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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第二章 南国の島ティダと雪求める人魚

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1話 雪女と妖狐と南国の島ティダ

第二章始まりました!

是非最後までお付き合いください。



 見渡す限り一面に広がる澄み渡った青い空。そして眩しいくらいに真っ白な砂浜。更に忘れてはならないのが、エメラルドグリーンに輝く美しい海。


 空気を胸いっぱいに吸い込めば、懐かしいハイビスカスの甘い匂いが体全体に行き渡る。


 ついに、ついに……。



「ティダに帰って来たーーっ!!」



 感極まって叫べば、空飛ぶ方舟(はこぶね)を運転している赤鼻の天狗(てんぐ)のおじさんの軽快な笑い声が、小さな舟いっぱいに響き渡った。



「あははははははっ! 元気でいいねぇ! なんだい嬢ちゃん、もしかしてティダが故郷なんかい?」


「はい! 普段は帝都に住んでいるので、帰って来たのは半年振りなんです!」


「おーそうかい! そりゃ嬉しい訳だ。じゃあそっちの(・・・・)兄ちゃん(・・・・)もティダ出身なんかい?」



 ――〝そっち〟


 そう言って天狗おじさんは、私の隣に立つ人物へと視線を向ける。

 するとその視線の先、話しかけられた白銀の髪を風に(なび)かせた美貌の男は、琥珀のような金の瞳をふわりと緩め、答えた。



「いえ、俺は帝都からの旅行者です。今日は彼女の帰省に同行させてもらいました」


「おおーっ、そうかい! いやぁー若いっていいねぇっ!!」


「?」



 突然おじさんが妙にテンションを高くして、ヒューヒューと(はや)し立ててくる。意味が分からず首を傾げれば、更におじさんは言葉を続けた。



「恋人と里帰りなんて青春だねぇ! はぁー、オレっちも若ぇ頃はそりゃもうなぁ……」


「こっ……!!?」



 驚き過ぎて思わず変な声が出た。


 え、恋人?? おじさん今、私達のこと恋人って言った!? いやいや違うんです! 私達はただの友達男女二人で旅行しているんですっ!! 


 そんな言葉が頭の中を駆け巡るが、今の私達を客観的に見たら、そう勘違いされるのも無理もないのだと気づいて、開けかけた口を閉じる。



「~~~~っ」



 いやでも! 恥ずかしいものは、恥ずかしいっ……!!


 顔がジワジワと火照るのを感じながら隣の人物を伺えば、美貌の男――九条神琴(くじょうみこと)はいつもの涼しい顔のまま。おじさんの冷やかしなど、まるで気にしていない様子だ。

 それにホッとするような、でもどこか寂しいような、複雑な気持ちがモヤモヤと私の心をかき乱す。



 ――そう。


 私、雪守(ゆきもり)まふゆは夏休みに突入したこの日、半年振りに故郷であるティダへと帰省していた。九条くんと共に(・・・・・・・)


 何故そうなったのか。


 それは夏休み前最後の生徒会に(さかのぼ)る――。



 ◇



「明日からいよいよ夏休みだけどさー。みんなはどう過ごすの?」



 生徒会の会議もひと段落した頃。はじまりは雨美(あまみ)くんの、そんな何気ない一言からだった。



「ちなみにボクはワビ()に行くよ」


「えっ、ワビ湖!? いいなぁ!」



 有名な避暑地の名に資料を読んでいた手を止めて、私は顔を雨美くんに向けた。

 ワビ湖といえば日ノ本帝国(ひのもとていこく)最大の湖だ。貴族が涼を求めて夏の間過ごす避暑地としても有名で、一度は行ってみたい観光スポットである。



「あーオレは今年、オモイ(ざわ)に行くわ」


「ええっ! オモイ沢!? 最高じゃん!」



 今度は夜鳥(やとり)くんから、ワビ湖と同じく有名な避暑地の名が飛び出して、またも私は食いついた。

 オモイ沢といえば、皇族も夏場は静養に訪れるという由緒正しき避暑地である。最近は女子に人気のスイーツ店も多く立ち並んでいるらしく、こちらも一度は行ってみたい観光スポットだ。


