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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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23話 雪女と妖狐と動き出した狐の女王



 まだ先ほどの余韻(よいん)が抜けず、騒がしい周囲。

 その騒めきを聞きながら、私は九条くんとお母さんと共に、元いた席へと戻る。



「まふゆちゃーーんっ!!」


「わっ、朱音ちゃん!?」



 すると目が合うなり、朱音ちゃんが抱きついてきたので、私は慌ててそのふわふわな体を受け止めた。

 ぱっちりとしたチョコレート色の瞳でこちらを見上げる朱音ちゃんは、にこにこと満面の笑みだ。



「よかったねぇ! これでみんなの目を気にしなくてもいいんだよ! 神琴様、素晴らしかったです!」


「はは、ありがとう、朱音」



 ぐっと親指を立てる朱音ちゃんに、九条くんが苦笑する。

 するとそんな二人の元へ、カイリちゃんが近づいて来た。



「んー、けどさぁ。なーんか、さっきのクジおかしくなかったか?」


「え?」



 (いぶか)しげに考え込むその様子に、私は目を瞬かせる。



「おかしいって……、何が?」


「銀髪の引いたクジの指示だよ。〝付き合っている人〟なんてアンタらはいいかも知れないけど、例えばあたしとかが引いたら詰みじゃん。なんで万人に当て嵌まらないような指示を入れたんだろ?」


「あ。た、確かに……」



 言われてみれば不自然なのかも?

 そもそもこの競技が人気なのは、〝恋が始まる〟からなのに……。



「うーん……」



 そのままカイリちゃんと二人、首を捻る。

 と、そこで九条くんが「ああ」と声を上げた。



「不自然なのは当然だよ。なにせあのクジは、俺が(・・)体育委員に言って、特別に入れてもらったものだからね」


「へっ……、ええっ!? 九条くんがっ!?」


「特別にって……、一体どうやってだよ?」



 カイリちゃんが尋ねると、九条くんはあっさりと種明かしした。



「うちのクラスの女子達さ。彼女達に俺がさっきのクジを引けるよう、細工してもらったんだ」


「さ、細工!? なんでそんなこと……」



 確かにうちのクラスの女子なら九条くん大好きだし、頼めば二つ返事で細工だろうが、裏工作だろうが、するに違いない。


 でもそんなことをしていたことが万が一他にバレたら、九条くんは一位を取ったヒーローから、一気に不正を働いた悪役へと転落だ。

 特に九条くんは生徒会長なんだし、大問題になるだろう。


 どうしてそんな危険を(おか)してまで、クジに細工したのか。理由が分からず、私は戸惑う。



「ふーん……」


「?」



 するとそれまで私と一緒に真剣な表情で九条くんの話を聞いていたカイリちゃんが、途端に呆れたように息を吐いた。

 そしてそのまま席に戻ろうとするので、慌てて呼び止める。



「ちょっ! ちょちょちょ、カイリちゃん! なんで何事もなかったように、席に戻ろうとしてるの!?」


「いやだって、つまり頭ん中がピンクだったのは、まふゆだけじゃなくて銀髪もだったってことだろ? もうそれだけ分かりゃいいもん。あたしお腹いっぱいだし」


「えええ、どういうこと!?」



 完全に興味を失った様子で投げやりに言うカイリちゃん。

 しかしそれが私には本気で理解出来なくて、うろたえていると、朱音ちゃんがクスクスと笑い出した。



「ふふふ! あのね、まふゆちゃん。簡単に言うと神琴様は、まふゆちゃんとの関係をずっと言いたくて仕方なかったってことだよ! ねっ、そうですよね! 神琴様!」


「え」



 そ、それって――。



 思わず九条くんを見るが、スイっと顔を逸らされる。でもその頬が赤いことを私は見逃さなかった。



「…………っ!」



 九条くんが何故そのような行動に出たのか。

 それを理解した瞬間、ぶわっと私の頬も熱くなる。


 わ、あああ! そういうこと!? 

 つまり九条くんも、私達の関係を知らない他の男子と私が接近するのが嫌だって、そう思ってくれてたってことだよね……!?



