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雪女ですがクラスのイケメン妖狐の癒し係になりました  作者: 小花はな
第一章 はじまりの契約と妖狐の秘密

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1話 雪女と妖狐のはじまり(1)



 私の記憶のはじまりは、いつもこの言葉から始まる。



『まふゆ、いいこと? あんたが雪女の半妖だってことも、妖力を使えるってことも、ぜ~ったいに誰にも言っちゃダメよ』



 それは幼い頃、お母さんに何度も何度も耳にタコができるほどに言い聞かされた言葉。


 幼い私にはなんで言っちゃダメなのか分からなくて。

 でも普段ちゃらんぽらんなお母さんがいつになく真剣な顔で言うものだから、16歳になる今この時まで、私はちゃんとその言いつけを守ってきたんだ。


 ――そう、今この時までは(・・・・・・・)……。



「今のって妖力だよね? もしかして雪守(ゆきもり)さんって……妖怪?」



 勢いよく仰向けに倒された私の背中を、真っ白なシーツが優しく受け止める。


 わあ、初めて使ったけど保健室のベッドって、案外寝心地いいんだぁ。と、どうでもいいことが勝手に頭に浮かぶのは、同じクラスの男子に押し倒され、互いの鼻先が触れそうなくらいどアップで見つめ合っている現実を直視したくないからである。



「さぁ、ちゃんと質問に答えて。早く答えないと、……力づくで言わすよ?」



 なにそれ怖い。


 強大な炎を全身にまとったような強烈な妖力を放つ、目の前の存在に震えが止まらない。九条くんの恐ろしく整ったお顔で睨まれると、ものすごい威圧感を感じて、まるで体が溶けていくような錯覚に陥る。


 早く逃げろ逃げろと、私の頭の中の警報がガンガンと鳴り響く。しかし体は上から九条くんに伸しかかられており、両手首はがっちりと掴まれていて、ピクリとも動かせない。


 ……どうして。



「~~~~っ!!」



 どうしてこうなった……っ!!?



 ◇



 ことのはじまりはたった数十分前に(さかのぼ)る。


 授業が終わって放課後、いつものように生徒会室へと向かった私は、そこで生徒会顧問の先生に言われたのだ。


 ――九条神琴(くじょうみこと)を生徒会室へ連れてきてくれないか、と。



「え、九条くんをですか? なんでまた今更……。生徒会が発足してもうすぐ2ヵ月なのに、いまだに一度も顔を出さないような人ですよ?」



 生徒会室に入ってすぐ、待ち構えていた先生から面倒そうな話を振られて、私は眉をひそめる。


 なにせ九条くんと言えば……。



「もうすぐ2ヵ月だからこそなんですよ、雪守さん!! 僕としては、この2ヵ月の間に一度くらいは彼も顔を出すものと目論んでいたのです! なのに九条くんはただの一度も生徒会に姿を見せない! これは由々しき事態ですよ!! 来月の文化祭には、なんとしてでも参加を取りつけないと困るのにぃぃ……!!」


「文化祭……? ああ、生徒会長の挨拶(あいさつ)ですか? それならいつものように私が代理で……」


「それじゃあダメなんですよぉ!! 父兄はあの〝三大名門貴族〟のひとつ、妖狐一族九条家の次期当主の挨拶を期待しているんですよぉ!! なんとしてでも九条くんに挨拶してもらわないと、僕も学校長から叱責があぁぁ!!!」


「はあ……」



 この世の終わりとばかりに大袈裟に茶髪のロン毛を振り乱して絶叫する先生に、つい冷めた返事をしてしまう。

 仮にも先生相手に失礼だったかなと思ったが、当の先生は話に夢中で私の態度など目に入っていないらしい。何故か両手を合わせて、私にどんどんと迫ってきた。



「雪守さんっ! お願いします!! 頼れるのは君しかいないんですっ! 九条くんとなんとか接触して、文化祭の挨拶と生徒会への参加の約束を取りつけて来てくださいっ!!」


「ちょっ、ちょっと!? 拝まないでくださいよ!! ていうか、どうして私なんですか!? 女の私が頼むよりも、男子同士の方がきっと……!」



 そう言って私は既に集まっていた、青色のツヤツヤ髪と黄色のツンツン髪が特徴の、同じく生徒会メンバーの男子二人を勢いよく見る。

 しかし今の今までこちらに注目していたはずの彼らは、私がそちらを見た瞬間に一斉に視線を逸らした。……おい。



「いやいや、適任者は雪守さんしかいないですよ! クラスでは席も隣同士だし、成績は常に1位と2位の関係! それに何より、生徒会長の不始末は副会長が片付けるべきですっ!!」


