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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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33話 九条神琴(4)



「あ、九条くん。例の人達(・・・・)また居るよ」


「ん」



 あれから休憩を挟みつつも、たくさんのジェットコースターに乗った俺達。多分コースター系は全部制覇したのではないだろうか?

 上機嫌なまふゆに俺の気分も上がるが、それをぶち壊すような不快な声がまたも聞こえてきた。



「うぅ……」


「うぇ」



 目深に帽子を被り、マスクにサングラス姿をした、例の奇妙な5人組の集団。

 彼らは俺達と全く同じタイミングで同じ乗り物に乗っているようで、既にまふゆも気づくくらい、どこに居ても彼らの姿が視界に入ってきた。



「おぇぇ」


「ぐぇぇ」



 しかも毎回乗り物酔いしてるのか、必ず全員えずいている。ジェットコースターが苦手なら、何故そうまでして乗るのか……。

 最初は新聞記者かと疑っていたが、それならばわざわざ俺達と同じ乗り物に乗る必要はない。

 むしろ乗っていては、カメラを構えられないではないか。


 ということは、彼らは記者ではない。


 それよりも5人という人数といい、どこかで聞き覚えのある声や背格好といい、俺の中に浮かんだ予感が、じわじわと確信に変わろうとしていた。



「それにしても、もう夕暮れだね。早いなぁ」



 視線を集団から空に移したまふゆが、顔を上げてポツリと呟く。

 つられて俺も見上げれば、確かに青かった空がもうすっかり赤かった。まふゆと居ると、時間が過ぎるのがあっという間に感じる。



「寮の門限もあるし、時間的に乗れるのはあと一つくらいだね」


「一つかぁ……。じゃあ、私が乗りたいやつに付き合ってもらってばっかりだったし、最後は九条くんが乗りたいのに乗ろうよ」


「そうかい? なら……」



 俺の視線の先にあるのは、大きな車輪の周囲に丸いゴンドラが取り付けられた乗り物。

 ゆったりと動くそれは、猛スピードで走るジェットコースターにはしゃいでいたまふゆには物足りないかも知れない。


 けれど、俺達のこれから(・・・・)を話すにはちょうどいい場所だと思った。



「最後はあれに乗ろうか」



 俺が指を差したのは――観覧席だった。



 ◇



「わぁ……!」



 ゴンドラに向かい合わせに乗り込み、ガラス張りの窓に両手をついたまふゆが、まるでミニチュアのように小さくなっていく街並みに歓声を上げる。



「すごーい! 建物も人も、ちっちゃい!」


「夕焼けに照らされていい景色だね」


「うんっ! 結構遠くまで見えるんだね!」



 俺の言葉にまふゆがウキウキと頷く。



「あ、皇宮(こうぐう)だ」



 しかしそこでふと、明るかったまふゆの声のトーンが落ちる。

 その表情は少しだけではあるが、憂いを帯びていた。



「……来週には寮を出るんだっけ」


「うん」



 俺の言葉にまふゆはこくんと頷く。

 実はまふゆはお披露目の儀を間近に控えた今、警備的にも心許ない学生寮は退寮し、正式に皇宮へと住まいを移すことが決まっていた。


 ……現皇帝唯一の皇女として。



「この前も皇宮に行ったんだろ? 楽しかったかい?」


「うん。陛下も宰相さんも他の人達もみんな優しいし、楽しかったよ。皇弟(こうてい)殿下夫妻に赤ちゃんも見せてもらったけど、目がクリクリですっごく可愛かったなぁ。私のいとこなんだって。そう言われると不思議かも」


