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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第二章 南国の島ティダと雪求める人魚

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27話 雪女と妖狐と人魚の行方(2)



「それではここで別れましょう!」


「海側はボクらに任せてよ!」


「木綿先生、雨美くん……。くれぐれも気をつけてね!!」



 ゴウゴウと打ちつける雨風に足を取られながらも海岸に辿り着いた私達は、それぞれ(みずち)一反木綿(いったんもめん)の姿になって海へと繰り出す雨美くんと木綿先生を見送る。


 ちなみに蛟とは、竜のように胴体がニョロりと長い水棲妖怪である。水の妖力を自在に操り、泳ぎにおいて右に出る者はいない。

 また一反木綿の飛行能力については、もう新たな説明はいらないだろう。海の捜索は全面的に二人に任せて大丈夫そうだ。


 そして残った私達は念の為、海岸沿いや船着き場にカイリちゃんの姿が無いか隈なく探すことにしたのだが……。



「クソッ、冷てぇ! 雨で全然前が見えねぇぞ!!」


「ひゃああ!! 風が強くて、吹き飛ばされちゃいそうー!」


「みんな、足元には注意して! 間違っても海に落ちないようにね!!」



 吹きつける凄まじい雨風を前に、捜索は遅々として進まない。

 ここまで通って来た道のりでも、カイリちゃんらしき人影は見当たらなかった。



「やはり陸での捜索は困難だな。海に出た雨美と木綿(ゆう)先生が戻るのを待つしかないか……」



 頬に打ちつける雨を拭いながら、九条くんが思案顔で呟く。



「ああっ!!」


「!? どうしました!?」



 すると突然魚住さんが叫び声を上げ、私達は何事かと彼を一斉に見た。



「オラの釣り船がないべ!!」


「ええっ!?」



 言って船着き場を指差す魚住さん。


 ここは以前、飛んだスイカを追いかけてカイリちゃん親子に出会った場所だ。ちょうどこの場所に船が停泊していたのもハッキリと覚えている。


 しかし確かに今はその船が忽然と消えていた。



「も、もしかして、この強風で流された……とか?」


「それは絶対に無いべ。昨日海神の御成に備えて、ロープでキツく固定してたんだ」


「じゃあどうして……?」



 私が呟くように言うと、魚住さんが顔を手で覆って項垂れた。



「恐らくカイリだべ。カイリが釣り船で海に……」


「えっ……!?」


「マジかよ」



 こんな大荒れの海の中、船を操縦するなんてあまりにも無茶だ! 

 とんでもない事実に最悪の事態が頭をよぎり、私達は顔色を悪くする。

 


「ちょっと待ってください、魚住さん」



 が、そこで九条くんが不思議そうに首を捻って、魚住さんに尋ねた。



「なんだべ?」


「彼女は人魚の半妖ですよね? なら荒れた海では操作しにくい船を使うよりも、泳いだ方が効率的な気がするのですが、何故あえて彼女は船に乗ったのでしょう……?」


「あ」



 確かに言われてみれば、その通りだ。人魚は(みずち)と同様、泳ぎは得意中の得意。しかも普段から海底に住んでいる人魚の方が地の利もある。

 もちろん陸育ちのカイリちゃんには当てはまらないが、それでも泳ぎが得意であることは間違いないだろう。


 しかしそれを聞いた魚住さんは、眉を下げて首を横に振った。



「……いんや、カイリが泳いで海を移動するのは無理だべ」


「? それは何故です?」



 私が首を傾げると、魚住さんはとても言いにくそうにボソリと呟いた。



「……あの子は……、カイリは……その、カナヅチ(・・・・)だから……」


「は……」


「カナヅチって……」


「はあぁっ!?」


「人魚なのにカナヅチィィ!!?」



 思いもよらない答えに全員が素っ頓狂な声を上げる。


 そしてそれと時を同じくして、上空からもとびきり大きな声が響いた。



「いましたぁっ!! あの水色のショートヘア、間違いなくカイリさんです!! 釣り船に乗っているようです!!」


「!!」



 声の主は、空からカイリちゃんを探していた木綿先生。

 私達からは何も見えないが、先生はカイリちゃんの姿を捉えたらしい。今度は海に向かって叫ぶ。



「船着き場から2時の方角を10キロです、雨美くんっ!!」


「了解!」



 先生の声を受けて、青い鱗をツヤツヤと輝かせた蛟姿の雨美くんが、ものすごい勢いで荒海を一直線に突っ切っていく。


 これが泳ぎの名手、蛟の力……!!



