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イロウション・ジェネシス  作者: 佐崎 一路
人ヲ喰ラウ鬼編
11/11

[6]訓練

 チームメンバーとの衝撃的な顔合わせがあった翌日、必要な荷物を『姫島ビル』へと運び込むため、昨夜は事務所のゲストルームに泊まった――そして晩飯も朝食も依緒の手作りのご馳走をいただき(なお、お昼用に味もボリュームも満点なデコ弁を渡された)――その足で高校へ行った零司は、放課後シャーロットの運転する愛車ハマーで自宅へ戻った。


「まさかあの運転手がロボットで、実際に運転というか、操作しているのは姫島さんだったとはなぁ……」

 寡黙な運転手の老人と思っていたところ、ネタをばらされて驚くよりも疲れたため息を吐く零司。


 一緒についてきた制服姿の依緒が苦笑しながらシャーロットを擁護する。

「見た目が幼女(アレ)でしょう? だからシャーロットは面倒事を避けるために、ああして黒子(クロコ)に徹しているのよ」

「文字通り傀儡(くぐつ)か。つーか、ビルを丸ごと買い占めたり、もの凄い車の改造をしたり、ハンターってのはそんなに儲かるわけ?」

 当然浮かぶ零司の疑問に対して、苦笑をさらに深めて否定する依緒。

「さすがにあれは例外よ。本業の他に投資とか外貨とかいろいろとやっていて、そっちの方で莫大な資産を抱えているらしいわ。かく言う私と丹紗も、必要な分のお給料以外はシャーロットに渡して、資産運用を任せているの。たまに通帳を記帳すると、眩暈(めまい)がする金額が振り込まれているわね」

 そう言って大仰に肩をすくめる。


「ふ~~ん……って、周りの目がないんだから、普通に喋ってくれても構わないんだけど?」

 猫をかぶった女子高生モードの依緒を相手に、どことなく落ち着かないものを感じて零司がそう促す。

「突発事態があった場合にメッキが剥がれたらまずいでしょう? ()()の時は可能な限り女子を演じているのよ。まあ気持ち悪いかも知れないけど……」

「いや、そんな! ぜんぜん違和感がないというか、綺麗だし可愛いし!」

 目覚めかけた性癖のベクトルのまま、強弁する零司の剣幕に、気押された様子で依緒が曖昧に頷いた。

「そ、そう。ありがとう……?」


『そこ、イチャイチャしてないで、能動的かつ効率的に仕事を終えて撤収しなさい』

 すかさず耳かけ型の骨伝導イヤホンから、シャーロットの呆れたような叱責が飛ぶ。

「「イチャイチャなんてしてない!」」

 赤面しつつ、ネックリングタイプの骨伝導マイクを使って反射的に言い返す零司と依緒。

 合鍵で玄関を開けた零司に続いて依緒も敷居をまたいだ。

「ただいま~」

「お邪魔しま~す」

 誰もいないとわかっていても、つい習慣で帰宅の挨拶をしてしまう零司に合わせて依緒も挨拶をしてくれる。

 なんとなく初めてのガールフレンドを家に連れてきたような、気恥ずかしい気持ちを抱えながら、零司は乱雑にスニーカーを脱いで家に上がった。

 続く依緒は脱いだローファをきちんと揃えて、ついでに零司のスニーカーも直してくれる。


「あっ、悪い!」

「どういたしまして。それよりもこれ以上シャーロットに急かされない内に、さっさと荷物をまとめて戻りましょう」

「ああ――っても着替え程度でいいんだよね?」

「ええ、必要な家具は揃っているし、足りないなら買い足せばいいし」

『……なにげに、〝息子が家に遊びに連れて来た彼女との様子を覗き見する母親”って、こんな心境なのかも知れませんね』

 途端、無線からシャーロットのしみじみとした慨嘆が流れた。

「「どーいう意味(だ)っ!?」」

『冗談です。補足説明をさせていただければ、土地建物の権利書や実印、有価証券など貴重品はご両親が転勤前にロワイヤル銀行崎守(さきもり)支店の貸金庫に預けてありますので、そちらに関する懸念は必要ありません』

