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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第二章 南国の島ティダと雪求める人魚

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13話 雪女と妖狐と皇帝陛下(2)



「九条くんっ……!!」


「……っ、……ぅ……」



 慌てて受け止めた体はぐったりとしていて、まるで燃えるように熱い。まさか発作を起こしたの!?

 最近は朝晩2回発作が起きる状態が良くも悪くも安定してたから、すっかり油断していた。



「……ん? おい雪守、九条様どうしたんだ?」


「熱中症にでもなられたのかな?」


「まふゆちゃん、とにかく神琴(みこと)様をどこか休めるところへ!」



 私達の前を歩いていたみんなも九条くんの異変に気づいたようで、朱音ちゃんが駆け寄って来て私に言う。



「うん、分かった!」



 確かにこんな衆人環境じゃあ、私も妖力を使えない。どこか人目のつかない場所を探さないと……!


 そう考え、周囲を見渡した時だった――。



「もし、お客様」


「はい?」



 不意に背後から誰かに声を掛けられ、それに返事をして振り返れば、制帽(せいぼう)を目深に被った警備員さんが一人立っている。



「お連れ様の体調が優れないのでしたら、医務室までご案内致しますので、どうぞこちらへ」


「えっ……! 本当ですか!? ありがとうございますっ!!」



 医務室なんてあったんだ! 有難い申し出に、二つ返事でお礼を言う。

 すると警備員さんは私から九条くんの体を受け取り、その肩を担いで「では行きましょう」と私に声を掛けた。



「あ、んじゃあオレ達も一緒に……」


「いえ、わたし達はこのままお城の見学を続けましょう。まふゆちゃんは神琴様のこと、お願いね」



 夜鳥くんにそう言って、朱音ちゃんが私に目配せしてくる。

 ありがとう、助かるよ。



「は? なんでだよ!? 九条様放って、のんびり見学なんて出来るかって! オレ達も一緒に――」


「夜鳥さん、また〝ハウス〟されたいんですか?」


「いや、なんでそうなるんだよ!?」



 黒い笑みを見せる朱音ちゃんに、夜鳥くんが慌てたように叫ぶ。

 すると二人の会話を聞いていた雨美くんが、不思議そうに首を傾げた。



「え、何なに? なんなの〝ハウス〟って??」


「だぁーっ!! 水輝(みずき)は知らなくていいんだよ!!」


「なんだよ、気になるじゃんかぁ!!」


「やれやれ……」



 ハウスを巡って言い争いを始めた二人に呆れるが、これはさっさと医務室に向かうチャンスである。

 朱音ちゃんに小さく「ありがとう」と言って、私は警備員さんの後を着いて医務室へと向かったのだ。



 ◇



 ――――が。



「あの……、ここは本当に医務室なんですか……?」



 警備員さんに案内された医務室? を見て、私は目を瞬かせる。


 と言うのも、連れて来られたのは何やら絢爛豪華な調度品や装飾が目を引く、だだっ広い部屋だったのだ。

 まかり間違っても、医務室として使用されるような部屋には見えないのだが……。


 私は目の前に立つ九条くんを肩に担いだ人物を訝しく思い見上げる。



 ――すると、



「無論、医務室ではない。ここはかつてティダの地を支配した王族が、貴賓をもてなす為に使用していた貴賓室だ。そして現在も貴賓が訪れた際には、この部屋が使用されている」



「は……?」



 き、貴賓室だって?? じゃあなんだって、そんなところに私達を……?

 ていうかこの人、さっきと話し方や雰囲気が全然違うような……?


 私の怪訝な視線を意に返さず、警備員さん(?)は九条くんを部屋の真ん中に鎮座するベッドのように大きくてフカフカのソファへと寝かせた。

 そしてそのまま流れるような仕草で頭の制帽を取り去り、ゆっくりと私の方へと振り返る。



「すまんな、ちょうど良い部屋が貴賓室(ここ)しか思いつかなくてな」


「――――……」



 目の前の人物の意思が強そうな、まるで吸い込まれそうに深い、真っ黒な瞳。


 その目は、顔は、忘れもしない、先ほどの――。



「こ、皇帝陛下っっ!!?」



 思わず指を差して叫んでから、ヤバッと慌てる。しかし皇帝陛下はそんな私の失態を気にした様子もなく、鷹揚(おうよう)に笑った。



「ははは! この場には私しかいないのだ、そう固くならなくてよい。それより早く彼の発作を鎮めてあげるといい」


「…………えっと」



 固くなるなと皇帝陛下に言われて本当に緩むヤツなんて、この世にいるのだろうか??

