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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
最終章 眠れる妖狐と目覚める雪女の力

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31話 雪女と妖狐の未来



 ――それからのことは、なかなかに大変だった。


 なにせ長年隠されていた皇后と皇女の存在が体育祭での一件に乗じて明るみとなり、九条家当主が引き起こした事件がすっかり隅に追いやられてしまうほど、帝国中が大騒ぎとなってしまったのだ。


 正直なところ、お母さんと陛下の婚姻は皇族のしきたりを破ったものだ。

 その間に生まれた半妖の皇女など、きっと受け入れてもらえないだろうと思ってた。


 しかし予想に反して、おおむね帝国民からの反応は良好。〝しきたりを破ってでも愛を貫いた〟というのが、多くの人々の心に刺さったらしい。

 風の噂では、今度お母さんとお父さんの馴れ初めを基にした映画も上映されるとか。お願いだから、それだけは止めてほしいものである。


 ……まぁそんなこんなで、勝手に妄想を(たぎ)らせて盛り上がる帝国民に一抹の不安を覚えたのだろう。

 ある日皇帝陛下が、私とお母さんを皇宮に招いて告げたのだ。



『正宗と話し合った結果、まふゆと風花のことを正式に皇宮から発表することとした。後日お披露目の儀も行うので、そのつもりでいなさい』



 ――と。



『お、お披露目の儀、ですか……!? で、でもあのっ、私そういう場での作法なんて、全然……』



 いずれそうなる予感はしていたが、やはり実際に口にされると心臓に悪い。

 おずおずと言うと、陛下の背後に控えていた宰相さんが鷹揚(おうよう)に頷いた。



『そこは私がなんとか形になるまで指導致します。とはいえ、使える時間は短い。厳しくいきますので、風花殿共々、お覚悟させますよう』


『嫌だわぁ、相変わらず〝鬼の宰相様〟は怖いんだから~。まふゆは皇族だの貴族だの、一切触れずに育ったの。優しくしてよね』


『……私としてはどちらかと言うと、皇女殿下より風花殿の方が心配なのですがな』



 宰相さんは相変わらずのお母さんの軽口に青筋を立てながらも、心なしか声は穏やかだった。

 陛下には幼少の頃から仕えていたと言うし、彼にとってもお披露目の儀は、なかなか感慨深いものがあるのかも知れない。



『――まふゆ』


『わっ!』



 考え込んでいると、また陛下にわしゃわしゃと頭を撫でられる。

 それに顔を上げれば、陛下は真っ黒な瞳を細めてにっこりと笑った。



『お披露目が済んだら、一緒に暮らそう。もちろん風花もだ。皇宮での暮らしは今より少し窮屈かも知れんが、皆そなたを歓迎している。そうそう、先日弟夫婦に男の子が生まれたんだ。可愛いぞ、この後一緒に見に行こう』


『はい……』



 私の気持ちをよそに、取り巻く状況は目まぐるしく変わっていく。


 ティダの田舎で育った娘が実はお姫様だったなんて、降って湧いたような話。未だに夢かと思うが、やはり紛れもなく現実だ。

 これからはお父さんとお母さんと、三人で一緒に暮らせる。それは昔から憧れていた、とても嬉しいこと。


 けど同時に〝雪守まふゆ〟という存在は、どんどん小さくなっていく。

 きっとこれからは、〝皇女まふゆ〟が私の中で大きくなっていくのだろう。

 それに寂しさを感じない訳じゃない。



 ……でも、



 それでも変わらないものだって、ちゃんとあるのだ――。



 ◇



「おはようございます!」


「おはようございまーす!」



 わいわいと多くの人が行き交う日ノ本高校校門前。

 そこで私は声を張り上げて、校舎へと向かって歩いて行く生徒一人ひとりに声を掛けていく。


 もうすっかり季節は冬に近づいて、朝は随分と冷え込んできている。妖力は失っても雪女の本能か、高まる冬への期待に、私はいつも以上に元気だった。

 しかし大抵の生き物は逆。夏はしゃいで冬はひっそりと。


 ご多分に漏れず、それは彼ら(・・)も同じらしくて……。



「――なぁ、あいさつ運動ってマジで必要? つーかこれ生徒会の仕事かよ?」


「確かに。ていうか、ちょー寒いし、眠い」



 ふぁと欠伸(あくび)をする雨美くんと、生徒が通り過ぎてもボーっとしている夜鳥くん。

 普段より一層だるだるモードの貴族コンビに、こちらは相変わらずテンションの高い木綿先生が叫ぶ。



「こら二人とも、何を言うのですかっ!! 一日は挨拶(あいさつ)で始まり、挨拶で終わるのです!! きちんとした生活リズムを整えることを促す為にも、あいさつ運動は生徒会として大切なお仕事なんですよっ!!!」


