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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第二章 南国の島ティダと雪求める人魚

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3話 雪女と妖狐と母との再会(2)



「おー! 床が見えてる! こうして見ると、実は結構部屋の中が汚れてたのねぇ」


「こうして見なくたって、めちゃくちゃ汚れてたよ!!」



 ケラケラ笑うお母さんに思わずツッコめば、くすりと九条くんに笑われてしまい、恥ずかしくなる。

 うう、お母さんのせいだ。


 結局掃除は居間だけに留まらず、台所に風呂にと気になり出したらキリがなくなっていた。ティダに到着した時には午前中だった筈が、今やとっぷりと日も暮れている。

 家の掃除に一区切りをつけた私達は、例のバカでか魚と家にある適当な食材で簡単な晩ご飯を作り、今ようやく食卓についたところだった。



「まーまー、そんなにカッカしてると、若いのに血圧上がるわよ?」


「お母さんのせいでしょー!」


「まぁまぁ……」



 九条くんに宥められて、バツが悪いのを隠す為に私はご飯を掻き込む。

 掃除に留まらず、料理まで九条くんには手伝わせてしまった。お客さんなのに、しかも雲の上のお貴族様なのに、申し訳ない気持ちでいっぱいである。

 とはいえ思った以上に早く片付いたので、手伝ってもらったのは大変に助かった。



「あ、この煮魚美味しい。まふゆは料理も上手なんだね」


「え、そうかな? 九条くんの口に合ってよかった。ごめんね、もっとちゃんとした料理を作りたかったんだけど、時間が無くて有り合わせのもの出しちゃって……」


「そんなことないよ。まふゆの手料理を食べられるなんて、ティダに来て本当によかった」


「九条くん……」



 微笑む九条くんに、ジワジワと頬が熱くなる。



「はぁー熱い、熱いねぇ。若者の青春はかくも眩しいものかね。おばさんには辛いわぁ」


「!!」



 その言葉に、ハッと目の前にお母さんがいたことを思い出す。

 お母さんはバカでか魚の刺身を(さかな)にしながら、グラスに注いだ泡盛をグビグビ飲んで、揶揄(からか)うような視線をこちらに向けてくる。



「で? 九条くんはまふゆと何がキッカケで仲良くなった訳? あ、別に尋問って訳じゃないよ。ちょっとした親心だから、気楽に答えてよ」


「ちょっとお母さん! さっきも言った通り、私と九条くんは別にそんなんじゃ……」


「はーい、外野は黙っててくださーい! で、九条くん、どうなの?」


「は!? 外野!?」



 妙にしつこいお母さんに、九条くんが苦笑しながらもポツポツと話し出す。


「ははは、そうですね。元々クラスは同じだったんですが、親しくなったのは生徒会活動を通じて……ですかね」


「九条くんが生徒会長で、私が副会長なの」



 九条くんの言葉に私が補足すれば、お母さんが刺身を醤油につけながら、感心した声を上げる。



「へー、日ノ本高(ひのもとこう)って今でも成績順で生徒会メンバーを選抜してるんでしょ? じゃあ九条くんは学年トップ。すごい頭いいんだぁ」


「あれ? 生徒会に選ばれる基準なんて、なんでお母さんが知ってるの? 私話したこと無かったよね?」


「なんでって、そりゃあわたしが日ノ本の卒業生だからだし。あ、ちなみにわたしも生徒会やってたことあるわよ」


「はぁ!?」



 刺身を食べながらシレッと言われた事実に、思わず立ち上がる。


 卒業生なんて、そんな話初めて聞いたんだけど!? しかもまさかお母さんが生徒会に選ばれていたなんて……!!

