伏せられていたもの
第三章【遭遇】
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本隊合流を目指して戻る間に、仮面の男は意識を取り戻した。理屈をつけて自分の行動を正当化しようとするかと思えたが、予想に反して、押し黙っている。それもそのはず、大事な部下であったカフを失ってしまったのだ。無謀を咎めるのは、後でたっぷりすることにして、サイトはとにかく急いだ。
身の安全を確保した後は、綜真を送り返すかこのまま連れて行くか、選ばねばならない。綜へ送り返すにしても、今回のような事にならないよう、相当数の統士を割り振ることになる。連れて行って目の届く範囲においておく方が安全だろうかと、サイトは悩んだ。
その後は幸運にも何事もなく、サイトたちは部隊が待つ街道へと復帰した。そこには、さらなる問題が待っていた。生還者たちの姿を見て、真っ先に飛んできたのはサンノジだった。
無事戻ってくるとは思っていなかったようで、まずは再会を喜んだ。しかし、すぐにそれよりもと、サンノジは言う。かなり切羽詰っている。何があったかと問うと、バシー達の身勝手な行動に頭にきているようだった。山に理解のあるドウゴと物分りのよいサイトがいないと、話にならないと彼は言う。
「くそっ、時間が迫っているからな。待たずに先に動いたか」
その言葉に、サンノジが不審そうな顔をする。申し訳なさそうな顔をして、サイトは言う。
「すまない。これは、君には伝えてなかったのだが……」
案内人であるサンノジには、意図的に伏せられていた事がある。どこに敵が潜んでいるか不明の状況の中、作戦の漏洩を避ける必要があったからだ。別働隊を出して敵へ奇襲をかけるということは口外を禁じている。
今回はバシーの独断ではなく、その秘密の作戦の実行によるものだった。
サンノジを除いた作戦会議において、皆が気にしていたことがあった。彼らが提供してくれた地図上で、深い森であるということもなく、ただの平原として記されている箇所があった。ほんの小さな、塗り潰し忘れのような空白に目をつけたバシーは、別働隊を編成して、ここを通って、敵の意表を付く作戦を提案していた。
バシーとサイト達はそのまま全軍であるかのように装い、ゴウトクが荒れ野を突っ切ってから合流する予定だったと、苦々しい顔をして、サイトは白状した。
ところが、森から戻ってきてみると、すでに作戦は実行に移され、待機しているのは真穿だけだった。バシー達や、ドウゴもいない。
「もう死んだと思われたのだろうな。だから、待たずに動いた。すまない、止めることができなくて」
それを聞いたサンノジは大層な狼狽ぶりを見せた。あああ、と唸った後、急いで追いかけないと、とサンノジは言う。必至の訴えに、サイトは戸惑う。
あまりに動揺するので、怪しく思えてしまう。サンノジの出身・サン家の事情を知っているサイトには、彼に全幅の信頼を置くことはできない。
やはり煌の間諜なのか? 近道を隠そうとしていたが、それを見抜かれてしまい、知らない内に行軍していたと知り、焦っていると言う事だろうか? そういう疑いを持つこともできた。
「駄目なのです。そこは、何も無いから書いてないんじゃないんです。……口にする事もできないし、文字にする事もできない、と言えば分かりますか?」
「いや……。待てよ、それは、どこかで……」
ふと脳裡をよぎったものは、数年前の出来事だ。戦で敵対していた将が、火を賞賛する異端者だった。手段を選ばない抵抗ぶりに苦戦していたのだが、同行していたソンヴが不可思議な言葉をもって相手を動揺させた。言ってはならないあれの名前を囁いただけだったが、効果覿面だった。凝り固まった心が折れ、降伏へと場の流れは移った。
「あれ、に関する何かがあるのか……?」
「そうです。貴方達ワグンにも、禁忌とされているものがあるでしょう? それです。あそこは、それに近づきやすくなっている。だから、何があっても、あそこに足を踏み入れてはならないんです」
自分一人だけでも追いかけかねないほど取り乱すサンノジ。分かったつもりでいても、まだ山の地に潜む危険を分かっていなかったようだ。サイトは予定を変更して、ゴウトクを止めるべく後を追った。




