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星火燎原  作者: 更紗 悟
第三章【遭遇】
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そして知る

 

     7


 スクルが知るところでは、輝石とは、最初から塊であるのではなく、輝く性質を持った素が集まったもの、だと認識している。ゆえに、ほんの僅かであっても、そうした素を含む岩を見つけて、掘り進めて行けば、塊に遭遇できるかもしれない。エヌイはそのために地面にかじりついているのだとスクルは思った。

 とはいえ、こんな赤茶けた荒野に埋もれているとは思えない。もっと人目に付きにくい奥深い山や洞窟、地中深くを捜すべきではと、スクルは言う。

「ええ。その通りです」 と、エヌイは頷く。別に輝石を探して這いずり回っている訳ではないという。

「輝石は素真の力の結晶だという話はご存知ですか?」

「あぁ、なんだったかな……。ハイヴやクプ・トーリといった素真が、それぞれの力を石に封じた、とかいう話のことか。透明な輝石は、ドーミイが司る氷の力が込められているんだっけか?」

「そうですね。真紅のものはあの素真がもたらした唯一の良心だとも言われますし。黄色のものは……、おっと、これは口にしてはいけませんね」

 エヌイは言って、ほんの少し舌先をだした。

「または、人の真素が変化したものとも聞いたな。光となって人々を導いた英雄。悪道の道に引き込もうとした、忌むべき者。強い真素はそう簡単には消えず、末期に凝って変化するとも」

「人の念が籠もっているから、所持しているとご利益、または災難を呼ぶ、という話ですね。でも私は、人なんて混成にそんな力があるとは思えません」

「まあ、そうだな。やはり素真が生み出したという話の方が信じられるな」

「そうですね。では、どうして地表近くではなく、深い所から見つかることが多いのでしょう?」

「ん? そうだなぁ。何でだろう」

「掘ってみたら見つかった。洞窟の奥深くに眠っていた。地中深くで、せっせと掘り出している異形の混成がいる、とか聞くでしょう? 伝承では、地の下で見つかる事が多い。地の中のどこかにあるならばと、掘り出そうとした人は数知れない。穴掘りで功を為そうと企んだのは、何も私だけでは、ありません」

「そうだとして、では君は、人が探さないような所を掘ってみようと思った、のか? いくらなんでも、こんな所には」

「そうですよ。私も、こんな所で輝石が見つかるとは思っていません」

「え? それが目的じゃないのか?」

「ええ。私が思うにはですね。輝石を構成する素は、その絶対量はあまり多くない。けれども大地は広大で深すぎる。そんな中、素真が成したものでないのならば、こんな微細なものがよくもこれだけ集まったものだと、感心したんです」

「そう言われたら、そうだな」

「私は、この元となる素には、有る場所に偏りがあるのだと思うのです」

「偏り?」

「そうです。どのような条件で割り振られているのかはっきりしませんが、特定の物の素はある程度の共通点をもった土地に多く含まれている。元々多くあるからこそ、密集できて、時には凝縮して塊が生じる」

「多く見つかる所は、もともとその土地に、その要因があるということ?」

「何の物的根拠のない場所を掘り返すのでは、この大地は広すぎる。せめて、似たような欠片でも見つけて、当たりをつけていかなと」

「なるほど。諸国を巡っているというのは、そうした土の具合を調べて廻るために、なんだな」

「え? あ、いえ。私がよく出掛けて不在がちなのは、また別の理由があるのですけど。でも、色々な所を見て廻っているのは確かです」

 エヌイは言う。

 ごつごつとした物が多い所もあれば、すぐ砕けるもろいものばかりのところもある。性質もバラバラ。それなのに、形状はまるで違っていても、含まれる素が同じ石というが遠く離れた地で見つかることもある。たまたま運ばれたのかとも思うが、動かせそうもない巨大なものや、地中深く潜りこみその頭だけが出ているものもある。

 そうしたもの無数に集め、分析しているうちに、ある程度は傾向を見出せそうな気がしてきたと言う。

「それは、凄いな。その分布図でもできたなら、輝石の埋まっていそうな土地が丸分かりじゃないか」

「輝石は、そんなには見つかりませんでした。この島は元々そうした素が少ない土でできているのかもしれません」

 同じ土地でも、表面と地下深くでは、全く違う。層をなしている。その層も、どこへ行っても同じかというと、突然違う層になることもある。こんなに深い所で、こんなにも広い範囲で――。

