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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第二章 南国の島ティダと雪求める人魚

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10話 雪女と妖狐とドタバタ水着選び



「こんなお子ちゃまな水着で、カイリちゃんに勝てる訳が無いよーーっっ!!!」



 そう朱音ちゃんに怒鳴られた次の日、私は彼女に引きずられるようにして、他のみんなも一緒にティダ唯一の繁華街へと繰り出していた。


 理由はもちろん、私の水着探しの為である。



「これはどうかなー。あ、こっちもいいかもー」



 服飾店に入るなり、キャッキャッと楽しそうに店内に大量に並べられた水着を一枚一枚手に取っていく朱音ちゃんを眺めながら、内心溜息をつく。

 これが朱音ちゃんの水着選びなら私も張り切っていたのだろうが、いかんせん目的は私の水着選びである。全くテンションが上がらない。



「まふゆ」


「あ、九条くん」


「俺は夜鳥と雨美と一緒に男物の水着を見ているから、終わったら呼んで」


「分かった」



 私が頷けば、九条くんは男性用水着売り場へと消えていく。

 その後ろ姿をぼんやりと眺めていると、水着を手に取りながら朱音ちゃんがポソリと言った。



「木綿先生、二日酔いで寝込んじゃったから、一緒に来れなくて残念だね。せっかく水着を買った後は、お城の見学にも行くのに」


「うん……。お母さん際限なく飲むから、先生付き合うの大変だったと思う」



 案の定というかなんというか、やっぱり木綿先生は前日の飲み過ぎがたたって二日酔いになった。

 昨夜の木綿先生にどんどん泡盛を注いでいくお母さんの姿を思い出して、私は思わず遠い目をする。


 ちなみに木綿先生と同じくらい、いや倍以上飲んでいたお母さんは、今日も元気にお店へと出勤して行った。


 まったく、一体どういう体をしているんだか。



「お城見学。木綿先生が一番楽しみにしてたのにねー」


「うん……」



〝お城〟とは、かつてティダの地を治めていた王族が遺したとされる、鮮やかな赤瓦が特徴的な宮殿のことである。

 今ではすっかり観光地化して久しいが、ティダを代表するシンボル的な建造物と言えた。


 我が家の南国建築に興味津々だった木綿先生は、やはりお城の方にも強い関心を示しており、それだけに今回の欠席はさすがに不憫に思う。



「せめて先生には何かお土産を買っていこうか」


「そうだね。……ところで、ねぇまふゆちゃん」


「? 朱音ちゃん?」



 と、そこで急に声のトーンを落として朱音ちゃんが(ささや)く。

 それに何事かと私が首を傾げると、朱音ちゃんは少し話すのを躊躇(ためら)った後、小さな声で私に言った。



「昨日のあの子……。魚住(うおずみ)カイリちゃんが、まふゆちゃんを跳ね飛ばしたことなんだけど……」


「ああ」



 ひとつ頷けば、昨日のことがはっきりと脳裏に浮かんでくる。



『嘘だっっ!!!』



 あの時、カイリちゃんが叫んだ瞬間、何らかの力によって私の体は吹き飛ばされた。



『ごめん……、ごめんなさい……』



 彼女のあの取り乱しようからして、意図したもので無いことだけは分かるんだけど、であるならばあれは一体なんだったのだろうか? 



 もしかしたら、彼女は……。



「あのね。わたしも似たような経験があるから分かるんだけど、カイリちゃんは半妖じゃないのかと思うんだ」



 朱音ちゃんの言葉は、私も予感していたことだった。



「それって……妖怪の気配はしないのに、妖力らしきものを使っていたから?」


「うん、あの子がなんの妖怪の半妖かまでは分からないんだけどね。まふゆちゃん、前にわたしだけが黒い妖力を使って人を操れるって言ったの、覚えてる?」


「もちろん覚えているよ」



 忘れる訳がない。

 あの九条くんを探しに九条家へ乗り込んだ日の出来事は、全部鮮明に覚えている。



「これはわたしが暗部に入ったばかりの頃に葛の葉(くずのは)様から教えてもらったことなんだけど、半妖には妖怪とは違う〝特別な力〟があるんだって」


「〝特別な力〟……?」



 あのトンデモ当主からの話とは、なんとなく胡散臭い響きだ。私が露骨に眉を(ひそ)めると、朱音ちゃんが苦笑する。



「力が現れる時期と能力の種類は、半妖によってバラバラなんだけどね。それに能力に目覚めたとしても強過ぎる力を上手く使えないことの方が多くて、これも半妖が不当な扱いを受けやすい原因のひとつみたい」


