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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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7話 雪女と妖狐と人魚の女子会



 久しぶりの生徒会で盛り上がった次の日の放課後。

 私は衣装合わせの為、練習室の隣にある衣裳部屋に用意されたお姫様の衣装に袖を通していた――。



「わぁ……っ!」



 動くたびにふわっと可憐に揺れる美しいドレスのフリル。それに私は感嘆の声を上げる。



「どうかしらん? 事前に聞いたサイズの通り仕立ててみたのだけど、キツいところは無い?」


「はいっ、大丈夫です! ありがとうございます、部長さん。こんな繊細なドレス、短期間で仕立てるのは大変だったんじゃないですか?」



 部屋にある大きな全身鏡を見ながら、私はふわふわと繊細なレースが幾つも重ねられた淡いクリーム色のドレスの裾をふわりと持ち上げる。

 裾にたっぷりとボリュームがあるのに、軽くて動きやすいことにビックリだ。


 こんな素晴らしいものを前にしておこがましいが、少なからず裁縫の心得のある者として、部長さんの腕前はリスペクトしかない。



「うふふ、こんなの副会長さん達の頑張りに比べたら全然よぉ! はい、そしてこれが最後の仕上げ」


「わ、綺麗!」



 そう言ってふんわりとハーフアップに編み込まれた頭にそっと乗せられたのは、キラキラと輝く金細工のティアラだった。

 散りばめらた鮮やかな紫色の石が、照明に照らされて美しく(きら)めいている。


 思わずうっとりと鏡を見つめていると、私の後ろに映る部長さんが「副会長さん」とこちらを呼んだ。



「部長さん?」



 その表情はいつになく真剣で、私は鏡から顔を上げて部長さんを振り返る。



「……実はアタシね。朱音の推薦があったとはいえ、未経験の貴女達にお任せする以上、当初思い描いていた舞台のクオリティには届かないことを覚悟していたの」


「あ……」



 それはそうだろうと思う。


 素人がたった一ヶ月で主演として舞台に立つのだ。部長さんはネガティブなことは決して口に出さなかったが、内心は私と同じくらい不安でいっぱいだったに違いない。



「でもそれがなんということかしら! 二人とも……特に副会長さんはあっという間にメキメキ上達して、今じゃアタシの想像なんて軽く飛び越えてしまったわ! もうアタシの中で〝人間国の姫〟はアナタしかいない! アナタが演じてこそ、アタシの舞台は完成するわ!」


「部長さん……!」



 嬉しい言葉に不覚にも涙腺が緩む。

 なにせズブの素人がこの2週間、記憶を失くす勢いで死ぬ気で頑張ってきたのだ。今までの苦労が走馬灯のように脳裏を駆け巡っていく。



「あらあら、まだ泣いちゃダメよ。泣くのは本番に取っておきなさい」


「う、……はい」



 それもそうだと笑って頷くと、ちょうど「まふゆちゃーん」と、部屋の外から朱音ちゃんが私を呼ぶ声が響いた。



「もう着替えた? わたし入ってもいい?」


「あ、うん。いいよ」



 声を掛けるなり扉が開き、朱音ちゃんが顔を覗かせる。そして私を見るなり、ワッと歓声を上げた。



「わぁっ、やっぱりすごく綺麗……! まふゆちゃん、本当に本物のお姫様みたいだよ!!」


「うんうん。副会長さんは元が良いから、着飾るとまるで皇族みたいな気品が出るわよねぇ」


「え、そんな、皇族は褒め過ぎですよ……」



 褒められて全く悪い気はしないが、こんな田舎出の小娘をつかまえて皇族とは、さすがに恐れ多すぎる。

 それでもなお綺麗だと褒めてくれる二人に照れていると、また扉が開いて今度はカイリちゃんが部長さんを呼んだ。



「部長。銀髪の方も衣装着たから、見てほしいってさ」


「ああ、ありがとうカイリ。すぐに行くわ」


「お、まふゆは姫の衣装着たんだな。似合ってんじゃん」


「そう言うカイリちゃんこそ、その衣装すごい綺麗だよ! まるでプロの音楽家さんみたい!」



 衣装部屋に入って来たカイリちゃんも衣装合わせの最中で、彼女は上品なホルターネックの水色のロングドレスを着ていた。スラっと背の高いカイリちゃんにとてもよく似合っている。


 お化粧も普段のギャルメイクとは違った清楚なものなので、いつもの彼女を知る人が見たら、きっとそのギャップに驚くであろう。



「カイリちゃんが舞台の劇中歌を全部歌うんだよね?」


「ああ。今までは音楽室で練習してたけど、今日からはアンタらと一緒に練習するから」


「ホント!? 久しぶりに生歌聴けるの楽しみ!」



 私はカイリちゃんの言葉に、パッと顔を輝かせる。


 舞台〝人間国のお姫様と妖怪国の王子様〟は音楽劇だ。

 カイリちゃんは役がある訳ではなく、場面の切り替わりの都度シーンに合った曲を歌い、舞台を盛り上げるのが役割である。


 彼女も初舞台だというのに、たった一人で10曲も歌うというのだから、本当にすごいと思う。



「アタシが見込んだ通り、カイリの歌声は圧倒的よ。副会長さん達はくれぐれも呑まれないようにね。物語の主役はあくまでもアナタ達なのだから」


「はは、頑張ります」



 正直カイリちゃんの歌の凄さは知っているだけに、呑まれない自信はあまりない。

 でも主演がそんな情けないんじゃあ、カイリちゃんを始め、みんなの努力を無駄にしてしまう。


 泣いても笑っても舞台まであと一週間。精一杯頑張らなきゃ……!