「そっか」



 その時のことを思い出したのか、少しだけ落ち込んでいた雰囲気が和らぐ。

 それをじっと見ていると、まふゆが眉を下げて言った。



「九条くんも……だよね」



〝何が〟という主語は無いが、彼女の言いたいことは伝わった。俺は頷き、口を開く。



「ああ、今月中には九条の屋敷に戻るつもり」


「継ぐんだよね? 葛の葉さんの……跡」


「…………」



 先日の体育祭での葛の葉の一件。

 それによって元々黒い噂の絶えない九条家を取り潰せという声が、役人や貴族達から上がった。


 これは葛の葉のしたことを考えれば当然であるし、俺自身は甘んじて受け入れるつもりでいた。



 しかし――、



『事件はあくまで九条葛の葉、彼女個人によって引き起こされたもの。一族は関係ない』



 そんな皇帝陛下のお言葉によって、九条家取り潰しの声は瞬く間に沈静化した。やはり陛下の威光は凄まじい。

 とはいえ、当主が事件の張本人のままという訳にはいかない。


 そこで指名されたのが、この俺だった。



「――継ぐよ。葛の葉が言う〝新しい九条家〟それを俺は創り上げていきたいから」



 はっきり言葉に出すと、より一層気持ちが引き締まる心地がする。

 そんな俺にまふゆは優しく微笑んだ。



「なら私も傍で見ているからね! 九条くんが創る〝新しい九条家〟がどんな風か!」


「ん? そこは〝私も一緒に頑張る〟って、言うところじゃないのかい?」


「えっ!? そ、それってどういう……!?」



 耳まで真っ赤になって慌てふためくまふゆが可愛くて、見ているとつい、いたずら心が湧いてくる。



「さぁ? どういう意味だろうね?」


「く、九条くん! こんな時に冗談は……!」


「いつまで〝九条くん〟? まふゆは〝九条まふゆ〟になっても、俺を九条くんって呼ぶつもり?」


「んなっ!?」



 クスクスと笑っていると、さすがに揶揄(からか)われたと気がついたのか、まふゆが目を三角にして憤慨する。



「もうっ! 私で遊んで! 神琴のバカっ!!」


「っ」



 怒りのせいか目元が赤らんだ瞳で挑むように言われ、ブワっと全身が粟立つのを感じる。

 思わず口元に手を当てて俺が押し黙ると、まふゆが不貞腐れたように呟いた。



「……照れるくらいなら、最初から言わないでよ。……バカ」



 まふゆはチラリと横目で俺を見て、プイとそっぽを向く。自分では分からないが、恐らく俺の顔は真っ赤なのだろう。



「ごめん」



 さすがに揶揄(からか)い過ぎた。そして手酷く返り討ちに合った。やはり俺はまふゆには敵いそうにない。


 それを実感して苦笑していると、明後日を見ていたはずのまふゆがこちらを見ていた。その表情は心配の色を浮かべている。



「? どうしたんだい?」


「えっと、その……、体調はどう? 具合悪いとことかない?」


「ああ」



 それは以前までなら、よく尋ねられた質問。

 でも今となっては聞くまでもない問いに、なんだかおかしくなってしまう。



「もちろん大丈夫だよ。まふゆが使ってくれた全能術のお陰でピンピンしてる。念の為医者にも診てもらったけど、どこも悪いところは無いって言われただろ?」


「そうだけど……。九条くんって辛くても我慢するから、信用ないっていうか……」


「はは」



 確かに以前は数え切れないくらい発作を起こしてたから、その度にまふゆを呼ぶのは申し訳ないと思っていた。だから調子を崩して、まふゆを悲しませることもしばしば。

 当時のそんな行いが、まさかこんな形で返ってくるとは。


 嘘じゃなく、今は本当に元気なのに。



「じゃあ〝辛い〟って言ったら、まふゆが癒してくれる?」


「え……?」



 俺の言葉にまふゆは驚いたように目を見開いて、そして首をゆっくりと横に振った。



「それは無理だよ。だって私にはもう妖力は……、癒しの力は……」


「そうかな?」



 言って俺は向かいの席に座るまふゆを抱きしめる。俺より一回り小さく滑らかな白い手に触れると、ピクリとその指先が反応した。



「まふゆは今も変わらず俺を癒してくれるよ。だって俺にとっては君の存在こそが、最高の癒しそのものなんだから――」



 撫でていた手をぎゅっと握ると、やはりまふゆは握り返してくれる。

 それにどうしようもないくらいの喜びを感じながら、俺はまふゆの唇に己の唇を近づけた。



「…………」



 しかしそこで窓の外から強い視線を感じ、チラリとそちらへと目をやる。するとやはり、あの怪しい集団も観覧車に乗っているのが見えた。

 どうやら彼らは俺達の次のゴンドラに乗り込んだらしい。



「……まふゆ、身を屈めて」


「? 九条く……」



 呟くように小さく囁いて、まふゆが身を屈めた瞬間、今度こそ俺は、自身の唇をまふゆの唇に重ねた。



「…………どうしたの?」



 キスの後、まふゆがキョトンと首を傾げるので、俺は笑う。



「観覧車を降りたら、ちょっと出口で待とうか」



 窓の外はもうとっぷりと暗い。ネタバラシにはちょうどいい頃合いだろう。



 ◇


 

