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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第二章 南国の島ティダと雪求める人魚

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14話 雪女とギャルと波乱のコンテスト(1)



 皇帝陛下との不思議な邂逅(かいこう)

 それから数日が過ぎた今日この日。


 ついに週末を迎え、〝約束の日〟は訪れた……。



「みんなーーっ!! 夏は好きかーーっ!?」


「おおーーっ!!」


「かき氷は好きかーーっ!?」


「おおーーっっ!!」



 海をバックにして、砂浜に特別に組み立てられたステージ。その上でやたらとテンションの高い司会に煽られて、観客達も「うおーっ!」だの「いぇーい!」だのと騒がしい。


 そしてそんな盛り上がる観客達を尻目に、ステージ下で出番を待つ私のテンションはだだ下がりだった。



 何故なら……。



「司会進行はこのわたし、かき氷屋の店主こと雪守(ゆきもり)風花(かざはな)が務めさせて頂くわ! みんな、よろしくねーーっ!!」



 ――そう、お母さんが司会をしているのである。



 ステージ上でマイク片手に観客を沸かせようと熱弁を奮うお母さんを見ていると、なんとも居た堪れない気持ちになってしまう。



「はぁ……」


「ふふ、すごいね風花さん。司会が板に付いてる」


「全然すごくないよ。娘としてただひたすら恥ずかしいよ」



 深い溜息をつくと、横に立つ朱音ちゃんにクスクスと笑われてしまい、更に恥ずかしい。

 せっかく私を応援する為にステージ下まで来てくれたのに、辛気臭い顔を見せてしまって申し訳ない限りである。



「だけど風花さんが司会なら、まふゆちゃんも肩の力を抜いてコンテストに臨めるんじゃないかな?」


「え、そう?」



 むしろとんでもない無茶振りをされて、私が肩を怒らせる未来しか見えないのだが……。


 嫌な想像に顔を(しか)めながら、私はなるべく観客達を視界に入れないようにして体をジッと縮こませる。


 結局水着は最初に朱音ちゃんが選んでくれた、黒のビキニになった。


 朱音ちゃんは似合うと褒めてくれたものの、大勢を前にしてこんな心許ない姿を晒すなんて、なんて羞恥プレイなんだ。

 忌まわしき文化祭での生徒会ステージの記憶も蘇ってきて、より気が重くなった私はガックリと俯く。



「ちょっとアンタ、大丈夫なの? なんか顔色悪くない?」


「へ……」



 と、そこで不意に前方から心配そうな声を掛けられて、私は俯いていた顔を上げた。



「あ……」



 すると目の前に立っていたのは、私がこのコンテストに出場するキッカケとなった人物……。



 ――そう、魚住(うおずみ)カイリちゃんだった。



 彼女は小麦色に日焼けした肌に黄色いビキニを着ていて、羨ましいくらいお腹がきゅっと引き締まっている。背が高く、手足もビックリするくらいスラっと長くて、まるでモデルさんみたいだ。



「あはは。ちょっと緊張してるけど、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、カイリちゃん」


「べっ、別にアンタの心配をした訳じゃないから! ただアンタに棄権されたら、勝負がうやむやになって困ると思っただけだし! ……まぁ、元気ならいいけどさ」



 私が笑ってお礼を言えば、カイリちゃんはプイと素気無くそっぽを向く。

 しかしその頬がほんのり赤いことに気づいて、私は朱音ちゃんと顔を見合わせた。


 初めて会った時から薄々感じていたが、カイリちゃんはその乱暴な口調と素っ気ない態度とは裏腹に、実は優しい性格の持ち主なのかも知れない。

 私が彼女の力で吹き飛ばされた時も、私に駆け寄るその表情はとても苦しそうだった。



「…………」



 そう思い至れば、彼女に氷の妖力を持つ妖怪について聞かれた際に嘘をついてしまったことに、今更ながらに罪悪感がジワジワと湧いてくる。


 かと言って私の正体を彼女に明かすのかと言われれば、それはそれで抵抗があるのだが……。


 彼女がどうこうというよりも、幼い頃から正体を隠すことが当たり前になっていたので、自分から正体を明かすという行為に、ものすごく勇気がいるのである。



「――さぁ、場も温まったことだし、いよいよ出場選手を紹介しちゃうわよーー!!」



 と、そこでお母さんの大きな声がステージから聞こえて、ハッとする。


 ヤバっ、もう出番!? あれ? でも……。



「まふゆちゃんとカイリちゃん以外の選手が見当たらないねぇ? みんなお手洗いとか?」



 キョロキョロと朱音ちゃんが周囲を見渡し、それに私も頷く。



「うん。お母さんってば、全員揃ってないの気がついてないのかなぁ?」


「はっ? アンタら知らなかったのか? 出場選手は――……」



 私と朱音ちゃんの会話にカイリちゃんが驚いた声を上げた瞬間、お母さんのマイク越しの大音量が砂浜に響き渡った。



「今回は二名(・・)の選手が出場してくれるわよーーっ!! さぁ二人とも! ステージに上がって来てちょうだい!!」


「――――え?」



 お母さん、今なんて? 二人? ニ、に、2……。



「にぃぃぃぃぃぃぃーーーーっ!!?」



 二名って何!? 二名って!!?


