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異訪豚  作者: 丸樹
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少し歩こう

それからしばらく、ブンザバンザはカランと彼女の部下二人の会話を聞いていた。

レレとカイヌスの態度を見ると、カランが団員から信頼された存在だと言うのが分かる。敬語ではあるがまるで威厳ある母親を相手にした子供のような感じだ。そちらはそちらで盛り上がっているようなので、ブンザバンザはモモンド医師との会話を再開する。


「そういやさ、先生さん。あんたも『魔』が嗅げるかい?」

「『魔』を、嗅ぐ?はて、どういった意味でしょうか」

「ほら、普通の匂いとは別にさ、嗅ごうと思うとなんかこう嗅げるもんがないかい?精霊人(エルフ)とか魔獣とかから、ふんわーっと」

「ふむ?いえ、私はそういったことは特に」

「他の豚人(オーク)達もそうかね」

「そうですねえ、そういうお話を聞いたことは無いので、この里の豚人は皆そうなのではないでしょうか」

「そうかあ・・・俺の故郷の豚人、俺もだけどな、精霊人には視えるっていう『魔』の匂いが分かるんだよ」

「ほおお、それはまた不思議なお話で。きっと豚人の純粋な血がなせる業なのでしょうねえ」


モモンドは楽しそうに笑っている。故郷の老人達は、若者が自分の知らない物事の話を持ってくると新鮮で嬉しいと言っていた。モモンドもそのような感覚なのだろうか。

そんなことを考えていると、話に区切りがついたらしいカランがブンザバンザの方を向いた。


「そちらも済んだかな?ブン。そろそろ失礼しようか」

「ん、そうするか。お医者に長居するもんじゃねえよな」

「ほほほ、忙しい時以外はいつでも歓迎しますよ」

「ありがとな、先生さん。面白いことが聞けて良かったよ」

「お前達も良く休むんだぞ、レレ、カイヌス。早く治して出てこい」

「はい、団長!すぐ復帰します!」

「ありがとうございます、団長!」


見送られ、二人は診療所を出る。歓迎するとは言われたが、本来は怪我人や病人が来る場所だ。用事がない限り、あまり気安く訪れるべきではないかも知れない。


「ほんとに部下から愛されてるな」

「そうか?まあ、皆が皆ああいう感じと言う訳でもないけどな。団員は弟、妹みたいなものだと思ってるよ・・・・む」

「どうした?」

「門の方が騒がしいような・・・おおい、そこの方」


カランは門がある方向を見、さらにそちらからべたりべたりと歩いてくる謎の種族に声を掛ける。

ローブとシャツを合わせたような衣服を着込んでいる様は人であろうと認識させるが、それ以外の特徴はブンザバンザの知る人の基準から大いに外れていた。

全身が黒い鱗に覆われ、ところどころに白っぽい斑紋がある。体型は猫背で二足歩行をする、前足の長い大蜥蜴といった感じだ。端まで真っ黒な目はどの方向を向いているか判断しづらく、緩く口角の上がった口元ははたして笑っているのか、それともこれが真顔なのか。足の後ろで細い尻尾が小さく揺れている。


「はあい?何か御用?」


低くしわがれたような声色に、ブンザバンザには性別の判断すらつかない。


「門の方が騒がしいと思ってね。何かあったのか?」

「ええ、ええ!今外の人が馬に乗ってきてね、もうすぐしたら行商さんがいらっしゃるんですって!」

「おお、本当か!良いことを聞いたよ、ありがとう」

「いいえ~」


一度ばちっと瞬きをし、その人物はまたべたりべたりと歩いて行った。


「なあ、カラン?今の人って、なんて種族だ?」

「初めて見たか?あの人は『板鱗人(カタプレト)』だ。ご覧の通り鱗を纏う人々だよ。この里には鱗のある種族は他にもいるぞ」

「鱗の付いた人ってのは故郷にはいなかったなあ・・・すげえなあ」

「ふふふ。まああまりじろじろ見ないようにするんだぞ、失礼だからな」

「おう。・・・で、今の人なんだが。性別はどっちだ?」

「分からなかったのか?あの人は女性だよ。体格に比べて頭が小さくて尾が細いのが女性、その逆が男性だ。これは板鱗人の性別の話であって、他の鱗のある種族には当てはまらないこともあるから要注意だぞ」

「頭が小さくて尾っぽが細いのが女性、よし分かった。・・・こりゃ覚えなきゃならんことも多そうだな」


今後様々な種族と接するなら相手のことを良く知っておいて損はないだろう。それに女性をうっかり男と思い込んで怒られるなんていうのは避けたい事態だ。


「その辺は協力するよ、ぜひとも知識を増やしていってくれ。・・・・ああそうだ。今の人が言っていたこと、聞いていたか?」

「たしか、行商がどうって」

「あなたは運が良いぞ、ブン。昨日族長が、里への来客は殆どいないと言っていたのを覚えているか?その殆どいない来客と言うのが、石歩人の国から来る行商人達のことなんだ」

「ほう!石歩人の国!」

「あなたが昨晩話していた目的の国かは分からないが、なかなか大きく活気のある国だそうだ。そこから色々な品を持って、年に何度かこの里に来てくれるんだよ」

「おお、そりゃあ興味がわくな」

「今はまだ到着していないようだから、着く頃になったら一度見に行ってみようか」

「賛成賛成」











ブンザバンザの要望で、二人は昨日通過した露店通りを見てまわることにした。端から順にゆっくりと見ていく。

歩き始めてすぐ、ブンザバンザは気になる店を見つけた。太った鉤鼻人(ゴブリン)の男性が座る風呂敷には、何やら小さな木工品がいくつも並べられている。男性は欠伸をしながら小刀で木材を削っている最中だった。


