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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第一章 はじまりの契約と妖狐の秘密

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16話 雪女と妖狐と舞踏会の夜(1)



「まぁっ! まぁまぁまぁー! よっく来てくれたわねぇ、副会長さぁん! うふふ、腕が鳴るわぁぁ!!」


「お、お手柔らかにお願いします……」



 野太い声で両手をワキワキさせながら、目を輝かせる大柄な女性。

 彼女が見せてくれた衣装部屋には、ゆうに100着はありそうなドレスが吊り下げられていて、思わず顔が引きつるのを感じた。



「じゃあ、まふゆちゃん。部長さんに思いっきりドレスアップしてもらってね!」


「あ、朱音(あかね)ちゃぁん!!」



 行かないでという声にならない叫びは、野太い声によって遮られる。



「うふふ。怖がらなくても大丈夫よん。このアタシが貴女を、この世の全ての男を狂わす最高の女に仕上げてあげるわ」



 演劇部の部長だと、先ほど朱音ちゃんから紹介された女性はそう言って蠱惑的(こわくてき)な笑みを浮かべた。



 ◇



 私の身に何が起きたかというと、始まりは生徒会ステージでの九条くん挨拶(あいさつ)事件から数時間後のことだった。



「まふゆちゃん、お疲れさまー! もうお仕事終わりそう? 後夜祭の舞踏会が始まるから、行こうよ」



 日もすっかり落ちて、長いようで短かった文化祭が終わろうとしていた頃。

 校内の見回りをしていた私に、そう朱音ちゃんが声を掛けてきたのである。



「後夜祭の舞踏会??」


「あ、その反応。もしかして忘れてた?」



 朱音ちゃんがジト目でこちらを見上げる。そんな顔も可愛らしいが、嫌われでもしたら私の精神が死ぬ。慌てて私は言い募った。


 

「いやっ! 断じて忘れてた訳じゃないよ!! なんか今日はやたら濃い出来事が多くて、記憶の隅に追いやられていたというか……っ!!」



 主にメイド事件とか、九条挨拶事件とか、思い出せばキリがない。苦々しい顔で一日の出来事を振り返っていると、何故か朱音ちゃんがしょんぼりとする。



「ごめんね、まふゆちゃん」


「朱音ちゃん?」



 謝られる覚えはないので、首を傾げる。すると、「一人でまふゆちゃんがメイドさんをやっていたことだよ!!」と叫ばれた。



「わたしちょうどその時は脱出ゲームの店番してて、そんな騒ぎがあったなんて全然気がつかなかったんだよ。もし気づいていたら、まふゆちゃんを手伝いに行けたのに……」 


「え」



 朱音ちゃんが手伝いに……?

 それはつまり、朱音ちゃんがあのメイド服という名の別の何かを着るということ……?


 見たい。いやダメだ。


 私でさえあの癖の強い客達に難儀したのだ。朱音ちゃんがあの場にいれば客がどんな暴走をするのか、考えただけでも恐ろしい。

 朱音ちゃんがあの時店番で本当によかった。



「朱音ちゃんのその気持ちだけで充分嬉しいよ。心配してくれてありがとう」


「うー……。でも何よりも」


「ん?」


「わたしだって、まふゆちゃんのメイドさん姿を見たかったよぉーっ!!」


「……それは見せられたもんじゃないから忘れて」



 思わず遠い目をして、もうメイドから離れようと話を戻す。



「それより舞踏会だっけ。そういえば制服のポケットに景品のカードを入れて……」



 ゴソゴソとポケットに手を入れれば、すぐに目的のものが手に当たったので、引っ張り出す。

 〝後夜祭特別舞踏会の(いざな)い〟と美しい金色の文字で記された真っ白なカード。確かこのカードがあれば、後夜祭にて開かれる演劇部主催の舞踏会でドレスアップしてもらえるんだったか。



「演劇部の部長さんに、まふゆちゃんがカードを持っているって伝えたら、『直々にアタシがドレスアップする!』って、スッゴイ張り切ってたよ!!」


「ええ……?」



 演劇部の部長さんとやらは存じ上げないが、なにやら経験上とてもイヤな予感がする。


 それに何より……。



「私よりも朱音ちゃんのドレス姿が見たいよ! やっぱりこのカード、朱音ちゃんが……」


「もー! まふゆちゃんならそう言うと思った。心配しなくても、わたしも舞台の美術セット制作のお礼として、ドレスを着せてもらえることになってるよ!」


「ええっ!? そうなのっ!?」



 聞けば朱音ちゃん、生徒会主導の広報班での美術担当の他にも、文化祭で上演された演劇部の舞台セット制作にも助っ人として参加していたそうだ。

 朱音ちゃんが例の文化祭ポスターを描いているところを演劇部の部長さんが偶然目撃したらしく、その時に絵に惚れ込んだ部長さんから直々にスカウトされたらしい。

 そしてそれがキッカケで部長さんと親しくなったとか。


 その演劇部部長、見る目があるではないか。

 さすがは私の天使、朱音ちゃんである。



「ということで、わたしのことなんて気にしないで目一杯綺麗にしてもらって! 部長さんのメイク技術すごいから、きっとビックリするよ!」


「うう~……」



 そんな訳で結局私は観念するしかなく、朱音ちゃんに引きずられるようにして、ドレスアップ会場だという演劇部の部室へと行くこととなったのだった。



 ◇



「う~ん。赤い瞳に合わせた真紅のドレスもいいけど、紫の髪に合わせてブルー系、いえイエロー系かしら? ああん! 雪のように白い肌に映えるピンクも捨てがたいわぁ!!」



