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星火燎原  作者: 更紗 悟
第三章【遭遇】
80/117

闘うべきは

 

      3


 挟撃策を諦め、全軍は元の山道に戻ることになった。バシーらを連れて戻ると、それほど進んでいない地点でドウゴが待っていた。こうなると予想して、合流地点まで進んで行くつもりはなかったらしい。

 その後も、シンバンによる小規模な襲撃が相次いだ。怒りに誘われて、追撃しそうになるが、その先に待っているのは、兵の削減という始末である。サイトたちが罠に嵌った時のように、追い詰めることはいずれ可能であるが、そこに至るまでに犠牲は免れない。

 森からの襲撃に遭いつつも、綜の統士たちは着実に進んでいった。敵に良い様に操られないよう、注意して進んだ。対応を一つに決めてしまえば、迎撃にも慣れてきた。

 それでも、補給部隊が一度襲われ、泥にまみれて多くの食料が駄目になった。夜陰に紛れて部隊の中に入り込み、武器の予備に油をかけて使い物にならないようにされた事もあった。本隊自体に大打撃は受けなかったものの、こうした嫌がらせのような損失は続いた。


 苦難の進軍を続けるうちに、一山越えることに成功して、なだらかな丘陵地帯に出る事ができた。ハイマツが生い茂る平原は見通しがよかった。森から離れてしまえば、もうさすがのシンバンも手出しはできないだろうと思えた。

 ここを抜けるまでの間は、一息つけるかと思った時だった。斥候から急を知らせる報が来た。丘の向こう側に、陣を張っている部隊がいるという。規模は真穿よりも若干少ない程度だが、整然と動き、戦いに慣れている者達で構成されている。瑗からの増援だとしても、方角が西より過ぎる。


 斥候たちが近づいてきたのを察知して、彼らはすぐに対応に出た。大量の矢が放たれたのだ。退くのが少しでも遅ければ、全員やられていたと斥候は言う。

 攻撃には投槍も混じっていたのだが、その形式に問題があった。慌てて撤退したのではっきり確認はできなかったが、その柄に刻まれた文様に見覚えがあったという。

 煌の地と他を分ける境界。あの石壁の門に晒されていた遺体。斥候の仲間達に突き刺さっていた槍と酷似していたのだ。


 一体、何者が待ち受けているというのか。敵意丸出しの所からして煌の統士かとまず思いつく。だが、その者達は全員武装をしており、隊行動を維持していた。これまでの野生の獣じみたシンバンとは洗練の度合いがまるで違う。

 サイトたちは、予想外の難敵に最初は戸惑った。未知の敵ではあるが、森での奇襲に比べたら、よほど自分達の得意分野に近い。戦いを仕掛けられたら、立ち向かってやると、士気があがってきた。

 部下を晒し者にしたのが彼らだと断じてかかり、バシーは殲滅を命じた。ただ一人、ドウゴだけは実際に対峙してから対応を決めるという。



 丘陵地に、大人数が発する殺気が満ちていく。接近するにつれ、命がけの戦いへの昂揚感が盛り上がる。それは謎の統士達も同様で、完全に臨戦態勢に入っていた。

「待て、少し話をさせてくれ」

 迷いながらといった面持ちで、ドウゴが全軍の前に進み出てきた。

「何を待つというのだ? 敵が仕掛けて来るのをお行儀よく待つというのか」 と、バシーは苦いものを含んでいるような顔で言う。

「その前に奴らと話がしたい。出会うなりすぐ殺しあうのは野蛮だろう」

「何だと」 と、バシーは剣の柄に手をかけた。ついでに鬱憤を晴らしてしまうかというように、バシーはドウゴを睨みつける。

「バシー殿、話を聞きましょう」 と、サイトが割って入った。「奴らが何者か、知っているということか?」

「……ああ。おそらく合っているはずだ」

「何故黙っていた。どこの者だ。さっさと言わんか」 とバシーが吼える。

「確信はない。その名を告げるのは、はっきりしてからだ。確かめさせてくれ。奴らと話してくる」

「話してどうする。どうせ敵だ。叩き潰すに変更は無い」

 そのバシーの言葉に、ドウゴは見下すような視線を向ける。湯気を上げてバシーが怒り出す前に、ドウゴは言う。

「闘う相手は、それでいいのか」

「何だと、貴様っ!」

 ドウゴは取り合わず、踵を返して敵陣へと歩みだした。あいつごと蹴散らしてやると息巻くバシーを宥めつつ、どうする気なのかと、サイトたちは見守る。


 一人きりで出ていったにも関わらず、ドウゴが近づいていくと敵陣に緊張が走った。彼らは、ドウゴを知っているのかもしれないと、サイトは思った。

 ドウゴは、敵陣寸前で立ち止まった。自由の利かない腕に括りつけた武器をかざす。そして、名乗った途端、相手の中から驚嘆の声が上がった。やはり、ドウゴの名は知れ渡っているらしい。

「我はキョウなれど、綜の民。汝らは如何に?」

 ドウゴの問いかけに対して、返事は無い。ただざわめきだけが続いている。

「ハライ・コウをどうにかしたいと思ったのは、汝らも同じであるはずだ。違うか? 我が物顔で領地に乱入する者達により、失ったものは多いはずだ。かき乱された平穏な生活を、取り戻したいと思わなかったのか? 我らキョウは、そう願った。戦うべき時だと、決めたのだ。だからここにいる。若き主と共に、新たな時代を作るために。今、我はここにいる!」

 ドウゴは叫ぶ。

「誇り高い汝らが、誰を主と仰ぐかは自由であり、誰にも口を挟むことはできない。だが、汝らの主は、綜と生き残りをかけた闘いを始めることを決めたのか?」

 統士達の間に迷いが生まれていた。その機を逃がさず、ドウゴは力をこめて言う。

「紅針との闘いを決めたというのか。答えよ、稲妻の臣よ」

 ドウゴの言葉に、綜側にも動揺が走った。

「稲妻、だと……」 サイトはうめくように言う。

 確かに、その可能性はあった。そう要請したのは、他ならぬ自分達である。だが、音信不通の為、参戦の要請は無視されたと思っていた。まさか本当に、彼らが動いていたなど、本気で思っていなかった。

 不意に現れた謎の部隊。それは、ルブラから西側の山道を登ってやってきた、グントラターグの手の者たちだった。


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