 さすが貴族コンビ。二人とも夏休みは避暑地で過ごすのか。



「はぁ〜~」


「ん?」



 感心していると、向かいから深ぁ〜い溜息が聞こえたので、そちらに視線を向ける。



「ワビ湖にオモイ沢……。はぁー、羨ましい限りです。僕なんて夏休み中も仕事ですよ。あぁーなんで教師って、夏休みも仕事なんでしょうねぇー……」



 木綿(もめん)先生(せんせい)がそうしみじみそう呟いて、遠い目をした。

 そっか、先生は夏休み中も仕事なんだ。気の毒ではあるが、長期休暇は学生の特権である。有り難く有意義に過ごさせて貰おう。



「雪守ちゃんは実家に帰るんだよね?」



 こちらを見て言う雨美くんに、私は頷く。



「うん。明後日にはティダに帰るつもり。お母さんを一人にしておくと家が荒れ放題になるから、早く片付けに行かないとだし」


「まふゆのお母さんって、本当に話を聞く度にとんでもない人物像が出てくるね」



 クスクスと笑う声に視線を横にずらせば、先ほどまでみんなの話を聞いているだけだった九条くんが、楽しそうに笑っている。

 そういえば前に学食で、九条くんにはお母さんの数々の酷いエピソードを披露したんだったか。



「九条くんは、夏休みどうするの?」


「俺はいつも通り寮で読書でもして過ごすかな。実家は知っての通り、あまり寄り付きたくないしね」


「あー……そっか」


「そういえば九条様って、寮に入られているんだったね」


「あの騒動の直後に聞いた時は驚いたけど、まぁ確かにあんなヤベー当主が居る屋敷じゃあ、それも納得だよなぁ」



 しみじみとした様子の夜鳥くんの言葉に、私も全面的に同意する。

 まだ記憶に新しい、九条くん退学騒動。その中で三大名門貴族である九条家のお屋敷に私達生徒会は乗り込み、私は妖狐一族当主、九条(くじょう)葛の葉(くずのは)と対峙した。



『そうじゃな、少々唐突過ぎたか。まずは挨拶(あいさつ)をしておこう。(わらわ)は九条神琴の母で、妖狐一族当主、九条葛の葉。以後見知りおきを願おう』



 九条くんの〝母〟と名乗りながらもその見た目は幼く、僅か10歳程度の少女しか見えない。しかしその話し方はとても老生していて、相対した者に異様な印象を与える。



『妾は神琴の親ぞ? 親が子をどうしようが、妾の自由であろう』



 謎理論で嫌がる九条くんを屋敷の地下室に繋いだ上に、私の大親友、朱音あかねちゃんをも傷つけた張本人。

 確かにあのトンデモ当主のいる屋敷になど帰れる訳がない。ただでさえ九条くんは病を患っているのに、あの屋敷で過ごしたらますます悪化すること間違いなしだ。

 言ってから、悪いことを聞いてしてしまったと反省する。



 …………ん?



 あれ? でもちょっと待って。何か根本的なことが抜けてない??

 そもそも私がティダに行ったらその間、九条くんが発作を起こした時に癒すことが出来ないんじゃ……?



「――――っ!!」



 思い至った事実に愕然とする。


 そうだよっ!! ティダに帰れることに浮かれて、九条くんの病気のことをすっかり失念していたとか、バカか私っ!!?



「……まふゆ? なんか凄いしかめっ面になってるけど、大丈夫?」


「だ、大丈夫……!」



 九条くんに指摘されて、私は慌てて表情を緩める。

 い、いかん! また考えてることが顔に出てた。前にも九条くんに指摘されたのに。ぐいぐいと頬を引っ張って、私は唸る。

 とにかく生徒会が終わったら、九条くんとちゃんと話をしなくっちゃ!!


