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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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3話 雪女と妖狐と演劇部の頼み事



 ――ドドドドドドドッ!!!



「うわっ!? なんだあ!?」


「えっ、雪守さん!?」



 廊下を爆走する私に対し、歩く生徒達がすれ違う度に驚いたようにこちらを凝視するのを感じる。

 普段なら走るなと叱る側だが、しかし今はそれどころではない……!


 私はそのまま全力疾走で走り切り、本校舎と隣接する部活棟にある演劇部の部室をガァン!! と、ドアを蹴破る勢いで開いた。



「あらぁ副会長さぁん、ご機嫌よう。今日も一日忙しそうだったのに、放課後になっても元気ねぇ」


「はぁはぁ……、は、は、は……」



 荒げた呼吸のせいで返事もままならないが、目の前には見覚えのあり過ぎる大柄なガシャどくろのオネェさん――六骸(ろくがい)千亞希(ちあき)氏(高3)が、優雅に足を組んで金の縁取りのされたソファーに座って紅茶を飲んでいる。


 え? ここは〝部室〟……?


 見るからに手触りの良さそうなふっかふかの絨毯(じゅうたん)に、ロココ調の紫と金で統一された(きら)びやかな家具。広々とした部屋の中央にあるラウンドテーブルの上には、これまたエレガントなティーセットが並べられている。


 まるで西洋のお貴族様がお茶会とかしていそうなゴージャスルームなんですが、それは。

 後夜祭の時に入ったのは衣装部屋だったから、まさか部室がこんなだとは思わなかった……。



「あの……、ごきげ……とか、言ってる場合じゃ……! はぁ、はぁ……」


「まぁまぁ、そんなに息切らしちゃってぇ。喉乾いたでしょ? 紅茶でも飲んで落ち着きなさいな」


「あ、どうも……」



 慣れない異空間にキョドりつつも荒げた呼吸を整えていると、部長さんは繊細な作りのティーポットから、これたま繊細そうなティーカップに紅茶を注ぎ、私にそっと渡してくる。

 それを私は有難く受け取って、ごくりと一気に飲み干した。



「……!!」



 すると瞬間、口に広がる芳醇な香りに私は驚き目を見開いた。



「あ、美味しいです! 紅茶って普段あんまり飲まないんですが、こんなに飲みやすいんですね!」


「うふふ、それは西洋から取り寄せてる特別な茶葉を使っているのよ。副会長さんのお口に合ってよかったわぁ」


「へぇー西洋の……って、じゃなくてっ!!」



 いかんいかん、部長さんのペースに危うく呑まれるところだった!

 今も本来なら生徒会の時間だというのに、わざわざ演劇部の部室まで来た本題を切り出すべく、私は懐に隠し持っていた例のもの(・・・・)を取り出した。



「このポスター、一体どういうことですかっ!!?」



 バァン!! と〝主演、九条神琴・雪守まふゆ〟とでかでかと書かれた舞台告知のポスターを、私はテーブルに叩きつける。


 生徒会室へと向かう途中、掲示板にポスターを貼っている生徒がいたので何かと見てみたらこれだったのだ。

 瞬間絶叫した私は、有無を言わさず生徒からポスターを取り上げ、こうして部室へと直行したという次第だった。



「ああ。早速見てくれたのね、そのポスター。ちょうどほんのついさっき刷り上がったばかりなの。ごめんなさいねぇ、報告が前後してしまって。本当に急で悪いんだけど、うちの部が今月末にやる舞台の主演を副会長さんと生徒会長さんにやってほしいのよ」


「いや、前後したとかいう問題じゃないんですよ!! 私舞台経験なんて無いですし、そんなの無茶ですよ!! そもそも部員さんはどうしたんですか!? その方達差し置いて私達が主演だなんて、おかしいじゃないですか!!」



