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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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22話 雪女と妖狐と借り物競争(2)



「うそぉぉ!! 借り出されたのは、雪守さんっ!?」


「なんでいっつもあの人ばっかなの!? 一体クジにはなんて書いてあったのかしら!?」



 観客席がきゃあきゃあと騒がしい中、クジ箱の前へと辿り着いた私は、そのまま九条くんに手を引かれ、今度はゴールを目指して一緒に駆け出した。



「く、九条く……」


「まふゆ、ありがとう。来てくれて」


「う、うん」



 ぎゅっと手を繋ぎ、爽やかな笑顔を向けられ、ドキドキと胸が高鳴る。

 本来ならレース中にこんなに悠長に話しながら走ったりは出来ないのだが、後方との差が絶大なのでまだまだ余裕がある。私は気になることを聞いてみた。



「それは全然いいんだけど、でもどうして私? クジにはなんて書いて……」


「ちょっと待ったぁぁぁぁーーーーっ!!!」


「!!?」



〝クジにはなんて書いてあったの?〟


 そう尋ねようとした瞬間、後ろから突然大声が聞こえたかと思うと、巨大な土煙を巻き上げて何者かの人影がこちらへと猛スピードで駆けて来るのが見えた。



「九条くんっ! 雪守さんっ! 余裕ぶってるのもそこまでですっ!! 一位は僕と、この風花(かざはな)さんが頂きますよぉぉぉぉぉっっ!!!」


「まふゆ~、のんびりしてたら形勢なんてあっという間に逆転されちゃうわよ~」


「はああっ!!?」



 なんとその人影の正体は木綿先生!! しかも先生の背中には、お母さんも居るではないかっ!!



「も、木綿先生!? お母さんまでなんで!? ちゃっかりおんぶされてちゃってるしっ!!」


「わたしはホラ、先生に借り出されたのよ~。ついさっき」


「借り出され……って、先生いつの間に参加してたの!? 学校長にお説教を受けてたんでしょ!?」



 必死に走りながらも声を張り上げて叫べば、何故か木綿先生がふふんと、得意そうな顔をした。



「よくぞ聞いてくれました、雪守さん! そうです、僕は今の今まで学校長の説教を受けていました! しかし学校長は一度話に夢中になると、もはや目の前に誰もいなくても永遠に話し続けます! 故に僕が消えても、全く気がつかないのですっ!!」


「え、ええー……」



 それってつまり、学校長室から抜け出してきたってことじゃ……? 大丈夫なのソレ?

 思わず冷や汗をかくが、当の木綿先生はケロッとしたまま宣言する。



「とゆー訳で、午前の徒競走のリベンジですよぉぉぉ!! 今度こそ僕が一位になるんですっ!! ……うぃっく」


「ヤダわ。先生ったら、まだ酔ってるのね。やっぱり泡盛一升ラッパ飲みは、やり過ぎだったかしら?」


「やり過ぎだよっ!!」


「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」



 ペロっと舌を出すお母さんにツッコミを入れた直後、未だ酔っ払いの木綿先生がお母さんを背負ったまま超加速をする。

 もはや私達と先生達の間に差は無い。それどころかぐんぐんと距離は縮まり、ついには追い抜かされてしまった。


 てっきりホラかと思ってたけど、一反木綿姿じゃなくても、こんなにも木綿先生って足が速かったんだ……!



「……っ、仕方ない。まふゆ、しっかり俺に掴まっているんだ」


「――――え?」



 木綿先生の快進撃にポカンとしていると、頭上から焦ったような声が響く。

 それに何? と思った瞬間……、



「キャアアアアアアアッ!!!」


「いやあああああ!! 神琴さまぁぁぁぁぁ!!!」



 競技場が悲鳴で湧いた。私自身も声にならない悲鳴を発する。



「~~~~っ!!」


「舌を噛んで怪我しないようにね」


「っ、ぅ」



 舌どころか、心臓が破裂して死にそうなんですけど!?

 だってだって、九条くんが私をお姫様抱っこして走り出したんだもん!!


