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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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番外 父と娘のおかしな交流録

完結後もいいね、ブックマーク、評価を頂き、本当にありがとうございます!

感謝の気持ちを込めまして、本編後の番外編を書きました。楽しんで頂けたら嬉しいです。



 九条くんが長年の病から解放されて早ひと月。

 未だ周辺のゴタゴタが静まる気配はないが、私自身は以前と変わらずに元気に過ごしている。



「えーっと、こっちはもう要らないから捨てていいし。あ、こっちはまだ使うかも……」



 今日は九条くんとの楽しい遊園地デートを満喫した次の日。

 せっかくのお休みに私が何をしているかと言うと、寮にある自室で来たる引っ越しに備えた不用品の仕分け作業である。


 私が皇帝陛下の娘……つまり皇女であったことが発覚し、お母さん共々皇宮に移り住むことが正式に決まったことは、まだまだ記憶に新しい。

 そしていよいよその日が間近に迫り、こうして引っ越しの準備をしている訳である。



「あとで九条くんもお昼からお手伝いに来てくれるって言ってたし、それまでにはこのごちゃごちゃした荷物をある程度片しておきたいな……」



 そう呟いて、私は机に飾ってある写真立てへと視線を向ける。

 写真には私と九条くん、そしてウサギさんとクマさんがにこやかに写っていた。


 ハプニングもあったけど、とっても楽しかった遊園地デート。


 これからもあんな風にお出かけしたいけれど、でも私だけでなく、九条くんもこれから大きく日常が変わる。どれだけ二人の時間が作れるのかは未知数だった。



『――継ぐよ。葛の葉が言う〝新しい九条家〟それを俺は創り上げていきたいから』



 まだ学生の身で、三大名門貴族の当主を務めることになった九条くん。

 やはり今も何かと忙しいようで、休日は九条の屋敷に戻って一日留守なことが多いし、学校自体も早退することもしばしば。

 昨日の遊園地デートは、九条くんが頑張って時間を作ってくれた賜物(たまもの)だった。


 いくら健康体になったとはいえ、無茶ばかりして倒れてしまわないかと心配だが、そんな中でも私との時間を保とうとしてくれるのは、素直に嬉しかった。



「ふふ。今日は寮の台所を借りて、お昼ご飯用にいなり寿司作ってみたんだよね。三日月さんの味には全然及ばないけど、九条くん喜んでくれるといいなぁ」



 机に置いたお重に目を向け、ワクワクと来訪を待ち侘びていると、ついつい作業をする手がお留守になってしまう。

 それにいけないいけないと内心舌を出して、仕分け作業を再開した時だった……。



 ――コンコン



「!!」



 聞こえたノック音にすぐさま私は反応し、一目散にドアへと駆け出した。



「いらっしゃい、九条くん! 予定より随分と早かった、ね……」



 意気揚々とドアを開け、しかし私はピシリと体が固まった。


 何故なら目の前に居た人物は九条くんではなく、どこかで見た警備員の格好をした……。



「こ、皇帝陛下!!? なんでここに!?」



 指を差して思いっきり叫ぶと、陛下は焦ったように、人差し指を口元に当てて、「しーっ」と言った。



「こらこら、あまり大声を出してはならぬ。他の寮生達に気づかれる」


「へ、あ……、す、すみません……?」



 よく分からないまま謝れば、そのまま陛下は私の部屋の中へと入って来る。

 そしてパタンとドアを閉めると、私を見てにっこりと微笑んだ。



「数日振りだな、まふゆ。会いたかったぞ」


「は、はぁ……。陛下もお変わりなさそうで、よかったです。でもどうしてこんなところに? まさかお一人で来られたんですか?」



 全く今の状況が理解出来なくて疑問符を浮かべる私に対し、陛下が「ふふふ」と嬉しそうに笑う。

 


「まふゆが皇宮に来るまでももう残り僅かであろう? ならば今の内に可愛い娘がどのように暮らしていたのか、知りたいと思ったのだよ」


「可愛い娘……」



 思わずオウム返しをしてしまう。


 私が皇帝陛下の娘だと知って早一月あまり。

 一番変貌したと思うのは、この陛下の態度だろう。


 陛下はキョロキョロと部屋を見回し、何か考え込むような仕草をする。



「ふむ。その勉強机、もしかして皇宮に持っていくつもりなのか?」


「あ、はい。そのつもりですが……」


「しかし、だいぶ古ぼけているな。よし、この際だ。(けやき)の最高品質のものを新たに用意させよう!」


「えっ!? いやいや、まだまだ使えますし、そんな凄いの頂いても、私じゃ持て余しちゃいますよ!」


「そうか? ではその隣の古ぼけた本棚を……」


「間に合ってますっ!!」



 なんというか、甘い。甘過ぎるのだ。


 キリッとしていたはずの目尻を思いっきり下げて、とにかく私になんでも買い与えようとする。


 こういうのがお父さんなんだろうか?

