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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第一章 はじまりの契約と妖狐の秘密

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17話 雪女と妖狐と舞踏会の夜(2)



 うちの高校は歴史が古く、歴代の皇族方や名だたる貴族が通う由緒正しき学校だ。校舎や敷地内の建物は気品と格式を感じるものばかりで、中には過去に皇族方が使用して現在では使われていない建物もある。

 今回の舞踏会の会場はそんな建物のひとつで、昔はこの高校に通う皇族貴族がダンスパーティーで楽しんだとされる、西洋建築を参考に建造された洋館であった。



「わっ! すっごい生徒の数! 有志の集まりって言ってたけど、かなり本格的」


「好評なら来年以降も考えるって部長さんが言ってたけど、これなら来年もありそうだね」



 私と朱音ちゃんが洋館の中に入ると、思った以上に大勢の生徒が楽しそうにおしゃべりしている。制服姿の生徒が大半だが、ちらほら私達のようにドレスやタキシードを身にまとった者達もいた。


 会場に入る前に受付をとのことなので、指示された通り受付に向かい、台帳に名前を書く。すると書き終えたところで、受付の人から二枚の紙を渡された。



「? これは?」


「今年の文化祭で一番輝いていたと思う人を、男女それぞれ一人ずつ、投票をお願いします。結果は舞踏会終盤で発表しますので」

 


 へぇ。面白そうだな。


 女子はもちろん朱音ちゃんに決まっている。一人でポスターにパンフレットに看板にと文化祭に花を添えた功労者だ。妥当な人選だろう。


 じゃあ男子は……。



『だからこそ、雪守さんにちゃんと言いたいんだ。あの時俺を探してくれて、俺の世界を変えてくれてありがとう――』


「――――っ!!」



 パッと浮かんだ顔を消し去るように、勢いよく私は頭を振る。ていうか、なんでその場面が今浮かんだ!? 文化祭で頑張ってた男子なんて、他にもいっぱいいるじゃん!! 

 むしろ九条くんなんて、親衛隊から私を守ったり、喫茶店で私を守ったり、守ったり、守ったり……。


 ……あれ? ちょっと待って。

 もしかして私、実は九条くんにすっごい守ってもらってるんじゃない!?



「…………」



 驚愕の事実に愕然とする。


 そして衝撃に突き動かされるままペンをサラサラと動かし、〝九条神琴(くじょうみこと)〟と用紙に書いていた。


 ……まぁその、罪悪感が少しばかりあったので。


 そうしてなんとか用紙に記入を終えた私は、その紙を受付の人に渡す。すると朱音ちゃんも書き終えたのか、こちらを見て興味津々に問いかけてきた。



「まふゆちゃんは誰に投票したの?」


「もちろん朱音ちゃんに決まってるじゃん!」


「もうっ! まふゆちゃんは相変わらずなんだからぁ」



 私的には至極当然な答えなのだが、朱音ちゃんには困ったように笑われてしまった。

 一瞬呆れられたかと思ったが、「わたしはまふゆちゃんに投票したんだよ」と可愛く教えられて、噴き出しそうになる鼻血をなんとか堪えた私を褒めてあげたいと思う。


 そんなこんなで、私達はようやく会場へと足を踏み入れたのだが、



「――――!」


「わあっ! すごい……」



 会場内はさすが皇族が元々使っていた場所とあって、煌びやかなシャンデリアに絢爛豪華(けんらんごうか)な内装。それだけでも圧倒されるのだが、更に大勢の男女が楽しげに歓談するその様子は、まさに本場貴族の舞踏会もかくやである。

 もちろん私は本物の舞踏会など見たことは無いが、もしここに制服を着た生徒達がいなければ、きっととんでもないところに来てしまったと、逃げ出していたところであろう。



「ん……?」



 それにしてもジロジロと、何やら不躾(ぶしつけ)な視線を多く感じる。まさか場違いだと目で警告されているのだろうか? 



「違うよぉー! みんなまふゆちゃんに見惚れているんだよ。ほら男の子達、みーんな顔赤い」



 しかし隣を歩く朱音ちゃんにそう言うと、何故かおかしそうに笑われてしまう。

 それを言うなら〝朱音ちゃんに見惚れて〟が正しいだろうに。


 話をしながら会場を歩いていると、私達はガラガラの料理コーナーへとたどり着いた。

 それに私は驚き目を見開いて叫ぶ。



「えっ!? 料理がある! 舞踏会って料理もあるの!?」


「ふふ、お腹空いたね。ちょっと食べようか」



 どれも色とりどり、見たことのない料理ばかりだが、上品なことだけは分かる。こんなにも美味しそうなのに、みんなおしゃべりに夢中で全然料理に手をつけていないとは、なんとも勿体無い話だ。