 失礼ながら普段のガサツっぷりからそんなに勉強出来るとは思っていなかったので、我が母ながら正直意外だ。



「あの……」



 すると私達の話を聞いていた九条くんが、真剣な顔つきで口を開いた。



「不躾なことを聞いてしまいますが、日ノ本高校の卒業生と言うなら風花(かざはな)さんは……、九条(くじょう)葛の葉(くずのは)という女生徒のことは知っていませんか?」


「あ……」



 九条くんの言葉に、心臓がドキリと跳ねる。

 当主とお母さんの関係はそれとなく聞いてみるつもりだったが、まさか帰省初日に、しかも九条くんがこんなド直球に聞くとは思わなかった。

 とはいえこれは、お母さんに聞き出すまたと無いチャンスである。


 木綿先生の話だと、九条家当主も日ノ本高校の卒業生。つまりそこで二人の間に何かしら接点があっても不思議じゃないということ。

 私はゴクリと唾を飲み込んで、お母さんの言葉を待つ。



「ああ、葛の葉? うん、知ってる~。ていうか生徒会で一緒だったし、フツーに顔見知りよ」


「ちょっ……!」



 軽ーい調子で肯定したお母さんに、堪らず私は声を上げた。



「知ってる~じゃないよ!! 何をそんな呑気な……! いい、お母さん! その葛の葉さんから、お母さんに伝言があったんだよ!!」


「伝言?」



 不思議そうに首を傾げるお母さんに、私は当主から言われた言葉を伝える。

 するとお母さんは空いたグラスにまた泡盛を注いでグビグビと飲んだ後、「ふぅん」と呟いた。



「葛の葉ってば、まだあのこと(・・・・)忘れられないのね」


「何? あの三大名門貴族の九条家当主相手に、何やらかしたの?」



 訝しげな私の視線に、お母さんが苦笑する。



「いや、なんでわたしがやらかす前提なのさ。……というかまふゆ、アンタこそなんでその三大名門貴族の九条家当主から伝言を受け取った訳?」


「そ、それは……」



 お母さんの指摘に、ギクリと目が泳ぐ。

 ま、まずい。つい口が滑って余計なことまで言ってしまった。上手い言い訳が思いつかず、口をモゴモゴさせる。



「一度俺が体調を崩した時に、家まで見舞いに来てくれたことがあったんです」


「そ、そう! その時に当主から伝言を受けたって訳!!」



 しどろもどろな私に九条くんが助け舟を出してくれたのでそれに乗っかれば、今度はお母さんが私に訝しげな視線を向けてきた。



「ま、いいけどさ」



 しかしお母さんはそれ以外追求して来なかったので、それにホッとしつつも、常とは違う様子に内心首を傾げる。

 するとお母さんはグラスに残っていた泡盛を全部飲み干して、溜息をついた。



「……別に大したことじゃないよ。昔、葛の葉とは男を巡ってちょっとしたイザコザがあったってだけ」


「はぁ?」



 なんだそれは。

 私は九条くんと顔を見合わせる。


 あの唯我独尊を地で行くような当主が、惚れた腫れたでお母さんとイザコザとか、にわかには信じ難いんだが。

 更にあの時の当主の口振りは、お母さんが言うような〝大したことじゃない〟という感じじゃなかったように聞こえた。

 