「九条く……っ、わっ!?」



 嬉しくて未だ目を合わせてくれない九条くんをニマニマと見つめると、不意にバンッ! と思いっきり背中を叩かれて、私はよろめく。



「もうっ、何!? お母さん!!」



 振り返れば案の定犯人はお母さんで、怒る私を見てケラケラと笑い出した。



「あはは! これでアンタ達は学校公認カップルってヤツね。はー青春ねぇー。ちょっとわたしは國光(くにみつ)慰める為に、来賓席に行って来るわ」


「え? う、うん……」



 なんで陛下を慰めるの? 

 そもそも貴賓席って、そんな気軽に行けるものなの? 



「……?」



 よく分からないが、とりあえず去っていくお母さんを見送り、私はまだ照れている九条くんを引っ張って、自分の席へと着いた。



「ふぁぁー。あ、雪守ちゃんお疲れー。九条様とのこと、みんなに受け入れられてよかったね」


「ありがとう。でも雨美くんこそ、結構お疲れじゃない? 眠いの?」



 隣に座る雨美くんの大きな欠伸(あくび)に苦笑すると、彼は眠そうに目を擦ってコクンと頷いた。



「うーん、お昼ご飯お腹いっぱい食べたしなぁ。それにさっきの借り物競争をかなりエキサイトして見てたから、その反動が来たというか」


「あー分かる。私もなんだかドッと疲れちゃった……ふぁ」



 先ほどの緊張感から解放されたせいか、私の口からも自然と欠伸が出る。


 ああ……。背もたれにもたれかかると、気持ちいなぁ。なんだか私まで眠っちゃいそ……。



「――おい」



 夢の世界までもう間近というところで、それを咎めるような声色に肩を揺さぶられ、完全に閉じていた目を開ける。

 すると何故か夜鳥くんが、腕を組んで不機嫌そうな表情でこちらを見下ろしていた。



「どうしたの、夜鳥くん? そんなコワモテな顔して」


「うるせぇ、顔は元々だ。それよりお前ら、まだ最後に〝重要な種目〟が残ってんのに、何寝ようとしてんだよ。まさか忘れた訳じゃねーだろーなぁ?」


「? 重要な種目??」



 なんだろう? ぽやぽやしている頭で考えるが、何も思い浮かばない。



「生徒会の議題で決めただろ」



 え、生徒会の議題? そんなの決めたっけ? 

 うーん……ダメだ。思い出せな――。



「さぁ、みなさん!! 盛り上がった今年の体育祭も、ついに次が最終競技!! 生徒会主催の鬼ごっこです!!」


「え」


「あ」



 アナウンスが聞こえた瞬間、私と雨美くんが同時に声を上げた。


 そ、そうだった! 〝鬼ごっこ〟!!   

 体育委員会に体育祭が盛り上がるような新しい種目を考えてほしいって、前に頼まれてたんだった……!!


 でも〝主催〟って、どゆこと!? 

 確か生徒会はアイデアだけで、諸々のことは全部体育委員がするって話じゃ……。



「ほら、これは雪守のな」


「へ?」



 戸惑っていると、夜鳥くんに何か布のようなものをぽすんと手渡される。



「? 何……?」



 そしてそれを恐る恐る広げた瞬間、私は悲鳴を上げた。



「ぎゃあああ!! な、何これ、鳥マスク!? なんで!?」



 夜鳥くんに手渡されたのは、いつかの文化祭の時に彼が身に着けていたものとそっくりの代物だった。

 それに私は、ギョッと目を剥いて叫ぶ。



「あ? なんでってそりゃ、鬼役って一目で分からなきゃなんねぇし、生徒会(オレら)全員このマスクを着けんだよ」


「嫌だよ、めっちゃ恥ずかしいじゃん! ……って、〝鬼役〟?」



 聞き捨てならない言葉に問い返すと、なんてことのないように夜鳥くんが頷いた。



「そーだよ、鬼役。オレら生徒会がやるって、体育委員やってるうちのクラスの女子どもと決めたんだ」


「はあっ!? いつ!? そんなのボクら聞いてないんだけど!?」


「そりゃそうだろ、今言ったし」


「はああ!?」



 あまりの驚きで完全に目が覚めた。

 ていうかさっきから話を聞いてれば、うちのクラスの女子たち暗躍し過ぎじゃない!? どうなってるの!?