 野太い声を上げて体をくねらせる目の前の大柄な女性。彼女こそがくだんの演劇部の部長さんらしいのだが、私は小一時間彼女によって着せかえ人形にされていた。



「あのー、私は動きやすければ別になんでも……」


「ダメよっ! 舞踏会に出る女にとって、ドレス選びは命そのものよ!! いい加減な真似は許されないわっ!!」


「はっ、はいっ!!」



 部長さんのあまりの剣幕にビビり、大人しく引き下がる。

 ……そっか命か。命なら時間掛かるのは仕方ないな。



「副会長さん、次はこれを着てみて」


「はい! もぉなんでも着ますとも!!」



 そんな問答を挟みつつ、どれくらいの時間が経っただろうか……。

 ついに部長さんが一着のドレスを選び取った。



「これよぉ! これしかないわっ!!」



 ――それからのことはあっという間だった。


 体を剥かれ、揉まれ、締め上げられ、顔は剃られ、塗りたくられ、おまけに髪をひっつめられ。

 それはそれは何か妖術でも使ったかのような早業であった。

 ……やられる方としては堪ったものではないが。



「素晴らしい! 素晴らしいわ……!!」



 そう言って汗だくの額を拭いながら、部長さんが私の前に全身鏡を持ってくる。


 そこに映ったのは――。



「えぇ……」



 綺麗に編み込まれて結い上げられた紫の髪に、化粧を施されていつも以上に大きくなって見える赤い瞳。唇にも赤い紅が塗られていて。

 いつもの自分ではない、大人びた表情の私がそこにはいた。



「すごい……」


「うふふ。気に入ったかしら? 髪に合わせた紫のドレスの裾が、まるで花びらのように折り重なっているでしょう? 上から見るとドレス自体が一輪の花のように見えるデザインなのよ」



 鏡をまじまじと覗き込む私に微笑んで、部長さんが説明をしてくれる。

 確かに派手過ぎない落ち着いた色合いの紫のドレスも、ドレスに合わせた銀色のヒールと髪飾りも、全てが品良くまとまっており、施された化粧を引き立てていた。

 私をここまで大人な女に仕上げるとは。朱音ちゃんの言う通り、この部長さんのメイク技術は確かに相当なものらしい。



「まふゆちゃーん、どう? 入ってもいい?」


「!」



 と、そこで部屋の外から朱音ちゃんの声がしたので「大丈夫」と応じる。

 するとすぐに扉が開き、その瞬間私は歓喜した。



「うわあぁぁ!? 朱音ちゃん可愛過ぎィ!! 記録! 記録に収めないとッ!!」



 部屋に入ってきた朱音ちゃんは、待望のドレス姿だった!!

 ふわっふわっのスカートが目を引くピンクのドレスに腰に付いた大きなリボン。ピンクの髪は上半分だけ編み込んで生花が差し込まれ、下はふわふわと肩に流している。

 いつもと違ってお化粧もしており、さながら春の妖精のような可憐な可愛さだ。



「可愛い!! 天使!? 妖精!? 朱音ちゃんって、本当にこの世の存在なの!?」



 興奮し過ぎて変態のように息が荒い私に、朱音ちゃんが困ったように笑う。



「もうっ、それはこっちの台詞なのに! まふゆちゃん綺麗過ぎだよ! こんな姿見たら、絶対男子全員まふゆちゃんを好きになっちゃう!」


「あはは、ありがと」



 大袈裟に褒めてくれる朱音ちゃんに笑ってお礼を言えば、朱音ちゃんがジッと私を見上げた。



「ん?」


「いいなぁ。まふゆちゃんって、本当にスタイルいいもん。身長何センチなの?」


「んー……確か165センチだったっけ」


「わぁ、いいなぁ! わたし152センチしかないよ~」



 ぶぅと朱音ちゃんが可愛く唇を尖らせる。

 ああ、唇ツンツンしたい。



「あらあら、165センチも152センチも可愛らしくていいじゃない。アタシなんて204センチだから、合う服を探すだけでも大変なんだからね~!」



 メイク道具を片付けながら野太い声で部長さんが私達の会話に交じる。確かにそれだけ高いと色々大変そうである。



「それよりもそろそろ舞踏会が始まる時間よ。さぁ、早くお行きなさいな」


「え? 部長さんは行かないんですか?」



 舞踏会の主催者なのに何故? と私が首を傾げれば、部長さんがまた「ふふ」と蠱惑的に笑った。



「うふふ。アタシはまだこれから(・・・・)ドレスアップしなきゃいけない人達が控えているから、それが終わったら行くわ」



 ◇



 部屋を去り際、部長さんにドレスとお化粧のお礼を言うと、「今宵を楽しんでねぇん!」とバチンとウインクしてくれる。

 本性はがしゃドクロだという演劇部の部長さんは、野太い声と大柄が特徴の、優しいオネェさんだった。



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