 それに――。



「ほら、お喋りはここまでにして箸を動かす。さっさと食べないと、料理が冷めちゃうわよ」



 これで話は終わりと言わんばかりに、お母さんはまた新たな泡盛をグラスに注ぐ。どうやら今日はこれ以上話を聞くことは無理そうだ。


 心の中でひとつ溜息をついて、私はもう既に冷めつつある煮魚を口に入れた。



 ◇



 夕食を終えた後、酔い潰れてすっかり寝入ってしまったお母さんの背中にブランケットを掛けて、気分を変えようと外へ出た。

 昼間はギラつく太陽によって茹だるような暑さだったが、夜は気温が下がってちょうど良い優しい暑さに落ち着いている。



「わぁ……」



 空を見上げれば、帝都では久しく見えなかった満天の星々が輝いていて、その光景に見惚れる。しばらくそうしていると、後ろから足音が近づいて来た。



「すごいね。帝都ではこんなにたくさんの星を見たことがないよ」



 振り返れば九条くんがこちらへ歩いて来ていて。そうしてそのまま私の隣で立ち止まる。



「……ごめん。俺が余計なことを言ったから、また君を悩ませてしまった」



 眉を下げて謝る九条くんに、私は首を振る。



「ううん。九条くんの言う通り、お母さんから妖力を感じないのは事実だもん。当たり前過ぎて、今まで不思議にも思わなかったけど、変だよね。半妖でもないのに……」



 実は夕食は食べている間、私はずっとお母さんの妖力を探っていた。するとやはりというか、九条くんの指摘通り、お母さんから妖力は一切感じなかった。


 どうして今まで気がつかなかったんだろう?


 私が周囲に半妖であることを隠して人間として生活して来たのと同じように、お母さんも周囲に人間と偽って暮らしてきた。

 だけどそれは、本来あり得ないことだ。妖怪は半妖と違って、妖怪であることを隠すことは出来ないのだから。



「…………ぅ、っ」


「?」



 考え込んで溜息を漏らすと、横から苦しそうな声がする。見れば九条くんがしゃがみ咳き込んでいて、私も慌ててしゃがんで彼の背中をさすった。



「大丈夫!? 九条くんっ!!」



 九条くんの様子を見ながら、背中をさする手に氷の妖力を込める。すると九条くんの荒い呼吸が、みるみるうちに鎮まっていった。

 それからしばらくして、息を整えた九条くんが小さく呟いた。



「……ごめん」


「いいって! その為に九条くんを無理矢理ティダに連れて来たんだからさ!」


「はは……、それもそうだね」


「…………」



 九条くんが軽く笑って黙り込む。


 ……ん? 


 なんだろう? なんとなく微妙な雰囲気が辺りを漂う。もしかして私、何か余計なことを言ってしまっただろうか……? 

 気まずさを感じて話題を変えようと、私はとっさに話題を探す。



「そ、そういえば! 雨美(あまみ)くんと夜鳥(やとり)くんは、今頃それぞれワビ湖とオモイ沢だよね! いいよね避暑地って、憧れるなぁー!」


「ティダだって帝都民にとっては、十分憧れのリゾート地だけどね」



 すると九条くんも話に乗ってきてくれて、内心胸を撫で下ろす。



「それ、朱音(あかね)ちゃんも言ってたよ」


「ああ。そういえば朱音に俺もまふゆとティダへ行くことを伝えた時、散々羨ましがられたな」


「あはは。今年は演劇部の舞台セット作りで忙しいみたいだけど、来年は朱音ちゃんも来てくれたらいいなぁ……」



 話ながらみんなの顔が頭に浮かんで、クスリと笑う。


 ――その時だった。


 ゴウゴウと上空から何かの音がして、私達の頭上が人工的な光で照らされたのは。



「眩しっ!? えっ、えっ、何!?」


「あれは……方舟(はこぶね)? なんでこんな時間に……」



 驚いた私達が空に浮かぶ方舟を見上げれば、船体からひょっこりと見覚えのある人影がこちらを見下ろした。



「ああー! まふゆちゃんに神琴(みこと)様だぁー!!」


「あ、朱音ちゃんっ!?」



 たった今噂をしていた、ここにいる筈の無い人物の登場に、私の頭がハテナでいっぱいになる。



「お、ホントだ、雪守じゃん!」


「九条様もやっぱり一緒だね」


「うう……。ようやく着いたんですか……? 方舟って初めて乗りましたが、こんなに酔うんですね……」


「いや、木綿(もめん)の乗り心地ほどじゃねーよっ!」



 わいわい言いながら朱音ちゃんの横からずらずらと顔を出すのは、夜鳥くんと雨美くんに、木綿先生。お馴染みの生徒会のメンバーで……。



 なんで、なんで……!



「なんでみんながティダに居るのぉーーっっ!!?」



 全員の顔を視界に収めて混乱した私の大絶叫が、静まり返った小さな田舎町に盛大にこだました。



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