を飾る。

 出てくる料理やドリンクも、一流のものだ。

 

 ──そしてもちろん、着飾るドレスも、最新の流行りを抑えたオーダーメイド。

 

 

 

「マリー、そのドレスとても素敵だね!」

「ああ、シェリー様ったらなんて美しいの……」

「本当に。まるで大輪の薔薇のような親子だわ。羨ましい……」

 

 華やかなパーティー会場の真ん中で、注目を集める義母と義妹。

 2人を彩るのは、華やかで豪華なドレス。

 真紅のドレスを纏うシェリー義母様と、ピンクのドレスを纏うマリー。2人のドレスは同じ形で、ふんだんにフリルや宝石での装飾がされている。

 平凡な顔立ちでは確実にドレス負けしてしまうであろうそれを、2人は見事に着こなしていた。

 本当に華になる美人だ。そういう人達にこそ、ああいうドレスは相応しい。

 

 だから、仕方ないんだ。

 私には、新しいドレスが無いことも。

 ……誰の目にも、留まらないことも。

 

 全部全部、今に始まったことでは無い。

 

 シェリー義母様が嫁いで来てから。

 マリーが社交デビューを果たした日から。

 この光景は、慣れっこだ。

 

 ──慣れっこのはず、なのに。

 

 1度「愛されるかも」と期待を抱いてしまった胸は、どうやら不調を来たしているらしい。

 前ならば何も感じなかった目の前の格差に、ツキリと小さな痛みが走る。

 

 そっと胸を抑え、少し俯く。

 けど、それを気にする人も居ない。

 

 ──はず、だった。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 落ち着いた声が、自分の頭より幾分か高いところからかけられる。

 驚いて顔を上げると、こちらを心配そうに見やる、鮮やかなエメラルドと目が合った。

 

 艶やかな黒髪は少し長めで、後ろでひと結びにされている。

 彩度の高い綺麗なエメラルドの瞳は、心配の色を乗せて私を見る。

 

 ──なんて、美しい方だろう……

 

 初めてお会いしたその人に、思わず見惚れてしまった。

 

「お嬢さん、体調が悪いようでしたら、人を呼びますが……」

「あっ、……いえ。お客様の前で、大変失礼致しました。ご心配には及びませんわ」

 

 いけない。しっかりしなくては、またお父様に叱られてしまう。

 内心慌てつつも、体は身についた動作を自然にとり、完璧なカーテシーでもって対応をするのだから教育とは偉大だ。

 

 礼儀作法や勉強をしなくても許されるマリーを羨ましく思った事は多々あったけど、こういう時は作法を叩き込まれていてよかったと思う。お客様へきちんとした対応ができるもの。

  

「大丈夫ならよかった。もし体調が悪くなったら、いつでも声をかけてください」

「アル、どこだー?」

「お、っと。主人が探してる。それでは、また」

 

 にこり、と。安心したように笑って、アルと呼ばれたその人は声のする方へと足早に去ってしまった。

 私は、その後ろ姿が人混みに紛れて見えなくなるまで、呆然と見送ることしか出来なかった。

 

「……アル、様」

 

 ──初めて、パーティーで声をかけられた。

 あの方からすれば、ただの心配だったんだろう。

 何も特別ではないんだろう。

 

 ……けれど、初めてかけられた、打算無しの優しさは、あんまりにも暖かくて。

 

 我ながら単純だと思う。

 憂鬱だった胸の内が、ほんの少し、晴れた気がした。

 

 残りの時間も頑張れそうな気がする、と仮面の下で小さく笑みを浮かべたその時。

 

 

「……お姉様のくせに、生意気」

 

 

 そんな、声が聞こえた。

 

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