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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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番外 雪女と妖狐の甘い甘い放課後



 長引く残暑の過ごしにくさはとうに消え、少しずつ木々も紅葉し始めた今日この頃。

 珍しく生徒会が無い今日、私は放課後に九条家へと遊びに来ていた。



「おお。よお来たな、まふゆ。ちょうど良かった。この間そなたに仕立てた着物が届いたのじゃ。どれ、(わらわ)に着て見せてみぃ」


「あらあらまぁまぁ、姫様。まふゆ様がいらっしゃって嬉しいのは分かりますが、今お二人は〝お家デート〟なのです。お邪魔をしてはいけませんよ」


「なんじゃ三日月、失礼な! 妾は別に神琴達の邪魔をする気など……!」



 玄関に入った途端、葛の葉さんが出迎えてくれ、そのまま手を取られる。

 しかしそれを三日月さんがにこやかに制し、こちらへと微笑んだ。



「部屋に戻ってお茶にしましょう。神琴様とまふゆ様もお部屋に行っていてください。すぐにお茶をお持ちしますから」


「ああ。いつもすまないな、ばあや」


「あはは……。ありがとうございます」



 九条くんの奇病を私が全能術で治して以降、以前の態度は夢だったのかと思うくらい、葛の葉さんの態度は柔和になった。

 いつも九条家へ来る度に、何かと私を構おうと小さな少女の姿でちょこまかと着いてまわるので、相手が彼氏のお母さんだと分かっていても、つい微笑ましく思ってしまう。



 ◇



「それではお二人とも、ごゆるりとお過ごしくださいませ」


「ああ」


「ありがとうございます、三日月さん」



 九条くんの自室へと入ると、すぐに三日月さんがお茶を持って来てくれて、彼女はぺこりとお辞儀をして部屋を去って行く。

 そんなパタンと(ふすま)が閉まる音を聞きながら、私が座布団に座ってお茶を飲んだ時だった――。



「まふゆ、雨美と夜鳥にキスをされたというのは本当なのかい?」


「ごふぅっ!!?」



 唐突な九条くんの言葉に私は飲んでいたお茶を吹き出してしまい、ゴボゴホと咳き込んだ。



「な、な、急になん……っ! っゴホッ! ゴホッ!」


「ああ、ごめん。ちょっと小耳に挟んだものだから、つい。大丈夫かい? まふゆ」


「小耳って……、誰に聞いたの?」



 私は九条くんにハンカチで口元を拭われながら考える。

 雨美くんと夜鳥くんのキスっていうのは間違いなく体育祭の日……。葛の葉さんによって九条家に閉じ込められた私を、みんなが助けに来てくれた時のことに違いない。



『ま、妖獣姿だし、ノーカンだろ』


『ふぇっ!?』


『九条様には悪いけど、これぐらいのご褒美はないとね。ボク達だって頑張ったんだし』


『なっ、なな、なっ……!?』



 夜鳥くんも言っていた通り、二人は妖怪姿だったし、キスもほっぺにだしで、私もすっかり記憶が薄れていた。なのにまさか九条くんに知られてしまうとは。

 あの時は状況が状況だったし、そんな蒸し返すようなこと、あの場に居た誰かが安易に話すとは思えないんだけど……。



「聞いたのは九条家(うち)の暗部達からだよ。しかも〝皇女様を別の殿方に取られませんよう〟なんて、ご丁寧に忠告までしてきた」


「あ、あはは……」



 渋面を作る九条くんに私も思わず苦笑する。

 なるほど、そっかぁ。確かにあの時私達と対峙していたのは、九条家の暗部達だ。彼女達ならば私達のやり取りも全部知っているだろう。

 盲点だったなぁ……と内心思いつつ、私はそっと九条くんの様子を伺った。



「お……、怒ってる?」


「なんでそう思うんだい?」


「う。だ、だって、キスされたこと黙ってたし……」



 私の口元をハンカチで拭う九条くんの表情は穏やかで、パッと見は怒っているようには到底思えない。

 でも暗部から聞いたとはいえ、九条くんだってそれを胸に秘めておくことも出来たのだ。

