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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第一章 はじまりの契約と妖狐の秘密

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23話 雪女と生徒会と消えた妖狐(1)



 その異変に気がついたのは、すっかり日課となった朝の保健室に来た時だった。



「あれ? 九条くん、まだ来てないのかな?」



 いつもなら私より先に来てベッドで寝ている九条くんが、今日はまだ来ていなかったのだ。


 私と九条くんは同じ寮に住んではいるが、朝一緒に登校することは無い。それぞれ寮を出る時間帯が違うし、毎朝一緒に保健室へ入って行くところを誰かに見られでもして、あらぬ噂を立てられない為でもある。

 そんな訳で、待ち合わせ時間は特に決めていなかったが、朝一番に保健室に向かうことはお互いに暗黙の了解だった筈なのだが……。



「まさか珍しく寝坊したとか?」



 真っ先に浮かんだ想像を、いやいやとすぐに打ち消す。だってあのいつも涼しい顔をしている九条くんが寝坊とか、似合わないしあり得ないにも程がある。

 きっと今日はたまたま遅いだけ。待っていればすぐに現れるだろう。そう結論づけて、出来た時間を潰すため、私は参考書を開く。



「早く来ないかなぁ……」



 しかし結局始業のチャイムが鳴っても、九条くんが保健室に現れることはなかったのである。



「……ひょっとして保健室に寄らずに、教室に居るのかな」



 始業のチャイムを廊下で聞きながら、私は保健室を出て、とぼとぼと一人教室へと向かう。


 もしかしたら今日は私の妖力が必要ないくらい、元気だったのかも知れない。

 だったら「心配するから先に言ってよ!」って、少し怒ろう。でも、ちゃんと元気な顔を見れたら許してあげようかな、なんて考える。


 だから――。



「雪守さん、どうしたんです? いつも早い君が、遅刻なんて珍しい」



 だから、教室に入ってすぐにポッカリと空いた九条くんの席が視界に飛び込んで来た時、私は木綿先生の声にすぐさま反応することが出来なかった。



「…………」


「……雪守さん?」


「あっ!? 遅くなってすいませんっ! ちょっとぼんやりしていたみたいで……!」



 教室に入るなり立ちすくむ私に何事かと、ヒソヒソと教室内のあちこちで囁き合う声がする。

 その声に気まずさを感じて視線を彷徨(さまよ)わせれば、既に席に着いていた雨美くんと夜鳥くんが、こちらを伺っているのが見えた。



「今日は九条くんが体調不良でお休みだとご実家から(・・・・・)連絡がありましたし、もしかして雪守さんまで体調を崩して休みなのではと心配していたんですよ。特に君は昨日、全校集会で倒れているし」


「はい、ご心配お掛けしてすみません」



 ご実家(・・・)? 昨日九条くんは確かに寮へ帰った筈だけど……? というか、体調不良って……。


 木綿先生の言葉に違和感を感じて、咄嗟に問い掛けようと口を開きかける。しかしここは人が大勢いる教室だし、例え聞いたところで以前と同じで私に詳しいことを教えてくれることは無いだろう。そう考えて、直前で言葉を飲み込んだ。

 そしてそのまま自分の席に着くため、木綿先生の横を通る。



「放課後、生徒会室で話しましょう」



 すると小さく。まるで囁くような木綿先生の声が、ポツンと私の耳元に落ちてきた。



「え……?」



 唐突に言われた言葉の意味を理解出来ず、思わず木綿先生を振り返れば、いつものふにゃふにゃとした締まりの無い表情をしている。



「さぁみなさん! おしゃべりはそこまでにして、そろそろ朝礼を始めましょう!」



 そう言って未だにザワつく教室内を静かにさせた木綿先生は、すっかり固まっていた私の背中をそっと押す。



「ほら、雪守さんも早く席に」


「は、はい……」



 いつもの優しい、けれど有無を言わせない態度。それに私は戸惑いながらも、大人しく席に着く。


 何を話すとは木綿先生は言っていない。けれど間違いなく、〝彼〟のことであるのは明白だった。


 これから何かが起きようとしている。


 確信めいた予感に、心がザワザワと騒めいた。



 ◇



 そうして待ちに待った放課後。私は一人、生徒会室の前で(たたず)んでいた。



「すー、はー……」



 深く深呼吸する。どうやら柄にもなく緊張しているみたいだ。


 前に私が九条くんのことを聞いた時、先生は私には知ってほしくないと言っていた。にも関わらず、今日になっていきなり話すと言い出したのは、やはり九条くんの身に何かあったからなのだろう。


 では、その〝何か〟とはなんなのか?

 そして妖狐一族が学園、ひいては貴族達に忌避(きひ)されている理由とはなんなのか?


