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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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17話 雪女と妖狐と人魚の女子会パート2



「女子会しよう!!」



 そう言ったのは誰だったのか。

 朱音ちゃんだったかも知れないし、カイリちゃんだったかも知れない。


 とにかく私は二人に引き摺られるようにして、とある青と白を基調とした港町風の内装がお洒落なお店へと入ったのであった。


 ――カランカラン


 玄関ドアにつけられたベルが開閉の際に音を立てる。

 するとすぐさま見覚えのある老齢のご夫婦が現れた。



「あらあらカイリちゃん、お帰りなさい。朱音ちゃんとまふゆちゃんは、演劇部の打ち上げの時以来かしら」


「今日はもう店は閉めるから、店内でゆっくり話していいよ。夕飯は三人分でよかったかな?」


「はい。おじさん、おばさん、ありがとうございます」



 人の良さそうな柔和な笑みを浮かべるご夫婦に、カイリちゃんがペコリと頭を下げる。

 そして二人がそのまま厨房へと入っていくのをぼんやり見ていると、ぐいっと腕を引っ張られて椅子に座らされた。



「カイリちゃんの下宿先、やっぱりいつ来ても素敵なお店だね」


「うん」



 私の向かいの席に座った朱音ちゃんが店内を見渡して笑う。

 それにコクリと頷くと、既に準備されていたのか、飲み物と温かな湯気の立てた料理がカイリちゃんとご夫婦によって次々とテーブルに運び込まれてきた。



「わぁ、こんなにたくさん! これ、全部食べていいんですか?」


「ええ、もちろん。せっかくカイリちゃんのお友達が来てくれたんだもの。遠慮なく食べてね」



 所狭しと並べられた料理の数々は以前舞台の打ち上げで食べたお洒落な横文字の料理とは違い、どれも知っているティダの郷土料理ばかりだった。懐かしい光景に私は目を輝かせる。



「僕達はティダ出身ではないから見様見真似だけど、カイリちゃんに習って作ったんだ。よかったら食べてみてくれ」


「は、はい。いただきます」



 おじさんの言葉に私はおずおずと箸を手に取り、豆腐と白身魚を塩で煮た伝統的なティダの料理を口に含む。



「……!」



 するとなんということだろう……!

 口いっぱいに広がる懐かしい故郷の味に、私の胸がほわっと温かくなった。

 


「美味しい? まふゆちゃん」


「うんっ、すっごく美味しいよ! 二人も食べなよ!」



 笑って向かい側に座った朱音ちゃんとカイリちゃんに料理を勧めると、何故か二人はホッとしたように息をはいた。



「はぁ……、ちょっとは元気出たみたいだな」


「……え?」



 その言葉にキョトンと目を瞬かせると、カイリちゃんは朱音ちゃんと二人して苦笑する。



「まふゆちゃん、自分で気づいてなかった? ハコハナ旅行が終わってからもう一週間が経つけど、その間ずっと何か思い悩んでいるような顔をしてるんだよ」


「てっきり銀髪と上手くやってるんもんだと思ってたのにさ。まさか地獄谷(じごくだに)であたしらと別行動した時に、あいつとケンカでもしたのかよ?」


「……っ」



 心底不思議だという二人の様子に言葉が詰まる。


 え? 私、そんなに思い詰めた顔してた? 二人にまで訝しがられるくらい?

 よく九条くんにも、私は感情が顔に出てるって言われるけど――……。



「っ、」



 じゃあ、まさか九条くんにも悟られていたのだろうか……?


 九条くん親衛隊や他の生徒達の目がある手前、学校では恋人らしい振る舞いは一切していないけど、寮では共に過ごす時間が増えた。

 その時に九条くんに指摘されるようなことはなかったけど……。


 ――でも、きっと聡い彼ならば気づいてる。私が何で(・・)悩んで(・・・)いるかなんて(・・・・・・)……!