「木綿は朝から元気つーか、うるせぇよなぁ。さみーのに、ここだけ暑苦しいし」


「こんなんで実は皇宮護衛官でしたーなんて、詐欺だよね。ボク雪守ちゃんのことより、そっちの方が驚いたよ。あり得なさ過ぎて」


「分かる。オレも雪守が皇女なのはすぐ納得したけど、木綿は未だに納得いかねぇ」


「な、なんでですか!? ボクだって教師と護衛官の二足のわらじで、こんなに頑張ってるのにぃ~!!!」


「あはは……」



 多分そういうところが〝らしくない〟からだと思うけど、言うとまた泣いちゃいそうだから黙っていよう。


 ……そう考えた時だった。

 


「あっ!」



 見知った人物達が登校してきて、私は声を上げる。



「まふゆちゃーん! おはよう! 朝早くから生徒会のお仕事、お疲れさまー!」


「はよ」


「わーおはよー! 朱音ちゃん、カイリちゃん!」



 仲良く並んで登校してきた二人を見て、私はニコニコと笑う。

 朱音ちゃんは寒さにも負けず元気いっぱいだが、カイリちゃんはまだまだ眠そうだ。



「二人こそまだ始業まで随分早いけど、もしかして演劇部の朝練?」


「うん、部長さんが新しい脚本を書いてね。張り切ってるの」


「……あ、噂をすれば」


「え」



 カイリちゃんが遠くを見て呟き、その視線の先を辿れば、ひときわ人目を引く大柄な人物が目に入った。



「んふふ。おはよう、副会長さぁん。みんな揃って、朝から賑やかねぇ」


「キキッ」


「部長さん! モン吉も一緒なんですね」



 現れたのは、ハコハナ旅行でもお世話になった、演劇部の六骸(ろくがい)部長だ。


 モン吉とは部長さんのペットで、つぶらな瞳が可愛いお猿さんのことである。

 部長さんの大きな肩にちょこんと掴まっている姿はとても愛らしく、見る者を癒す。


 ……が、



「キキッ!! ウキキキッ!!」


「うわっ!? てめぇっ! またやんのか!?」


「あらあら! ごめんなさいねぇ、会計さん。この子ったら、ちょーっとヤンチャだから……」



 相変わらず夜鳥くんを仲間と思っているのか、それとも単に気に食わないのか、モン吉は夜鳥くんに飛び掛かって、また大ゲンカ(?)している。



「だーめーよー、モン吉」


「キキッ! キキキ!」



 ジタバタとしているモン吉を摘まみ上げて、部長さんはふぅと溜息をついた。



「全く、可愛いけど困った子なんだから。騒がせちゃって本当にごめんなさいねぇ。それじゃあアタシ達は朝練があるから急ぎましょうか」


「はぁーい。ふぁ、ねむ……」


「はい。あ、まふゆちゃん。今度こそ観客として、舞台観に来てね!」


「あらん? アタシはまた副会長さんが主演でも、構わないわよ」


「あはは、それはもうご勘弁を」



 苦笑しつつも三人と一匹を見送る。



「ふぅ……」



 なんだかんだと、つい話し込んでしまった。あいさつ運動に戻らねば。

 そう思って登校する生徒達に視線を戻すと、そこで目の合った何人かにサッと視線を外された。


 よそよそしく私の前を通り過ぎようとする生徒達。こういうことが、私が皇帝の娘だと知れ渡ってからは増えた。


 当たり前だが、私が皇帝陛下の娘だったこと。雪女の半妖だったこと。その事実は大なり小なり、色んな人達に衝撃を与えたのだと思う。

 中には反応に困り、戸惑う人が居るのも当然のこと。実際私自身だって、未だ戸惑う気持ちが完全には抜け切れていない。


 ――そう、だからこそ思うのだ。


 当の自分ですら受け止め切れていないのに、私の大切な人達はみんな受け入れてくれた。


 それはなんて幸せなことなんだろうって。



「おはようございます!」



 目は逸らされてしまったが、負けじと挨拶すると、気まずそうに会釈された。

 それを見て、いつか普通に挨拶出来る日が来るといいなと思う。