 急な浮遊感に気が動転したまま固まっていると、女子達の声がまたあちこちから聞こえてくる。



「きゃああ!! 神琴さまが木綿先生を抜き返したわっ!!」


「雪守さんがお姫様抱っこされてるのは癪だけど、神琴さま頑張ってぇーー!!」


「ううう……」



 九条くんがお姫様抱っこしたことに他意がないのは分かっている。

 のたのた走る私の手を引いたままだと、絶対に木綿先生には勝てないからだろう。


 でもだからってなんでお姫様抱っこ!? お母さんみたいにおんぶでいいじゃん!!

 ……いや、別に嫌な訳じゃない! むしろ嬉しい。

 けど各所から女子達の悲鳴が聞こえて、後が怖すぎるぅぅ……!!



「うぉぉぉぉぉぉ!! 負けませんよぉぉ!! 九条くんっ!!!」



 私の脳内が騒がしい間にも、更なる土煙を上げて猛追してくる木綿先生。

 しかし九条くんも負けてない。



「きゃああ!! 頑張れ神琴さまぁーー!!」


「行け―ーっ!! 木綿先生ーーっ!!」



 抜きつ抜かれつつのデッドヒートに、観客席が今日一番の盛り上がりを見せる。


 そして――。



「ゴォォーーーールッ!!! 競り勝ったのは、九条神琴氏だぁぁーーっ!!!」



 瞬間、一斉に湧く競技場。



「はぁ、はぁ……」


「……大丈夫?」



 ゴールテープを切り、私を下ろして額の汗を拭う九条くんに、そっと声を掛ける。



「ああ、大丈夫。さすがに疲れたけど、それだけだ」


「そっか」



 微笑む九条くんにホッとして、私は胸を撫で下ろす。

 するとその時、後ろから鋭い怒号が響いた。



「くぉらぁ!! 木綿(ゆう)先生!! 君は私の話も聞かんで、また何をやっとるんだ!!」


「ひぇっ!? が、ががが学校長!? 話に夢中だったのでは!?」



 九条くんより少し遅れてゴールした木綿先生は、お母さんを背中から降ろすと、あわあわと顔面を蒼白させる。

 それに額に青筋を浮かべた学校長がツカツカと近づいて、更に怒鳴りつけた。



「なんの返事も聞こえなかったら、さすがに君が居なくなってることにも気づくわっ!! 全く、反省するどころか私を出し抜き、あまつさえ天女様をおんぶしているとは! なんとも羨まけしか……ゲフンゲフン! と、とにかく君にはもう一度お説教が必要なようだな! ほら、学校長室に来なさい!!」 



「ええーー!? わぁぁぁん!! 嫌ですぅぅ!! もう同じ話ばっかり聞きたくないですぅぅぅ!!!」



 泣き叫びながらまたも学校長にドナドナされていく木綿先生。

 それを半ば呆れて見ていると、ひらりと先生の懐から白い何かが飛んできた。



「ん? これは……」



 拾い上げるとそれは小さな紙で、何かが黒いペンで書かれている。



「もしかしてそれ、木綿先生が引いたクジかい?」


「うん、多分ね」



 九条くんの言葉に頷き、文字を読む。

 するとそこに書かれていたのは……。


〝強い人〟


 簡潔にそれだけ記されていた。それに私と九条くんは顔を見合わせる。



「ねぇなぁに? わたしは何て書かれて借り出されたの? もしかして〝美しい人〟とか?」


「あはは、まぁ、そんな感じ……」


「負けちゃったけど、懐かしいわぁ。わたしも昔、選手として借り物競争に出たことがあったのよねぇ」


「へぇ」



 適当に相槌をうって話を合わせると、お母さんは上機嫌に鼻唄を歌い出す。

 嘘をついてしまったことに少しだけ罪悪感もあるが、まぁ〝言わぬが仏〟って言葉もあるし……、いいよね?



「さぁさぁ、みなさん!」


「!」



 と、そこで体育委員のアナウンスが競技場に響き、誰もがそちらへと耳を傾ける。



「あまりにも白熱したレースだったのですっかりお忘れでしょうが、借り物競争の勝者が九条氏とはまだ決まっておりません! そうです、クジに書かれた指定と借り出された人物が合っているのかまだ分からないからですっ!! では九条氏! クジになんと書かれていたか、発表してくださいっ!!」


「はい」


「!!」



 そ、そうだった! 木綿先生の猛追に気を取られて、結局九条くんが何を引いて私を借り出したのか聞けていなかったんだ……!

