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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第二章 南国の島ティダと雪求める人魚

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5話 雪女と妖狐と生徒会の夏休み(2)



「は? 客が増えたって? まぁいいけど、寝る場所と食事の確保は各自でやってね」



 翌朝。私達が既に朝食を済ませた頃、大あくびをしてお母さんが起き出してきた。


 そのまま食卓に着いたお母さんに朝食を並べながら昨夜の出来事を伝えれば、案の定二つ返事で了承してくれる。お父さんの部屋を使うことも特に何も言ってこないので、大丈夫だろう。



「あっ! 焼き魚じゃない! 朝はやっぱ焼き魚に炊き立てのご飯と味噌汁よね。はぁ〜()みるわぁ〜」



 昨日のバカでか魚を焼き魚にしたものを食卓に並べると、お母さんがそんなことを言いながらガツガツと食べ出した。

 その様子に私がいない間の食生活を察して、溜息をつく。



「あー確かにその焼き魚、すげぇ美味かったよな」


「はい、脂が乗っていて甘かったです。ティダで獲れる魚なんですか?」


「わたしが昨日そこの浜で釣ったのよ」


「えっ、釣り!?」



 最初は一心不乱にご飯を掻き込むお母さんをみんな遠巻きに見ていたが、お母さんの話が珍しかったのかみんなが食いつき、それにお母さんが得意げに話し出した。すぐに打ち解けたようでなによりである。



「ふぅー、ごちそうさま。じゃあわたしはそろそろ仕事に行くわ」


「あ、手伝わなくて大丈夫?」


「大丈夫大丈夫。今年はアルバイトちゃんを雇ったから、アンタはみんなと遊んで来なさいな。じゃ、戸締りはちゃんとしてね」



 朝食を食べ終えると、すぐにお母さんはバタバタと出掛けて行く。

 昨日自分は玄関開けっ放しだった癖にとちょっと思ったが、そこは突っ込まず黙って頷いておいた。



 ◇



風花(かざはな)さんは、なんのお仕事をしているの?」



 台所にて。

 私が洗い終わった皿を横で受け取って拭きながら、朱音ちゃんが私を見上げる。



「かき氷屋さん。この時期はちょうど観光客が一年で一番多いから、わりと忙しいんだよ。だから去年も帰省する間は、私が店の手伝いをしていたんだけど」


「そういえばさっき風花さん、〝アルバイトを雇った〟って言ってたね」


「うん」



 今までどんなに忙しくてもアルバイトは雇わなかったお母さんが、どういう風の吹き回しだろう? どんな子を雇ったのか、気になってしまう。



「でもいいなぁ、かき氷! 今日も暑いし、食べてみたいな!」


「じゃあ後でお店に行ってみよっか?」


「うん!」


「おいおい、かき氷の前にまずは昼飯だろーが」



 すると私達の話に割って入るようにして、夜鳥くんが台所に入って来た。男子達には昼に何を食べたいか決めておくように言っておいたが、決まったんだろうか?



「何、昼決まったの?」


「おう、それなんだけどよ。この家の裏にある海って、絶好の釣り場だって風花さんがさっき話してたじゃん? だから折角だし、オレらも魚釣ってバーベキューなんてどうよ?」


「バーベキュー!?」



 夜鳥くんの言葉に朱音ちゃんがキラキラと目を輝かせる。それを見た夜鳥くんが「決まりだな」と私に言うので、勿論と頷く。

 朱音ちゃんが喜ぶのなら、私に断る理由はない。


 そうと決まれば海へ行く準備をしようと、私は着けていたエプロンを外す。



「……?」



 すると何やら妙な視線を感じて振り返れば、夜鳥くんが何故か私をジッと見ていた。



「…………何?」



 どうせロクでもないことを考えているんだろうと警戒しながら問いかければ、夜鳥くんが真剣な顔で頷いた。



「いや、雪守もなかなかと思ってたけど、風花さんてマジヤベーじゃん? つーことは、雪守も将来あーなるのかなぁーと」


「???」



 何? 暗号?? 言っている意味の一割も分からん。

 しかし意味不明なことを言いながら、夜鳥くんから伸びる視線は私の顔ではなく私の首の下で――って、またこのパターンかっ!!