 思わず観客席まで聞こえそうなくらいの大絶叫を、私は上げる。



「あらあら? なかなかステージに上がって来ないわね〜?? 魚住カイリちゃんと雪守まふゆちゃーん? 早くステージへどうぞ〜」


「くっ……!」



 お母さんの飄々(ひょうひょう)とした声色に、ギリっと唇を噛む。

 確かに前にお母さんが〝選手の集まりが悪い〟とは言っていたけど、まさか私達二人だけとは夢にも思わないじゃないか……!!


 衝撃の事実に体が震える。私に知られたら逃げると思って、絶対今まで黙ってたな!!



「カイリ、まふゆ。早く来なさい」


「うう……」



 しかし名指しで呼ばれている以上、もはや逃げる時期は過ぎている。腹を括るしかないか……。



「朱音ちゃん、じゃあ私行くね」


「うん。二人なのは驚いたけど、頑張ってね!! ミスコンは笑顔が大切だよ! 大丈夫! まふゆちゃんなら、みんなを悩殺出来るよ!!」


「う、うん。ありがとう……」



 悩殺はさておき、励ましてくれることには素直にお礼を言って、私はカイリちゃんの後ろに着いてステージへと上がる。



「あ、や〜っと来たわぁ! さぁみんな! 二人に盛大な拍手を〜!!」



 ステージに立った瞬間、割れんばかりの拍手に包まれて、また羞恥心がぶり返してくる。


 けれど観客席に座る九条くんと木綿先生に雨美くんと夜鳥くん、そしてステージ下から戻って来た朱音ちゃんといった気心知れた顔ぶれが見えて、ホッと少しだけ落ち着いた。


 特に九条くん。お城で発作を起こした時はどうなるかと思ったけど、あの日以降は予期せぬ発作は起きていない。


 それは本当によかったのだけれど……。



「…………」



 私は今も身につけているホタル石にそっと触れて思い出す。


 ――あの日起きた貴賓室での出来事を、私は九条くんにしか話していなかった。



 ◇



『皇帝陛下が俺達を貴賓室(ここ)に? しかも俺の病のことやまふゆの正体を見抜いていたなんて……』


『うん、ビックリだよね。詳しいことは何も聞けず終いだったけど、確かに医務室じゃ他にも人は居るだろうし、ここに連れて来てもらってよかったと思うよ』



 目覚めてソファから身を起こした九条くんに今の状況を説明する。

 すると九条くんは貴賓室をぐるりと見回したのち、何か思案するように黙り込んだ。



『九条くん?』


『……皇族は人間でありながら、妖怪のようにいくつかの〝術〟を使うと言われている。もしかしたら陛下も何か相手の秘めたものを暴く(すべ)をお持ちなのかも知れない』


『秘めたものを暴く……?』



 どうだろう? 術を使うとかそういった(たぐい)の動きはあの時陛下はしていなかったように思えるが、単に私が見逃しただけかも知れない。


 それにしても人間なのに妖怪顔負けの力を持つとは、やはり皇族が日ノ本の頂点に立つにはそれなりの理由があるんだなぁと思う。



『あ、あとね……』


『ん?』


『……ううん! やっぱなんでもない』



 ――ただ、


 陛下が私の名前を知っていたこと。

 陛下に妖狐の友人がいること。


 それは九条くんには言わなかった。


 理由は自分でも分からない。

 でもなんとなく九条くんの反応が怖くて、言えなかったのだ……。



『うわぁぁぁぁぁんっ!! 皇帝陛下を拝見出来るなら、僕だって這ってでも行ったのにぃぃ!!!』



 ――ちなみに。


 案の定、獅子人形を受け取った木綿先生は泣いた。と言っても嬉し泣きではなく、もちろん悔し泣きである。

 想像通り皇帝陛下を見逃したことを知った木綿先生は荒れに荒れ、やけ酒を始めた挙句にまたも二日酔いでしばらく寝込んでいた。アホである。


 あ、もちろん獅子人形自体は喜んでくれたことは、ちゃんと付け加えておく。



 ◇



「――なぁ、アンタ」


「え!?」



 カイリちゃんに話しかけられてハッと我に返ると、目の前には大勢の観客。


 ああ、そうだ。半ば現実逃避に頭の中で先日の出来事を思い出していたが、今私はステージの上にいるんだった。

 いけない、いけない。シャキッとしないと。



「どうしたの?」



 首を傾げてカイリちゃんを見れば、彼女は少し困惑したような表情で、口をモゴモゴとさせている。本当にどうしたんだろう?