「……しよう」


「え?」


「どうしよう、二人とも!! 私、九条くんと両思いになれてすっごく嬉しいのに、今は胸が張り裂けそうに辛い……!!」


「ええっ!?」



 突然わっと泣き出した私に、二人はビックリしたように目を見開いた。

 そりゃあそうだろう。さっきまで料理を食べてニコニコしてたと思ったら、急に泣き出して。自分でも情緒不安定過ぎだと思う。なのに止まらない。



「辛い……って、今から別れるのが辛いとかそういうやつ? ならあの銀髪に関しては大丈夫なんじゃないか? どう見てもアンタにベタ惚れだし」


「そうだよ、まふゆちゃん! 神琴様に限って、浮気なんて絶対あり得ないから!!」


「……っ、そうじゃないの」


「? まふゆちゃん?」


「…………」



 どうしよう。これ以上、二人に言っていいのだろうか? 

 九条くんの病は妖狐一族の中でもかなりの禁忌であることは、暗部長さんの話からなんとなく伺えた。


 それに……。



『なんだかんだ朱音にはお見通しなんだな』


『ふふ。これでも10年以上、神琴様を見守ってきましたから』



 特に朱音ちゃんは本当に長い間、一番近くで九条くんを見守ってきたのだ。

 病の真相を話せば、間違いなく酷くショックを受けるに違いない。



「そうじゃ、なくて……」



 朱音ちゃんを悲しませたくない。

 そう思えば思うほど、体は固く強張り、口は重くなっていく。



「――ねぇ、まふゆちゃん」



 するとそんな私の手を、朱音ちゃんの柔らかな両手がそっと包んだ。



「話したいことがあるなら言って。何か言い難いことなのかも知れないけど、わたし達はちゃんと受け止めるから」


「朱音ちゃん……」


「そうだよ。〝一人で抱え込むな〟って前にあたしに言ったのは、他ならぬまふゆだろ? そのアンタがそんなんでどうする? 信じろよ、あたし達を」


「カイリちゃん……」



 真剣な二人の表情、言葉。

 それに胸がいっぱいになって、私はコクンと頷く。



「うん、そうだったね。大事なことなのに、忘れちゃってた。ごめんね、ありがとう二人とも」



 本当に言ってしまってもいいのだろうか?

 葛藤はまだ、私の中に残る。


 でも……、



「実はね……」



 滲む涙を拭いながら私はあの舞台の日の当日、暗部長によってもたらされた九条くんの病気の真相。

 そしてハコハナ旅行の際に湖で吐血した一件についても話した。


 完治が難しいこと。

 寿命がもう残り僅かなこと。

 彼の症状が、ここしばらくの間にハッキリと分かるほどに進行してること。


 ……全てを隠さず伝えた。



「っ」



 するとそれをずっと黙って聞いていた朱音ちゃんが、一気に顔色を悪くして、ふらりと頭を抱えた。



「朱音ちゃん!」


「そんな……、神琴様の病がそんな重いものだったなんて……。しかも原因不明? 治らない……?」



 項垂れるようにして、呆然と呟く朱音ちゃん。それにカイリちゃんが重く頷いた。



「……普段、普通に元気そうだったから、全く分からなかった。アンタの癒しの力、あたしも経験したから分かるけど、確かにたいした力だと思うよ」


「うん。……でも、私の力なんかじゃ完全に治してあげることも出来ない。今この瞬間も九条くんの病が進行しているのかと思うと、居ても立っても居られない。なのに何も出来ない自分が腹立たしくて、辛くて、悲しくて……!」


「まふゆちゃん……」


「…………」



 しんと場が静まり返る。

 当然だろう。いきなりこんな話、何と言っていいか困惑するに決まっている。



「ごめんね、急にこんな話」


「ううん、むしろ聞かせてくれてありがとう。まふゆちゃん、苦しかったでしょ? だって抱え切れないよ、こんな……」


「ああ、そりゃあアンタも不安定にもなるよ。よくもまぁ、あの銀髪は今まで誰にも漏らさず平然としていられたな。あたしが同じ立場なら、とっくにおかしくなってる」


「心が強い……だけじゃ片付けられないだろうね。どうして神琴様があの日(・・・)人が変わってしまったように見えたのか、ようやく分かったよ。神琴様はきっとずっと諦めてたんだ――自分の運命を、幸せを」


