我・芯
5
「オウ・青だと? 真自らが出向いてきたというのか?」
モウ・牙は信じられないようだった。「証は、宝玉はどうした? 真の証が他とは違うことを知っているな? ならば見せてみろ」
オウ・青は、その要求に応じない。敵地に持ち込むほど、愚かではない、と相手にしなかった。事実、彼が宝玉を持っていないことを、サイトは知っていた。
「仮にお前が本当に真だとして。こんな所まで、何をしに来た? 統国を宣言して、儂を越えるというのか?」 とガモウは言う。
「そんな事はしない。名乗るつもりもなかった。お前が、あまりに間抜けた事を言い出さなければ」
「若造、それはどういう意味だ?」 とモウ・牙の声が一段と低くなる。
「お前なんかが真を名乗るなんて、馬鹿げていると言ったんだよ」
「貴様―――!」
「綜真、少しは言葉を選んだらどうですか」 と、傍らに立つ女、ソンヴ・識は言った。
自分の存在が第一というモウ・牙が、自分の身を危うくしてまで、正体のしれない若者を殺そうとして来るとは思えない。けれども衝動的な行動に出られたら分からない。そうなれば、オウ・青を守るため、モウ・牙を斬るしかない。あまり挑発するのは勘弁してもらいたい所だ。
「ふん、若造が。真たる者の何が分かる?」
「分かるさ。お前こそ真とは何か分かっていない」 と、自信を持ってオウは言う。
「……ここまで低く見られたのは、一体いつ以来だろうか」 と、モウ・牙は歯軋りをし始めた。
「だったら、真とはどうあるべきか。貴方はどう思っているのか、聞かせてくれないかしら?」 と、ソンヴはオウに向かって言う。
「ソンヴ! 話をややこしくしないでくれ」
「いいの。聞いておきたいの」 と、人の思惑など無視してソンヴは言う。
「そうでないと、シアンも浮かばれないでしょう」
続くソンヴの一言に、サイトは言葉に詰まった。
「真とは――――」 と、セイオウは語りだした。
*
「確かに、お前が言うように、真とは中心だ。その国の者は、真を拠り所にして存在する。無くてはならないもの。民の心の支えである」
「その通りだ。真があってこそ、周りが成立し、存在しうる。それが当たり前。民とは支配される対象だ。だからこそ、我こそ芯であると言うのだ。我は無くてはならないものだ」
「我こそ芯である。そう言って、誰を押しのけても生き延びようとするその浅ましさが、間違いの元だ!」
オウ・青は言う。真とは概念なのだ、と。
他人に必要とされる人とはどのような者か。その人は、皆に支えられ、望まれてそこにいる。その人が望んだから、皆から望まれるようになった訳ではない。資格も血筋も関係ない。そうあるべき存在は自然とそうなっていく。個人が無理やり固執するものではない。
誰かに望まれるような人でありたいと願い、そこに立とうとする。だが、自分は変えられない。その人の性質、持っている物が必要とされない時もある。必要とされないのであれば、そこから退いて、自分を要している所へ行くべきだ。
「周囲の層を失ってもなお生き続けようとするのは、肉を失っても動いている骸骨のようで、滑稽にしか見えない」 とオウ・青は言い切った。
その瞬間、モウ・牙が凄まじい勢いで動いた。あたかも、投石器から放られ、空気を切り分けて飛んで繰る巨石のようだった。
彼の巨体では、このような瞬発力は持ち得ないだろうと、その場の誰もが侮っていた。その重量級の体当たりをまともに受け、オウ・青は壁まで吹っ飛ばされた。
「あるべくしてあると言ったな? 小僧」 とモウ・牙は猛る。
意識は辛うじて保てたらしく、オウ・青は何とか上体を起こそうともがいた。見ていられず、サイトは手を貸そうとするが、オウ・青はその動きを目で制した。
「――――しかし!」
「お前は我らを吸収しようとしている。その先には、芯は二つも必要ない。我とお前。どちらが芯となるか、自然と分かると言うなら、示してみよ!」 とモウ・牙が叫ぶ。
「聞いたな? これは、芯たる者の闘いだ」 と、サイトに言いつつ、よろけながらもオウ・青は立ち上がる。
「理屈は分かる。だが、無理だ」 と、サイトは首を振って言う。「お前じゃ勝てない。ここは――――」
「かつて――――」 とオウ・青はサイトの言葉を遮って言う。「お前は俺を助けてくれた。その後ろに俺を庇った」
「それは、当然だ。俺の役目は皆を守ることだ」
「そう。お前の役目は、その通りだ。では私は? 私の役目は? ――――中心に立つことだ。そうあれと願う意思がある限り、危地であろうとどこであろうと、そこに立ち続けることだ」
「オウ・青……」
「確かに、力だけじゃ勝てない。だが、それだけじゃない」
オウ・青はゆっくりと、モウ・牙へと歩み寄る。剣を抜き、真っ直ぐ強面を見据え、オウは言う。「闘いとは、それだけじゃない」
「ほう? ならばその闘い方とやら、見せてみろ!」
モウ・牙は言って、鞘から曲刀を引き抜いた。刀を大きく掲げ、強く前足を踏み込みつつ、オウ・青へと振り下ろした。