「そうなんだ……」



 つまりカイリちゃんのあの力は半妖由来のものであり、まだ力をコントロールするには至っていない。まとめると、そういうことだろうか? 


 確かにそう考えれば、辻褄が合う。



「じゃあ朱音ちゃんは『人の心を操る能力』で、カイリちゃんは『人を跳ね飛ばす能力(仮)』ってことかぁ……」



 そこまで考えて、ハタと気づく。


 ……じゃあ私は(・・)


 私だって雪女の半妖だ。二人のように〝特別な力〟がある筈。



『ん? ということは、やっぱり私の妖力ってすごいのかな? なんで九条くんに効いたんだろう……?』


『それは俺の方が知りたいよ。だから昨日も聞いただろ? 〝雪女しか知らない特別な妖術でも使った?〟って』



 ……多分、だけど。



 それが〝癒しの力〟なの――?



 ◇



「ああーー! これいい! まふゆちゃんっ! これ着てみて!!」



 真面目な話もひと段落し、当初の目的である水着探しを再開した朱音ちゃんは、そう言って一枚の水着を私の前に掲げて見せた。


 それは黒の上下に分かれた水着。布面積は少なく、その形はいわゆる――。



「あ、朱音ちゃんっ!! これビキニだよ!!?」



 私が真っ赤になって水着を指差せば、朱音ちゃんが当然と言うように頷いた。



「そりゃそうだよ、ミスコンに出るんだもん。見た目の美しさを競うんだから、積極的に体の線は出していかないと」


「えぇ……? 昨日の私が持ってたみたいな感じの水着じゃダメなの……?」



 私は昨日タンスから引っ張り出したワンピースタイプの水着を思い浮かべる。


 朱音ちゃんにはお子ちゃまと言われてしまったが、あれは上下に分かれてないし、お腹から太ももまですっぽり隠れるので安心感があった。見た目も可愛いものが多いので、コンテスト映えもしそうではないか。