 私が見上げると、九条くんはクジを開いて、みんなに聞こえるようにゆっくりと読み上げ始めた。



「俺の引いたクジに書かれていたのは……、〝付き合ってる人〟です」


「え」


「…………」



 良く通る声はしっかりと観客席まで届き、シンと静まる。


 しかし次の瞬間――、



「えええええええええっ!!!?」



 絶叫が競技場中に響き渡り、悲鳴はいつまでもコダマした。



「神琴さまと雪守さんがぁ!? 最近甘ったるい空気が漂ってて怪しいとは思ってたけど、まさか本当に!?」


「うわぁ。薄々分かってたけど、明言されるとショックー」


「あああ、オレ達の雪守さんが……」


「でもなんか納得じゃね? 身分差はあれど、圧倒的美男美女だし」


「確かに。ビジュアルはめっちゃお似合いだよねぇ。先月の劇なんか私泣いちゃったし」


「うう……」



 みんなの声がしっかりとこちらまで届き、恥ずかしいやら気まずいやらで落ち着かない。

 まさかこんな形で付き合っていることを全校生徒に知られてしまうなんて……。


 九条くんが別の女の子と借り物競争しなくて済んだのはよかったけど、体育祭そっちのけでみんなが盛り上がっていて、あまりに居た堪れない……!

 騒ぎを静める方法を考えようと頭をフル回転させるが、混乱してまとまらない思考では何も浮かばないままだ。


 ど、どうしよう、どうしよう!?



「――最初」


「!」


「このクジを引いた時、まふゆを呼ぶべきか悩みました。彼女は俺達の関係を公にし、学内を混乱させることを望まなかったから」



 不意に話し出した九条くんに、私は考えるのを止めてハッと彼を見つめる。

 その顔は真っ直ぐに観客席へと向かっており、真剣な表情で言葉を続けた。



「けれど俺も彼女も生徒会という立場上、校内ではよく知られています。このまま隠していても、いずれ噂になって真実を知られるのは時間の問題。ならば自分の口から言った方がいいと判断しました。……俺は付き合うと決めた時、もうこれ以上彼女に俺のことで哀しい顔はさせないと、そう覚悟していましたから」


「九条くん……」



 凛としたその表情に、じわりと涙腺が緩むのを感じる。

 そっか。九条くんはそんなことまで考えて、私を借り出したんだ。


 私はただ、みんなに知られて好奇の目や非難の目を向けられるのが恥ずかしい、怖い。

 そんな自分勝手なことばかり考えていたのに……!!



「……っ、九条くんっ!!」


「まふゆ?」



 急に九条くんのジャージを引っ張った私を、驚いたように金色の瞳が見つめる。

 それに感情が高ぶるまま、私は叫んだ。



「わ、私もっ! 私も九条くんと付き合うって決めたのは、生半可な覚悟じゃありません! ずっと一緒にいるって、絶対に九条くんを幸せにするって、そう決めたからなんです! だから、こんな風に騒がせてごめんなさい! でも図々しいですけどどうか、見守っていてくださいっ!!」


「まふゆ……」



 言った勢いのままガバっと頭を下げた私に、また競技場がざわざわと騒めいた。

 しかし次にはパチパチと拍手が巻き起こり、それは次第に大きくなっていく――。



「あ……」


「会長さーん、副会長さーん、おめでとぉー! 演劇部(うち)の舞台からカップル誕生なんて、鼻が高いわぁぁぁん!!」


「みんなの神琴さまを奪ったんだから、その覚悟を絶対に有言実行しなさいよ!! 見守るどころか、監視してやるんだから!!」



 演劇部の部長さんや、クラスの女子達。

 みんなそれぞれ表情は違うものの、手を叩いてくれている。

 急にこんなことを言い出して、思うところだってたくさんあるだろうに、その優しさに思わず涙が零れた。



「まふゆ」


「うん……」



 九条くんが私の手をそっと握る。

 それに私も強く握り返して笑った。



「ありがとう、九条くん」



 ◇



 ――こうして、この日。


 ついに私達は恋人として、みんなの前で堂々と立てるようになったのである。



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