「だから怖いよ! どこまで俺んちの個人情報が筒抜けになってるんだ!?」

『ほぼ丸裸だと理解していただければ』

 いけしゃあしゃと言い放つシャーロットの悪びれない態度に、言うだけ無駄と悟った零司がガックリと肩を落とす。

「しかたないわ。シャーロットにとって電子情報やシステム管理は、五感と同じで常に目に見え耳に入り、肌で触れられるようなものだもの。別に好き好んでプライバシーを暴いているわけではないの。そこは誤解しないで」

 シャーロットを擁護しながら、零司の肩を叩いて(ねぎら)う依緒であった。

『ああ、それと生鮮食品などは週に一度、ハウスクリーニングを手配したので、そちらで処理させますから大丈夫です。それとホームセキュリティも強化して、ハンター協会(ギルド)系列の警備保障会社が担当になっていますのでご安心ください』

 まさにお母ん(オカン)という感じで、あれやこれやと段取りを整えてくれたシャーロットの説明を聞きながら、零司は依緒を伴って二階にある自室へと向かうのだった。


 ◆ ◇ ◆


『姫島ビル』の三階にあるトレーニングルーム。

 二十畳ほどの部屋にはちょっとしたジム並みに設備が整っており、別部屋には射撃訓練用のシューティングレンジも併設されている。

 そこで高校のジャージを着込んで、全身汗まみれになった零司が床にへたり込んでいた。

「――ふむ……」

 いつものゴスロリ服姿のシャーロットが、その傍らで難しい顔をして考え込んでいる様子に、動きやすいように長い髪をポニーテールにして、トレーニングシャツにショートパンツ姿で器具トレーニングをしていた依緒が、訝しげに様子を見に来る。

「どうしたの? 問題あるわけ? 運動神経が丹紗並みに壊滅的だったとか?」

「いえ、数値的には一般人としては平均ですね。確認しましたが、筋肉の構造的には白筋(速筋タイプIIa、IIb)と赤筋(遅筋タイプI)が均等に分布している汎用タイプです。瞬発力に優れた依緒と違った運用ができるでしょう」

 脳内に零司の運動能力値、現在のパラメーターや、筋肉、骨格、熱分布、心拍数や発汗量、酸素の消費と二酸化炭素の排出量まで瞬時に表示させながらシャーロットは、どこか腑に落ちない顔で別なデータと比較する。

「問題は、あらゆる数値が狙いすませたかのように平均値を踏襲していることですね。手を抜いたり最初から狙っていたのでなければ、どうすればここまで見事に凡庸な結果が出せるのか不思議です」

 そして常時モニターしていたシャーロットの目から見ても、零司にそうした意図はないように思えた。


「……ぜい、はあ……だから、はあはあ……俺は何の能もない……ぜい……凡人だと言ってるだろう……!」

 ようやく上がっていた息が整えられたらしい零司が、全力でシャーロットへ抗議する。

「どうやら双方の考える『普通』の基準に齟齬(そご)があるようですね。いいですか、普通の人間は分野に応じて得手不得手があるものですが、アナタの場合はそれがありません。どの分野においてもフラットの状態から平均値を叩きだすというのは、一種の才能です」

 第三者にもわかりやすいように、シャーロットが華奢な腕に装着しているスマートウォッチに、今回の訓練で得られたデータをわかりやすく表示させた。

「わっ、ホントだ。運動能力もそうだけど射撃でも拳銃、ライフルどちらも、三十発の平均がアマチュアの公式記録の中間と一致している! 少なくとも的を狙って自分の足や隣のレンジは誤射する丹紗よりもずいぶんとマシだね」