 ――ぽすん。



「!?」



 と、そこで私の肩に何かがぶつかったので、慌ててその方向へ首を向ける。

 すると〝何か〟の正体は九条くんの頭で、今まで普通にあいさつ運動していたはずの彼は、何故か私の肩にもたれかけていた。


 堪らず私は真っ赤になって叫ぶ。



「く、くくく九条くんっ!!?」


「俺も朝早かったから眠い。まふゆ、後は頼んだ」


「ちょお!? ちょっ、ちょっとぉ!?」


「くー……」


「いや、本当に寝てるしっ!!」



 立ったまま寝るとかどんだけ器用なの!?

 あわあわとしていると、それを見ていた木綿先生が笑った。



「意外です。九条くんのこんな姿、初めて見ました」


「オレも。九条様でもこんなだらけるんだな」


「いつもはボク達を叱る側なのにね」



 そう言うみんなに私は苦笑する。


 ――実は〝目まぐるしく変わった状況〟の中には、九条くんも含まれているのだ。



「なんかね。病気のこともあって、今までは人前では気を張っていたんだって。でも本当は朝も弱いし、シャキッとするのも苦手みたい。今朝も起こしてもなかなか起きなくってね……」


「「「…………」」」



 思い出してクスクス笑いながら言うと、何故かみんなが真顔でこちらを見ていた。それに私は首を傾げる。



「? どうしたの?」


「〝起こす〟って、なんだそれ?」


「へ?」


「雪守ちゃんと九条様って、当たり前だけど同室じゃないよねぇ」


「え、あー……」


「まさか陛下に言えないようなことまでしていませんよね?」


「へぇっ!!?」



 いつものヘラヘラした雰囲気をかなぐり捨て、護衛らしい真剣な表情で私を見る木綿先生。

 それに言わんとすることを察して、私は顔だけでなく、全身まで真っ赤に染めあげて叫んだ。



「ちっ、違いますっ!! してません、そんなことっ!!!」



 ぶんぶんと首を横に振って、これ以上誤解されたら堪らないと、私はペチペチと九条くんの手を叩く。何度か続けると、九条くんが不快そうに眉を動かした。



「んん?」


「九条くん、起きて!」


「うーん……」


「?」



 緩慢な動作で目を擦り、のろのろと顔を上げた九条くんが私を覗き込む。

 それにキョトンと目を瞬かせれば、まだ寝ぼけ(まなこ)でぽやんとしまま、九条くんが微笑んだ。



「ふふ、まふゆは可愛いな」


「っ、!!?」



 その常と違う幼げな様子に、私の心臓はすっかり撃ち抜かれ、「うっ……!」と言葉を詰まらせる。



「うわー。雪守、惚気(のろけ)はやめてくれよな」


「いやいや! それは私じゃなくて九条くんに言ってよ!」


「雪守ちゃんめっちゃ嬉しそうな顔してるし、同罪だよ」


「ええっ!?」



 慌てて顔に両手をやると、瞬間弾けたように楽しそうな笑い声が響く。

 それにカマをかけられたのだと気づいて、私は叫んだ。



「もーうっ!! みんなふざけてないで、ちゃんとお仕事しなさーーいっ!!!」



 ◇



 最初はとんでもなかった九条くんとの出会い。

 でもその先には、とびっきりの未来が待っていた。



『今のって妖力だよね? もしかして雪守さんって……妖怪?』



 あの時の問いに今の私が答えるとしたら、人間でも妖怪でも、それこそ半妖でもない。なんとも摩訶不思議な存在だ。


 けれどそれでも九条くんは変わらず、〝雪守まふゆ〟を望んでくれる。

 それが何より幸せで、だから取り巻く状況がどれだけ変わっても、私は強くいられるのだ。


 願うならこれから先も……。



 ずっと一緒にいようね、九条くん!



残りあと2話、お話は続きます!

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