 そう心に決めて、私は会議を再開するべく資料を片手に口を開いた。



 ◇



「――え? 俺のことなら気にしなくて大丈夫。それよりまふゆは、お母さんに元気な姿を見せておいで」



 そうして生徒会が終わった後。すっかり日課となった九条くんの転移で寮の彼の部屋に到着した際に、私は早速話を切り出した。

 しかし思いの外あっさりと大丈夫だと言う九条くんに、何故か私の方が焦って言い募る。



「だ、大丈夫って……! 毎日最低でもニ回は発作を起こしているんだよ!? 絶対大丈夫な訳ないじゃん!!」


「夏休み中は部屋でずっと寝ていられるし、発作も時間が経てば徐々に落ち着いてくるから」


「でも……っ!」


「既に契約関係は破綻して、今はあくまでまふゆの厚意に甘えている状態だ。そんなに俺のことを気にしなくていい」


「…………」



〝契約関係は破綻〟……。


 その言葉にぎゅっと胸が詰まる。



『今のって妖力だよね? もしかして雪守さんって……妖怪?』



 はじまりは、ひょんなことから九条くんに私が雪女の半妖であることを知られ、逆に九条くんが病を患っていることを私が知ったから。それで互いの秘密を守る為、私達は契約関係になったのだけど、でもそれは九条葛の葉に私の秘密が知られたことで崩れてしまった。


 それでもなお私が九条くんに妖力を使い続ける理由を、九条くんは〝私の厚意〟だと思っているみたいだけど、ちょっと違う。



『……分かっておるのか? その楽しい楽しい時間にも、必ず終わりが来ることを』



 あの地下室で言い残した、九条葛の葉の言葉がまだハッキリと耳に残っている。

 九条くんはただの当て付けだと言ったけど、私にはとてもそうは思えなかった。



「……まふゆ?」



 黙り込んでしまった私の顔を、九条くんが覗き込む。心配そうなその表情は、本当に私を気遣ってくれているのだと感じる。さっきの言葉だって私の為。分かってる。だけど、だからこそ悔しい。


 だって私達は色んなトラブルを一緒に乗り越えてきた仲間じゃないか! それなのに一番苦しい時に頼ってくれないのは、あまりに寂しいよ……!!



「あっ、そうだ!! なら九条くんが私と一緒にティダに来れば、解決じゃない!!」


「えっ!?」


「よし、決めた。そうしよう!!」


「ちょ……っ、ちょっちょっ、まふゆ!?」



 名案に自画自賛する私の両肩を九条くんがガッチリ掴んで、こちらを妙に真剣な顔で見つめてくる。

 肩に指が食い込んで痛いんですが。



「俺も一緒にって……、意味分かって言ってる? 君のお母さんには俺のことをどう話すつもり?」


「お母さんのことなら大丈夫だよ! お客さんの一人や二人、全然気にしないから!!」


「いや、そういう意味じゃないんだけど……」


「はーっ、そうと決まれば楽しみー!」



 九条くんが横でまだ何かゴニョゴニョと言っていたが、憂いの消え去った私の頭の中は、すっかりティダ一色だった。


 こうして私は、(強引に)九条くんとティダに行くことになったのだが――。



 ◇



 天狗のおじさんの冷やかしに、ようやく私は九条くんがなんであの時、何度も何度も念押ししてきたのかを理解した。


 ど、どうしよう……!? 単に九条くんのことが心配な一心だったから、私達が周りからどう見られているかなんて、考えたこともなかった……!!

 このまま九条くんと一緒に帰ったら、お母さんなんて言うだろう……!?



 いつもみたいに笑い飛ばす? それとも――。



 九条くんを連れて行くことは、手紙でお母さんに事前に伝えてある。しかし例によって返事は来ていないし、恐らく読んでいるかも怪しい。つまりは出たとこ勝負だ。



「ううう……」



 自業自得ではあるが、内心頭を抱えていると、天狗のおじさんの朗らかな声が前方から響く。



「おーい、嬢ちゃん達! 目的の住所に到着だぞぉー!」


「えっ、もう!?」



 まだ心の準備が!! と思いつつ、方舟から身を乗り出せば、確かに見覚えのある赤瓦の屋根が見える。

 私の苦悶をよそに、空飛ぶ方舟がふわふわと小さな家の前へと降りようとしていた。



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