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星火燎原  作者: 更紗 悟
第三章【遭遇】
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隠し事

 

     9


 「どういうことだ、これは?」とスクルはジエルに詰め寄る。

 ジエルが現れたのは、親友の危機を感じて駆けつけてくれた、訳ではないだろう。それにしては、この完全武装振りは都合が良すぎる。

 何故だとスクルは詰問すると、ジエルはばつの悪そうな顔をした。それから、実は気付いていたと白状した。

 スクルの家で、ウカイルと名乗る男を見た時、それがグントラターグだと確信していたという。一見するとただの小汚ないおっさんだが、ルブラに行き彼を見たことがあるならば、その異名通りの鋭い眼差しを見間違えることはないという。

 そもそもウカイルという名からして、北方の言葉に慣れたものにとっては、自己紹介しているも同然だった。グントラターグは、己の正体を隠すつもりもなかったのだろう。

 無名のスクルに用があるとは思えないが、居座り込んで長居している。なぜか?

 何を企んでいるのか、その意図が読めない。何も無ければ、相手はルブラの領主。おいそれと手を出せる訳がない。

 遠巻きに観察していたが、今日になって、ようやく状況が動いた。

 慌ててスクルがどこかに出掛けていった後、ウカイルはその後を付けた。さらには、真穿の要人トオワを捕縛しようとしたのを見て、ようやく尻尾を出したかと、ジエルはグントラターグ確保に動いた。


     *


 正体を知っていたならば、教えてくれても良かろうにと、スクルは文句を言う。

「それは、そうなんだが……」

「なんだよ、俺達の仲で隠し事か。お前は、そんなやつだったのか」

「いや、それは違う。だがな、スクル。よく考えてくれ。すべて話したとして、その上で、お前は素知らぬ振りはできないだろう?」

 お前に腹芸は無理だと言われれば、その通りだと頷くしかない。実際、正体を知った途端、動揺丸出しだったのだ。

 気付かれたと見なし、口封じに動くのは自然な流れだ。スクルが一人になった所で、まずは彼を確保しようとした。

 だが不運にも、その場に居合わせたトオワが、先に襲撃の気配に気付いてしまった。そして捕縛されかけた。

 ただ、これは偶然の出来事ばかりではない。トオワは河津より帰国後、煌へ向かったクウーを見送った。その後、ダウス中を巡って、何事かを調べていたらしい。身辺を嗅ぎ回る者の存在に気付いたグントラターグは、トオワにも見張りを付けていた。そして今夜、あの騒動に出くわしてしまう。

「おい、だとすると、反乱を準備していた首謀者というのは―――」

「ここまで来て、あいつが無関係だとは、とても思えないな」 と、ジエルは笑って言う。

「やはり。とはいえ、先に気付いたのだからまだましといえるか。反乱を未然に防ぐことはできたのだから」

「いや、そうでもない」

「え?」

「反乱は、どうやら始まってしまったようだな」

 確かに、街の様子が物々しい。聞こえてくる物音は荒々しい破壊を想像させ、耳に届く言葉は怒号ばかりだ。

「ダウス各層の要所で、一斉に蜂起したらしい。障害となりそうな部隊に対して先手を打たれた。各所での対応で手一杯。まとまった抵抗ができないので、どの部隊がどう動いているか、というのはまだ分からない」

「そんな……。ダウスの守団は何をしている? レクト様がいるはずだ。あの人なら」

「そうだな。あの人は頼りになる。誰もが知っている。だからこそ、真っ先に潰しておくべき所だと思えないか?」

「まさか……」

 スクルの脳裡に、明るく豪快に笑っていたレクトの顔が思い出された。そしてもう会えないと仄めかされた途端、胸がずきりと痛んだ。

「レクト様がいた『統』分の本陣はすでに壊滅している。周囲は火の不始末から炎上しており、その中でどれだけの統士の命が失われたのか分かっていない。生き残りによると、いきなり何者かが攻撃して来たという。しかも、本隊と同じ格好を装い、何が何だか分からない内に、崩れに崩れたらしい」