 とにかくあまりの無茶振りに、九条くんも含めてみんなで夜鳥くんに詰め寄ると、「だってよぉ……」と、どこか不貞腐れたように呟いた。



「夏休み明けからずっと演劇だなんだで、生徒会で思いっきり活動する機会って少なかったじゃん? だから、オレ……」


「や、夜鳥くん……」



 その大きな体格に似合わないか細い声に、私は毒気を抜かれて固まる。


 夜鳥くんってば、そんなこと考えてくれてたんだ……。

 普段ガサツだけど、実は結構繊細なんだよね。なんだかちょっとジンとしてしまう。


 そしてそれは雨美くんと九条くんも同じだったのだろう。私の視線に困ったように苦笑して、頷いた。



「確かに夜鳥の言う通りだな。体育祭の進行は体育委員に任せきりだったし、これが生徒会が体育祭で活動する最後の機会だ」


「まぁそう言われちゃ、やらない訳にいかないよね。けどこの趣味の悪いマスクは着けないよ。ボクが変態だと思われちゃうじゃん」


「はぁ!? 変態!? カッコいいの間違いだろーが!?」


「そう思ってるのは、世界で雷護だけだよ。ボク達の顔なんて、うちの生徒ならみんな知ってるし、別に仮装しなくたって大丈夫でしょ」


「だな。このまま行くか」


「ええー! なんだよ、みんなツレねぇなぁー!」


「ふふっ」



 ブーブー文句を言いつつ、夜鳥くんが九条くん達の後を着いて行く。

 なんだかいつもの生徒会の調子が出て来て、私はこっそりと微笑んだ。



 ◇



「おーい、みなさーん!」


「お疲れさまぁぁん!」


「あれ?」



 トラックに着けば、既に鬼ごっこをする為であろうセットが組まれており、何故かその入り口に朱音ちゃんと六骸(ろくがい)部長が居た。


 特に朱音ちゃんは、さっき観客席で別れたと思ったけど、いつの間に……。



「さぁさぁ、見てちょうだい! 鬼ごっこ用のセットなら、完璧に仕上がってるわよぉーー!」


「え! もしかしてこの帝都の街並み(・・・・・・・)、部長さん達が作ったんですか!?」



 私はビックリして、目の前の建物の数々を見上げた。


 日ノ本高校に皇宮……。現実よりも随分と縮小されてはいるが、どこからどう見ても見慣れた帝都の街並みが完全に再現されて目の前に広がっている。


 まさかこんなスゴイところで鬼ごっこなんて……。

 思わずポカンとしていると、朱音ちゃんがにっこりと笑って頷いた。



「ふふふ。体育委員の人達に頼まれてね。先月からコツコツ作ってたの。生徒会主催だって言うし、部長さんも資金は好きなだけ使っていいって言うから、張り切っちゃった!」



「朱音ちゃん……」



 さらっと出たブルジョアな発言が少し気になるが、先月は舞台もあって大変な時期だったのに、私達の為に動いてくれていたんだ……。


 感動でまた胸がジンと熱くなっていると、そこでちょうどアナウンスが流れた。



「セットの準備が完了しましたので、早速競技に移ります。鬼役の生徒会のみなさんは、配置についてください」


「始まるね」


「うん、本当にありがとう。朱音ちゃん、部長さんも!」


「いいのよぉ、会長さん副会長さんカップルのお祝いのようなものだと思って!」


「じゃあわたし達は観客席から見てるね。頑張ってね、まふゆちゃん!」



 観客席に戻って行く二人に手を振ると、またもアナウンスが流れる。



「それでは選手のみなさんも入場してください」



 こうしていよいよ生徒会主催の鬼ごっこが始まったのだが――……。



 ◇



「な、なななな……!」



 私を始めとした生徒会の面々は、帝都を模した街並みに颯爽と羽織をはためかせて現れた人物を見て、石のように固まった。


 生徒会主催鬼ごっこのルールはこうだ。

 選手はクラスから(・・・・・)一人ずつ選出。制限時間内に一人でも鬼から生き残れば選手側が勝ち。

 逆に選手が全滅すれば、生徒会側の勝ち。


 ――そう、つまり選手は全員〝生徒〟のはず。



 それなのに……。



「なんで皇帝陛下がいるのぉぉーーっ!!?」


「はははははっ!」



 叫んだ拍子につい皇帝陛下を指差してしまったが、当の陛下は気にした様子もなくケロッとして笑う。



「なぁに。生徒達の活躍を見て、私も久々に体を動かしたいと思っただけだ。昔は〝冒険好きの殿下〟と言われあちこち出歩いたが、最近はデスクワークばかりでいかん。しかし何を驚いている? 日ノ本高校は学校関係者なら誰でも垣根なく参加出来るはず。ならば私が出場しても、なんらおかしくはあるまい」


「いやいやいや! だって陛下は生徒でも教師でもないじゃないですか! なのに……!」


「あら、國光(くにみつ)は立派な学校関係者なのよ。だって日ノ本高校の理事長(・・・)なんだもの」


「はっ? …………はい?」



 ひょこっと陛下の背後から現れたお母さんにギョッとするが、今はそっちに驚いている場合じゃない!