「何っ!? どこ見て何想像してんの!? 信じられないんだけどっ!?」


「は? 何言ってんだよ、褒めてんじゃねーか」


「今のセリフのどこが褒めてんの!?」


「いや褒めてんだろ! 胸が――」



 夜鳥くんの言葉はそれ以上続かなかった。何故なら突如彼を黒い妖力が包み、夜鳥くんの体はそのままピタリと動きを止めてしまったからである。



「あかっ……!?」



 とっさに横に立つ朱音ちゃんを見れば、指先から黒い妖力をまとったまま、静かな声が発せられた。



「夜鳥さん、――――ハウス」


「――――」



 朱音ちゃんの声にピクリと反応した夜鳥くんは、ボーっとした表情のまま、ふらふらと居間へと戻っていく。

 その背中が完全に見えなくなってから、朱音ちゃんはふぅと困ったように首を横に振った。



「全く、不埒(ふらち)な人です」


「…………」



 その圧倒的な様子を見て、朱音ちゃんだけは敵に回してはいけない。そう私は強く心に誓ったのだった。



 ◇



「わぁ……っ!」



 あれから手早く準備を整えて、家の裏の海へと繰り出した私達。

 エメラルドグリーンに(きら)めく海に、白いサラサラの砂浜は、やはり帝都育ちのみんなには珍しいみたいで、歓声もそこそこに目の前の光景に魅入っている。



「噂には聞いてたましたが、本当にティダの海は透き通っているんですね」


「ええ。この海を間近で見れただけでも、ティダに来た甲斐があったというものです」



 九条くんと木綿先生がそう話している横で、雨美くんが「あ」と、何か見つけたのか砂浜の上でしゃがんだ。



「見てよっ! 砂が星の形なんだけど!!」


「マジか!?」



 ほら、と見せてくる砂は確か星の形だ。みんなが興味津々に雨美くんの持つ砂を見る。



「それは〝星の砂〟って呼ばれる砂だね。ティダの砂浜はどこでもその砂だよ」


「へぇー! なんだかロマンチックだねぇー!」



 そう言って白いワンピースに涼しげなポニーテール姿の朱音ちゃんは、「お土産にしよう」と星の砂を拾い集めている。

 その神々しいまでの可愛さに内心悶えていると、横から九条くんに声を掛けられた。



「バーベキューセットは海の家で貸し出してるんだっけ?」


「うん。釣具は家から持って来たし、肉と野菜もバーベキューセットについてくるみたい」



 言いながらみんなでバーベキュー出来る場所を探して砂浜を歩くが、夏真っ盛りということもあって、海には大勢の人々が溢れかえっている。

 いくつもの視線がこちらに向けられているのも感じるが、まぁ九条くんを筆頭に顔がいい面子(めんつ)がこうも揃っていては、注目が集まるのも無理もないだろう。



「おーっし! 早速釣りだ! 釣りに行くぞぉ!!」


「あ、雷護(らいご)待ちなよ!!」



 とりあえずバーベキュー出来る場所を確保して荷物を置くや否や、ちゃっかり釣竿を持った夜鳥くんが我先にと海岸へと走っていき、それを追いかけるようにして雨美くんも走り去って行く。



「待ってよ、二人とも!!」



 慌てて呼び止めるが、しかし二人の姿は人混みに呑まれてあっという間に見えなくなってしまう。



「もうっ! 相変わらず自由なんだから!」


「あはは、仕方ないですよ。ではバーベキューの準備は僕がしておきますから、みなさんも釣りをしてきてください」


「え!? 一人じゃ大変ですよ! だったら私も……」


「ならわたしが先生を手伝うから、まふゆちゃんと神琴(みこと)様は二人を追いかけて! わたし、釣りは出来そうにないから」


「ええっ!!?」



 朱音(あかね)ちゃんの言葉に大袈裟に驚けば、にっこりと笑った朱音ちゃんがぐいぐいと私の背中を押す。



「さ、行って」


「いやいや、でもっ! 先生が一緒とはいえ海だし、開放的になったチャラい男達に、朱音ちゃんがナンパされでもしたら……!!」


「心配し過ぎだよー。それよりわたし、おっきな海老(えび)が食べたいな! まふゆちゃん頑張ってね!」


「うう……」



 そんな天使の笑顔で言われては、頷かなければ女が廃るってもんじゃないかぁ!!



「分かったっ!! 私頑張るよ、朱音ちゃんっ!!」


「朱音……」


「ふふっ、神琴様も頑張ってくださいね」


「?」

 


 私達のやり取りを見ていた九条くんが、何故か呆れたように溜息をついた。それに対して朱音ちゃんは楽しそうにクスクスと笑う。

 以前までは九条くんを見ると首振り人形状態になっていた朱音ちゃんだが、あの九条家での出来事以降は随分と慣れてきたのか、顔を赤らめることも無くなっている。



「チャンスは逃がさず、押せ押せですよ! 神琴様!」


「朱音……」


「??」



 しかし二人の話の意味が私には何のことだか分からず、ただ首を傾げるしかなかったのだった。



キャラメモ8 【雪守 風花 ゆきもり かざはな】

まふゆの母

南の島ティダでかき氷屋を営む

グラマラス美女で、まふゆの顔とスタイルは母譲り

雪女の筈だが、妖力は感じない

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