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星火燎原  作者: 更紗 悟
第五章【血戦】
98/117

げんこつ

 

     3


 雲行きが怪しくなってきた。

 いつまで経ってもバシー達は中央を突破できない。予想外の粘りを見せるので、突き破れずにいた。

 三大将攻略も達成できていない。リェンは現在、ベアトを押さえ込むことに精一杯となっている。

 一方では、ラヅモが負傷していた。

 ヨウはよく闘っていたが、相手が悪かった。デトーにより押し切られ、重傷を受けてしまった。部下に担がれ、後退していく姿を見たラヅモは、思わず敵に背を向けた。

「おっさん、何見てんだっ、よォ!」 と、対峙していたルンルスが隙を逃さず切りつけてくる。だが、ラヅモはその場を動かなかった。

 鷹揚な人柄もあって、ラヅモの元にはよく若者が集まってくる。サイトのように、預けられてくるものもいる。その全員に対し、ラヅモは精一杯の誠実さをもって応じてきた。真っ当なやり方ばかりではないが、彼のもとに落ち延びてきた若者達を、ラヅモは彼なりのやり方で受け止めてきた。

 その一員であるヨウに、大事が迫っている。ラヅモにとっては自分の身よりも案じられる事態であった。

「ヨウ! 大丈夫か! 大丈夫だよな、おい!」 と、我が身を顧みず、声をかけ続けた。

「お前の方が、大丈夫か、よっ!」 と、ルンルスが調子に乗って切りつけてくる。

 意識が朦朧としていても、ラヅモの状況を察したのか、ヨウは必死になった。弱々しく手を上げて、自分は大丈夫だからと、合図を送った。

 下手をすると生死の境を彷徨いそうな状態だったが、ラヅモは、即死でないならばと、安堵の息を吐いた。

「あいつが心配かぁ? 早くしないと、お前、置いていかれるぜ」 と、ルンルスがまた剣を振るって来る。

「一緒に、逝けよなぁ!」

 ルンルスの一撃は、今度は、がっちりと肩に食い込んで動かなくなった。

「はぁ? お、おい……?」

 ラヅモの肩の筋肉が盛り上がり、ますます抜け難くなる。その状態で見てようやくルンルスは気付いた。抵抗しないのを良いことに、調子に乗って、なぶっていたが、どれも深く切り裂けていなかった。常人離れした筋肉量は、致命傷を防ぎ、それどころか、どの傷も皮膚を浅く切っただけであった。

「おまえ、何だよ……!」とルンルスは慌てて逃げようとする。だがその手は無意識に武器を握りしめ離さず、動けない。

 ゆっくりと、ラヅモが振り返る。

「―――ワシはあいつと話をしとるというのに……。お前は、何するんじゃっ!」 とラヅモは言って、力いっぱい握り締めた拳を、ルンルスの顔面に叩きつけた。

「は、ひ……」と鼻が潰れ、ルンルスは上手く喋れない。

「―――ひゃ、ひょと、まっへ」 と、ルンルスは命乞いをした。だが、その言葉を全く無視して、ラヅモはまた拳を振りかぶる。

「―――こんなことをして、お前は……。死んだら、どうするんだっ!」

 歯や鼻どころか、頭蓋骨まで粉砕しそうな一撃を見舞いつつ、ラヅモは猛った。骨を砕かれ、崩れ落ちるルンルスを、なおも罵倒する。

「お前なぁ、話の最中に、寝る奴があるか!」

 ルンルスは、もう聞く耳を持たなかった。



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