怒りの気配
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「関係?」
ブンザバンザはこの里を取り巻く物事について全くの無知である。ダルケイン達が思い至る何かについてもあまり考えが及ばない。
部外者ではあるものの、折角居合わせた場の話だ。もしかしたら何か力になれるかも知れないので、どうせなら少しくらいは理解しておきたい。
「カラン、ブンザバンザさんには賊のお話、もうしてあるの?」
「はい、エバさん。簡単にではありますが、出会った日にしています」
「魔獣にちょっかい出す連中がいるって話だったよな。魔獣の子を攫うんだっけ?」
「そこまで聞いているのか。賊どもは方法ははっきりしないが、我々の警戒や森の危険を掻い潜り様々な魔獣を捕獲している。主には扱いやすいのだろう子供の魔獣だ。これが判明したのはつい最近の話でな、それまでは魔獣達の気性が激しくなっている理由も判らなかった」
エバが紅茶のお代わりを淹れてくれた。それぞれ会釈し、ブンザバンザはついでに焼き菓子をつまみ齧る。やはり美味い。
「ある日、森を巡回していた戦士達が奇妙な一団を見つけた。この里より遠く森のはずれ近くにいて、大荷物だった。荷の周りには複数人の武装した石歩人達。明らかに不審な様子に、戦士達は一団に声をかけず隠れて観察することにした。いくつかの大きな二頭引き馬車に入っていたのは、食糧、武器、何か分からない小さな袋が多数・・・・そして、檻だった」
「その中に、魔獣が?」
「そうだ。『葉座り』のような小さな魔獣に、『鼠釣りの枝』の幼虫、他にもこの森に棲む魔獣の小さな個体が何種類も檻に入っていたと聞いている。馬車二つはそのような檻で一杯だったそうだ。魔獣達は皆眠ったように大人しく、逃げる気配もなかったらしい。見張りらしい石歩人達の慣れた様子からして、普段からこのようなことを続けているのだろうと推察もできた。それらを見て近頃の魔獣の凶暴化の原因がこの一団に狩られていたからだと確信した戦士達は、一団を捕縛しにかかった。一団はこちらの降伏勧告には耳を傾けず、すぐに戦闘となった。数は互角だったが、そこはカランの鍛えた戦士達だ、戦闘は優位に進んでいた」
自分の隣で照れ臭そうに頬をかくカランを見て、ブンザバンザは寝起きでやらされた稽古を思い出していた。あんなことを日常的にやっていたらそりゃあ強くもなるのだろう。
「途中までは良かったのだ。しかしもうすぐ制圧というところで、森の奥から石歩人達の増援が現れた。魔獣を捕獲しに行っていた部隊か何かだろうと言う話だった。増援は戦士達に馬車にあったのと同じ小さな袋を投げつけてきた。その袋から撒き散らされた粉塵のような物を吸うと、戦士達は体の痺れを感じ思うように動けなくなった。それだけでも危険だったが、増援の中に一人手練れがいてな。まだ動けた戦士達が総出でかかってもそやつを抑えることが出来なんだ。被害の拡大を懸念して捕縛は中止、戦士たちは賊と荷物を放置して撤退した」
体の痺れとは、何か薬でも使ったのだろうか。それにしても戦いを生業にしている者達をして手練れと言わしめるとはどのような人物なのだろう。戦闘の知識の無いブンザバンザにとって強い人と言われて想像できるのはカランと、自分に切りかかってきたトロゥ、後は今は亡き自分の父親に、故郷では酔ったバグバ爺さんを叱っている時のメダ婆さんくらいである。
ダルケインはブンザバンザの顔を見直しこう言った。
「その手練れというのがな、ブンザバンザ殿、君によく似た外見をしていたのだ」
「お。カランが俺のことかって疑ったやつか」
「そうだ、流石にもう見間違えないぞ」
「実際に戦った戦士達曰く、その豚人の男の剣はそれは力強く素早いものでな、さらに鬼気迫るような闘気、一歩間違えれば叩き切られると冷や汗が出たそうだ」
「ほおお。どこか他所に住んでる豚人の戦士かなんかか」
「詳細は分からん。賊の一団を見たのはその時が初めてで、知った顔もいなかったからな。・・・・・ああ少し話が逸れたな。話したかったのは賊自体より、増援の賊が現れた時に持っていた荷物のことなのだ」
「荷物?」
「撤退中の戦士が振り返った際に少し見ただけだが、増援の内の一人が大きな籠を背負っていてな。その籠の中に、『怒れる木の鬼』の子が入っていたように見えたそうなのだ」
「!」
魔獣を攫う謎の一団に、捕まえられた『怒れる木の鬼』の子供らしき魔獣。人と不可侵の関係だったはずの『木の母』の里への急接近。部外者であるブンザバンザにも段々と話が見えてきた。
「つまり『木の母』は・・・」
「うむ。もし捉えられた魔獣の中に本当に『怒れる木の鬼』がいるならば、仲間想いの『木の母』が動き出したとしてもおかしくはない。『木の母』の中で、人と『怒れる木の鬼』の棲み分けを先に破ったのは人側と認識されている可能性があるのだ」
「もしそうなら、大変なことになるかも知れないわねえ・・・人と魔獣の争いが起きるかも知れないわ」
「エバ。分かっていると思うが」
「はいはい分かってます、無暗に噂を流したりしないわ」
「うむ・・・話しておいてなんなのだがな、ブンザバンザ殿も出来れば今の話を広めるのは控えてもらえると有り難い。解決策が浮かぶまで里の混乱は避けたいのでな。関わった戦士達にもそう伝えている」
「へえ、分かりました。あーあと、俺に『殿』って付けなくてもいいですよ。どうもむず痒くって」
呼び方について、やはり我慢がきかなかった。この先旅をするうえで、慣れておいた方が良いものかとブンザバンザは内心悩む。
「む、そうか。ではそうさせてもらおう。まあそれさえ守ってくれれば、君は里の客人だ。その旨住人には言っておくから、ゆっくりしていくと良い」
「どうも、お世話んなります」
「ははは、巨木のような見た目に似合わず丁寧だな。おっとそうだ。カラン、私からの聞き取りは先程のあれで済んだので自由にしてくれて構わんが、もし暇ならレレとカイヌスを見舞ってやってくれ。今はモモンドの診療所にいる、お前が行ってやれば喜ぶだろう」
「分かりました。では私達はこれで失礼します、お茶、ご馳走様でした。ブン、行こうか」
「おう。ご馳走になりました、美味かったです」
「ふふ、お口に合って良かったわ。またいつでもいらっしゃってね」
「うむ、里を楽しんでくれ」
ダルケインとエバに見送られ、ブンザバンザとカランは家を出た。扉が閉まり、カランがこちらを振り返る。
「これで里長への報告は終わりだ。約束通りあなたに色々と紹介していこうじゃないか」
「良いのか?見舞いにも行くんだろ?」
「ああ、行くよ。その見舞い先にあなたに見せたい、と言うか会わせたい人がいるんだ。だからそれも兼ねて、まず紹介するのは診療所だな!」
何やら会わせたい人物がいるらしい。どんな出会いがあるだろうかと、ブンザバンザはわくわくとした気持ちでカランの隣に付いて歩き始めた。




