お集まり
「副長ー。例の『先祖返り』の方が来てますよ」
「おーう、今行く」
「すみませんね、副長すぐ来るんでちょっと待っててください」
「分かった」
ブンザバンザはカランに教えられた戦士団詰め所に来ている。建物の外壁は大きな石が積み上げられてできており、他の家々よりも頑丈で武骨な印象だった。
今は詰め所前にいた鼠の様な特徴を持つ小柄な団員にクジムを呼んでもらい、出てくるのを待っているところだ。
「しかし、あなたでっかいですね。ブンザバンザさんですっけ、『先祖返り』の方って皆そんなに大きいんですか?」
「いや、俺は故郷でもでかい方だったよ。ちびの頃から大食いだったからなあ、気付いたらこんな感じでな」
「良いなあ、僕もそれくらい背丈欲しかったなあ」
「なあに子供みたいな事言ってんだよお前は」
「あ、副長」
「ここは良いからほれ、仕事探してこい」
「はーい。それじゃ失礼しますねブンザバンザさん」
「おう、ありがとな」
ブンザバンザに一礼し、小さな戦士団員はぴょこぴょこと去って行った。代わりに門で会った擬猫人の男が現れる。
「悪いな待たせた。今のあいつ、最近入った新人でな、失礼無かったか?」
「いや?親切で助かったよ」
「そうか。んで、お客人がこんな場所に何か用かね。正直ここにゃ面白いもんなんて無いぞ?」
「そうかい?結構見てて楽しそう・・・ああいや、そうじゃなくてな。カランに頼まれて来たんだ、あんたともう二人呼んできて欲しいって」
「あん?なんだそりゃ」
故郷の酒飲み仲間とクジムの雰囲気が似すぎているせいで会話が緩みそうになるのを、ブンザバンザは努めて抑える。深刻な話を自分でするのには慣れていないが、だからと言ってしないわけにもいかない。
念のため近くに人がいないのを目と鼻で確認し、声を落として話し始めた。
「あんたと、ミミンってお嬢ちゃんと、ベスランって人の三人にな、ちょっと来てほしいんだよ。先に言っとくと、あんまり良い話じゃないんだが」
「・・・カランが頼んだって事は、里に関する話か?その話を、なんでお客人が持ってくるんだ?」
「成り行きでな。あんまり広めちゃまずい話なもんで、人数を絞って進めたいってさ。他のお二人、ここにいるかい?」
「まあいるっちゃいるがな。おおい!ミミン!ベスラン!」
先程の団員の何倍かと言う声量でクジムが詰所内に声を張る。話を広めたくないと言った矢先の大声にブンザバンザは少しびくりとするが、人を呼んだだけなら問題はないだろう。
そこからすぐ、朝にカランを訪ねてきた精霊人の少女と、もう一人どこかで見覚えのあるような精霊人の青年が出てきた。
「副長、五月蠅過ぎです。耳が破けちゃうじゃないですか・・・ってあれ、ブンザバンザさん?」
「やあ、さっきぶり」
「あ、『先祖返り』の・・・」
「あんたがベスラン?どこかで顔合わせたっけ」
「あー・・・えっと、森の中では失礼しまして」
「おお、あんたも捜索隊にいた人か。あれについては全然気にしてないぞ」
「ほんと、すみません」
申し訳なさそうに軽く頭を下げるベスラン。武器を突き付けられた身ではあるが、人の良さそうな青年だとブンザバンザは思った。
「俺とお前達に、一緒に来てほしいそうだ。カランが呼んでるんだと」
「僕らをですか?」
「カランさんが!すぐ行きましょう!」
カランの名が出た途端目を輝かせるミミン。どうやら相当彼女に懐いているようだ。ベスランは自分が呼ばれた事が不思議らしく、頭を傾げている。
「さて、揃ったぞ。行くか?」
「すまんね。あ、待てよ・・・・もしかしたら武器持っててもらった方が良いのか」
先程のカランとセシリア・カインドマンの会話を聞くに、目の前の三人は会合の間里長を守るために同席する。有事への備えをするべきなのは想像できたが、カランから武装について詳細を聞くのを忘れてしまった。
そういう経緯からのブンザバンザの独り言だったが、それを聞いたクジムの気配が急に重くなる。