「おっちゃん、今いいかい」

「んああ、いらっしゃい・・・ん?お!あんたあれだろ、噂の『先祖返り』だろ!」


顔を上げた鉤鼻人の店主はブンザバンザの顔を見るなりぎょろっと目を見開いて驚きを伝えてくる。『先祖返り』という単語は住人達共通の知識のようだ。


「だな、その『先祖返り』だ」

「かーっ、まじで豚の顔なのな!面白れぇ!」

「ここはなんの店だい?」

「ここか?俺の店はな、おもちゃ屋だ」

「へえ、おもちゃ屋」

「そう。俺ぁ里のちびっ子達に笑顔を届けてるってえわけだ!全部俺の手作りだぜ、見てけよ」


言われてブンザバンザが手に取ったのは、小さな木彫りの猫だ。目や指まで丁寧に彫られている。彼の故郷ではこういう物は珍しい。


「おっちゃん器用だな」

「だろ?お代を先にくれれば注文も受け付けるぜ。あんまり凝ったもんじゃなきゃ作ってやる」

「へえ。む、そういやこの里じゃ、支払いって何を使うんだ?」

「お金と物々交換、半々くらいだ。物々交換の場合は当然用意に手間の掛かるものほど価値が高い」


後ろからカランがそう教えてくれる。ブンザバンザの故郷では貨幣というものは存在しない。古い歴史の知識としては存在するが、外部との関わりが無い環境では金にたいした価値が生まれないのだ。故に支払いは食品か労働力の二択であった。


「金かあ。本で勉強はして来たけど、持ってはいないし使ったこともないんだよな」

「まあ、必要がない環境ならそんなものだろう。ブンは狩人なんだから、いざとなったら獣の肉と皮を用意すれば何とかなる。それに少しくらいなら私が出すよ」

「いや、流石にそう簡単に奢られちゃ俺が納得できん。手持ちで交換に使えそうな品も無いわけじゃないし、自分で何とかするよ」

「そうか?まあそれで良いなら良いか。じゃあ、そろそろ行くか」

「おう。ありがとなおっちゃん、面白いもん見せてもらった」

「気が向いたらまた来な!安くしてやるよ」


朗らかな鉤鼻人の店主の様子に、ブンザバンザは歩きながら思わず笑みが溢れる。


「良い店だったな」

「そうだな。さあ次は私のおすすめだ。あの服屋は品揃えが良いぞ」











「結局全然買い物しなかったな、良かったのか、ブン」

「今日は様子見だ。目につくもん手当たり次第買ってられんからな、少し吟味する時間をくれ」


しばらく露店通りを散策した二人は、里の門近くにある広場に来ていた。もう少ししたら到着するだろう行商達は、いつもこの広場に野営し店を広げるらしい。

歩き回った休憩も兼ねて、丸太の長椅子に座り行商達の到着を待つ。

ブンザバンザの視線の先では、おそらく擬猫人(ケットシー)であろう猫のような毛むくじゃらの子供、小さな角を生やした大角人(オーガ)の子供、猫のような子よりもさらにもこもこした謎の種族の子供、その三人が離れた場所に置いた壺に小石を投げ入れて遊んでいる。

三人とも種族の違いに関係なく、仲良く楽しそうだ。


「のどかで良いなあ」

「ブンの故郷は違うのか?」

「いやいやそんなことは無いけどさ。故郷を出る前、旅先で役立ちそうな情報が無いかって色々な本を読み漁ってたことがあるんだよ。爺さん婆さん達には変わった若者だって笑われたもんだ。でな、読んだ本の中に、ご先祖さんが旅の間に見聞きしたものを記録した日記みたいなのがあったんだ。その中には種族の違いが原因の戦の記録みたいなものも結構あった。広い世界が見たくて出ては来たが、もしそういう争いにばっかり出くわすぎすぎすした世の中だったらどうしようかって不安も、ちょっとあったんだよ」

「ああ、そういうことか。この里にはそういう争いは無いよ。初代里長が人々をこの地に連れてきたのは種族差別を逃れてのことだったのではという話は聞いたことがあるが、本当かは知らない」


カランは目の前の子供達を眺めながら笑って話す。子供達の遊ぶ光景は、まさに平和そのものだ。

旅の始まりにして、良い場所に来たものだ。ブンザバンザは充足を感じていた。


「この里自体は目的地じゃあなかったけど、しばらく居着くのもありかもなあ」

「石歩人の国に行くんだろう?」

「まあ、その内な。別に急ぎじゃないし、そもそもあるのかどうかってところから怪しい状態で旅に出てるし」

「思い切ったことだな」

「手に入った外の世界の情報で、具体的なのがその国の話しかなかったってだけだからなあ。その国が無くても、真っ直ぐ進んでりゃあいつかは人に会うだろうって気持ちで出てきた。実際会えたから成功だ」


そう言うブンザバンザを見て、カランは楽しそうに目を細めた。


「なんだか。良いな、そういうのも」

「お、あんたも興味あるか、旅とか」

「小さい頃は私も夢見たよ、旅に冒険。父には危なっかしいものには憧れないでと言われたなあ。今はやる事が色々できて、そういう気持ちも忘れていた」

「良いもんだぞ、俺も始めたばっかりだけどな。なんて言うか、毎日がさっぱりしてるんだ」

「ははは!さっぱりか、それは良さそうだ。・・・・む、来たみたいだな。ほら」


カランが何かに気付き、門の方を指差す。促されてブンザバンザが見た先では、沢山の馬と荷車が門をくぐり抜けているところだった。

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