「わ! これ美味しい! 高級な味だ!」



 とりあえず食べてみたいものを皿に盛ってパクパク口に運ぶと、あまりの美味しさに顔が綻ぶ。



「これはゼリー寄せで、それはローストビーフだね」


「へぇー! ローストビーフ!」



 美味い美味いと料理の名前も分からずパクつく私に、朱音ちゃんが一つ一つ丁寧に名前を教えてくれる。さすが朱音ちゃん、博識だ。


 そうして珍しい料理にすっかり夢中になって食べていると、何やら綺麗な音楽が流れ始めた。



「ん……?」


「ダンスの時間が始まったんだよ」



 首を傾げると、またも朱音ちゃんが教えてくれる。どうやら吹奏楽部がこのために生演奏をしているらしい。

 するとさっきまで歓談していた男女が、一人、また一人と手を取り合い、ゆっくりとダンスを踊り始める。その光景はなんとも幻想的で、思わずぼんやりと見惚れてしまう。



不知火(しらぬい)、踊らないか?」



 と、そこで一人の男子が朱音ちゃんに声を掛け、手を差し出した。それに朱音ちゃんも応えるように微笑んで、その手に手を乗せる。



「まふゆちゃんも折角だし踊りなよ」



 私にそう言い残して、朱音ちゃんは会場の中央へとエスコートされて行ってしまった。


 彼はあれだ、広報班で朱音ちゃんと一緒に看板制作をしていた男子だ。

 朱音ちゃんを取られたのは非常に業腹(ごうはら)だが、臨時メンバー募集の際に私の圧迫面接を突破した、真面目な男であることは間違いない。今日のところは舞踏会だということも加味して、見逃すことにしよう。 


 そう考えて、私はまた皿に盛ったローストビーフを口に入れた。



 ◇



「雪守さん! どうかおれと踊ってくださいっ!」


「ごめんなさい、私ダンスは苦手で」



 この台詞も何度目だろう?

 目の前の男子が落胆したようにガックリと肩を落として去って行く。

 ダンスが苦手ならこんなとこに来んなという話だが、それは不可抗力だったのだから仕方ない。


 ――あれから私は、朱音ちゃんに踊るよう言われたにも関わらず、男子からの誘いを全て断ってひたすら料理を貪っていた。

 まさに色気より食い気であるが、実際ダンスなんて踊ったこともないし気にしない。


 ぼっちだって気にしない。



「こんばんは、雪守さん。今夜は一段と美しいのに、さっきから食べてばかりですが、ちゃんと楽しんでます?」


「食べることが私の楽しみなので……て、なんです? その仮面」



 知っている声に振り向けば、タキシード姿にいつもの長い茶色のロン毛を緩く一つに束ね、何故か目元を仮面で隠した木綿先生がいた。

 思わず怪訝な顔をすれば、木綿先生が照れ臭そうに笑う。



「いや〜。舞踏会なんて楽しそうだし、僕も参加したいなーって思ったんです。でも先生がいたら、みんなが気後れしちゃうかなって思いまして、変装することにしたんですよ」



 てへへと笑う先生に一気に脱力したが、「思いっきり正体バレバレですけど」という言葉はなんとか飲み込んだ。



「それにしても九条くん達は来ていないんですかね? いたら賑やかで楽しかったのに」


「いなくて正解ですよ。楽しいどころかパニックになります」



 もし九条くんがここに居たら、今は上品に踊っている女子達が、瞬時に肉食獣へと豹変する様が容易に想像出来た。

 苦々しい顔でそう言えば、「確かにそうですね」と先生が苦笑する。



「ああ、それよりも先生」


「え?」



 私はまだ木綿先生に日中のお礼を言えていなかったことを思い出し、居住まいを正した。



「ドタバタしててあの場では言えなかったんですけど、喫茶店では助けに来てくださってありがとうございました。それに生徒会のステージに間に合ったのも、先生のお陰です。重ねてありがとうございました」



 頭を下げた私に、先生が慌てる。



「いやいや! お礼なんてとんでもない! 僕は君達の担任であり、顧問なんですから、助けるのは当然のことです! そもそも雪守さんには、九条くんのことでも無茶を言ったし、寧ろお礼を言うのは僕の方ですよ」


「ああ……。そういえばそんなこともありましたね」



 言われてみれば一月前(ひとつきまえ)のあの時、私は木綿先生に頼まれたから、九条くんを探しに保健室へ行ったのだ。それまでは隣の席にも関わらず、顔を合わせたことはほんの数回しかなかった。

 それがまさか契約関係になり、毎日顔を合わせることの方が当たり前だと思えるようになるなんて。なんだか不思議な感覚である。



「九条くんの授業及び生徒会の不参加は、上層部に恰好の退学理由を与えてしまう。彼自身の学校生活を守るためにも、どうしても彼に変わってもらう必要がありました」



 ふと、木綿先生が何かを思い出すように呟く。



「なにせ日ノ本高校(ひのもとこうこう)は皇族方と縁が深い。そこに妖狐一族の嫡男が入学するとなった時は、上層部が大反対しましたからね。その説得に奔走した者として、本当に雪守さんには感謝しています」


「え……?」



 それは本当に小さな呟き。

 でも確かに今、とても大事なことを言われたような――。



「せ、……」


「きゃああああーーーーっ!!!」



 問いかけようとした言葉は、しかし突然響いた悲鳴によってかき消されてしまう。


 なんだ大事な時にと、苛立ちまぎれに声の方を振り返れば、会場の入り口に立つ見慣れた三人の人影を見つけ、私は思わず目を見開く。



神琴(みこと)さまがいらっしゃったわ!! それに水輝くんと雷護くんも一緒よーーっ!!」



 そんな女子達の黄色い悲鳴を頭の片隅に聞きながら、私は衝撃のあまりしばらく動くことが出来なかった。



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