げんこつ
3
雲行きが怪しくなってきた。
いつまで経ってもバシー達は中央を突破できない。予想外の粘りを見せるので、突き破れずにいた。
三大将攻略も達成できていない。リェンは現在、ベアトを押さえ込むことに精一杯となっている。
一方では、ラヅモが負傷していた。
ヨウはよく闘っていたが、相手が悪かった。デトーにより押し切られ、重傷を受けてしまった。部下に担がれ、後退していく姿を見たラヅモは、思わず敵に背を向けた。
「おっさん、何見てんだっ、よォ!」 と、対峙していたルンルスが隙を逃さず切りつけてくる。だが、ラヅモはその場を動かなかった。
鷹揚な人柄もあって、ラヅモの元にはよく若者が集まってくる。サイトのように、預けられてくるものもいる。その全員に対し、ラヅモは精一杯の誠実さをもって応じてきた。真っ当なやり方ばかりではないが、彼のもとに落ち延びてきた若者達を、ラヅモは彼なりのやり方で受け止めてきた。
その一員であるヨウに、大事が迫っている。ラヅモにとっては自分の身よりも案じられる事態であった。
「ヨウ! 大丈夫か! 大丈夫だよな、おい!」 と、我が身を顧みず、声をかけ続けた。
「お前の方が、大丈夫か、よっ!」 と、ルンルスが調子に乗って切りつけてくる。
意識が朦朧としていても、ラヅモの状況を察したのか、ヨウは必死になった。弱々しく手を上げて、自分は大丈夫だからと、合図を送った。
下手をすると生死の境を彷徨いそうな状態だったが、ラヅモは、即死でないならばと、安堵の息を吐いた。
「あいつが心配かぁ? 早くしないと、お前、置いていかれるぜ」 と、ルンルスがまた剣を振るって来る。
「一緒に、逝けよなぁ!」
ルンルスの一撃は、今度は、がっちりと肩に食い込んで動かなくなった。
「はぁ? お、おい……?」
ラヅモの肩の筋肉が盛り上がり、ますます抜け難くなる。その状態で見てようやくルンルスは気付いた。抵抗しないのを良いことに、調子に乗って、なぶっていたが、どれも深く切り裂けていなかった。常人離れした筋肉量は、致命傷を防ぎ、それどころか、どの傷も皮膚を浅く切っただけであった。
「おまえ、何だよ……!」とルンルスは慌てて逃げようとする。だがその手は無意識に武器を握りしめ離さず、動けない。
ゆっくりと、ラヅモが振り返る。
「―――ワシはあいつと話をしとるというのに……。お前は、何するんじゃっ!」 とラヅモは言って、力いっぱい握り締めた拳を、ルンルスの顔面に叩きつけた。
「は、ひ……」と鼻が潰れ、ルンルスは上手く喋れない。
「―――ひゃ、ひょと、まっへ」 と、ルンルスは命乞いをした。だが、その言葉を全く無視して、ラヅモはまた拳を振りかぶる。
「―――こんなことをして、お前は……。死んだら、どうするんだっ!」
歯や鼻どころか、頭蓋骨まで粉砕しそうな一撃を見舞いつつ、ラヅモは猛った。骨を砕かれ、崩れ落ちるルンルスを、なおも罵倒する。
「お前なぁ、話の最中に、寝る奴があるか!」
ルンルスは、もう聞く耳を持たなかった。