「すごいっ!! 荒れた海をものともしてないよ!!」


「行けーーっ!! 水輝(みずき)ーーっ!!」 


「!? 待って、波が……!!」



 ゴロゴロと激しい稲光と共に、荒れ狂った海に一際巨大な波が発生する。

 そしてそのまま雨美くんを、更にその先にいるであろう、船に乗ったカイリちゃんをも呑み込もうと襲いかかった。



「雨美くんっ!! カイリちゃんっ!!」


「カイリーーッ!!!」


「まふゆ、魚住さんも!! もっと波打ち際から離れて!!」



 九条くんの鋭い声が聞こえた瞬間、高波が船着き場に激しく叩きつけられて、周囲に鋭い飛沫(しぶき)が弾け飛んだ。



「きゃああっ!」


「まふゆ、無事かっ!?」



 波に驚いてこけそうになった私の体を、九条くんががっしりと受け止めてくれる。



「う、うん、私は大丈夫! でも、それよりも……っ!」



〝雨美くんとカイリちゃんはどうなったの?〟


 そう問おうとしたところで、ワッ! とすぐ側で朱音ちゃん達の歓声が聞こえた。



「よっしゃああっ!!」


「すごい、雨美さん……っ!!」


「カイリ……、よかった……!」


「えっ……?」



 ホッと安堵した様子のみんなに、私も慌てて海へと視線の方を向ける。



 すると――、



「あっ……!!」



 青い鱗の背にカイリちゃんを乗せた雨美くんが、こちらへと一直線に泳いで来るのが、激しい雨風の中でも目視出来た。

 カイリちゃんはぐったりと雨美くんに身を寄せている。



「よかった、無事で……!! あれ? でも船は?」


「恐らくさっきの大波に呑まれてしまったんだろうね……」


「そっか……」



 残念ではあるが、命には変えられない。

 何はともあれ、カイリちゃんを無事に見つけることが出来てよかった。

 ようやくみんなの顔にも笑顔が浮かぶ。


 そうして間もなく船着き場に雨美くんが辿り着くというところで、魚住さんが海に身を乗り出すようにして、カイリちゃんに両手を伸ばした。



「カイリっ!!!」


「……と……さ…………」



 するとその声に反応して、ぐったりと顔を伏せていたカイリちゃんがこちらへと顔を向ける。

 そしてその視線が私達を捉えた時、虚ろだった彼女の表情がみるみる内に歪み、ぶるぶると体が小刻みに震えだした。



「…………んで」


「? カイリちゃん……?」



 ……なんだろう? なんだかカイリちゃんの様子がおかしい。

 この感じ、以前にもあったような……?



「――――っ!!」



『昔からそうだった。感情が昂ぶると、勝手に力が暴れて周囲を傷つける』


  

 そうだ……! これはカイリちゃんが半妖の力を使う、前触れ……!!



「……っ、なんでっ!!」


「カイリちゃんっ!! ダメッ……!!」


「なんで邪魔すんだよ!? もう少しで母さんが帰って来んのにっ!! みんなして、あたしの邪魔をすんなーーーーっ!!!」



 瞬間、カイリちゃんを中心として強烈な妖力が爆発するように発現し、ドスンッ!! と鈍い音と共に雨美くんが私達の側まで吹き飛ばされて、地面に強く打ち付けた。


 慌てて私達は雨美くんに駆け寄る。



「〜〜〜〜っ、痛たた……」


「雨美くんっ!!」


「おい、水輝!! 大丈夫かよ!?」



 体を打ち付けた衝撃で、人間の姿に戻った雨美くんを夜鳥くんが抱き起こす。

 見たところ外傷は見当たらないが、頭を打ったかも知れない。



「怪我は!?」


「大丈夫、妖怪は人間と違ってこれくらい平気さ。それよりあの子は――」


「ああっ!! カイリ!!」


「!?」



 雨美くんが立ちあがるのを手伝っていると、魚住さんの悲鳴のような声を上げる。


 そうだ、カイリちゃんはまだ海に……! 助けなきゃ……っ!