 ずっと(くすぶ)っていた疑問がついに解消される予感に、知らずゴクリと喉が鳴る。


 ちなみに今日の生徒会は、適当な理由をでっち上げて無しになった。雨美くんと夜鳥くんには、木綿先生から伝えておいてくれるらしい。

 二人には悪いが話がどう転ぶか分からない以上、巻き込む訳にはいかないだろう。


 そう考えて、生徒会室の扉に手を掛けた時だった。



「――副会長、今日の議題は?」



 唐突に背後から投げかけられた問いに、私はピシリと固まる。


 え? なんで? 今日の生徒会は無しになったんだよ?? 

 聞き覚えのあり過ぎる声に、恐る恐る振り返る。するとそこにいたのは、案の定――。



「や、夜鳥くん……」


「よお」



 いつもの黄色いツンツン頭を指先で(もてあそ)びながら、夜鳥くんが私の後ろに立っていた。そして驚きのあまり動けない私をジッと見た後、いつかのような悪い顔をして見せる。



「聞いたぜ? なーんか、木綿と悪だくみすんだろ? オレも混ぜろよ」


「悪だくみって……」



 なんて人聞きの悪い。ただ九条くんのことを話すだけだ。ていうかなんで木綿先生と話をすることがバレてんだ。ニヤリとした表情に嫌な予感がして思わずたじろぐ。


 というかこの流れ、なんとなく先の展開も読めた。こうなったら一旦この場を離れて、他の場所で木綿先生と落ち合うしかない……!


 とっさに頭の中でそう作戦を立てる。



「議題なんてそりゃもちろん、九条様のこと……でしょ? 雪守ちゃん」



 しかし更に上がったもう一人の声によって、私の作戦は霧散(むさん)した。

 ここまでくれば、もはや誰の声かなど言うまでも無いだろう。



「あ、雨美くん……」



 やはりというか。目の前にいたのは、いつものようにツヤツヤな青い髪を揺らす雨水くんで。



「うう……ぐす、雪守さぁ〜ん!」



 そして雨美くんの後ろには、何故か胴体をぐるぐるの簀巻(すま)きにされた木綿先生が床に転がって大泣きしている。

 それら全てを視界に収めた瞬間、私は今自分が置かれている状況を全て察した。



「ったくよー。水臭ぇじゃねぇか、雪守。オレら抜きで話を進めようなんてな」


「そ、それは……」


「全くだよ。朝の二人の意味深な会話、ボク達も見てたのにハブにするなんて薄情だねぇ。……木綿(もめん)先生も、覚えておいてよね」


「おっ、お手柔らかにぃ……!」



 ニコニコと柔和な笑顔を浮かべながら、身動きの取れない木綿先生を見つめる雨美くんに、先生が恐怖ですくみ上がった。

 その様子にやっぱりこの二人を出し抜こうなんて無謀だったかも知れないと、今更ながら思い知る。



「……別に薄情とか、ハブにするとか、そういうつもりじゃなかったよ。ただ、九条くんに何が起きたのかイマイチ分からないから、二人を不穏なことに巻き込みたくないと思ったの」


「「はぁ……」」



 素直にそう言えば、夜鳥くんと雨美くんが盛大に溜息をついた。


 なんだ、その心底呆れた顔は?



「だからそれが水臭ぇって、言ってんだよ!!」


「九条家が不穏なのは、ボク達だって貴族の端くれだし、ちゃんと分かってる。その上でボク達は君らと一緒に行動したい。……生徒会の一員として」


「…………」



 二人の言葉に思わず押し黙る。


〝生徒会の一員〟


 確かにもし私が二人の立場だったら、黙って無茶をしようとしてるって知ったら、間違いなく怒っていただろう。



「ごめん、二人とも」



 しょんぼりと俯く。私は夜鳥くんと雨美くんにとても失礼なことをしてしまった。

 九条くんは生徒会の大切な一員。決して私だけの問題ではなかったのに……。



「ま、分かりゃいいんだよ」


「そうそう。この際だし、ボクらが知ってる九条家のことも話すよ。雪守ちゃんだけ知らないのは、フェアじゃないしね」



 雨美くんの言葉にハッと顔を上げる。

 そうだ、九条家の黒い噂。木綿先生の話だけじゃない。私が九条くんについて知らなければならないことは、まだまだたくさんあるんだ……!



「うんっ! ありがとう! じゃあ二人にも九条くんのことで聞きたいこと、全部話してもらうからね!!」



 私が力強くそう宣言すれば、二人の表情もさっきまでの呆れたものから、優しげなものへと変わる。



「おう! なんでも聞け!」


「それでこそ雪守ちゃんだよね」



 そこでようやく私達は笑い合い、軽く小突いてくる夜鳥くんを(かわ)し、雨美くんと話しながら、ワイワイと生徒会室へと入って行く。



「……ん?」



 そこでふと、あることに気がついた。


 はて、誰か忘れているような……?



「あのー……話がまとまったところ申し訳ないんですが、僕はこのまま放置ですか……?」


「あ」



 木綿先生が廊下に簀巻きで転がったまま、所在なげに声を上げた。



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