 気になって気になって。それで最初は山の土を調べていたが、キョウにまで降りてきて、この近辺まできたと言う。

 熱心だなぁと褒めると、エヌイは頬を赤らめた。


     *


 熱い視線を送るスクルに照れて、エヌイは我に返ったのか、きょろきょろと周りを見た。話に夢中なあまり、全く知らない所にいると気付いたようだ。

「続きは家でしよう。もうすぐそこなんだ」 と、スクルはエヌイを誘った。指差せるほど近くに、門が見えていた。

「でも……」 と、エヌイの足はそこで止まった。

「まだ話を聞きたいんだ。そもそも君を探して聞こうと思っていたことも全然聞けていないんだ」

「あ。そういえば……。すみません、私、自分の話ばかりして……。わざわざ会いに来て下さったんですよね。一体、何の話だったんでしょう? 私の知っていることは、大分偏っているから、上手く答えられるかどうか……」

「そんな難しい質問じゃないんだよ。ただ、ある人と知り合いだっていうから、その評価を聞きたいだけで」

「ある人?」

「ソンヴ・識。知っているよね? 同じ秀才の君の目からしたら、どう見えた?」

「……ソンヴ、識―――」

「え? 知らない?」

「いいえ。知っています」

「良かった。それで、どう思う?」

()()()()」 と、ゆっくり、噛み締めるようにエヌイは言った。

「あの人は別格なの。私達と一緒の範疇で考えていると、飛び抜けて変に思えてしまう。でも、時間が経てば、あの人が言っていたのはこの事だったのかと遅れて気付く」

「そんなにすごいのか」

「最悪の想像。最低の発想。最良の選択。最適の発見。そのどれもが同時に頭の中にあるような」

「なんだかよく分からないが、そんなすごい人が同じ国にいるってことは誇らしいな」

「そう。敵に回してはいけない。あの女は……」

「あの女って、誰の話だぁ? 浮気でもされたかぁ?」 と、突然割って入ってきた者がいた。

 スクルが慌てて振り返ると、そこには、通りがかった風の、ウカイルがいた。

「いやいや、邪魔をする気はないんで。どうぞどうぞ、大事な話の続きを。俺は先に帰っているから」

「お、お前―――」

 済ました顔を取り繕っていたが、ウカイルは一瞬にやりと笑った。()()()()()()()()()と、意味深な顔で言った。そしてそのまま家の中へと入って行った。

 スクルは動揺して、耳まで真赤になってしまった。それから、冷やかされて困ったという顔を造り、エヌイに向き直る。

「え……?」

 エヌイは、非常に驚いた顔をしていた。衝撃で、顔が青ざめている。

「――――今の。貴方の、家に―――?」

「ああ。家人じゃなくて、客だけどね。キョウの客なんて、普通じゃないと思った?」

「客? キョウ? どういうことなの……?」 と、エヌイは、スクルの顔をまじまじと見つめた。

 キョウを家に招く事は、そこまで酔狂なことだっただろうかと、スクルは当惑した。

()()()()()()()()()()()()()()()? それとも……?」

「も、もちろん。ウカイルと言って、あぁ、でも、そう大したことは知らないけども……」

 ああ、とエヌイは嘆息する。こんなことがあるんだと、心底驚いているようだ。

「え、何? 何だっていうんだよ」

「私、キョウには、それなりの縁があるの。だから、たまたま、彼を見かけた事がある。ある場所で。それから、ウカイルというのは、キョウの言葉で、雷を意味するの。彼らが恐れるもの。その異名を抱くのは、ただ一人」

 エヌイの真剣な顔が、とても恐ろしく思えた。

「ヅフ・ラターグ・グント」

 シンキュウで最も警戒されている男。西の雄・グントラターグ。

 ウカイルは、キョウなどではなかった。平民から最高位シントまで登りつめた偉人、グントラターグ、その人だった。

 とんでもない人物を、恐ろしく無防備に、近くに置いていたのだと、スクルはようやく悟った。



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