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星火燎原  作者: 更紗 悟
第四章【奮迅】
93/117

手がかりを求めて

 

  6


 トオワはどこに監禁されているのか?

 まずここからとスクルは、都におけるグントラターグの館に向かった。真による呼び出しなどで滞在するための館だが、さすがに周知されているこの場所を拠点にするとは思えない。近年では、呼び出しを無視して、都に寄り付いていなかったとも聞く。

 だが無人と見せかけて、潜んでいた者達がいるかもしれない。必要以外の時は郊外に待機していたかもしれないが、接触の場所はあったと思われる。その第一候補はここは寄らずにいられない。

 本拠地はルブラにあるため、こちらは別宅扱いだが、シントの住まいだけあって格段に大きい。留守を預かっていた使用人などはいるはずなのだが、館内はしんと静まっており、物音一つしない。息を顰めているのだろうか。それとも、すでに全員退去した後だろうか。

 恐る恐る中に踏み入ってみるが、やはり誰の姿もなかった。内部はがらんとしていたが、急いで運び出したと言うより、元々最低限の物しか置いてなかったと思われる。廊下も主な導線以外の所は、埃がそのまま残っていた。

 やはりここを拠点として利用するつもりはなかったようだ。となると、他に隠れ家があり、そこに集結しているということだろうか。その手掛かりはないかと、スクルは探し回った。


 結局、そんな都合の良いものは見つからなかった。使っていない所に、使っている場所の手かがりを残すはずはない。

 だが、グントラターグ本人はともかく、彼の配下達が潜んでいた場所がどこかにあるはずである。

 グントラターグの配下、もしくは彼に関係のある者達……。あの時の、あの三人組はどうだろうか、とスクルは思い付いた。

 グントラターグと知り合った際に、スクルを襲撃してきたあの三人組。彼らが実はグントラターグの息のかかった者達であったとしたら? つまり、あの諍いそのものが、スクルに取り入る為の芝居だったとしたら? 直接ルブラから連れてきた者ではないとしても、あの三人組はグントラターグに繋がっていることになる。彼らを追っていけば、グントラターグ達の隠れ場所に通じていないだろうか?


 三人組の素性、どこにいる者達かは調べていた。ジエルには笑われたが、どんな陰謀の手先であったか知れたものではない、と洗い出してはいた。その際、普通のゴロツキと分かり、所在もすぐに知れた。ジエルには改めてからかわれたものだ。

 当時は問題なしと思われたが、ここまで事態が動けば、何かボロが出ているかもしれない。

 そこにかすかな期待を抱き、スクルは急行した。

 ところが、目的地に辿り着く前に、これはもう望み薄いだろうなと、分かってしまった。

 その区域は、破壊の限りを尽くされていた。といっても、統士たちの衝突で周囲のものまで巻き込まれたという状況でもない。

 そこは最下層の者達が集う場所。ただでさえ不安定な状態にあるのだが、今、街は騒乱で荒れている。抑え付けるものがいないと知れば、日々に不満を抱える者達がじっとしているはずがない。

 強者による略奪がそこかしこ其処彼処で起こり、破壊を謹む遠慮など存在しない。ただ自分のいいように振舞う、無法地帯と化していた。


 それなりの力を持っていたあの三人組であっても、より上位の者の目に付いてしまったのだろうか。目的の家屋は破壊され、無惨なものとなっていた。

 倒された壁材や崩れ落ちた屋根の下に、彼らの姿はあった。不条理を訴えているのか顔は歪み、長い苦悶の跡が刻み込まれていた。すでに事切れていた遺体を三人分確認し、スクルはその場を後にした。


     *


 向かう先が定かではなくなり、スクルは弱気になってきた。撤退した部隊と合流して、再度戻ってきた時に皆で探すか。それではしかし、トオワの無事は期待できないのではないか。そう思っていた所、スクルはある現場に迷いこんでしまった。


 その路地裏には、十数人の荒くれ者達が、無残に斬り捨てられていた。通りに沿って転々と転がる彼らは、各々武器を所持していた。どうやらここを通過しようとした何者かを襲ったが、次々と撃退されてしまったようだ。

 残された足跡などからして、襲われ反撃したのは一人きりで、その者はこれだけの荒くれ者を造作も無く退けたようだ。

 しかも、別の通りに出ると、そこには綜正規軍の統士もまた、斬られていた。レクト配下と思しき者達すらも、相手にならなかったようだ。

 一体誰がやったのかと、スクルは考えた。

 まるで目に付いた者を片っ端から斬り捨てて進んだかののような痕跡だ。これだけいて、誰も歩みを阻むことができなかった。となると、スクルが知る限りでは、サイト・成か、少なくとも古参の真穿隊長格並の力がありそうだ。

「うぅ……」と、うめき声がした。

 スクルは辺りを見渡す。いた。まだ息がある者がいた。

 慌てて駆け寄るが、スクルの顔が青ざめた。鮮やかな太刀筋を感じさせる傷を見たところ、もう男は助からないと分かった。

「止めてくれ、俺達が、悪かった……」と、男はうわ言を呟いた。

「安心しろ、もう大丈夫だ。もう誰も襲われない。ここには、誰も悪い者はいない」とスクルは静かに言った。

 少しの間があって、男の目がうっすら開いた。驚異がないかどうか、確かめるように忙しく男の目が動く。やがて安心したように、目が閉じられた。同時に男から力が抜け、全身からも何かが緩んで行った。

 このまま逝くのだろう。スクルは静かに見守るつもりだった。

「…………俺達が、悪かった」と、男は小さな声で言った。スクルが口を開く前に、男は続けた。

「女と、侮った…………。諸国に名を轟かせていると言っても、女ではないか。そう思った俺達が愚かだった」

「女? これをやったのは、女だというのか?」

「そう……。いや、違う……。あれは、ルクの」

「ルク? 異国の者だったのか?」

「そうじゃない、そうじゃ…………。あれは、そのものだ。細いがしなやかで、華奢だが鋭く…………。何ものをも、切り裂き…………、いや、裁って行った。あんなものを、その怖さを、見抜けなかった、俺達が!愚かだった!」

 男の様子がおかしかった。興奮している。思い出したのだろうか。その時のことを、その時の恐怖を。

「おい、落ち着け。これ以上しゃべるな」とスクルはなだめた。これ以上興奮すると、一気に残り時間が減ってしまう。その時を早めてしまう。

「あれは、みな知っている。あれは、国で、もっとも――――」

 男が何か言いかけた時、近くで男達の怒号が聞こえた。スクルは、はっとなって周囲を見渡した。その間も、男は何か呟いていたが、それどころではなかった。

「ちょっと待て、静かに!」

 男を止めようとしたが、その必要はなかった。興奮していた所に、さらに刺激が加わり、境を越えてしまったようだ。男の声は急速に弱まって行き、そしてピタリと止まった。

「おい、しっかりしろ! 行くな」とスクルは語りかけるが、もう戻ってこないのは明らかだった。


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