 なのに敢えて私に尋ねたということは、そういうこととしか思えなかった。



「ごめんなさい」



 九条くんの気持ちを考えず、勝手に自分で判断して彼に伝えなかった。自分自身に置き換えたら、きった私だってモヤモヤしただろう。

 しゅんとして謝ると、九条くんはハンカチを下ろし、じっとこちらを見た。


 そしてそのまま私へと手を伸ばし――……。



「ひゃあっ!?」



 ドサッと背中に畳がぶつかる音がして、一瞬天井が見えたかと思うと、次には九条くんの顔が目の前に映る。

 それが彼に押し倒されたものだと理解した瞬間、私の頬は一気に熱くなった。



「なっ、ななななな……っ!?」


「〝怒る〟とは違うかな」


「――え?」



 恥ずかしさで彷徨(さまよ)わせていた視線を九条くんに戻すと、なんだか彼は複雑そうな顔でこっちを見ていた。



「あの時の大変な状況は見てない俺でも想像がつくし、あの二人がいい加減な気持ちでまふゆにキスしたんじゃないことも分かってる。だからそのことに怒っているんじゃないんだ」


「じゃあなん……」



〝なんでそんな顔してるの?〟


 そう聞こうとして、でもそれよりも早く九条くんが私の両頬に唇を寄せる。

 更にそれに驚く間もなく、今度は唇が塞がれてしまい、私は瞳を大きく見開いた。



「この肌も何もかも、全部俺のものなのになって思ってしまう。ただのつまらない嫉妬さ」


「〜〜〜〜〜〜っ!!?」



 唇を離し、そのまま頬を愛しそうに指でなぞられて、今の私の顔は真っ赤に違いない。

 だ、だってだって! そうやって悩ましげに笑う九条くんの色気がヤバ過ぎる!! 

 なんだかその熱に当てられて、今にも頭がボーッと茹だってしまいそうだ。



「…………バカ」


「まふゆ?」



 熱に浮かされ火照った体のまま身を起こし、私は九条くんにぎゅっと抱きつく。


 そして――。



「嫉妬なんてしなくても、私の全部は九条くんのものだよ。ヤキモチ焼きの九条くん」



 ちゅっと音を立てて、彼の唇にキスをした。

 


「…………」


「……まふゆ」


「な、何?」



 まだまだ慣れないキスに胸がドキドキと高鳴る。

 騒がしい心臓の音を感じながら私は名前を呼ばれ、彼と視線を合わせた。

 すると九条くんはふっと優しく微笑み――……。



「次はもっと深いキスがいいな」



 とんでもないことを言い出した。



「う、うわぁぁぁぁぁん!! 九条くんのエッチーーーーっ!!!」


「そりゃあエッチだよ。俺はまふゆ限定でヤキモチ焼きでエッチなんだ」


「!!?」



 な、なんだかサラッととんでもないことを言われた気がする……。

 奇病を克服し、九条家との因縁にも決着がついてからというもの、九条くんは少し変わった。

 お互いの気持ちを伝え合い、両思いになってからも感じていた遠慮が無くなったというか。彼の男性らしい一面を知ることが増えて、私は心臓はいつもドキドキしっ放しだ。



「こんな俺は嫌い?」


「……もう。そんなの、決まってる」



 答えが分かってて聞くなんてズルい。そう思うのに、敢えて私の口から聞き出そうとする九条くんが愛しい。

 私が九条くんを見つめるだけで、彼は私が何をして欲しいのかを察して、ぐっと息が詰まるくらいに強く抱きしめてくれる。



『起きて、九条くん』



 この涙が出そうなくらい優しい温もりが、一度は氷のように冷たくなったのを、私はよく知っている。

 だからこそ彼の言葉が、仕草が、何もかもが全て愛しくて堪らない。



「大好きっ……!!」



 瞬間巻き起こる全てを奪うような深い深いキスは、何よりも甘かった。



 番外 雪女と妖狐の甘い甘い放課後・了


お久しぶりです。

ラブラブなまふゆと神琴が見たくて短編を書きました。一緒にニヨニヨして頂けたら幸いです。

修学旅行編はもう暫くお待たせします。

始まりましたら、またどうぞよろしくお願いします。


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