「レクト様は? まさか、やられたのか――?」

「不明だ」 とジエルは渋い顔をして言った。「乱の発生と同時に、直属部隊を率いてどこかへ行ってしまったらしい」

「さすがレクト様だ。動きが速い」

「いや、速すぎるだろう。これではまるで、乱の発生を知っていたのか、とも思える対応だぞ」

「いや、それは違うな」

 スクルは、サイトが乱を懸念していたことを話し、それをレクトに相談していたことを告げた。

「レクト様だぞ。俺達なんかでは思いも付かないことを、考えていらっしゃるはずだ」 とスクルは言う。実際、彼は思考力も規格外で会話に困ったものだった。

「ただ……。あの人はそう簡単にやられる人ではない。だけど、例えば、正規軍の内にも敵がいたら。そこから不意打ちをかけてきたのなら……」

 スクルの言葉に、ジエルは神妙に頷いた。

「何処の誰で、どんな規模かは不明だが、ダウスより出て行った部隊を見たという者もいる。これがレクト様たちで、上手く逃げたならいいんだが……」

「あの人が逃げるものか」

「いや、一時撤退というやつだよ。離れて状況を見て、反撃の機を窺っている、とかな」

 スクルの不服そうな顔に、ジエルは苦笑いする。

「目ぼしい所を襲っているようだが、俺達の所は無視されたよ。狙う素振もなかったというのは、喜ばしいのやら悲しいのやら」

 俺達の所とは、ジエルが普段詰めている場所、つまり、真弟オウル・青の館だろう。小勢力ゆえ障害とみなされていないだけだろうか。綜真の影としての評価も与えられず、無価値と見なされているということだろうか。

「俺はこれから鎮圧の手助けに向かう。襲われなかったからと言って、じっとしているのもなんだからな。お前は家に戻れ。外にいると誰が敵か分からず、ばっさりやられるぞ」

 良いな、じっとしていろよ、と言い置いて、ジエルは去って行った。


    *


 一人残されたスクルは苦笑いする。いくら外が危険で、負傷しているといっても、その物言いはないだろう。真穿の、仮にも副官代理に向かってじっとしていろとは。まるで真穿に戻ってほしくないようではないか―――。

「――――え?」

 ふと、ある可能性に気付き、背筋がぞくりとした。

 おかしい、のではないか?

 不器用なスクルと同様、実直な彼もまた、腹芸のできない男だと思っていた。二人の間に秘密なんてないと思い込んでいた。

 だが、あったのだ。確かに、()()()()()()()()()

 ウカイルがグントラターグだと、ジエルは気付いていて黙っていたではないか。その理由を、グントラターグの意図がつかめず監視していたからだと言うが、本当だろうか?

 まんまと逃げられ悔しいというが、それも本気の言葉だろうか。先ほどグントラターグ達は少数だった。精々十人ほどに対して、ジエル達はその五倍の数はいたと思えた。それなのに、逃げ切れるものだろうか?

 反乱の主導者はグントラターグだと、彼は断言していたが、それもどうだろうか?

 誰がどの規模で反乱を起こしたのか、できるだけ早く正確に知ることは、動乱の初期の段階で重要なことだ。剣を構えるべき相手がどこにいるか、知ることができるのだから。

 グントラターグが何をした? 実際はトオワ一人を捕獲しようとして逃げただけじゃないか。彼が民を殺している所を、彼の部下が暴れている所を、この目で見たわけではない。

 そう言ったのは誰だ?

 ジエルだ。そして、彼の言葉にはもう、無条件の信頼を置けない。

 彼の上にいる者、つまり真弟派が動いているのではないか? グントラターグはその隠れ蓑に使われた、のではないか。

 あるいは、グントラターグと、真弟派が手を組んでいる。そう考えることもできる。

 もしかして、とスクルは思う。あの噂、ソンヴ・識が真弟と会っていたという噂は、真実であったか? 姿を消した彼女が間を取り持ち、真弟とグントラターグが手を組んで……?

 いや、違うかとスクルは思いなおす。混乱しすぎだ。ソンヴがダウスにいたというは未確認情報で鵜呑みできない。しかも、グントラターグはソンヴを恐れていると、レクトが言っていたではないか。

 だが、少なくともジエル、そして真弟派を盲信する事はできない。

「こうしてはいられない」

 スクルは意を決して走り出した。


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