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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第二章 南国の島ティダと雪求める人魚

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26話 雪女と妖狐と人魚の行方(1)



「カイリを……、カイリを見なかっただか!? 物音で目を覚ましたら、カイリがどこか外へと出て行っちまってたんだ!!」


「えっ……!?」



 ずぶ濡れのまま我が家の玄関先で叫んだカイリちゃんのお父さんの言葉に、私達は全員驚きに目を見開く。


 なにせ外は叩きつけるような激しい豪雨。その上、視界を遮るほどの猛烈な強風までも吹き荒れている。

 とてもではないが、まともに出歩ける状況ではない。



「ほ、本当にカイリちゃんは外に出たんですか? 姿が見えなかっただけで、家のどこかに居るんじゃ……」


「狭ぇ家だし、隠れるようなスペースはねぇ。それにカイリの靴も無くなってて、家を出たとしか思えねぇんだ」


「そんな……」



 それは確かに外へ出た可能性が高いのかも知れない。

 けれど例えそうだとして、カイリちゃんはどこへ行ったのだろう?


 この間ばったり出くわした時の様子を見るに、彼女がいたずらにこのお父さんを悲しませる行動を取るようには思えないのだが……。



「魚住さん、カイリが行きそうな場所に心当たりは?」


「それがお恥ずかしい話だべが、あの子が行きそうな場所の見当もつかなくてなぁ。唯一、風花(かざはな)さんのことが頭に浮かんでここを訪ねたんだべが……」



 そう言ってカイリちゃんのお父さんがガックリと項垂れる。

 念の為、周辺の家も全て訪ね回ったそうだが、やはりカイリちゃんの行方に繋がる手掛かりは得られなかったそうだ。



「こんな悪天候の中を徒歩で移動なら、そう遠くには行けないはずだけど……」


「うーん。だったら他に探していないところって、どこだろう? 海……はさすがにないか」


「海……? もしかすんと……」



 私と九条くんの会話を聞いていたカイリちゃんのお父さんが、ハッとしたように顔を上げた。



「どうしました? 何か手掛かりが?」


「いんや、手掛かりって言うほどのことじゃねぇんだけども。そういや昨夜(ゆうべ)、カイリが妙なことをオラに聞いてきたべ」


「妙なこと……?」


「〝海神(うみがみ)の姿を見たら、一つだけなんでも願いが叶うって本当か〟って」


「えっ……?」



 その言葉に私の思考がピタリと止まる。


 まさか、まさか……。



「今までカイリが海神の話なんてしたこと無かったから、不思議に思ってなぁ。そん時はただの言い伝えだと返したんだべが、まさかカイリのヤツ……」


「ええ。今日は〝海神の御成〟……。海神が最も陸に近づく日。本気で海神に会いに海へ出た……。その可能性が高いわね」


「……ま、待ってよ! カイリちゃんにはそんな無茶をしてまで、海神様に会わなきゃならない理由なんか……!」



 お母さんの言葉に反論しかけて、ハッと気づく。


 ――そうだ、あるじゃないか。カイリちゃんには何よりも叶えたい願いが。



『……死ぬ時に、母さんが言ったんだ。ティダに雪が降ったらまた母さんと会えるって』



 カイリちゃんは亡くなったお母さんに会いたくて、氷の妖力をもつ妖怪を探してた。

 初対面の私にまで頼み込むくらい、必死に。


 ――でも、もしその願いが海神様によって叶えられてしまうのなら……?



 浮かんだ答えは、ひとつしかなかった。



「――――っ!」



 居ても立っても居られず、私は外に飛び出そうと足を踏み出す。

 しかしその瞬間、誰かが私の腕をグッと強くと掴み、外に出ることは叶わなかった。



「あ……」


「この荒天の中、どこに行くつもり?」



 振り返れば九条くんが真剣な顔でそう問いかけてくる。

 彼のまとう重苦しいまでの妖気に思わず怯むが、それでも震える唇を叱咤(しった)して私は叫んだ。



「そんなの決まってるじゃないっ!! 早くカイリちゃんを連れ戻さなきゃ!!」


「闇雲に突っ込んだところで、彼女共々海の藻屑(もくず)だよ。ちゃんとどう捜索するか考えないと」


「……っ」



 九条くんの言葉に私は唇を噛む。

 確かに九条くんの言うことは間違ってない。今は冷静になる時なんだろう。


 でも……っ!!



「考えてる内に、カイリちゃんに何かあったらどうするの!? とにかく一刻も早く探さなきゃ!! ……だって、カイリちゃんが海に行ったのは、私のせいなんだから!!」


「まふゆ」


「魚住さん、ごめんなさい。私がカイリちゃんに海神様の話をしたんです。カイリちゃんが人魚の半妖だって聞いて、もしかしたら海神様に会ったことがあるのかなって、軽い気持ちで……」