 引き合いに出された丹紗の不器用さの例に、それはそれで一種の才能だろうな、と息を整えながら呆れる零司であった。


「しかし、これは選択肢が多すぎて悩みますね」

 話がひと段落ついて再び振り出しに戻ったところで、シャーロットが思案に暮れる。

「わたしの方針としては苦手分野はバッサリと切り捨てて、得意分野に専念させるべきであるというものですが、この手の汎用(オールマイティー)タイプは、下手をすればどれもこれも中途半端な器用貧乏に堕する恐れがありますからね」


「「ああ……」」

 依緒と零司の口から納得と諦観の相槌が漏れる。特に零司にとっては『凡庸』『器用貧乏』という評価は、昔から自覚がありまくりな単語であっただけにことさらである。

「まあ、このようなものは所詮はカタログスペックですので、あくまで参考にしか過ぎませんが」

 取ってつけたようなフォローに釈然としないものを感じた――付き合いの長い依緒は、シャーロットの言葉に嘘やおためごかしがないことを理解していたものの――零司であったが、だからといって文句を言う筋合いでもないので、

「とりあえず訓練は終わりです。汗をかいたようなので、五階のお風呂に入ってきてはいかがですか?」

 その提案に従って、のろのろと立ち上がって専用エレベーターへと向かうのだった。


 このビルの居住区。個室にもシステムバスはあるものの、シャーロットと丹紗が暮らす五階には、ちょっとした温泉宿並みの共同風呂――檜風呂が据え置かれているのだ。

「まあ、温泉や入浴が身体の免疫力を高めるとか、疲れを取るとかは科学的根拠に乏しいか、せいぜい誤差の範囲内なのですが、リラクゼーション効果はあるものとして設置しました」

 シャーロットの説明は身も蓋もなかったが、くたくたに疲れている時には、手足を思いっきり伸ばせる大浴場は魅力的であった。


「ああ、零司君。汗になったジャージやインナー、あと洗濯物があったら洗濯室の籠に入れといて、まとめて洗うから」

 トレーニングルームから出ていきかけた零司に依緒の声がかかる。

 洗濯なんてまとめて洗濯機に入れて、洗剤を投下してスイッチポン――程度に思って実行していた零司であるが、依緒は料理同様にこだわりがあるようで、

「素材によって洗い方や洗剤も変えないと痛むからね」

 と言って、チーム全員分の洗濯も一手に引き受け、こまめな手入れを怠らない。

「あ、ああ、わかった。悪い」

「どういたしまして」

 下着を洗ってもらうことに若干の気恥ずかしさはあるものの、そこは男同士と割り切る――。

「シャーロットの下着は絹なので、ボクのブラとパンツと一緒にぬるま湯で手もみ洗いするとして……」

「それはいいけど、なにげにわたしよりも依緒の方がブラのカップがあるのが屈辱だわ」

 ……割り切るとか以前に、ツッコミどころ満載の会話を聞いていると頭がくらくらするので、さっさとその場をあとにする零司。

 

 シャーロットがその後姿を眺めながら、

(軍隊が正式拳銃をトライアルにかける際、極限状態における各種動作をテストするように、羽間零司君も『極限状態』でどのような真価を発揮するか……せずにふるいにかけられるのか、一度確認する必要がありますね)

 内心ではかなり鬼畜なことを考えていた。

※他作品(ブタクサ姫)に従事するため、しばらくは更新を控えさせていただきます。

また、主人公の設定を根本から変える予定であり、その際には、冒頭から一気に変更するために、現在、書き溜め中でございます。

 また、習作を先にカクヨムに投稿したのち、修正作をこちらに投稿することも考えております。


参考までに、三人娘(?)の個別データは以下の通り。

【鷺宮依緒】

 身長   164.5㎝

 3サイズ 82-62-88

 誕生日  1/17

 血液型  AB(Rh+)


【城ケ崎丹紗】

 身長   156.7㎝

 3サイズ 88-64-90

 誕生日  4/1

 血液型  O(Rh+)


【姫島シャーロット】

 身長   128.8㎝

 3サイズ 54-47-57

 誕生日  11/28

 血液型  AB(Rh-)

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