「なんですかその超理不尽な謎理論……」



 むちゃくちゃな屁理屈を自信満々に言い放ち、力強くこちらを見る先生。それに一気に脱力し、これ以上ゴネても埒が明かないと私は悟った。



「はぁ……、仕方ないですね……」



 ならば面倒なことはさっさと終わらせよう。そう結論を出して、私は先生に背を向け生徒会室の扉を開ける。



「あれ、雪守さん? どこへ行くんですか?」


「保健室へですよ。九条くんは放課後もしばらく保健室で寝ていると、以前クラスの女子達が話していたので。今の時間なら、まだ居るかも知れません」


「なるほど! そんな情報まで知っているなんて、やっぱり雪守さんに頼んで正解でしたね!!」


「…………」



 さっきまでの絶叫から一転、先生は調子良く「頑張ってください!」と、こちらに向かってニコニコ手を振る。



「……いってきます」



 それにまたどっと脱力しそうになったが、なんとか気力を振り絞り、私は保健室へと向かったのだった。



 ◇



 この世界には人間の他に〝妖怪〟と呼ばれる種族がいる。


 彼らは人間にはない〝妖力〟と呼ばれる異能を持ち、その突出した力で長きに渡り人間たちを支配した。とはいえ人間たちも負けてばかりではない。数の力と優れた技術力で応戦し、幾度かの衝突の歴史を経るのである。

 そして現在、我が国では人間の皇帝が世を治め、妖怪貴族が皇帝を支えるという形に収まり、ここ数百年は平和な時代が続いていた。


 妖怪は人間よりも絶対数は少ないものの、身体能力や頭脳が人間よりも優れた者が多い。そのため必然的に、貴族の身分を与えられる者が多かった。

 また人間ではあり得ないような超越した美しさを持つ者が多いのも妖怪の特徴なので、人間たちからは、まるでアイドルのように騒がれている妖怪の姿もしばしば見る光景である。



 ――そしてくだんの九条神琴。



 私と同じクラスの高校2年生で、白銀の髪に金の瞳が特徴の、これまた女性と見紛う超越した美しさを持つ妖狐の男である。

 ちなみに狐というくらいだから、狐耳や尻尾が生えていることを期待すると思うが、姿形は人間と変わらない。

 というのも、妖怪は普段は人間に合わせた姿をとるので、本来の姿は本人が解呪しないと見れないのである。残念。


 しかも彼は貴族妖怪の中でも頂点と呼ばれる三大名門貴族のひとつ、妖狐一族九条家の嫡男。つまり次期ご当主様である。


 もちろん学内の女子達からは凄まじい人気だ。

 歩くだけでその高貴さに女性が次々倒れたとか。女性教師が授業中の板書する彼を直視して、その神々しさに涙したとか。女性保健医が保健室で眠る彼を見て、そのあまりの美しさに一生分の鼻血を吹いたとか。

 よく分からない武勇伝は尽きることを知らない。


 更に身分や容姿が優れているだけでなく、悔しいことに成績も常に学年トップ! まさに全方位無双! 完璧超人!!

 ……と言いたいところだが、この九条神琴には、ひとつ致命的な欠点があった。



 それは――サボり魔。



 そう、九条神琴は大のサボり魔なのである!!



 私と彼は同じクラスで偶然にも席が隣同士だ。その私の知る限り、2年生になって彼が教室で座っていたのは、2年最初のホームルームと、後はほんの数回ぐらいしか覚えがなかった。


 もう一度言う。2年生になってもうすぐ2ヵ月が経つというのに、現在までの出席率がほんの数回である。


 普通なら留年。運が悪けりゃ退学ものだが、そんな調子でも学年トップというのが大きいのか、彼のサボりは容認されているようだった。  

 確かにそんなサボり男の下に甘んじている時点で、私達に文句を言う資格は無いのかも知れないが、悔しいことこの上ない。

 実力主義の世界は時として残酷である。


 さっきは先生や生徒会メンバー達の手前、余裕ぶって出てきたが、実のところ私は九条神琴が苦手であった。

 ……別に学年トップを取れない万年2位の妬みではない。断じてない。



 本能的(・・・)に怖いのだ。



 氷をいとも簡単に溶かしてしまう、火の妖力を宿す妖狐という存在が。



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