 私はそう言って、カイリちゃんのお父さん――魚住さんに頭を下げる。

 すると魚住さんは驚いたように息を呑み、けれど次には穏やかな声が頭上に降ってきた。



「……そうか。カイリはおまいさんに、自分の秘密を話したんだべな」


「あっ……!」



 指摘されてまた口が滑ったことに気づき、私はサッと顔を青ざめさせる。


 ――しかし、



「まふゆちゃん……って言ったべな。顔を上げてくんろ」



 魚住さんは私を咎めることなく、落ち着いた声でそう言った。



「カイリが本当に海神に会いに海へ出たのなら、それはカイリ自身の意思だべ。まふゆちゃんのせいでは決してないべ」


「で、でも……!」


「魚住さんの言う通りよ、まふゆ。責任を感じて(はや)る気持ちは分かるけど、海は広いのよ。カイリを確実に探す方法を考えなきゃ、ただの時間の無駄になってしまうわ」


「う……」



 九条くんだけでなく、魚住さんとお母さんにまで(いさ)められてしまい、ようやく熱くなっていた頭が冷えて冷静になってくる。



「けれど実際どうします? この悪天候の中で海を捜索となると、船を出すことも出来ませんが……」


「それなのよねぇ。何か船に代わる方法は――」


「うう……」



 一体、どうすればいいんだろう?


 結局何も出来ない歯痒さに私がぎゅっと手を握り締める。



 ――その時だった。



「おいおいおいおい!」



 漂う重い空気を吹き飛ばすような快活とした明るい声が、玄関に響き渡った。



「お前ら誰かを忘れてねーか? そーゆー時こそ、水輝(みずき)の出番ってなっ!!」


「いやなんでそこで雷護(らいご)がドヤるのさ!?」



 会話に突然入ってきた二つの声に驚き見れば、いつの間にか夜鳥くんと雨美くんが私達の後ろで腕を組んで立っているではないか!



「ふ、二人とも!? いつから起きて……!?」


「二人だけじゃありませんよ!」


「まふゆちゃん、わたしもいるよ!」


「!!」



 その声に更にハッとすれば、今度は木綿先生と朱音ちゃんが夜鳥くん達の背後からひょっこりと顔を出した。



「みんな起きてたの!?」


「そりゃ外は雨風でうるせぇ上に、玄関先からこんだけ騒がしい声がすりゃ、誰だって何かあったのかと思って飛び起きんだろ」


「わたしも。まふゆちゃんが隣にいなくて、ビックリしたんだから!」


「だが夜鳥。雨美の出番とは、何か策があるのか?」



 不思議そうに雨美くんを見つめる九条くんに、夜鳥くんがふふんと笑った。



「全員水輝が〝(みずち)〟ってこと、すっかり忘れてんだろ? 蛟っつーのは、泳ぎの名手だ。その力はどんな荒海だろうが関係ない。つまり――」


「つまり、雨美くんが海を泳いでカイリを探す……という訳ね?」



 お母さんの言葉に雨美くんが頷く。



「ま、そんな上手くいくかは分からないけどね。さっきの雪守ちゃんの話だと、彼女は人魚の半妖なんでしょ? だったら妖力で気配を辿ることは出来ないし」


「そうだよ、それそれ! 雪守お前、いつアイツが人魚の半妖だって知ったんだよ!?」


「そうですよ! 彼女がそうだと知っていれば、記念に握手くらいはして貰ったのにぃぃ!!」


「あはは……。私も成り行きで知っただけだから、あまり人に話さない方がいいのかなって思って」



 みんなからブーブー文句を言われ、思わず苦笑する。

 すると話を聞いていた朱音ちゃんが、九条くんとお母さんを見て首を傾げた。



「でも神琴(みこと)様は、さっき話を聞いても動じていませんでしたよね? それに風花さんも」


「俺はまふゆと一緒に彼女から直接半妖であることを聞いていたからね」


「わたしは元々カイリのお母様が人魚だって知ってたもの。その縁もあってバイトに雇うことにした訳だし」


「えっ!? お母さん、カイリちゃんのお母さんと知り合いだったの……!?」



 驚きに私が叫ぶと、お母さんが肩をすくめた。



「まぁ実際にお母様とお会いすることは叶わなかったけどね。でも魚住さんとは昔から釣り仲間だし、あの子の事情は分かってた」


「風花さんにはカイリのことでよく相談に乗って貰ってたんだべ」


「そ、そうだったんだ……」



 意外な繋がりに目を丸くするが、しかし今はそれに驚いている場合ではない。



「ええっと……じゃあ話を戻すと、雨美くんがカイリちゃんを泳いで探すってことでいいんだよね?」


「そうだね。けど妖力を辿(たど)って彼女を追跡することは出来ないから、見つけるのには少し時間が掛かると思う」


「だったら僕も空から探しましょう。人を乗せるのは難しいですが、僕一人なら風圧に左右されることなく飛べますし」



 ――木綿先生の一言が決めてとなり、それで方針はまとまった。


 早速みんなが雨具に着替えて、すぐに準備を整える。

 そしていざ出発となった段階で、魚住さんが今にも泣き出しそうな顔をして、私達に深々と頭を下げた。



「皆さんをこんなことに巻き込んでしまって、申し訳ないだ。けれどカイリの為に本当にありがとうございます」


「頭を上げてください、まだ見つかった訳じゃないんです。これからなんですから」


「そうよ! アンタ達、カイリも含めて絶対に無事に帰ってきなさいよね! 先生、子ども達のことお願いします」


「はい! 皆さんのことはお任せください!」


「それじゃあ、いってきます!」



 万が一の為に家で待機することになったお母さんが、私達に大きく手を振って送り出してくれる。

 それに手を振り返して、私達は一路、カイリちゃんが居るであろう海へと向かうのだった。



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