 なんか違う気がする……。



「よし、まふゆは物は好まないのだな。では引っ越しの手伝いをしよう! ここにあるものをそこの段ボール箱に詰めればよいのだな」


「え、あ、陛下……!?」



 私が静止するのも構わず、嬉々として私の私物を段ボールに詰めていく陛下。

 そこには皇帝としての威厳もへったくれも無い。



『ずっと会えなかった娘を存分に甘やかしたいのよ。窮屈だろうけど、少し付き合ってやって』



 あまりの甘さに困惑し、思わずお母さんに相談した時に言われた言葉。

 今までの時間を取り戻したい陛下の気持ちは分かる。


 でも、まだ私の気持ちはそこまで追いついていないのだ。


 だって、陛下は……。



「陛下はどうしてお母さんと結婚したの?」


「――え?」



 これは宰相さんの話を聞いてからずっと気になっていたこと。



「聞いたよ、陛下には婚約者が居たって。なのにどうしてその人じゃなくお母さんを? 婚約者の人は悲しまなかったの?」



 九条くんの婚約者の有無でハラハラした者として、素直に陛下をお父さんだと喜べない気持ち。

 それは彼にお母さん以外の別の女性の影を感じるからだろう。



「は……」



 しかし真剣に問う私に対し、



「ははははははっ!!!」



 何故か陛下は大笑いし出した。

 それに分かりやすくムッとすると、「すまんすまん」と陛下が言う。



「確かに私には定められた婚約者が居た。だがアイツが悲しむなんて有り得ない! なにせアイツは長年の想い人であった、正宗(まさむね)の息子とめでたく結婚したのだからな!」


「へ……?」



 長年の想い人? 宰相さんの息子さん?


 え、じゃあ……。



「皇族の婚姻はまずはしきたりが第一であり、当人同士の気持ちは二の次。私自身はそれは皇位継承者として当然と考えていたが、そんな時に出会ったのだ。……風花(かざはな)と」


「お母さんと……?」


「ああ。初めての顔を合わせたのは、高校一年生の時だったか」



 私が目を瞬かせると、陛下はポツポツと昔のことを語り出した。



『へー、アンタが日ノ本帝国の次期皇帝? なぁーんか、子どもっぽいっていうか、威厳が無いわねぇ』


「生まれて初めて見る雪女。失礼な物言いもあの頃から健在で、一族を飛び出して帝都に来たという風花が、皇族という狭い世界の中で生きる私にはとても自由で眩しく感じた」


「へ、へぇー……」



 お母さん、そんな頃から怖いものなしだったんだ……。

 陛下が好意的に見てくれたから良かったものの、下手すりゃ不敬罪ものである。



「とはいえ、あくまでもその頃は友人。風花に妻になってもらいたいと思うようになったのは、三年の体育祭。借り物競走での出来事が契機だった」


「え、借り物競走?」


「風花が走者でな」


「あ、分かった! お母さんが陛下を借り出したんでしょ?」



 日ノ本高校の借り物競走にはカップルになるという逸話もあるし、二人も例に漏れずそれがキッカケで付き合ったのだろうか?

 ワクワクと話の続きを待っていると、しかし陛下はゆるゆると首を横に振ってそれを否定した。



「いや、違う。風花が借り出したのは紫蘭(しらん)だった」


「へぇっ!? で、でも、紫蘭さんは……」


「ああ、もちろん葛の葉が怒り狂ってな。それはもう酷い争いだった」


「ええぇ……」



 しみじみと言う陛下に対し、私の方はドン引きだった。

 なにせ当時から葛の葉さんと紫蘭さんは婚約者同士。なのになんでお母さんはわざわざ波風立てるようなことを……。


 私が微妙な顔をしていると、それを見た陛下が何故かくすりと笑った。



「だがな、もちろんこの話には裏がある。いつまでも素直になれない葛の葉の為に、風花が(はか)ったのだ」


「え……」


「アイツら二人は生まれながらに決められた婚約者。だがそれを越えて、葛の葉は紫蘭を慕っていた。しかし紫蘭もなかなか鈍い男でな。そういうキッカケでも無ければ、互いの想いを知ることも無かっただろう」


