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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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番外 雪女に憧れた者達の密やかな呟き

朱音視点で時系列は16話。

まふゆと神琴が湖に行った直後のお話です。



 まふゆちゃんと神琴様が湖に出発したのを見届けた後、わたしは先に上まで登っていたカイリちゃん達の元へと向かう。

 すると全員が感慨深そうに仲良く並んで歩く、二人の後ろ姿を見つめていた。



「はぁー雪守と九条様、ついにかぁ……」


「雪守ちゃん、顔にハッキリ出るからね。見た? あの幸せ満面、爛漫(らんまん)な笑顔」


「見た見た。あんまり幸せオーラがダダ漏れなもんだから、周りの観光客までチラチラ見てた」


「ずーっと、くっつきそうでくっつかなかったのに。やはり進展があったとすれば、昨晩だったのでしょうか……?」



 みんなの呟くその表情は少々落胆した様子のもので、それにくすりと笑う。

 だってきっと、わたしもみんな同じ表情をしていることはすぐに想像出来ちゃうんだもん。



「明日からの学校、荒れるぞ」


「どっちが?」


「どっちもだろ。九条様は言うまでもないが、雪守だってわりとマジなファンが多かったんだぜ。男子はみんな泣くだろうよ」


「あー……」



 遠い目をする夜鳥さんと雨美さん。そういえば明日は全体朝礼の日だった。

 となると、まふゆちゃんと神琴様のラブラブっぷりを目の当たりにした生徒達の騒ぎようは、簡単に想像出来る。


 まふゆちゃんの性格上、絶対に学校では二人の関係に言及しないだろうけど、その仲睦まじい様子を見れば誰もが何かあったと察するだろう。



「でも相手は神琴様ですから。あの方以上にまふゆちゃんとお似合いな人なんて居ませんもん」


「ま、そうだけどさ。でも頭じゃ分かっていても、辛いものは辛いよ。なんだかんだ言って、ボクも雪守ちゃんに結構憧れてたし」


「オレもオレも」


「あ、僕もです」


「ちょっと先生、どさくさに紛れて聞き捨てならないこと言ってない?」


「ぷっ! ふふっ……!」



 いつの間にやら傷心モードからいつもの賑やかな雰囲気に戻り、それに思わず吹き出してしまう。

 するとみんなが一斉にこちらを見たので、わたしは首を傾げた。



「どうしました?」


「……いや、なんつーか不知火(しらぬい)はもっと落ち込みそうなイメージあったから、案外元気そうでよかったって言うか……」


「へ?」



 夜鳥さんの言葉にわたしが目をパチクリさせると、雨美さんと木綿先生、それにカイリちゃんも頷いた。



「ほら、不知火さんは本気で雪守ちゃんに恋してたのかなぁ? って思うくらい、大好きオーラが溢れていたからさ」


「それこそさっきの雪守さんの幸せオーラに負けないくらい、ダダ漏れでしたよね」


「あたしも。もしかしてそうなのかなぁって、ちょっと思ってた」


「ああー……」



 指摘されるのも無理もない。

 わたし自身、思い当たるところはたくさんある。



『おおーっ! この躍動感、めちゃくちゃ良いよっ!!』



 わたしの描く絵を褒めてくれた。初めて出来た友達。



『変わんないよ。私は朱音ちゃんが大好きで、ずっとずっと友達なんだから!!』



 優しくて、お茶目で、とっても美人で。

 嫌われたっておかしくないことをしちゃったのに。それでも友達だって言ってくれた、わたしの大切な人。



『それにわたしが大好きなのは、まふゆちゃんなんですっ!!!』



 神琴様の退学騒動の帰り道に言った言葉。実を言うと、あれはわりと本気で言っていた。

〝ずっとずっと一緒にいたい〟って気持ちが恋だというのなら、確かにわたしはまふゆちゃんに恋をしていたのかも知れない。


 でも……、



「まふゆちゃんはみんなの〝太陽〟だから、わたしだけのものにしたいなんて思ったことはないからなぁ」


「ああ、太陽。確かにまふゆはそんな感じだよな」



 みんなをポカポカ照らし、迷った時、立ち止まった時は、そっと日の当たる場所へと導いてくれる。まさにまふゆちゃんはそんな太陽のような存在だ。


 カイリちゃんもわたしと同じように彼女に救われた過去があるからか、うんうんと頷いている。



「太陽。太陽かぁ……、確かにね」


「だなぁ。特に九条様合流前の生徒会は、まさにそんな感じだったしな」


「はい。雪守さんが先頭に立ってあれこれ取り仕切ってくれたお蔭で、生徒会長不在という由々しき事態も無事に乗り切れましたし」


「ううう。その節はみなさんご迷惑をお掛けしたことを、神琴様に代わってお詫びします……」


「え、何々? あの銀髪って、途中加入だった訳??」



 思わぬところで話題が過去に飛び、わいわいと話に花を咲かせる。

 けれどそんな頭の片隅で思うのは、もちろん湖へ行った二人のことだ。


 今頃二人はデートを満喫しているのだろうか? 

 もしかしてキスとかしちゃってたりして?



「ふふっ」


「? なんだよ、急に笑って」


「いいえ、なんでもありません」



 ――そう、まふゆちゃんはわたしの太陽。


 太陽がたった一人のものになって、ピリッとした痛みが無い訳ではない。

 でもそのお相手である神琴様もまた、わたしの太陽なのだ。


 ずっとずっと直接言葉を交わすことは出来なかったけれど、神琴様は確かに一族のはみ出し者だったわたしの運命を変えてくれた。

 神琴様が居たから、今わたしはここに居られるのだ。

 

 憧れの太陽と太陽の想いが成就した。それが嬉しくないはずがない。



「ほら」


「?」



 ぼんやりと想い馳せていると、不意に夜鳥さんが目の前に何かを差し出してくる。

 反射的にそれを受け取れば、手の中にあるのは例の黒い卵だった。


 周りを見れば、温泉卵というには固ゆで過ぎるそれをみんなしてむしゃむしゃと食べている。



「ゆで卵ってうめぇけど、単体だと味気ないよなぁ」



 卵を(かじ)りながらそうボヤく夜鳥さんに、カイリちゃんが呆れたように口を開く。



「だからって練乳はやめときなよ。(みずち)も。ハバネロとか貴族の癖にバカ舌じゃないんだからさ」


「バカじ……! 魚住さん、ボク達のことそんな風に思ってたの!?」


「カイリちゃんだけじゃなくて、わたしもずっと思っていましたよ。まふゆちゃんも、多分」


「はあ!? 嘘だろ!? オレ達のどこがバカ舌なんだよ、不知火ぃぃ!?」


「ふふふっ!」



 追い討ちをかけると、焦ったように叫ぶ夜鳥さんが面白くて、わたしは笑う。


 ガサツで変態っぽいこの人だけど、存外やり取りは楽しくて、最近はわざと煽ってしまうきらいがある。

 受け取った黒い卵の殻を剥けば、ツルンと綺麗な白身が現れ、そのままわたしは口にパクンと放り込んだ。



「ん、おいし」



 お互いにお互いを想い合う。

 いつかわたしにもそんな人が出来るかな? 出来るといいな。


 そんな思いを抱きながら、わたしは噴火口を目指して足を踏み出した。




 番外 雪女に憧れた者達の密やかな呟き・了



最終章もいよいよ折り返しまで来ました。

ここからラストまで残り16話。引き続き気合い入れて仕上げていきます!

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