「っ」



 自分の運命を、幸せを、諦めている。

 それはずっと私も感じていたこと。



『俺には絶対に出来ない選択だ。現に王子を(うしな)って姫は泣いてた。俺はいずれ相手を悲しませ傷つけると分かっていて、自分の幸せだけを追い求めることなんて――絶対に、出来ない……!』



 今になってあの時の九条くんの言葉が私に突き刺さる。

 あの言葉は九条くんの心の叫び。どうにもならない自身の運命への諦め。


 それを悟れば、ポロポロとまた勝手に涙が目からこぼれ落ち、私は唇をぎゅっと震わせた。



 「――でもね、まふゆちゃん」



 しかしそこで、重い空気を切り裂くように朱音ちゃんが声を上げる。



「それは今まで(・・・)のお話だよ! 神琴様はまふゆちゃんに想いを告げて、まふゆちゃんの気持ちを受け止めたんだよね? だったら……!」


「そうか、なら銀髪は今生きることを諦めてなんかないんだ! まふゆの存在が、諦めていた銀髪の心を変えたんだ!」


「え……」



 二人の言葉に驚き目を丸くすると、朱音ちゃんはテーブルから立ち上がり、身を乗り出すようにして私に叫んだ。



「まふゆちゃん! 神琴様が病気という事実は変えられない。何も出来ない悔しさはわたしだって同じだよ。でも、当の神琴様はきっとまだ諦めてなんかない! だからお願い。不安な気持ちは痛いほど分かるけど、どうか神琴様を信じてあげて……!!」


「あ……」



 絶対に離れない。この手を離さないって、何度も何度も思ってた癖に。

 なんで弱気になってるの? 私……。


 そうだ。私ってば自分が悔しい悲しいってそればかりで、肝心の九条くんの想いを考えようともしていなかった。



『まふゆ、俺は君が好きだ。ずっと、ずっと前から。永遠なんて言わない。だけど許されるのなら、俺はこの生を全うするその時まで、君の側にいたい』



 想いが実ったことばかりに目が行って、浮かれて、あの言葉に込められた真意に全く気づかなかった。


 彼を変えたのは、他ならぬ私。

 そんなのもう自惚れでもなんでもなく、純然たる事実だって分かってたはずなのに……!



「うん、そうだよね。ありがとう、二人とも。私、信じるよ。九条くんを」



 ようやく気持ちが落ち着き、心からの笑みで二人にお礼を言う。

 すると朱音ちゃんはニコニコと、カイリちゃんは気恥ずかしそうに笑った。



「ま、いっつも元気なアンタが落ち込んでたら、締まらないからな」


「ふふ、そうだよね! まふゆちゃんは〝わたし達の太陽〟なんだから! さ、お料理食べよう!」


「すっかり冷めたな。温め直すか」



 雪女なのに太陽とはこれいかにと思うが、その言葉は素直に嬉しい。

 私は微笑んで、料理を持ってご夫婦がいる厨房へと向かう二人を見つめた。



 ◇



『……まふゆも知っての通り、俺はこの身を蝕む病によって長く生きられない。父である紫蘭(しらん)がいくつまで生きたのかは定かじゃないが、俺の歳から推測すれば、恐らく20代半ばにはこの世を去ったんだろう』



 不安が消えた訳じゃない。でも、心はずっと軽くなった。

 九条くんが諦めた訳じゃないのに、私が諦めてちゃいけない。


 ――信じる。私達の〝未来〟を。


 私は絶対に九条くんとずっとずっと生きていく。


 そう、心に決めた。



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