「そう、なんですね……」



 確かに葛の葉さんの性格を見るに、素直とは縁遠そうな感じだし、お節介もあながち必要だったのかも……。



「その時受けた風花の傷は、この前の比ではなかったがな。それこそ見事に腕をへし折られていた……」


「うわぁ……」



 葛の葉さん、やっぱりトンデモ当主だった。

 それにお母さん、ただ引っ掻き回すんじゃなくて、ちゃんと体張ってたんだ……。


 その後に起きた葛の葉さんとお母さん達の確執を思うと、なんだか切なくなる。



「……私はな、まふゆ。そうやってボロボロになりながらも、葛の葉と紫蘭が上手くいったことを心底喜ぶ風花を見て思ったのだ。〝この者は人の為に笑えるのか〟と」


「え?」



 人の為というなら、皇族である陛下の方がよほど常に心掛けているのでは?

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。陛下が困ったように笑う。



「実は私は皇族であり皇帝という立場だが、人の為に我が身を犠牲にする、そんな有り様を長年持てずにいた。だからそれを当たり前のように出来る風花がとても尊く、また愛おしいと感じたのだ」


「…………」


「だがそんな最愛の存在に対し(きさき)になるまで、そしてなってからも、大変な苦労をさせてしまった。だからこそ、大事にしたい。まふゆ、そなたもな」


「陛下……」


「風花の心、しっかりそなたにも受け継がれていて、私は誇りに思うよ」


「っ」



 くしゃくしゃと撫でられる頭。

 そのしっくりとくるような感覚に、〝ああやっぱりこの人は私のお父さんなんだな〟と実感する。



「まぁそんな訳で、そなたが心配したようなことは何も無い。なんならかつての婚約者とも会わせてもよいぞ。というか皇宮に住み始めれば、嫌でも会う機会はあるだろう。アイツらは夫婦で皇宮勤めの役人だからな」


「そ、ですか……」



 陛下はお母さん一筋。

 その言葉に偽りは無かった。

 

 それにホッとするような、ソワソワするような。不思議な感覚になっていると……、



 ――コンコン



 またドアをノックする音がして、「はい」と声を掛ければ、今度こそ九条くんが顔を覗かせた。



「まふゆ、引っ越しの準備は(はかど)った? 重いものは俺が……」



 言いかけて九条くんの体がピシリと固まる。


 そりぁそうだろう。なにせ目の前には日ノ本帝国の皇帝陛下が、何故か警備員の格好で段ボールに箱詰めしているんだから。



「ああ、そなたか。随分と気軽にこの部屋を訪ねて来たな。どうやらまふゆとは仲良くやっているようだ」


「ははは……。いえ、そんな……。恐縮です……」



 珍しく九条くんがしどろもどろに陛下に作り笑いを見せる。きっと陛下の顔が怖いからだろう。


 もうっ! 九条くんは陛下の親友である紫蘭さんの息子でもあるんだから、もっと友好的でもいいのに。


 どうやったら仲良くなるのかなぁ……。



「あ」



 そこで私は作っておいたいなり寿司を思い出す。



「そうだ、九条くん。屋敷からそのまま来て、お腹空いたでしょ? 私お昼にいなり寿司を作ってみたから、片づけの前に一緒に食べよう。ね、お父さんも」


「え」


「む」



 机に置いたお重の蓋を開け、にっこり笑って言うと、九条くんとお父さんが虚をつかれたように目を見開く。

 そして二人は互いに顔を見合わせながらもお重に手を伸ばし、いなり寿司を頬張った。



「ふふっ。どう?」


「美味しいよ、まふゆ」


「ああ、こんなに美味いいなり寿司は初めてだ」



 三人で小さな机を囲んでとる昼食。

 なんだか面白い絵面だけど、こういうのいいなって思う。


 九条くんとお父さんと。


 この小さな幸せを、もっともっと積み重ねていきたい。


 そう思う、今日この頃だ。



 番外 父と娘のおかしな交流録・了



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