 少なくとも私には絶対ムリである。


 そもそも何故陛下が警備員の格好をしているのか。何故付き人も護衛もおらず、一人で城内にいたのか。


 疑問は山ほどあるが、特に今の陛下の言葉がおかしかった。



『それより早く彼の発作を鎮めてあげるといい』



 どうして私が九条くんの発作を鎮められると知っている……?

 皇帝相手に不敬は承知だが、私は警戒心を露わにして陛下を見つめた。



「まぁそう警戒するな。そなたの正体が何者であっても、私はそれを公言するつもりはない。さぁ、とにかくまずは彼の発作を鎮めてあげなさい」


「…………」



 そう言われてしまえば、私には何も言うことは出来ない。

 まだこの状況に戸惑いは隠せないが、陛下の言う通り今は九条くんの発作を鎮めるのが先決である。


 こくりと無言で陛下に頷いた後、ゆっくりとソファへと近づく。

 そしてそのまましゃがみ込んで九条くんの様子を伺いながら、私はいつものように氷の妖力を手のひらに込め、そっと彼の額に触れた。



「……っ、…………」



 するとみるみる内に額に(にじ)む汗は引いていき、火のように熱かった体も少しずつ正常体温に戻っていく。

 それにホッとして、私は九条くんが目覚めるのを待った。



「…………?」



 しかしここでいつもと違うことが起きた。


 いつもならば発作が鎮まればすぐに目が覚めていた九条くんが、今日はしばらく経っても起きないのだ。



「どうしたんだろう……?」



 不安が一気に押し寄せてきて、思わず胸元に揺れるホタル石に触れる。

 すると私の呟きに反応した陛下が、「ふむ……」と首を捻った。



「どうやら随分と病の進行が早いようだ。そなたの妖力でなんとか凌いでおるが、これはアイツ(・・・)の時以上か」


「! この病気がなんなのか、陛下は知っているんですか!?」



 ボソリと呟かれた言葉に反応し、私はすぐさま側に立つ陛下を見上げる。

 すると陛下は私の横にしゃがみ込んで、九条くんをじっと見つめながら口を開いた。



「……昔から妖狐一族の男子には、この彼のような病を生まれつき患う者がいるらしい。私の友人もまた、同じ病に悩まされていた」


友人(・・)……ですか?」



 九条くんと同じ病を患う妖狐一族がいたなんて初耳だ。

 もしかして九条くんが私に病気のことを詳しく話したがらないのは、一族の秘密に関わるから……とかだったのだろうか?


 ……あれ? でも陛下のご学友って確か、あの九条家当主だったんじゃなかったっけ? 他にも妖狐の友達がいたってこと?



「ああ、元々皇族と三大名門貴族は何かと近しい間柄でな。特にアイツとは同い年ということもあって、幼少の頃から随分と一緒に遊んだ。アイツは病を抱えながらもかなりアクティブでな。私とよく気が合った」


「へぇ、そんな昔から。じゃあ陛下にとって、その方は親友なんですね」


「――――」



 羨ましい。そんな気持ちを込めて笑い掛ければ、陛下の表情はまるで時が止まったように固まった。



「……陛下?」



 その様子を訝しげに見れば、陛下がポツリと呟く。



「そうか……親友。私達は親友だった(・・・)のだな」


「…………?」



 先ほどから陛下の言葉にどこか違和感を感じる。


 なんだかまるで、〝いなくなった人〟を懐かしんでいるような――……。



「っ!!」



 思い至った嫌な想像に、ドクンドクンと痛いくらいに心臓が波打つ。

 しかしそれでも知らねばという気持ちに突き動かされて、意を決して私は陛下に尋ねた。



「……あの、陛下。病気のことをご存知なのならば、どうか私に教えてください。この病気は治るんですよね? 陛下のご友人は、今はどうなさっているのですか……?」


「…………」



 なんとか言い切ると、陛下はじっと私の瞳を見つめる。

 そしてその陛下の吸い込まれそうな黒い瞳が微かに揺らいだ時、ゆっくりと彼が口を開いた。



「私の友人は……」


「…………」


「〝紫蘭(しらん)〟は、今は――……」



 ――ガチャン!!



「!!?」



 と、そこで突然勢いよく貴賓室の扉が開き、陛下の言葉を固唾を呑んで待っていた私の心臓が飛び出しそうになる。



「陛下、公務のお時間です。先に言っておきますが、もうこれ以上休憩時間は延ばせませんからね。……おや?」



 ブツブツ言いながら貴賓室に入って来た人物が、私を見て目を見開く。

 対する私もまた、内心「あっ!」と驚いた。


 何故ならば、目の前に立つのは先ほど朱音ちゃんが見せてくれたスケッチの人物――つまり鬼一族近衛家(このえけ)の当主にして日ノ本帝国宰相でもあるという、あの白髪の紳士だったのである!