「・・・・なんだ、思ってたよりきな臭い感じか?」
「え?ああいや、まあ・・・」
クジムの気配の変化に、ブンザバンザは僅かに困惑した。武器が必要な状況という点に、戦士として何か引き締まるものがあったのかも知れない。
「ふむ。おい二人とも、しっかり着込んで来い。俺もそうする」
「っ、はい!」
「分かりました、すぐに」
クジムの指示に、ミミンとベスランは素早く返事をした。詰所内に小走りで戻っていく二人を見てから、クジムはブンザバンザに振り返る。先程と違い厳しい雰囲気を滲ませる目付きだった。
「急ぎみたいだからな、詳しい話は向かいながら聞こう。それで良いな?」
「お、おう・・・」
「まじかよ・・・そんな他所のごたごたに巻き込まれるとはな」
「迷惑です!」
「頭痛くなってくるなあ・・・・」
カランが待つであろう里長宅に向かう道中、ブンザバンザは三人に呼び出した事情を聞かせていた。
付いてきた三人は先程会った時と打って変わって完全武装だ。三人とも動きやすそうな革のベストを着込み、手甲に脛当て、膝まで隠れる厚めの腰布も装着している。
クジムはブンザバンザが持つようなものとは違う、戦闘用にしっかりと刃が付いた短槍を持ち、ベスランは曲剣が入った鞘を握りしめ、ミミンは短弓と矢筒を背負う。他にも全員が手斧や短剣などの小さな武器をベルトに挟み込んでいた。
「なるほど、そりゃあ確かに武装も必要だわな。ったくカランのやつめ、一人でえらいこと決めたもんだ」
「あー、カランも考えて決めたことらしいから、あんまり責めないでやってくれ」
「分かってる分かってる。大事な時に考え無しで動くやつじゃないからな」
クジムが空いている方の手をひらひらと振って見せる。それから思いついたようにブンザバンザに問いかけた。
「そういやあんた、ここまで付き合ってもらってるがあんたもその会合に出るのか?」
「いや、俺は余所者だしそんなにお邪魔する気はないよ。お三方をカランと里長さんに会わせたら引っ込んどくさ」
「まあそりゃそうか。すまねえな、お客人を使い走りにしちまって」
「構わんさ、いさせてもらってるんだから少しは働いとかないとな」
「謙虚だねえ。そうだ、露店通りの端っこにある大角人の婆さんの店な、すげえ美味い鳥の香草焼きを作るんだよ。クジムにつけとけっつって一つ貰いな、俺からの歓迎の印だ」
「良いのかい?悪いな」
「気にすんな気にすんな!がっはは」
毛でもさもさした口をがぱっと開いて笑うクジムには、先程漂っていた鋭い雰囲気はない。切り替えの早い男なのかな、とブンザバンザは思う。視界の端ではミミンが口を尖らせクジムを見ていた。
「副長、緊張感無いです。さっきの感じ保って行動してくださいよ」
「馬鹿お前、客人もてなそうって話でとげとげしてられるかよ」
「むう・・・でも今じゃなくても良いじゃないですか」
「お客人ほっぽり出してたとあっちゃ里の誇りが傷付くってもんだ。その辺しっかりしとかんとカランに嫌われるぞ?」
「む!今カランさんは関係なかったじゃないですか!」
一応上下関係はあるだろうに、なかなか砕けた空気の会話である。故郷にもこんな父娘がいたなとブンザバンザが考えている内に里長宅が見えてきた。
里長に話を通した後呼びに戻ったのだろう。家の前には曲剣と手甲を付けたカランと先程の一団が集まっていた。どうやら一団が武装を外すのを見張っているところらしい。
「連中がそうか、お客人」
「ああ。おおい、カラン」
「ん、来たか。悪いな、ブン」
カランがまた申し訳なさそうにしている。ミミンがとことこと駆け寄って行くが、クジムとベスランは硬い面持ちで会合相手達を見ていた。
「ああ・・・団長が応援を呼ぶだけありそうですねえ・・・・」
「お前も分かるかベスラン、やっぱり見込みがあるな。気ぃ張っとけよ」
どうも戦士としての眼が何かを捉えているらしい。少し格好良いとブンザバンザは内心思う。
「お待たせしました、カラン様。皆武器は外しました」