 私の剣幕に部長さんはしゅんと眉を下げて、首を横に振る。



「実はその部員達が(・・・・・・)自ら役を降りたのよ。『自分達では演じきれない』と言って」


「へっ……? こんな直前に役を……?」



 まさかの言葉に私は狼狽(うろた)える。

 が、しかし……。



「現役の演劇部員が演じきれないほどの難役なら、何故その代役が私達なんですか? さっきも言ったように、私は演劇未経験のずぶの素人ですよ?」


「アタシも最初はそう思ったの。……でもね、貴女達ならば主演の役柄にピッタリだと、〝とある部員〟から推薦があったのよ」


「と、とある部員からの推薦……?」



 なんだろう? なんだかイヤーな予感がする。

 まさか、まさか……。



「部長さーん、お疲れさまです!」


「お疲れです、六骸部長」


「!!」



 噂をすればなんとやら。

 タイミング良く見知った顔ぶれが部室に入ってきて、私は叫んだ。



「朱音ちゃん!! カイリちゃんまで!?」


「ああ、昨日振りだな」


「あ、まふゆちゃん。そのポスター見たんだ」



 部室に現れたのはやはり朱音ちゃんとカイリちゃんだった。彼女達の視線が、ラウンドテーブルに叩きつけた例のポスターへと向く。

 しかしその表情は特に驚いた様子はなく、私が部室に居ることも想定内といった感じだ。


 これはやはり……。



「え、えっと……。一応聞くけど、私と九条くんを舞台の主演に推薦したとある部員(・・・・・)って……」


「うん、お察しの通りわたしだよ。はいこれ、まずは読んでみて」


「えっ!?」



 あっさりとクロと認めた上に、朱音ちゃんから何やら分厚い本のようなものを渡される。

 それにあたふたとしながらも、言われるがままに本に目をやれば、表紙にはこう記されていた。



「〝人間国のお姫様と妖怪国の王子様〟? 何これ、タイトル?」


「そう、それは月末にやる舞台の台本なの。妖怪と人間の血を引いた半妖であることを隠してる人間国のお姫様と、生まれながらに重い病を抱えた妖怪国の王子様の恋愛物語なんだよ」


「へぇー……って、ええっ!!?」



 なんかどこかで聞いたような話だなぁって思ったけど、それって姫と王子抜かしたら、まんま私と九条くんじゃんっ!!



「こ、この台本、誰が書いたのっ!?」


「それは部長であるこのアタシよぉ。なかなかありそうで無い、面白い設定でしょ?」


「せ、〝設定〟……?」



 つまり既視感があり過ぎるこれらは全て、部長さんのオリジナル? よくもまぁ、偶然でここまで私達に似せられたものだ。

 私が驚いて部長さんを見ると、彼女はふぅと憂いを帯びた表情で溜息をついた。



「でもねぇ……。ちょっと奇をてらい過ぎたみたい。部員達言われちゃったわ。『役に入り込めない』って」


「はぁ……」



 まぁ確かに〝半妖〟だの〝重い病〟だの、大多数には縁の無いものだろうし、そう言う部員達の気持ちも分かる。



「部員さん達もすごく悩んでたみたいだけど、舞台一カ月前っていうギリギリのタイミングで、ついに降板を決めたみたい」


「そうなんだ……」



 しゅんと落ち込んだ様子で話す朱音ちゃんに、ズキリと胸が痛んだ。

 朱音ちゃんの舞台を良いものにしようと頑張っていた姿はよく知っている。私だって出来るものなら、手助けしてあげたい。


 でもだからと言って舞台に、しかも主演として立つだなんて……。



「――――っ!!?」



 と、そこで話しながらパラパラと台本を捲っていた手が、あるページで止まる。何故なら……、


〝姫、王子にキスをする〟


 そうそこには書かれていたのだ!!



