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星火燎原  作者: 更紗 悟
第二章 【キジュラガル】
77/117

正体

 

     10


「それにしても、こりゃあ、ドウゴ殿に何と言われるか」 と、ラヅモが気重そうに言う。

「仕方がないさ」 と、サイトは答えるが、その声に張りはなかった。

 サイトの視線は、横たわる青年の手首から動かなかった。信じ難いものを見たかのように、眉を顰め、悲痛な表情となっていた。

 辺りには、一匹も殺してはならないと言われた獣の死体がゴロゴロと転がっている。仕損じたものはいないのが救いだが、この群れに他に仲間がいないとは限らない。この惨状を知られれば、恨みを買うことは間違いない。ドウゴが言うように、キジュラガル全体が、復讐のためにやってくるのは時間の問題と思われた。

「急いで森を出よう。本隊と合流して、後の対策はそれからだ」 とサイトは言う。仮面の男も直に目覚めるはずで、その身柄を安全な所に移しておきたい。

 ライは、と見ると、彼は動かなくなった獣を調べていた。

「どうした? 何か気になるのか?」 と言いつつ、サイト自身も引っ掛かっていることがあった。

 最後の抵抗として仮面の男に手にかけようとした獣。怒りの声をあげて襲い掛かったのだが、その時の叫びが、よくよく思い出せば、人語のように聞こえていた。

 ()()()()()()()。深い憎しみを篭めて、そう言っていたような気がした。

「いえ……」 といって、ライは立ち上がる。

「思いついたことがあるのなら言ってくれ。ここではお前の知恵は頼りになる」

 ライはなおも言い渋っている。複数の表情が入り混じって表れている。怒り、不快、そして悲しみ、だった。

「……違う、みたいです」 と、ようやくライは絞り出すように言う。「これは、()()()()()()()()()()()()()

 何を言われたか分からなかったサイトは、人? と繰り返した。

 ライは、足の付け根を指差す。そこには、獣の皮で作った腰布が巻かれていた。服装を気にする猿なんて話は聞いたことがないが、これだけの知性を持つのだから、人間の真似をしていることもあるか。

 ライは、感情を殺した顔をして、次に、遺体の額に掛かっていた毛をあげた。そこだけは毛が生えておらず、その形は烙印された紋様を象っていた。

 その意味に気付いたサイトは、無意識に顔を歪めた。

「これは、もしや、シユの……?」

「そうです。瞳の色や体格からして異人だったのでしょう。ビド蒐人・シユのものとなり、人間以下の存在として見なされ、烙印を押された。おそらくは物心つかない内に売られて、森の守護者として生きることを強いられてきた。これが、煌の『守』分シンバンの正体です」

 ああ、とようやくサイトは理解した。

 見てくれから人外のもの、キジュラガルだと思い込んでいたが、そうではなかった。真穿の行軍を邪魔してきた森からの襲撃者、シンバン。姿を見せない邪魔者の正体が、今闘った彼らなのだ。

 なるほど、と思う。

 確かにこの手合いのものが大勢いて、しかも不慣れな森に誘い込まれては、勝手の違う平地の者では叶わないなとサイトは思う。

 ライは語る。煌の地を荒らす者を追い返すため、森に生きる術を身につけるシンバン。今でこそ特化して闘えるようになっているが、最初は違う。無知のまま放置され、生き残ったもののみがシンバンとなる。

 だが、煌の守護者たる彼らは、言葉を忘れ、人らしい暮らしかたも持たない。ただ、煌にやってくる者たちに対して、害がありそうか否かで判断して攻撃する。獣同然の姿となってもなお、見知らぬ主のために奉仕していた。

 嫌悪感は拭い取れない。ここまでして、という拒絶の念が強く残る。

 彼らは報われるのだろうか? 民の一部をこのような環境に追い込んでおいて、彼らの主は、どう思っているのだろうか。

 オウ・青からは優遇され、己もまた彼に尽くすことへの抵抗は少ない。自分はましな方なのだろうか。その考えは、ドウゴがいうようにおかしいのだろうか。

 河津の主は、我神、己がすべて、他のものは手足であると割り切っていた。瑗真は分からない。ならば煌真はどうだろうか。

 その迷いを払拭するために、煌真に会ってみたい。サイトはそう思った。


 


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