「うむ。では最終確認だ、こちらで調べさせてもらう。構わないな?」
「はい、もちろんです」
「ベスラン!こっちへ来て男達が武器を持っていないか確認しろ。ミミンは女達を」
「分かりました」
「任せてください!」
二人が一団の触診を始める。表情は真剣そのものだ。その間カランは不審な動きを逃すまいと睨みを利かせ、クジムは一団が外した武装を置いてあった革袋に慣れた手つきでしまい込んでいく。
いよいよブンザバンザの出番が無くなってきたようだ。
しばらく静かな時間が続き、やがて触診をしていた二人から声が上がった。
「団長、終わりましたよ。問題ありません」
「よし。では、右端の三人以外は入って良い」
カランが一団の端の方にいた三人を指して言う。それに驚いたのは当の一団だ。
「何故でしょうかカラン様。彼らもたった今確認をしていただいた筈ですが・・・」
「石歩人ばかりの国では精霊人への認識が育たぬのも道理、なのかな。我々の目を侮ってもらっては困る。そこの三人は『魔』の手を借りる術を持っているだろう」
返答されたセシリアはぴんと来ていない様だったが、指摘された三人の表情は劇的に変化した。信じられないと言った感情が溢れている。
セシリアは振り返り、困ったように片手で額を押さえていたデューレスに問う。
「デューレス?今のはどういう意味なの?」
「ああっと・・・そうですな、そこのフージ、ロック、エマの三人は『魔法』が使えるんで・・・それが武器に該当するから会合には参加させられないと」
セシリアは遅れて驚いているが、ブンザバンザも驚いていた。
ブンザバンザも世の中に『魔法使い』という存在がいるのは絵物語で見て知っている。しかしブンザバンザの知識の中で『魔法使い』は精霊人の様な神秘の種族か、そうでなければ皺くちゃの老人だ。
それ以外の印象が全くなかったおかげで、目の前に立つ石歩人の青年達が『魔法』を使えるという事そのものが衝撃に値した。
セシリアがデューレスに詰め寄る。
「何を考えているの!そういう事は自己申告なさい!こちらの立場をわきまえて!」
「そうは言いますがお嬢、俺達はお嬢の護衛としてここにいるんです。お嬢に何かあれば、信じて依頼してくださったドウェインの旦那に申し訳が・・・・」
「余計なお世話です!」
ぴしゃりと言い放ち、セシリアはカランに向き直って頭を下げた。
「申し訳ございませんカラン様!私の監督不行き届きです。三人は参加させませんので、どうか会合の場を!」
「・・・・・・・・まあ、良いだろう。ミミン、ここで三人を見張るんだ。後の者達で中に入る」
「はい!」
「ありがとうございます・・・!」
ミミンが張り切った声を出し、セシリアは再び深々と頭を下げた。護衛の一団、特にデューレスと件の三人はばつが悪そうだ。
家に入る許可が下りた者達が槍を握ったクジムに連れられ、ぞろぞろと扉を潜り始める。話が一区切りしたと見て、ブンザバンザがカランに話しかけた。
「じゃあ、カラン。俺はもう出番無さそうだしそろそろ・・・」
「ん、そうだな。すまないな、お客に頼む仕事ではなかった」
「本当気にしなくて良いんだって。じゃあ、適当に散策したら家に戻ってるからな」
「分かった、ありがとう。家の食材とか水は好きに使ってくれて良いからな」
にこやかに表情を緩ませ気安い返事をするカランにベスランはぎょっとし、ミミンはさも不満ですと言いたげに頬を膨らませている。
いざブンザバンザが背を向け歩きだそうとすると、まだ中に入る順番待ちだったデューレスが声を掛けてきた。
「お客って、あんたこの里の戦士とかじゃないのか?」
「ん?俺は旅人だよ。たまたま厄介になってるだけさ」
「・・・ふうん。いや、引き留めて悪かったな」
「?おう」
ブンザバンザは言い終えてゆっくりと歩き去る。その後ろで、デューレスがミミンに見張られる三人のうちの一人に鋭く目配せしたことには、誰も気づかなかった。