「~~~~っ」



 まさかの国の重要人物二人に囲まれて、やっとこの状況に慣れてきた頭がまたもや混乱する。

 ていうかこの状況じゃ、私が勝手に貴賓室に忍び込んだ(やから)みたいに見えるし、もしかしなくても怒られるんじゃ……!?


 そう考えてぎゅっと身構えていると、宰相さんが大きな溜息をついた。



「……陛下、またなんというお姿を。どうせ一般人のフリをして、供も付けずにあちこち出歩いていたのでしょう?」


「はははっ! そう嫌そうな顔をするな。冒険は私の趣味だ。せっかく帝都から遥々(はるばる)ティダまで来たのだから、公務だけではつまらないであろう?」


「はぁ……まったく。――それで、その方々(・・・・)はどうされたのです?」


「!!」



 陛下の言動にまたも大きな溜息をついた宰相さんは、〝その方々〟と言いながら視線を私とソファで寝ている九条くんへと向ける。


 その視線が思いがけず鋭くて、ビクリと私の肩が勝手に跳ねた。

 さっき絵だけでも怖そうな人だなって思ったけど、やっぱり生で見ても本当に怖そうだ……。



「こら、そう不躾な視線を向けるな。怯えているではないか。この子らは私が城内を散歩していた時に、偶然具合を悪くしていたから声を掛けたのだ」


「ほぉ? それで医務室に引き渡すのではなく、わざわざこちらへ? それはそれは陛下にしてはお優しいことですが……。まぁいいでしょう」



 私の顔をジロジロと見て、宰相さんがそう言う。

 えっ! ていうか、本当にちゃんとした医務室があったの!?

 だったら尚更なんで私達をここに……。


 考え込んでいると、宰相さんが「それはともかく」と(ふところ)から懐中時計を取り出して言った。



「先ほども言った通り公務のお時間です。早くご準備をなさってください」


「だが私はまだこの子と話をしたいのだが」


「陛下」


「ヤダ」


「えっと……」



〝この子〟と言って私を見た陛下が、何故かそうやって駄々をこねる。

 それに宰相さんがギロリと鋭い視線をこちらに向けた。


 顔が怖い。怖すぎる。

 どうか私を争いに巻き込まないでほしい……。



「陛下」


「ヤダ」



 子供のように駄々をこねる陛下に、宰相さんが苛立った様子で溜息をつく。



「なんですか、そんな若いお嬢さんを愛人にでもなさるおつもりですか? 日ノ本帝国は一夫一婦ですよ」


「抜かせ! 私は妻一筋だ!」


「左様ですか」



 シレッと言う宰相さんに、今度は陛下が溜息をついた。



「はーー……。いい、分かった。お前は頭が固いからな、言っても無駄か」


「お分かり頂けたのなら、何よりです」



 陛下が項垂れながらも、渋々と立ち上がる。

 もしかして今のやり取りから察するに、力関係は宰相さんの方が上なのだろうか?


 なんとなく陛下の様子をそのまま見ていると、パチリと目が合った。

 そして私を見て笑みを浮かべたかと思うと、何故か陛下はグシャグシャと私の頭をかき回すようにして、豪快に撫でてくる。



「わわっ!?」


「ここには連れの彼が目覚めるまでいるといい。私から警備の者には伝えておく。……ではな、まふゆ(・・・)。ひと時でも会えて嬉しかったぞ」


「え……あ……」



 そう言い残して、陛下と宰相さんが静かに貴賓室を出て行く。

 結局九条くんの病気に関することは聞きそびれてしまったが、またもや不思議なことを言われた。



『……ではな、まふゆ。ひと時でも会えて嬉しかったぞ』



 なんで皇帝陛下が私の名前を? 


 しかもその口振りは、まるで陛下が私のことを元から知っていたかのようだ。

 もちろんティダ育ちで超庶民の私に、皇帝と知り合うような機会はない。



 では、一体何故――?



「う……」


「っ!? あっ、九条くん!! 気がついた!?」


「ぁ……ま、ふゆ……?」



 考えるのを中断して、急いで私は目覚めた九条くんに声を掛ける。


 そしてそうこうしている内に、頭にいくつも浮かんでいた疑問は、すっかり頭の隅へと追いやられてしまったのだった。



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