 そう頑張って説得を試みたのだが、朱音ちゃんは静かに私を見つめて、一言こう言った。



「――――甘い」


「えっ?」


「まふゆちゃんはカイリちゃんに勝ちたいんだよね?」


「そ、それはもちろん!」



 カイリちゃんはスラリと背が高く、まるでモデルのように長い手足だった。顔立ちも派手なギャルメイクに負けない目力強めの美人さんだったし、正直勝算は薄い。

 でも負ければ私の正体がバレる瀬戸際である。お母さんの意図は分からないが、負ける訳にはいかない。



「だったら、まふゆちゃんのスタイルの良さを活かさない手はないよ!! 前面に押し出して、審査員を悩殺しなきゃ!!」


「の、悩殺!?」



 またまたご冗談をと思ったが、朱音ちゃんの表情は真剣そのもので、冗談を言っているようには見えない。

 そして「はい」とにこやかに渡されるのは、やっぱりさっきの黒ビキニで……。



「うう……。分かった、着てみるよぉ……」



 朱音ちゃんとビキニを何度も交互に見て、結局私は折れるしかなかった。



 ◇



「朱音ちゃーん、本当にこれでいいの? すごいスースーするんだけど……」



 一人試着室で着てみれば、思った以上に心許ない姿にソワソワする。

 朱音ちゃんの言うことはなんでも聞いてあげたいが、やはりこれは……。



「えーどんな風? 見せて見せて!」


「うう……」



 試着室を開けるよう急かされて渋々開けば、待ち構えていた朱音ちゃんが目を見開いた。



「わっ、めちゃくちゃ似合ってるよ! すごい大人っぽい! あ、そうそう。まふゆちゃんが試着してる間に他にも良さそうな水着が色々あったから、こっちも着てみてね!」


「ええ……」



 そう言ってドサドサと色も形も様々な水着を渡されるので、思わず口元が引きつる。

 この強引さ。朱音ちゃんってば、あの大柄オネェな演劇部の部長さんに似てきたような……。



「お、いたいた!」


「?」


「雪守に不知火(しらぬい)! ちょうど試着してたのか!」


「……? 夜鳥くん? 九条くん達と男性用の水着売り場に行ったんじゃ……」



 大量の水着にゲンナリしていると、何故か夜鳥くんが妙にテンション高くこちらへと駆け寄って来た。

 そしてそのまま不躾にも私を上から下までジロジロ眺めたと思ったら、ボソリと呟いたのだ。



「色気が足りない」


「はっ!?」



 いきなり現れてのダメ出しに、私の目が三角につり上がる。恥ずかしいとはいえ、この水着は朱音ちゃんが私の為に選んでくれたものだ! それをダメ出しとはなんと失礼なっ!!


 ムッと唇を尖らせれば、夜鳥くんが「まぁ話を聞け」とこちらを(なだ)めてくる。



「考えてもみろ、ミスコンっつーのは何人もの水着姿の女を審査するんだぞ。んなありきたりなビキニじゃ、審査員の目は惹けねーよ」


「まーた、何をそれらしく御託を並べて……」


「なるほど、一理ありますね」


「朱音ちゃんんん!!?」



 まさかの同意にギョッとするが、朱音ちゃんは冷静な表情で夜鳥くんに訊ねる。



「それで夜鳥さんは、まふゆちゃんがどういう水着を着たらよいと思われるんですか?」


「ふっ。よくぞ聞いてくれたな、不知火。オレが思う雪守が着るべき水着は――これだッ!!」


「!?」



 そう叫んで、どこから取り出したのか見せてきた物体に、私は思わず目をひん剥いた。



「ちょーーっ!? これ布どころか紐じゃん!! こんなの着れる訳ないじゃん!!」


「え、そうか? じゃあこっちは?」


「はぁっ!!?」



 更に〝こっち〟と言って見せてきた水着に、またも私の目は怒りで三角につり上がった。



「これ貝殻じゃん!! もはや水着ですらないじゃん!! だからそんなの着れる訳がないでしょ!!!」


「いやいや、こいつを着りゃ審査員の視線も釘付けだって!」



 アホか! 好奇の的の間違いだろうが!!


 南国に来て頭が陽気になっているのかも知れないが、これは頂けない。セクハラダメ、絶対!!


 もっと怒鳴りつけてやろうと口を開くが、不意に横から黒い妖力が漂ってきたのが見え、私はギクリと口をつぐんだ。

 そしてそれは夜鳥くんも同じだったらしい。



「や、と、り、さん?」


「いや、違うんだって不知火!! 冗談! じょーだんだって!!」



 また〝ハウス〟されることにビビったのか、夜鳥くんがそう言い募って立ち去ろうと私達に背を向ける。



 ――しかし。



「夜鳥」



 無情にも振り返った先には九条くんが立っており、その後ろには呆れたような表情の雨美くんもいた。



「どうやらお前はまだ燃え足りないようだな」



 九条くんは地を這うような低い声とは裏腹に、その表情は笑顔だ。

 けれどその右手からはゴウゴウと炎が噴き出しており、それを見た夜鳥くんが顔を一気に青ざめた。



「いや、これは違うんですよ、九条様!! オレは純粋に雪守が優勝出来るよう、人目を惹く水着を選んだだけで……!!」



 夜鳥くんが言い訳になっていない言い訳を捲し立てる。

 しかしそれをまるっと無視して、九条くんは笑顔のままジリジリと夜鳥くんに迫る。



「これまです。夜鳥さん」



 更に反対側からは朱音ちゃんも――。



「うわっ、不知火もその妖力やめっ……! ぎゃああああああ!!!」



 二人の妖狐に挟み撃ちされて、(ぬえ)の断末魔が響き渡る。

 そしてそれが夜鳥くんの最期の叫びだった。南無。



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