「さ、じゃあアタシは会長さんの方を見てくるわね。副会長さん達は、先にステージに行ってて頂戴。今日はこのまま、衣装で通し稽古よ!」


「はいっ!」



 私は頷いて、男子が衣装合わせをしている隣の練習室へと向かった部長さんを見送る。



「?」



 するとそこで不意に感じる視線。

 それに振り返ると、何故か朱音ちゃんがじっと私の頭を見上げていた。



「朱音ちゃん、どうしたの?」



 振り向いてもやはり私の頭に釘付けのままの朱音ちゃんに問うと、彼女はやっと視線を私の目に移した。



「そのティアラ、本物の宝石だね」


「え゛っ!?」



 突然驚くようなことを言われ、思わず私は全身鏡へと走る。

 すると鏡に映るのは、先ほども見た鮮やかな紫色の石が散りばめられた金細工のティアラ。


 このキラキラと輝く紫色の石が、本物の宝石……?



「ああ、アメジストだな。本物のティアラまで用意するなんて、部長やるじゃん」


「いや、やるとかそういうレベル!? 本物だとしたら一体いくらするの、このティアラ!?」



 てっきりレプリカかと思ったのに! 緊張で体が一気に震えてきた! お、落としたらどうしよう!? 

 そもそもこの明らかに上質な生地で作られたドレスといい、演劇部の資金源が本気で謎過ぎる……!!



「この分だと部長さん、王子様の衣装も相当こだわってるだろうね。神琴様がどんな風か楽しみだねぇ、まふゆちゃん」


「えっ!? う、うん……!」



 にこにこと朱音ちゃんに言われてドキリと胸が跳ねた。


 九条くんの王子様姿……かぁ。


 そんなの想像するまでもなく、似合っているだろうことは分かっている。

 なにせ彼は三大名門貴族の次期当主様。現実でも王子様のような存在なのだから――。



「あ、顔が赤くなってる。ホントまふゆって、顔に感情が出るよね」


「んなっ!? も、もうっ! 九条くんの話はいいから、早くステージに行こうよっ!」



 目敏く指摘するカイリちゃんに気恥ずかしくなり、私は熱い両頬を手で押さえて部屋を足早に出る。



「……わぷっ!?」



 しかしその瞬間、ドンっ! と顔に何かがぶつかり、私は体をよろめかせた。



「いたた……」


「あ、すみませ……まふゆ?」


「へ?」



 覚えのある声に名前を呼ばれ、軽く鼻を押さえて顔を上げた私。


 そしてその瞬間、思わず息を呑んだ。



「く、くじょ……」



 何故なら目の前には、まるで物語から飛び出したようなキラキラと眩いばかりの王子様、もとい九条くんが立っていたのだから……。



「すごいな。まふゆが本物のお姫様に見える」


「…………」



 感心したように言う九条くんこそ、どこからどう見ても本物の王子様にしか見えないんですが。


 真っ白なジャケットとズボンに黒皮のブーツ。赤いマントを靡かせて金色の王冠を被るその姿は、まさに高貴な王子様そのもの。


 あまりに素敵でつい言葉を発するのも忘れて、ポーっと見惚れてしまう。



「あら?」


「!!」



 ――と、そこで不意に聞こえた野太い声によって我私はに返り、思わず飛び上がりそうになった。



「副会長さん、まだステージに行ってなかったのね」


「あ、ぶ、部長さん……」



 声の方を見上げると、九条くんの後ろから部長さんがこちらを見て小首を傾げていた。


 部長さんは私はおろか、九条くんの身長さえも(ゆう)に超える大柄だというのに、全く気づかなかったとか、私ってどんだけ九条くんしか見てないの!?


 そう改めて自覚すれば、先ほど赤くなった頬がますます熱を帯びていくのを感じる。



「あらあら、まぁまぁ!」



 しかしそんな私の居た堪れない気持ちとは裏腹に、部長さんが私と九条くんを交互に見てパッと顔を輝かせた。



「こうやって実際に二人並んでるところを見ると、やっぱり絵になるわぁ! まさにアタシのイメージした王子と姫だわっ! ほんっとうにお似合いよ、二人とも!!」


「あはは、ありがとうございます」



 片思い中の相手とお似合いと言って貰えて、恥ずかしいけど素直に嬉しい。

 部長さんにお礼を言うと、私の後から部屋を出て来たカイリちゃんがそれを見てヒューヒューと(はや)し立てた。しかも超棒読みだし!