「――で、お前達はここで一体何をしている?」



 観覧車の出口。そこで腕を組んで目の前の5人組に問うと、慌てたように彼らは言い訳を始めた。



「いや違うんですよ、九条様! 不知火(しらぬい)が九条様に遊園地のチケットを渡したから、様子を見に行こうって言い出して!」


「あ、夜鳥さんズルい! 元は夜鳥さんが言い出しっぺの癖に!」


「僕は皇女殿下の護衛ですからね! 仕事をしたまでですよ!」


「とか言って、二人と一緒にアトラクションに乗ろうって言ったの、先生じゃん! もうボク、今日は一生分吐いた気がするぅ!」


「それそれ! アンタら涼しい顔してずっと絶叫系乗ってって、マジでどうなってんの!? ついこの間死ぬか生きるかのスリル味わったばかりなのに、まだ物足りない訳!?」


「お前ら……」



 やはりというか、奇妙な集団の正体は朱音達だったようだ。

 尾行までしておいて、それぞれ勝手なことを素知らぬ顔で話す彼らに、頭が痛くなる。


 というか、だとしたら……。



「なら最初の写真の女もお前なのか、朱音」


「あ、バレました? わたしもあれからレベルアップして、かなり上手く化られたと思ったんですけどね」


「あのなぁ……」



 ペロッと舌を出して言う朱音に脱力する。

 かつて俺をこっそりと眺めているだけだった少女が、実はこんなとんでもない策略家とは。未だに驚きしかない。



「うふふ、雨美さんのカメラを借りたんです。二人の思い出の為に練習したんですよ。よく撮れてましたでしょ?」


「まぁ、それは……」



 確かに出来上がりについては満足したが、だからといってずっと()けて来ることはないだろう。


 そもそも遊園地に誘ったのが朱音の入れ知恵だと、まふゆにバレてしまった。

 デートの場所すら自分で決められない男だなんて、まふゆはどう思っただろうか?


 まさか呆れて別れるなんて言われでもしたら……!



「…………」



 頭の中を嫌な予感がぐるぐると駆け巡るのを感じながら、俺はそっと隣のまふゆを伺った。


 すると――。



「あはははははっ!! じゃあみんなしてずっと私達のこと着けてたの!? もうっ! ホント相変わらずなんだからぁ!!」


「え……」



 怒るでもなく、何故か突然大笑いしだしたまふゆ。ケラケラと楽しそうに笑う様子に俺だけでなく、全員が呆気にとられる。


 しかし気分を害した訳ではないことに俺がホッとしていると、まふゆが「――でも」と言葉を続けた。



「これ以上は、ついてきちゃダメだよ? 今日は九条くんとのデートなんだから」



 まるで言い含めるように、まふゆが妖艶に笑う。

 夜仕様にライトアップされた遊園地の光に照らされたそのあまりに美しい姿に、誰もが言葉を失って見惚れ、やがてこくこくと頷いた。



「よし。じゃあ九条くん、行こっか」


「え、あ」



 みんなの様子に満足そうに頷いて、まふゆは俺の腕にぎゅっと抱きつく。

 先ほど見せた艶っぽい姿とは違う、いつもの明るく溌溂(はつらつ)とした様子に戸惑いながらも、俺は彼女から目が離せない。


 遠ざかって行く朱音達の姿をチラリと視界に収めながら、今帰ればちょうど門限に間に合うなと考えていると、不意にまふゆに腕をクイッと引っ張られた。



「?」


「もう門限近いね」


「あ、ああ。でも今から帰れば時間には……」


「――私、実は一度やってみたかったことがあるんだ」


「え?」



 俺の言葉に被せるように言って、まふゆはいたずらっぽく微笑む。



「〝門限破り〟来週には退寮しちゃうし、明日は学校もお休み。今日が決行するラストチャンスだと思わない?」



 腕を引かれた先は、遊園地の出口とは真逆の方向。

 それにダメだという気持ちと、俺もそうしたいという気持ちがせめぎ合う。



 しかし――、



「今日はもっとずっと、九条くんとこうして一緒にいたいな」



 その言葉を聞いて、やっぱり俺は一生まふゆには敵わないなと思った。



 ◇



 未来など俺には無いと、ずっとそう思って生きてきた。



『バカバカ! そんなの私だっておんなじだよ! ずっと九条くんの側にいたい! 病気だからって関係ない! この先何があったって、私は九条くんの隣にいる……!!』



 でも君は、絶対に諦めなかった。

 とても大きな代償を払って、俺との未来を望んでくれた。



「九条くん、今幸せ?」



 まふゆの言葉に、俺は笑顔で頷く。



「ああ、幸せだよ」



 思い描いていた以上の幸せを、今俺は謳歌している。



次回最終話です。

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