「ちょっ、キスシーンまであるのこの舞台!!? じゃあ無理むり!! 最初っから無理だったけど、もっと無理っ!!!」



 台本をぐしゃぐしゃに握り締め、私は発狂せんばかりに叫ぶ。



「……まふゆちゃん」



 するとそんな私の手をぎゅっと握って、朱音ちゃんがまるで天使かのように可憐に微笑んだ。



「大丈夫だよ、わたしこの台本を見た瞬間に直感してたの。この姫と王子はまふゆちゃんと神琴様しか演じきれる人はいないって。二人のキスシーン、わたし見てみたいなぁ」


「っう、ぐ!」



 キラキラと眩しい笑顔に、思わず二つ返事で了承してしまいそうになる。

 だって朱音ちゃんは私の天使。頼みならなんだって聞いてあげたいが……。



「いやいや! いくら朱音ちゃんがそう言っても!」



 さすがに今回のは無茶振り過ぎじゃない!?

 そう叫ぼうとして、しかしその前にずっと私達の話を黙って聞いていたカイリちゃんがおもむろに口を開いた。



「別に今更キスシーンの一つや二つ、照れなくていいじゃん。アンタら普段の方がよっぽど恥ずかしいことしてるし」


「いやいやいや!! カイリちゃんんん!?」



 キスより恥ずかしいことって、一体私と九条くんは普段何をしているって言うの!? 

 ていうかもう、二人の中で私と九条くんが引き受けるのは当然みたいな流れになってるの何!? 部長さんはニコニコ笑ってるだけだし、圧倒的にこの場に味方が不足してるっ!!



「まふゆっ!! やっぱりここに居たんだな!!」


「あっ、九条くん!!」



 と、そこでまた慌ただしく部室のドアが開き、救世主が現れた。

 息を切らせた九条くんである。


 その様子から察するに、恐らく九条くんも今ほど舞台主演の件を知ったのだろう。

 よかった! 私だけじゃこのまま言い負かされて、丸め込まれるところだった!

 味方の登場に、私は必死に九条くんに(すが)りつく。



「九条くんも舞台のことで部長さんに文句言いに来たんだよね!? 舞台経験もないのに、たった一カ月で主演なんて絶対無理だって!!」


「ああ、それは俺も思う。けど……」

 

けど(・・)??」



 私の言葉に同意しつつも、表情を曇らせる九条くん。

 なんだろう。なんかまた嫌な予感……。



「まふゆ、落ち着いて聞いてほしい。実はそのテーブルにあるポスター、もう校舎中に演劇部が貼り出している」


「へ?」


「まふゆが一向に生徒会室に来ないから不思議に思っていたら、俺もそのことを後から来た夜鳥に知らされたんだ。俺達が主演の舞台をやるって、もう学校中が今その話題で持ちきりだ」


「え?」



 それは、つまり……?



「やらないなんて今更言えないでしょうねぇ。生徒会長さんと副会長さんの舞台なら、見たい人はいっぱいいるんですもの」


「やっぱ違いますなんて言ったら、暴動が起こるかも」


「生徒会としては自分達が発端で風紀が乱れるのは、マズいんじゃないのか?」


「…………」



 口々に勝手なことを神妙な顔で言う、演劇部三人組。

 一体誰のせいでと思わなくもないが、それ以上に私の頭の中は別のことでいっぱいだった。



 ――〝姫、王子にキスをする〟



 え、じゃあ何? もう取り消せないってこと……?

 つまり私は九条くんとキス。大勢が見てる前でキス、キス……。



「本当にごめんなさいねぇ、副会長さん。でもその分お礼にすっごいものを用意してるからって……あら?」


「まふゆ?」



 九条くんが訝しんで私の肩へとそっと手を伸ばす。

 しかしそれになんの反応出来ないまま、そのままふらりと私の体は後ろに倒れた。



 ――バターンッ!!



「きゃあ!! まふゆちゃーんっ!?」


「うわっ!? 頭から湯気出てんだけど!?」



 ……ダメだ。頭のキャパシティ。完全に……超えた。



 ◇



 一難去ってまた一難。


 あっという間に過ぎ去った夏休みに名残り惜しさを感じる暇もなく、私の日常はまたハプニングだらけになりそうだ。



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