「ちょっ、カイリちゃん!?」


「あーごめん。つい口が滑って」


「ヒューヒュー!」


「あ、朱音ちゃんまで!!」


「えへへ」



 真っ赤になって叫ぶと、みんながクスクスと笑い出す。

 そうして和やかな雰囲気のまま、今日の通し稽古は無事に終わったのであった。



 ◇



 ――しかし、



「……で? ぶっちゃけ銀髪とはどんな感じなんだよ?」


「なんで開口一番、言うことがそれなの!?」



 練習帰り。ティダ以来の女子会をしようと朱音ちゃんと盛り上がり、スルーして帰ろうとするカイリちゃんの首根っこを掴んでパフェを食べに来たまではよかった。

 しかしまさか席について早々、九条くんのことを聞かれるとは思わず、私はあわあわと狼狽(うろた)える。



「だって女子会ってのは、スイーツ食って、恋バナするもんなんだろ? だったらあたしと朱音はそんな話ないし、必然的にまふゆしか話せそうな話題ないじゃんか」


「いやいや! 確かにそうは言ったけど、私だって片思いだし、全然話せることなんか……!」


「片思いぃ??」


「カイリちゃん、そこはツッコんじゃダメ。見守ろう」


「なんだよ、まどろっこしいなぁ……」


「??」



 向かい側の席で朱音ちゃんとカイリちゃんが、ヒソヒソと何事かを囁き合っている。

 しかし何のことを言っているか、サッパリ分からない。



「お待たせしましたー。当店特製、プリンセスローズパフェでございまーす」


「あ、ありがとうございます!」



 キョトンと首を傾げていると、店員さんが注文した品をちょうど運んできた。


 どん! と、目の前に置かれる三つのパフェ。


 専用のガラスの器に盛り付けられた、ピンク色が可愛い苺アイスにたっぷりの生クリーム。

 更に赤いバラに見立てた瑞々しい苺が美しく飾られていて、食べ物というよりもまるで芸術作品のようだ。



「わぁん! 食べるのもったいないけど、美味しそう過ぎぃ!」


「どんな味なんだろうね? いっただっきまーす!!」



 話を中断し、早速スプーンですくってパクリと頂けば、ふわっと苺アイスと生クリームが口の中で(とろ)ける。

 うーん、鼻に抜ける苺のいい香り! 生クリームも甘過ぎず薄過ぎず、これならいくらでもお腹の中に入っちゃいそう!



「美味しいねぇ!」


「うん!」



 にこにこと朱音ちゃんと微笑み合ってパフェを食べていると、じーっと前方から注がれる視線。


 それに顔を上げれば、カイリちゃんが何か納得いかないような表情でこちらを見ていた。



「? どうしたの? カイリちゃん」


「食べないの? 美味しいよ?」


「いや、食べるけど。けどアンタら、いつもこんなカロリー爆弾みたいなもん食ってんのに、なんで太んないのかなぁーと」


「え」



 私と朱音ちゃんは互いにキョトンと顔を見合わせる。

 確かに私はともかく、朱音ちゃんは華奢(きゃしゃ)で細身だ。わりとよく食べるのに、そんなところもまた可愛い。



「ん? ……いや、まふゆの場合、そっち(・・・)に栄養がいってんのか」


「?? 〝そっち〟……?」



 何か合点がいったように、一点を見つめて頷くカイリちゃん。なんだか嫌な予感する。


 その視線をそろそろと辿れば、やはり案の定、彼女が見ていたのは私の顔の下で――……。



「べっ、別にこれはスイーツ関係ないからっ!!」



 ていうかこのパターン、ティダから通算3回目なんですけど!? 


 慌てて両腕で胸を隠して叫ぶと、それに反応したのはカイリちゃんではなく、何故か朱音ちゃんだった。



「ええっ!? そうなの!? じゃあどうしたらそんなに大きくなるのか、わたしに教えてよ!!」


「あ、朱音ちゃんんん!!?」


「ふぅん? 食事じゃないってことは、風花(かざはな)さんを見るにやっぱり遺伝か……?」


「うわあああん!! だったらわたしは絶望的だよーー!! お母さんだって、まっ平らなのにぃーー!!」


「ヤ、ヤメよう、こんな話! 別の話! 別の話にしよう!!」



 泣き崩れる朱音ちゃんに、慌てて会話を強制終了させる。

 さすがにこの場に居ない朱音ちゃんのお母さんにまで被弾するのはマズいだろう。



「はぁ……」



 なんか練習よりどっと疲れた。


 舞台本番まで残すところ、あと一週間。

 英気を養う目的で開いた女子会なのに、どうしてこうなった?



「ねぇ、まふゆちゃーん」


「なぁ、まふゆー」


「…………」



 まだ視線を私の胸に向けたまま、何か言ってる二人に聞こえないフリをして、私は残りのパフェを一気に口に入れた。



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