 り、理事長? 皇帝陛下が?? そんなのってありなの!? ていうか、じゃあまさか……。



「お母さんが前にカイリちゃんに言ったっていう、〝強いツテ〟って……」


「そ、國光のこと。ていうかなぁに? みんなして固まっちゃってぇ。他の選手の子達みんな向こうを走ってるわよ? 捕まえなくていいのかしら? このままじゃ生徒会が負けちゃうけど?」


「あっ……!」



 そ、そうだ! なんか現実逃避しかけたけど、私達は鬼ごっこをしていたんだった……!!


 そして我に返ったのは私だけじゃなかったらしい。夜鳥くんがこちらを見て叫んだ。



「おい雪守! オレらは他のヤツら追いかけるぞ!」


「え」


「陛下と風花(かざはな)さんのことは任せたよ、雪守ちゃん!」


「え、ええっ!? ちょっ……!!」



 雨美くんも夜鳥くんに追随するのを慌てて止めようとするが、それを無視して二人して走り去ってしまう。



「も、もーっ!!」



 みんなして面倒だからって、私に押し付けて!!

 ていうか九条くんはどこへ行ったの!?


 半ば自棄になってお母さんを捕まえようとするが、しかしヒラリと身を(かわ)されてしまう。



「ふっふっふーん。鬼さんこっちらー」


「むぐぐ……」



 陛下はともかく、お母さんは絶対に確保したい!


 そう、私が意気込んだ瞬間だった。



「――()ね」



 私とお母さんの間に、狐面をつけた巫女服の女性が現れたのは。



「え――――」


「國光ッ!!!」



 聞いたことの無いようなお母さんの鋭い声と共に、ドンっと何か妖力が爆発したような音がする。


 それにハッと目をやれば、お母さんが顔を蒼白させて陛下の胸に倒れ込んでいるのが見えた。その抑えた右腕からは、じわっと血が滲んでいる。



「お、お母さ……!」



 頭が真っ白になり、私は一目散にお母さんの元へと駆け寄ろうと走る。



 ――――ドンッ!!



 しかしその瞬間、再度激しい爆発音が響き、誰かに強く背中を押された。



「きゃあっ!!」


「まふゆっ!!」


「……ぅ、っ」



 ドッと地面に倒れ込んだ体を起こし、なんとか顔を上げる。


 すると目の前に広がっていたのは、大きな豪火が更に巨大な豪火に呑み込まれて消えていく瞬間だった。



「――――うそ」



 この光景、覚えがある。

 それはそう、あの九条家の地下室で――!



「ごふっ、ごほっ……!」


「!? 九条くんっ!?」



 あの時と同じ、美しい白銀の狐耳と九つある長い尾。

 本来の妖狐の姿となった九条くんが、私の目の前でがっくりと膝をつき、激しく咳き込んでいる。



「九条くんっ……!!」



 それに慌てて立ち上がって、彼の顔を覗き込めば、あまりの光景に私は言葉を失った。



「ごほっ、がほっ!」


「あ、ああ……」



 激しく咳き込み続ける口元からは血が吹き出し、べっとりと体と美しい白銀の尾を汚していく。


 ガンガンと酷く頭が痛い。

 あちこちから何かを叫ぶ声がするが、何も聞き取れない。


 これは現実? お母さんが倒れて、九条くんもこんな……。


 なんとか、なんとかしなきゃ!

 私の、力……で。



「ああ、あああ……!」



 ガクガクと震える腕を叱咤(しった)して、なんとか指先に妖力を込めようとする。



 ……しかし、



「――――無駄じゃ」



 ザリザリと地面を蹴る草履の音に、鈴を転がしたような美しい声。


 それが聞こえた瞬間、私の世界は暗転した。



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