「カイリちゃんっ!!」



 海に投げ出されたカイリちゃんはあのザンの森で見た人魚へと姿を変えていた。


 しかしやはり魚住さんが言っていた通り泳げないのか、カイリちゃんはバシャバシャと必死に水色のヒレを動かしているが、その体はどんどん海へと沈んでいく。



「ど、どうしよう!? このままじゃ……!!」


「待って雪守ちゃん! ボクがもう一度変化して……」


「カイリちゃんっ!! 今行くから!!」



 雨美くんが何事か叫んでいるが、構わず私はカイリちゃんに向かって走り出す。



「待つんだ、まふゆ!!」


「まふゆちゃんっ!!」



 みんなの静止する声が後ろから聞こえたが、気にしてられない。

 濡れてまとわりつく邪魔な雨具を脱ぎ捨てて、私は急いで荒海へと飛び込んだ。



「カイリちゃん!!」


「!? アンタ……なんで……」


「いいからっ!! 早く手をっ!!」



 打ちつける豪雨の中、必死に泳ぎ着いて叫ぶと、カイリちゃんがビクリと肩を震わせて、私に手を伸ばす。

 私はその手をなんとか掴み、ひとまずホッと息を吐いた。


 こんな状況ではあるが、運が良い。


 雨美くんが船着き場から目と鼻の先まで運んで来てくれたこともあって、この荒波の中にも関わらず、少し泳ぐだけでカイリちゃんの元に辿り着けた。


 後はなんとか陸に上がらなければ……!



「雪守ちゃんっ!! すぐにそこまで行くから!!」


「!! 雨美くん!!」



 声のした方を見れば、ちょうど雨美くんが海に飛び込むところだった。



「まふゆちゃん、カイリちゃん、頑張って!! もう少しで雨美さんが来るからね!!」


「うんっ!!」



 朱音ちゃんの言葉も耳に届き、「よかった、もう安心だよ」とカイリちゃんに告げる。

 しかしその時、いまだ上空を浮遊していた木綿先生から鋭い悲鳴が上がった。



「……っ、雨美くん!! 急いでください!! また大波が来ますっ!!」


「何ィィ!?」


「まふゆちゃん!!」



 夜鳥くんや朱音ちゃんの慌てる声が聞こえる。



「雪守ちゃんッ!!」


「あ――――」



 ほんの、ほんのすぐ近くに、蛟の姿となった雨美くんが荒ぶる波をかき分けて現れる。


 けれど波の動きは早く、もう……間に合わない。



「っ、カイリちゃんっ!!!」


「……っ!」



 上手くまとまらない頭の中で、せめてと私はカイリちゃんの体を強く抱きしめ、身を固くする。



 そして――……。



 ――――ザプーーンッ!!!



 激しい高波に呑まれ、海深くへと沈んでいく瞬間、視界が一気に黒く染まった。



「まふゆっ!!!」


 

 遠ざかっていくみんなの声。九条くんの声。

 それが耳に届いたのを最後に、私の意識は完全に途切れる……。



 …………筈だった。



「――――――?」



 ……あれ? 私、どうしたんだっけ?


 あ、そうだ、確か高波に呑まれて……。



「……?」



 キョロキョロと辺りを見回せば、あの時離れないようにと固く抱きしめた筈のカイリちゃんの姿がどこにも見当たらない。

 それどころかどこもかしこも見渡す限り、真っ暗な闇が広がっている。



 ……え、もしかして私、死んじゃった?



「~~~~っ!?」



 頭に浮かんだ恐ろしい想像に、サーっと血の気が引くのを感じた。


 イヤ! イヤイヤイヤ! そんなのイヤだっ!! まだ死にたくなんかないっ!!


 もっともっとみんなと一緒にいたいし、カイリちゃんのことだってまだ助けられてない!!


 お母さんが本当のことを話してくれるって約束だって、まだ叶えられてないじゃない!!



「…………」



 ――それに、



『だったら無理に聞き出したりはしない。でも君が話したいタイミングで、いつか話してほしい。前にも言った通り、俺はいつだってまふゆに頼ってほしいと思っているんだから』


『……うん、きっといつか言う。絶対に』



 まだ、私は九条くんに何も伝えられてない。


 好きって伝えられないまま死んじゃうなんて、絶対にイヤだ……!! イヤだよ!!


 だから私はまだここで死ぬ訳にはいかないっ!! 生き延びる!! 絶対に!!!


 

「……ふむ。それがお主の願いか?」


「!?」



 唐突に誰かの声がして、私はビクリと身構える。

 しかしキョロキョロと辺りを見回すが、人らしき影は見当たらない。


 え? 気のせい……?



「……その願い、聞き届けよう」


「!!」



 じゃない!! また声が……!!


 そう思ったら、今度は暗闇の中からぼぅっと人影が浮かび上がってきた。



「――――?」



 現れたのは、長い髪をゆるりと一つに束ねた、まだ若い青年のような、けれど壮年にも老人にも見える不思議な男性。

 その髪色はどこかカイリちゃんを彷彿(ほうふつ)とさせる水色だ。そして彼の腰からすんなりと伸びる美しい水色のヒレも。



 ……誰?



 そう問いかけると、男性は淡く微笑んで口を開く。


 きっと名乗ってくれたのだろう。

 なのに結局私は上手く聞き取れないまま、今度こそ完全に意識が途切れた。



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