「いや、あのさ……。さっき〝ミスコン〟がどうとか聞こえたけど、アンタらまた知らない(・・・・)んじゃ――……」


「え?」



 カイリちゃんが何事かを言いかけた時、またもお母さんのマイク越しの大音量が砂浜に響き渡る。



「さーて! 出場者の紹介も終わったことだし、早速コンテストを始めようかしら! 例のモノ、よろしくーー!!」



 お母さんが合図をすると、ステージ下からスタッフらしき人達が机とイスを二組ずつ運んできた。


 え、何なに? 座って何かさせるの??



「はいっ、お待ちどぉーーっ!!」



 戸惑う私をよそに、威勢のいい掛け声と共に巨大なかき氷がドンッ!! と、それぞれの机に置かれる。



「えっ……!?」



 なんだこの、盛られ過ぎて山みたいになっている巨大なかき氷は……!?


 呆然と突っ立っていると、かき氷を運んできたスタッフさんが私に席へ着くよう促してくる。

 隣を見れば、カイリちゃんは既に用意されたイスに座っていた。



「え、えっと……?」



 とりあえず席には着いたものの、目の前にそびえるかき氷の山を前にして、嫌な予感しかしない。


 ま、まさか……? 


 この先の展開がなんとなく読めてきた時、お母さんが声を張り上げた。



「はーいっ!! 準備も出来たところで、ピチピチ☆渚のマーメイドコンテストをいよいよ始めちゃうわよーーっ!! ルールは簡単! 今回の為に特別に用意した、この巨大かき氷を制限時間内により多く食べた方の勝ち! ねっ、簡単でしょ?」



 やっぱし、思った通り!! 

 いや、「ねっ、簡単でしょ?」じゃないし!! 


 それってミスコンじゃなくて、早食い競争じゃん!?



「ちょっ、ちょっとちょっと! お母さんっ!!」


「何? 時間押してるんだから、手短にね」



 堪らずお母さん呼びつければ、露骨に今忙しいという顔をされるが知ったことではない。



「何なの、かき氷を時間内に多く食べた方が勝ちって!? これじゃあミスコンじゃなくて、早食い競走じゃない!!」


「え? だから早食い競走だけど?」


「ん?」


「だからかき氷早食い競走だけど?」


「…………は??」


「だからかき氷早食いコンテスト!」


「…………」



 なん……だと……?



 頭の中を〝いつからミスコンと錯覚していた?〟という言葉が乱舞する。

 キョトンとするお母さんを見つめて、私も目が点になった。



「……やっぱりアンタ、今の今までミスコンだと思ってたんだな」

 


 隣の席に座るカイリちゃんが呆れたように言う。



「いや……だって、水着で来いとか言うから……」


「だってぇ、せっかくビーチでやるのよ? その方が雰囲気出るじゃなーい!」


「ふ、雰囲気……?」



 え、まさかの本気で勘違い……?

 そういえば確かに、お母さんの口からミスコンだと言われたことは一度も無かったような……?



「…………うぁぁ」



 驚愕の事実に、愕然と顔を手で覆う。

 そんな私の肩をお母さんがポンと叩いた。



「ま、元気出しなさいよ。アンタかき氷好きじゃない」


「そりゃ好きだけど……」



 そういう問題じゃないと思うんだが。



「ほらっ、とにかくさっさと始めるわよ! さっきも言ったように、時間押してるんだから!」


「うう……」



 急かされて、仕方なくスプーンを手に持つ。すると「あっ!」とお母さんが声を上げて、小さなプラカードを渡してきた。



「そうそう、大事なものを渡すの忘れてたわ」


「? 何コレ? 〝ヘルプ〟??」


「そのカードは〝ヘルプカード〟よ。かき氷を食べるのが苦しくなった時に一回だけ、観客の中から助っ人を指名出来るの」


「へぇー」



 なるほど。つまり一人でこの量を食べなくても、ちょうどいいところで助っ人にパスするのもアリってことか。


 それによくよく考えてみれば、雪女である私とかき氷の早食いは相性がいいのではないだろうか? 


 なんてったって冷たいことは得意中の得意である。ぶっちゃけミスコンよりも勝ち目はあるかも知れない。


 そう思えば、俄然ヤル気も湧いてきた。

 気持ちを切り替えて、私はかき氷の山を見る。



「さぁ、両選手共に準備はいいわね? それじゃあ観客のみんなで、スタートのカウントをするわよーーっ!!」



 言ってお母さんが観客席に向かってマイクを向けた。



「さーん! にー!」



 それに観客達が楽しそうにカウントを始める。



「いーち!」



 私はスプーンを握りしめて、ゴクリとその時を待った。



「――スタート!!」



 ミスコンと思いきや、まさかの早食い競走だったコンテスト。


 正直まだ頭が混乱しているが、しかし戦いの火蓋が切って落とされた以上、もうやるしか無い。

 私とカイリちゃんは観客のスタートと同時に、一斉にかき氷を食べ始めたのだった。



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